先発として毎試合6イニングを投げ続ければ、規定投球回に到達できる
NPBにおける2019年の規定投球回は、試合数と同じ143イニングと定められている。開幕から中6日で登板し続けた場合、1人の先発投手が年間でマウンドに上がる回数は基本的には24回。そして、143試合を24で割った値は5.96。すなわち、1度の登板につき約6イニングを消化し続けながら年間を通してローテーションを守り続ければ、規定投球回に到達することができる計算となっている。
もちろん、1試合で7イニング以上を投げられればそれだけ余裕も生まれるが、1年間ローテーションを守りながら平均6回を投げ続けるというハードルは決して低くはない。だからこそ、「規定投球回到達」は先発投手にとって一つの勲章ともなるわけだが、今季はその到達者数に関して、過去に類を見ないほどの異変が生じている。今回の記事では、パ・リーグの先発投手たちを取り巻く状況について紹介するとともに、異変が起こった要因についても考えていきたい。
過去10年と比較してみても、今季の規定投球回到達者は異例の少なさに
まず、現時点で今季の規定投球回に到達しているパ・リーグの投手たちの顔ぶれと、その成績を見ていきたい。(以下、成績は9月13日の試合終了時点)
有原航平投手(北海道日本ハム)
22試合 151.1回 14勝7敗 150奪三振 防御率2.44
千賀滉大投手(福岡ソフトバンク)
24試合 168.1回 13勝7敗 214奪三振 防御率2.83
山岡泰輔投手(オリックス)
23試合 146.1回 10勝4敗 138奪三振 防御率4.06
美馬学投手(楽天)
23試合 133.2回 7勝5敗 104奪三振 防御率4.17
以上のように、規定投球回到達者はわずか4名となっている。この数字がいかに少ないかを示すため、過去10年間のパ・リーグにおける規定投球回到達者の人数を以下に列記していきたい。
2009年:17名
2010年:16名
2011年:17名
2012年:13名
2013年:12名
2014年:13名
2015年:12名
2016年:14名
2017年:13名
2018年:9名
2011年までは16~17名の投手が規定投球回に到達していたが、2012年にやや減少して13名に。以降、2017年まで6年間にわたって12~14名の間を推移しており、パ・リーグにおける到達者数の大まかな目安が生まれていた。そんな中、2018年に到達者が初めて2桁を割り込んで9名となり、安定していた過去6年間の目安から逸脱した数値が出た。2019年の4名という数はさらにその半分以下であり、過去の数字を振り返ってみてもまさに異例の事態といえる。
昨季の顔ぶれと比較してみると、そこから様々な要因が見えてくる
続いて、今季との比較対象として、2018年に規定投球回に到達していた9名の投手たちの顔ぶれと、その成績を確認していきたい(所属は当時)。
岸孝之投手(楽天)
23試合 159回 11勝4敗 159奪三振 防御率2.72
菊池雄星投手(埼玉西武)
23試合 163.2回 14勝4敗 153奪三振 防御率3.08
上沢直之投手(北海道日本ハム)
25試合 165.1回 11勝6敗 151奪三振 防御率3.16
マルティネス投手(北海道日本ハム)
25試合 161.2回 10勝11敗 93奪三振 防御力3.51
西勇輝投手(オリックス)
25試合 162.1回 10勝13敗 119奪三振 防御率3.60
則本昂大投手(楽天)
27試合 180.1回 10勝11敗 187奪三振 防御率3.69
涌井秀章投手(千葉ロッテ)
22試合 150.2回 7勝9敗 99奪三振 防御率3.70
多和田真三郎投手(埼玉西武)
26試合 172.2回 16勝5敗 102奪三振 防御率3.81
山岡泰輔投手(オリックス)
30試合 146回 7勝12敗4ホールド 121奪三振 防御率3.95
上記のランキングを比較するだけでも、規定投球回到達者が減った理由の一つが浮かび上がってくる。則本投手、岸投手はケガで長期離脱を強いられ、上沢投手とマルティネス投手もシーズンの多くを棒に振った。いずれも万全ならば年間を通してローテーションを守れるだけの実力を持った投手であり、主力級の投手の中に故障に悩まされる選手が多く現れたことが、今季の状況に影響したと考えるのは自然なことではないだろうか。
また、昨季は規定投球回に到達しなかった面々の中にも、ケガの影響を受けた投手は少なくない。石川歩投手(千葉ロッテ)は2年続けてケガによる離脱を経験し、開幕ローテーションに入った有吉優樹投手(千葉ロッテ)も4月に手術で戦線離脱。ディクソン投手(オリックス)も故障で出遅れ、復帰後はクローザーに転向した。昨季11勝を挙げた榎田大樹投手(埼玉西武)も故障で開幕には間に合わず、復帰後も本来の投球を見せられずにいる。
開幕から先発ローテーションに加わり、防御率2.72と快投を続けてブレイクを果たしつつあった21歳の右腕、榊原翼投手(オリックス)が7月に負傷離脱を強いられたことは、今季を振り返るうえでもとりわけ残念なニュースの一つであった。同じく序盤戦から先発陣の一角として奮闘していた22歳の岩下大輝投手(千葉ロッテ)も8月頭にケガで戦列を離れ、先発としてシーズンを完走することは叶わなかった。
さらに、実績ある投手の移籍と不振も影響を及ぼした。長年オリックスの先発陣を支えた西投手がFAで阪神に移籍し、埼玉西武のエースだった菊池投手は米球界に挑戦。その後を継ぐ新エースとして期待がかかった前年の最多勝右腕・多和田投手は、わずか1勝、防御率5.83と絶不調にあえいだ。2014年の移籍以来毎年規定投球回に到達していた涌井投手も今季は安定感を欠く投球が続き、7月末を最後に一軍登録を抹消されている。
条件を「100イニング以上投げた投手」に緩和してみると……
以上のように、様々な理由が複合的に絡み合い、今季の規定投球回到達者の記録的な少なさにつながったと言えそうだ。その一方で、投球回の基準を規定投球回(143イニング)からやや緩め、100イニング以上を投じた投手を確認していくと、その顔ぶれからは面白い傾向が見えてくる。上記の条件に合致する面々は以下の通りだ。
二木康太投手(千葉ロッテ)24歳
21試合 127回 7勝9敗 114奪三振 防御率4.11
山本由伸投手(オリックス)21歳
17試合 123.2回 6勝5敗 112奪三振 防御率1.75
高橋光成投手(埼玉西武)22歳
21試合 123.2回 10勝6敗 90奪三振 防御率4.51
今井達也投手(埼玉西武)21歳
20試合 121.1回 7勝9敗 95奪三振 防御率4.75
高橋礼投手(福岡ソフトバンク)23歳
20試合 124.2回 11勝4敗 68奪三振 防御率3.18
石橋良太投手(楽天)28歳
26試合 114回 7勝6敗 114奪三振 防御率3.71
辛島航投手(楽天)28歳
25試合 109.2回 9勝5敗1ホールド 78奪三振 防御率4.19
大竹耕太郎投手(福岡ソフトバンク)24歳
17試合 106回 5勝4敗 106奪三振 防御率3.82
種市篤暉投手(千葉ロッテ)21歳
24試合 102.2回 7勝2敗2ホールド 119奪三振 防御率3.59
石川歩投手(千葉ロッテ)31歳
25試合 104.2回 6勝5敗5ホールド 69奪三振 防御率3.78
ボルシンガー投手(千葉ロッテ)31歳
19試合 102回 4勝6敗 84奪三振 防御率4.32
名前の横に現時点での年齢を列記してみると、今季は20代前半の若手投手たちが多くの経験を積んでいることがわかる。中でも防御率1点台と圧巻のピッチングを続けてきた山本投手の投球内容は特筆もので、8月から故障で約1カ月間戦列を離れたものの、規定投球回まであと19回1/3。1試合平均で7イニング以上を消化していることを考えれば、残り試合で規定投球回に到達し、最優秀防御率を獲得する可能性も十分に残されている。
また、残り試合での投球次第では今井投手も規定投球回に到達する可能性がある。防御率4点台後半と調子の波は激しかったが、クオリティ・スタートも10回達成しており、きっちりと試合を作る投球も少なくなかった。まだプロ2年目で規定投球回に到達した経験はないだけに、残る登板機会で先発としての役目を果たし、年間を通して奮闘した証を数字の面でも刻んでほしいところだ。
加えて、初のオールスター選出と10勝を達成して飛躍を果たした高橋光成投手、開幕から安定した投球を続けて2年目で自身初の2桁勝利を挙げた高橋礼投手、6月下旬から大きく調子を崩したものの、開幕から先発陣の一角として安定した投球を見せた大竹投手、4月末から先発ローテーションに定着して7勝をマークしている種市投手といった、将来が期待される若手投手たちが一軍で多くの登板機会を得ている。
とはいえ、2017年に規定投球回に到達した経験のある二木投手を除き、いずれも先発としての経験は浅い投手が多い。急激に調子を崩した大竹投手の例を見ても、年間を通じたコンディショニングに関して学ぶ部分は少なくないだろう。先述の榊原投手も含め、今季の経験を活かして来季以降に大化けする期待が持てる投手が多く存在することは、リーグ全体にとっても明るい材料だ。
もちろん奮闘しているのは若手投手だけではなく、3年連続で投球イニングが3桁を超えた辛島投手、育成降格から這い上がって今季ブレイクを果たした石橋投手、シーズン途中のリリーフ経験を経て再び先発として安定感を取り戻した石川投手、8月から復調傾向にある昨季の最高勝率右腕・ボルシンガー投手といった中堅投手たちも一定のイニング数を消化しており、それぞれ先発投手として存在感を見せている。
各チームにとっての試練の1年は、来季以降の飛躍や復活を生む呼び水となるか
各チームにおけるケガ人の続出、ストーブリーグの動向、エース級の選手の不振と、様々な要因が絡まって今季の規定投球回到達者は激減してしまった。しかし、今季ケガに泣いた実力者たちが復活し、経験を積んだ若手投手たちが飛躍を果たせば、来季以降に143イニングをクリアする投手が一気に増えてくる可能性も秘めている。
現に、石川投手、ボルシンガー投手に加えて、金子弌大投手(北海道日本ハム)も終盤戦に調子を上げて復活の兆しを見せており、6月20日の一軍再昇格以降は先発として9連勝を記録しているニール投手(埼玉西武)も来季の活躍が楽しみな存在だ。今季はケガに泣かされた則本投手と岸投手もそれぞれ戦列に復帰してローテーションを回っており、過去に実績を残した好投手たちが本来の実力を発揮してくれる可能性は決して低くはないだろう。
それまで規定投球回に到達していた投手がイニング数を減少させたとなると、そのぶん別の投手の投球イニングが増えることにもつながってくる。史上まれに見る異常事態は、若手や中堅の投手にとっては一軍の舞台で貴重な経験を積むチャンスにもなったはずだ。各チームにとって誤算の連続ともなった激動の1年は、裏を返せば、来季以降に向けて大いに意味のあるシーズンにもなってくるかもしれない。
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