「与死球」がフォーカスされることは決して多くないが……
投手が残した成績を示す指標はいくつもあるが、被安打、奪三振、与四球といった数字に比べ、「与死球」が大きくフォーカスされることはそう多くはない。その投手自身の制球力に加え、シュートやツーシームといった球種を投球の軸にしているか否かや、所属するチームの主戦捕手の配球の傾向にも左右されるが、与死球の数は年間一桁となる投手が大半。単純に数字としても小さくなりやすいことが、より注目を集めにくくしている面もあるかもしれない。
被安打や与四球と同様に、投手にとって名誉とはいえない数字であることも手伝い、各シーズンにおいてリーグで最もデッドボールを与えた投手が誰であるかが知られる機会は、極めて少ないのが現状だ。しかし、投手にとっては時には厳しく内角を攻めることが重要であるのは間違いないところ。与死球数の多さは、強気な投球の裏返しとも取れるはずだ。
ちなみに、歴代最多の165与死球を記録したのは、ライオンズのエースとして通算251勝を記録し、強気の内角攻めで「ケンカ投法」の異名を取った東尾修氏。年間記録は剛速球を武器に東映で活躍した森安敏明氏が、1968年に記録した22個。NPBで現役を続けている投手の中で、通算最多の死球を与えているのは涌井秀章投手(101個)だ。
今回は、過去10年間のパ・リーグにおいて、与死球率で各シーズンのトップ3に入る数字を記録した投手たちを紹介。9イニングごとに何個死球を与えるかを示した「与死球率」という数字も確認していき、投手から見た「デッドボール」についての考察を行いたい。
過去10年間で、死球数リーグ1位に複数回立った投手は2名のみ
過去10年間のパ・リーグにおける、与死球数トップ3の投手たちは下記の通り。(所属は当時)
2010年
1位:13個
木佐貫洋氏(オリックス)
2位タイ:12個
岩隈久志投手(楽天)
帆足和幸氏(埼玉西武)
2011年
1位:16個
西勇輝投手(オリックス)
2位:12個
ボビー・ケッペル氏(北海道日本ハム)
3位:11個
ブライアン・ウルフ氏(北海道日本ハム)
2012年
1位タイ:9個
牧田和久投手(埼玉西武)
山田大樹投手(福岡ソフトバンク)
3位タイ:7個
ランディ・ウィリアムス投手(埼玉西武)
釜田佳直投手(楽天)
小松聖氏(オリックス)
2013年
1位:14個
西勇輝投手(オリックス)
2位:12個
アレッサンドロ・マエストリ投手(オリックス)
3位タイ:9個
牧田和久投手(埼玉西武)
十亀剣投手(埼玉西武)
2014年
1位:12個
牧田和久投手(埼玉西武)
2位タイ:10個
ジェイソン・スタンリッジ氏(福岡ソフトバンク)
ルイス・メンドーサ投手(北海道日本ハム)
涌井秀章投手(千葉ロッテ)
2015年
1位タイ:11個
牧田和久投手(埼玉西武)
吉川光夫投手(北海道日本ハム)
3位:9個
中田賢一投手(福岡ソフトバンク)
2016年
1位:13個
小石博孝氏(埼玉西武)
2位:10個
牧田和久投手(埼玉西武)
3位:9個
十亀剣投手(埼玉西武)
2017年
1位:9個
中田賢一投手(福岡ソフトバンク)
2位タイ:8個
多和田真三郎投手(埼玉西武)
ルイス・メンドーサ投手(北海道日本ハム)
2018年
1位:14個
榎田大樹投手(埼玉西武)
2位:13個
石川柊太投手(福岡ソフトバンク)
3位:11個
多和田真三郎投手(埼玉西武)
2019年
1位:14個
高橋光成投手(埼玉西武)
2位:11個
高橋礼投手(福岡ソフトバンク)
3位タイ:9個
有原航平投手(北海道日本ハム)
榎田大樹投手(埼玉西武)
複数回トップに立った投手は、2011年と2013年の2度最多死球となった西投手と、2012年、2014年、2015年の3度最多死球を与えた牧田投手の2名。両者は近年のパ・リーグの中でも死球が多い投手と言えるが、キャリア通算の与四球率は西投手が2.217、牧田投手が2.12とそれぞれ優秀。この2投手に関しては制球が悪いというわけではなく、積極的に内角を攻めた結果、死球が増えていた可能性が高そうだ。
彼らのほかにも、死球数の年間トップ3に複数回入った投手は存在。その顔ぶれはメンドーサ投手、中田投手、榎田投手、多和田投手と、積極的に内角を突いていけるマウンド度胸を持ち合わせたピッチャーが多くなっている。
例えば、2019年に榎田投手は9個の死球を記録してしまっているが、そのうち6個は右打者にスライダーかカットボールを投じたものだ。中田投手も同年唯一の一軍登板となった試合で、左打者の辰己涼介選手に対してスライダーを投じ死球を与えている。2度以上ランキング入りしている投手たちに関しては、投球スタイルにある種の共通項が見られると言えるか。
与死球率トップ3の投手たちを比べてみると、その投球スタイルにはそれぞれ違いが
与死球という指標は、その性質上、多くのイニングを投げている投手のほうが大きな数字を記録しやすい。そこで、別の角度から各投手が出した死球の多さを検証するために、9イニングを投げた場合に与える四球の数を示した「与四球率」と同じ要領で、各年度トップの死球数を記録した投手たちの「与死球率」を算出した。先述の条件を満たした投手たちの、与死球率のランキングは以下の通りだ。
1位:小石博孝氏(2016)
与死球率:1.567
2位:高橋光成投手(2019)
与死球率:1.18
3位:西勇輝投手(2011)
与死球率:1.102
4位:榎田投手(2018)
与死球率:.950
5位:中田賢一投手(2017)
与死球率:.935
6位:西勇輝投手(2013)
与死球率:.759
7位:牧田和久投手(2015)
与死球率:.719
8位:木佐貫洋氏(2010)
与死球率:.671
9位:牧田和久投手(2014)
与死球率:.633
10位:吉川光夫投手(2015)
与死球率:.621
11位:山田大樹投手(2012)
与死球率:.545
12位:牧田和久投手(2012)
与死球率:.455
与死球率が1.00を超えたのは、2016年の小石氏、2019年の高橋光成投手、2011年の西投手の3人となった。基本的にシュート系のボールを使うことは多くない高橋光成投手は、2019年の与四球率が3.419と、同年のリーグ平均の与四球率(2.571)を上回っていた。一方、シュートを大きな武器とする西投手は、2011年の与四球率が1.79と優れた制球力を示しており、それぞれの投球スタイルの違いが数字にも表れている。
全体でもトップの与死球率を記録した2016年の小石氏は、50試合で74.2イニングという投球回数からもわかる通り、リリーフとして登板を重ねた。そのため、先発投手に比べて投球イニングは少なくなったが、与えた13個という死球の数は今回取り上げた投手たちの中でも3位タイと、先発投手と遜色のない多さに。与四球率も4.70とやや不安定な数字が残っており、小石氏にとっては総じて制球に苦しんだシーズンだったといえるか。
今回ランクインした投手の内訳は先発投手が大半となっていたが、リリーフ専任だった2012年のウィリアムス投手(与死球率1.488)と、先発とリリーフの双方で活躍した2018年の石川柊太投手(与死球率.919)のように、小石投手と同じく、当該シーズン中にリリーフとして多く登板した投手も存在。両者ともやはり与死球率は高くなっており、イニング数との相関性があらためて示されている。
3度リーグ最多死球を記録した牧田和久投手の成績は、さまざまな意味で興味深いものに
リリーフ投手のみならず、先発投手の中にも、イニング数の影響で与死球率が多くなってしまった投手は存在する。2017年の中田投手は主に先発投手を務めていたが、投球回は86.2回と3桁に届かず。榎田投手も2019年には69回で与死球9、与死球率1.173と、リーグトップの死球を与えた前年(与死球率.950)よりも数字が増加している。
ある投手の1シーズンにおける投球回数が減少した場合、当然ながら死球の数も同様に減ることが多い。だが、例外的に死球の数に大きな変化が生じなかった場合は、与死球率はその他のシーズンに比べて大きく上昇することになる。その点でも、牧田投手が残してきた数字はこれまで述べてきた傾向に沿ったものと言えそうだ。
牧田投手は3度リーグトップの死球を記録したものの、今回取り上げた3シーズンは主に先発を務めており、与死球率も今回取り上げた投手たちの中では高いものではなかった。しかし、リリーフとしての起用が大半となった2016年には78.2回で10死球を与え、与死球率も1.143と悪化している。ただ、2017年には死球の数が大幅に減少し、62.2回で3個とキャリア最少の数字を記録。3年ぶりの日本球界復帰となる2020年は、いったいどのような投球を見せてくれるだろうか。
死球が増える理由は、決して一様ではない
やはり、制球に苦しんで死球の数が増えてしまう投手も少なからず存在するのも確かではある。しかし、西投手のように優れた制球力を持ちながら、ピッチャー個人の投球スタイルからくる内角攻めの結果として死球が多くなるタイプの投手も存在することが、これまでに紹介した数字からも浮かび上がってくる。
もちろん、厳しく内角を攻める場合であっても、打者に死球を与えないほうが望ましいのは言うまでもない。だが、与死球の数を参考にすることで見えてくるものも、少なからず存在するのは確か。デッドボールは選手のケガにつながる危険性が高いという点で、他の成績とは異質なものがあるが、年間を通じて示された数字が考察の余地を含んでいるという点においては、それ以外のさまざまな指標と共通していると言えるのかもしれない。
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