1つのプレーで2つのアウトを稼ぎ出す併殺打は、攻める側としては一瞬にして肩を落とし、守るチームは一挙に胸を撫で下ろす瞬間だろう。言葉を変えると、打者にとっては最も敬遠すべき打撃結果とも言える。
「併殺打が多い打者」と聞くと、内野ゴロが多い、足があまり速くない、積極的に打つなどの印象を抱くことが多いが、2019年シーズンのパ・リーグではどうだったのだろうか。そこで今回は、今季の併殺打数上位5名を紹介し、各選手がどのような打順で起用されていたかや、出塁率の面から、各選手の特徴を紹介していきたい。
【パ・リーグ併殺打数】
1位:F大田泰示選手…… 22本
1位:Eウィーラー選手…… 22本
3位:E銀次選手…… 19本
4位:Mレアード選手…… 18本
5位:H内川聖一選手…… 16本
5位:F中田翔選手…… 16本
ウィーラー選手やレアード選手といった強打の外国人選手や、内川聖一選手や中田翔選手のようなクリーンナップを打つ選手が上位に名を連ねた。一方で、今季6盗塁を記録するなど、決して足が遅いわけではない大田泰示選手が、ウィーラー選手と並んで1位タイとなる22本の併殺打を記録した。
各選手が起用された打順を一覧にすると、顕著な傾向が見えてくる。ウィーラー選手、銀次選手、レアード選手の3選手が5番での起用数がトップであることに表れているように、クリーンナップで起用されている回数が多く、打線の中核に位置する選手に併殺打が多くなる傾向があるようだ。
大田選手が2番で大半の試合に出場していることを除くと、上位選手はいずれも3~5番での起用回数が最も多い。上位打線の作った好機で打順が回ることが多い、クリーンナップの選手は、必然的に併殺打を放つ回数も増えていると言える。
では次に、各選手の月ごとの起用打順、併殺打数、出塁率を見ていこう。
6選手の中でもっとも特徴的だったのが、北海道日本ハムの大田選手だった。開幕こそ6番で迎えたものの、3試合目からは2番の座を揺るぎないものにした。
7月は故障もあり12試合の出場となった分、併殺打数は1本にとどまった。一方で、他の月と同様に23試合に出場した4月は、.385という高い出塁率と反比例するように併殺打の本数は1本となった。
2番を打ち続けた大田選手は、そのほとんどで1番に座った西川遥輝選手の後を打った。西川選手の出塁率は、リーグ5位となる.393を記録。大田選手の併殺打が最も多くなった6月には、西川選手が出塁率.421を叩き出しており、リードオフマンの奮闘ぶりが、大田選手の併殺打数に表れていると言える。
シーズンが進むにつれて、下位の打順を打つ機会が多くなったウィーラー選手。出塁率からも、シーズン後半は成績が振るわず苦しんだことがうかがえる。
しかし、大田選手と相反して出塁率と併殺打数が反比例しておらず、シーズン序盤から6月をピークに併殺打数が減少している。この理由としては、5番、6番といった打順を打っていた時期には、その前を打つ選手が浅村栄斗選手、島内宏明選手、銀次選手と、出塁率が高い選手が多かったことが挙げられる。
一方で、シーズン後半は7番に座り、その前をルーキー・渡邊佳明選手や途中加入の和田恋選手などの若手選手が打つことが増えた。これによって、7月以降の併殺打数が激減したと考えられそうだ。
同じチームのウィーラー選手が徐々に打順を変えたのとは対照的に、銀次選手は5番と6番に起用が集中している。そして併殺打数に関しても、ウィーラー選手がシーズン後半にかけて数を減らしたのに比べ、銀次選手はその数を増やしている。
この理由としては、5月中旬にかけて銀次選手の前、つまり5番を打っていたのがウィーラー選手に対して、8月以降はブラッシュ選手がその役割を担っていたということが挙げられる。6月までウィーラー選手の出塁率が.289→.365→.298と推移していたのに対し、8月以降のブラッシュ選手は.394→.383と高い数字を残しており、上記の選手たち同様、前を打つ打者の活躍が、銀次選手の併殺打数に表れていると言える。
ここまでの選手では、前を打つ選手の調子が色濃く併殺打数に反映されていたのに比べ、レアード選手は自身のコンディションがハッキリと数字に表れている。
シーズン序盤、4月には打率.351、5月には月間9本塁打を放ち好調を保っていたのに比例して、4月は1本、5月は2本と、併殺打の本数も少なかった。一方で、4番での起用が増えた7月以降は打率、出塁率などが振るわず、併殺打の数も一気に増えている。
前を打つ選手は、シーズン序盤では井上晴哉選手が多かったのに対し、シーズン後半には中村奨吾選手や鈴木大地選手(現・楽天)がその数を増やしていたこともあり、この点はやはり併殺打数との関連が高いとは言えず。レアード選手の併殺打数は、調子のバロメーターと考えることができそうだ。
今季の内川選手は、4,5番こそ担わないものの、3番や6番という得点に絡む重要な打順での起用が多かった。デスパイネ選手とグラシアル選手の外国人コンビの後ろを打つことが多かった4月は、月別でも最多となる4本の併殺打を記録しており、ここは打順による影響が色濃く出ていそうだ。
一方で、3番に定着した6月以降では、出塁率が月別でも低い値となった6月に最多・4併殺打を記録したものの、自身の調子が上がっていくとその数が減少。牧原大成選手や福田秀平選手(現・千葉ロッテ)ら俊足選手が前を打つ機会が多くなっただけに、この時期は自身の調子が併殺打数に影響していたと考えられる。
9月には6番を打つ機会が最も多かったが、この時期は再びグラシアル選手が前を打つことになり、再びその数が増えた。
中田選手は4,5月こそ近藤健介選手に4番を明け渡すことがあったものの、6月以降は先発出場試合全てで打線の中核に座った。
8月には出塁率.200と打棒が振るわず、併殺打数も4つを記録したが、月別でトップとなる5つを記録した5月には対照的な原因があった。この月、23試合で中田選手の前を打った近藤選手は、なんと月間で.500という驚異的な出塁率を記録。翌月も.389と高出塁率を記録しているが、やはり「2打席で1出塁」という圧巻の数字は、後続の打者にも顕著な影響を与えていたようだ。
上記の6選手から、併殺打が増えることには以下に2点の傾向があることが分かる。1つ目には、その打者自身の調子の良し悪し、2つ目は、前を打つ打者の成績だ。レアード選手のように自身のコンディションが如実に表れる選手がいれば、中田選手のように直前の打者の奮闘ぶりが併殺打数に表れる選手もいる。
併殺打は、その時の打撃結果のみを見るとポジティブなイメージが湧かないように感じられるが、シーズンを振り返ったときにはその選手の調子や、打線の活気を推し量る材料の1つになりえる。今回は打順、そして出塁率という視点から併殺打について考えたが、この文が、併殺打の新たな一面を考える一助になれば幸いである。
成田康史
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