誰も踏み入れていないまっさらなマウンドに立ち、試合開始を告げる第1球目を投じる。もちろん、中継ぎやクローザーにもそれぞれの魅力があることは言うまでもないが、先発投手が依然として注目を浴びやすいことは変わらない。今回はパ・リーグ6球団で2019年に先発した投手と、そのなかで最多先発数を誇った投手を挙げ、シーズンを通した各球団の先発事情を考える。
※()内は2019年シーズンの先発登板試合数
埼玉西武ライオンズ/13投手
今井達也(22)高橋光成(21)十亀剣(17)ニール(17)本田圭佑(16)松本航(16)榎田大樹(13)多和田真三郎(12)相内誠(2)郭俊麟(2)佐野泰雄(2)武隈祥太(2)齊藤大将(1)
最多先発:今井達也投手
23試合7勝9敗 135.1回 105奪三振、防御率4.32
埼玉西武では、13人の投手が先発のマウンドに立った。投手陣に苦しむ印象でありながらも、意外なことに先発投手13人はリーグ最少。2018年最多勝に輝いた多和田真三郎投手の離脱が響き、先発ローテーションの固定はならなかったが、少ない先発投手でシーズンを戦い抜いた。また、シーズン中盤からはニール投手が破竹の11連勝。9月の月間MVPを獲得する救世主的な活躍で、チームをパ・リーグ制覇に導いた。
チーム最多先発は3年目の今井達也投手。5月5日の試合では9回を3安打無失点に抑える完璧な投球を披露して、自身初の完封勝利を記録。同じくして「令和初」の完封勝利投手となった。シーズン通算で7勝9敗と負け越してしまったものの、課題は明確。リーグ2位の72与四球と今季苦しんだ制球力を改善し、2020年の埼玉西武投手陣をけん引したい。
福岡ソフトバンクホークス/15投手
千賀滉大(26)高橋礼(23)ミランダ(18)大竹耕太郎(17)武田翔太(12)和田毅(12)二保旭(8)東浜巨(7)松本裕樹(7)スアレス(6)バンデンハーク(3)泉圭輔(1)椎野新(1)中田賢一(1)松田遼馬(1)
最多先発:千賀滉大投手
26試合13勝8敗 180.1回 227奪三振、防御率2.79
15人の投手が先発のマウンドに立った福岡ソフトバンク。プロ2年目にして早くも自身初の2桁勝利を達成した高橋礼投手から、ベテランの和田毅投手、助っ人のミランダ投手まで多種多様な投手が先発登板しており、選手層の厚さが見受けられる。4月には大竹耕太郎投手が4試合に先発して1完投を含む防御率0.86の圧倒的な成績を残した。中盤以降は失速してしまったが、来季の活躍次第では、より強力な先発投手陣が形成されるだろう。
最多登板はエースの千賀滉大投手。開幕戦で自己最速の161km/hを計測すると、伝家の宝刀であるフォークにカットボールを加え、さらに進化。9月6日には育成出身選手としては初となるノーヒットノーランを達成。また、自己最多の227奪三振を記録し、文句なしで最多奪三振のタイトルを獲得した。
東北楽天ゴールデンイーグルス/14投手
美馬学(25)石橋良太(19)辛島航(18)岸孝之(15)則本昂大(12)塩見貴洋(8)菅原秀(8)福井優也(8)弓削隼人(7)釜田佳直(5)安樂智大(4)藤平尚真(3)近藤弘樹(2)熊原健人(1)
最多先発:美馬学投手
25試合8勝5敗 143.2回 112奪三振、防御率4.01
エースの則本昂大投手が故障で長期離脱、同じく投手陣の柱である岸孝之投手が不振に苦しむ中で、14投手でローテーションを回し、2年ぶりのAクラス入りを果たした。自己最多の9勝を挙げた辛島航投手などの実力派はもちろん、石橋良太投手、弓削隼人投手がともにカットボール中心とした投球スタイルを確立。打たせて取る投球で投手陣を支えた。
最も多くの試合に先発したのは美馬学投手。今年のハイライトは何と言っても7月18日の福岡ソフトバンク戦だろう。8回まで1人も走者を出さない「完全投球」で鷹打線を圧倒。9回裏に四球から1点を失ったが最後まで投げ切り、完投勝利を挙げた。今オフに国内FA権を行使しており、今後の動向に注目が集まる。
千葉ロッテマリーンズ/14投手
二木康太(22)ボルシンガー(20)石川歩(17)岩下大輝(17)種市篤暉(17)涌井秀章(17)小島和哉(10)佐々木千隼(6)土肥星也(6)西野勇士(6)有吉優樹(2)唐川侑己(1)中村稔弥(1)ブランドン(1)
最多先発:二木康太投手
22試合7勝10敗 128.2回 115奪三振、防御率4.41
チームの大黒柱・涌井秀章投手と昨季最高勝率のボルシンガー投手が苦しんだ一方で、若手の活躍が光った千葉ロッテ。14人の先発投手でシーズンを戦い抜いた。3年目・種市篤暉投手は昨季を大きく上回る自己最多の17試合に先発し、チームトップタイの8勝。同様に岩下大輝投手、小島和哉投手などの面々も活躍の兆しを見せた。
最多先発は二木康太投手。パ・リーグ最多の10敗を喫してしまった一方で、自身最多タイの7勝を挙げた。「クオリティースタート」の数は10回と、やや調子に左右されがちであるだけに、プロ7年目の来季は再現性を高めて最低でも勝利数と敗戦数を逆にしてもらいたい。
北海道日本ハムファイターズ/18投手
有原航平(24)加藤貴之(21)金子弌大(19)杉浦稔大(14)上沢直之(11)堀瑞輝(10)ロドリゲス(10)上原健太(8)浦野博司(4)村田透(4)吉田輝星(4)バーベイト(4)北浦竜次(3)吉川光夫(3)斎藤佑樹(1)中村勝(1)生田目翼(1)吉田侑樹(1)
最多先発:有原航平投手
24試合15勝8敗 164.1回 161奪三振、防御率2.46
北海道日本ハムはパ・リーグ最多の18人の投手が先発。中でも目立ったのが新戦術「ショートスターター」の存在だろう。加藤貴之投手、堀瑞輝投手などが先発として短いイニングで降板し、ベテランの金子弌大投手につなぐなど、これまでにない革新的な投手起用が目立った。伸びのある直球を持つ杉浦稔大投手やパワーピッチャーのロドリゲス投手は、試合前半の5イニングを任される場面が多かった。
流動的な投手起用が目立った一方、エースの座に君臨したのが有原航平投手。150km/h中盤の直球がある一方で、ツーシーム、チェンジアップ、スライダー、カットボール、フォークなど多彩な変化球も見事に投げ分けた。1イニングあたりで出した走者の平均数は驚異の0.92人。まさに「本格派」という言葉を体現するかのような活躍で15勝を挙げ、堂々のリーグ最多勝に輝いた。
オリックス・バファローズ/15投手
山岡泰輔(26)山本由伸(20)K-鈴木(19)アルバース(13)榊原翼(13)竹安大知(10)田嶋大樹(10)荒西祐大(8)張奕(6)東明大貴(4)成瀬善久(4)山崎福也(2)エップラー(1)山田修義(1)鈴木優(1)
最多先発:山岡泰輔投手
26試合13勝4敗 170回 154奪三振、防御率3.71
15人の投手が先発したオリックス。3年目の山本由伸投手は開幕からフル回転の活躍を見せ、4月の月間防御率1.45、5月の月間防御率1.30と他の追随を許さない圧巻の投球を披露。故障で一時離脱があったものの、最優秀防御率のタイトルを獲得した。同学年の榊原翼投手は白星に恵まれなかったものの、13試合に登板して防御率2.72をマーク。また、シーズン中盤には2017年のドラフト1位である田嶋大樹投手も復帰登板。来季はこうした投手のより成熟した投球に期待したい。
最多先発となったのは山岡泰輔投手だ。経験した事のない疲労から若手中心の先発陣には故障者が続出。そんな中でも山岡投手は、ただ1人ローテーションを守り続けた。結果、自身初タイトルとなる最高勝率を獲得。ひたむきな継続が最高の形となったと言えるだろう。
各年度シーズン最多先発投手
シーズンを通してローテーションを守り、1試合でも多くの先発マウンドに立つことはチームにとっても、選手自身にとっても非常に大きな意味を持っている。以下は2019年シーズンを含めた過去5年間のリーグ最多先発の投手である。
2015年
涌井秀章投手(最多勝)
28試合15勝9敗 188.2回 117奪三振、防御率3.39
則本昂大投手(最多奪三振)
28試合10勝11敗 194.2回 215奪三振、防御率2.91
2016年
則本昂大投手(最多奪三振)
28試合11勝11敗 195回 216奪三振、防御率2.91
2017年
金子千尋投手
27試合12勝8敗 184.1回 141奪三振、防御率3.47
2018年
多和田真三郎投手
26試合16勝5敗 172.2回 102奪三振、防御率3.81
則本昂大投手(最多奪三振)
27試合10勝11敗 180.1回 187奪三振、防御率3.69
2019年
千賀滉大投手(最多奪三振)
26試合13勝8敗 180.1回 227奪三振、防御率2.79
山岡泰輔投手(最高勝率)
26試合13勝4敗 170回 154奪三振、防御率3.71
全ての投手が2桁勝利を達成していることはもちろん、2017年の金子投手を除けば全ての投手がタイトルを獲得している点にも注目したい。今季は故障で出遅れてしまったものの、5年間で3度の最多先発数を誇り、4度にわたってタイトルを獲得している則本投手の貢献度は計り知れないだろう。より多くの試合に先発することは、「エース」となるための絶対条件であると言えるだろう。
もちろん、多くの試合に先発することは疲労や怪我、研究されて打ち込まれるリスクが高まる。実際のところ、チーム最多先発の投手が多くの黒星を喫してしまうケースも少なくはない。ただ、1年間のローテーションを任される投手には、等しく大きな期待がかかっており、チームをけん引できるだけの資質があるということは間違いない。来季は1人でも多くの先発投手にローテーションを守り抜いてもらいたいところだ。
文・吉田貴
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