野球ファンが「盗塁」を話題にするときに持ち出すのは、「盗塁数」や「盗塁成功率」といった数字だろう。「年間50盗塁」や「盗塁成功率9割超え」という言葉を耳にすれば、誰しもが盗塁のうまい、俊足の選手をイメージするのではなかろうか。
当然のことながら盗塁は走れば全て成功するという訳ではない。2019年、パ・リーグの盗塁王に輝いた埼玉西武の金子侑司選手も、41盗塁を決めた一方で10盗塁死を記録している。ここで注目したいのは、盗塁と盗塁死を加えた「盗塁企画数」だ。成功はもちろんのこと、失敗も含め、塁上からバッテリーにプレッシャーをかける機会が多いことは、それだけでチームへの大きな貢献となることだろう。
そこで今回は、この盗塁企画数に注目して、各選手が「どれほど積極的に盗塁したか」について検証してみたい。これを考えるに当たり、「盗塁数+盗塁死数」によって算出する「盗塁企画数」をもとに、下記の式を用いて、「盗塁企画率」を算出。
盗塁企画数 /(安打数+四球数+死球数+代走起用数-本塁打数)
もちろん、走者の状況や場面ごとに、盗塁できるシチュエーションかは異なってくるが、今回は上記の式で大まかなイメージとしてつかんでもらいたい。まずは、2019年の盗塁数上位10傑を紹介する。
盗塁数ランキング
1位:L金子侑司選手…… 41盗塁
2位:L源田壮亮選手…… 30盗塁
2位:B福田周平選手…… 30盗塁
4位:M荻野貴司選手…… 28盗塁
5位:H周東佑京選手…… 25盗塁
6位:L外崎修汰選手…… 22盗塁
7位:F西川遥輝選手…… 19盗塁
8位:L木村文紀選手…… 16盗塁
9位:E辰己涼介選手…… 13盗塁
9位:M岡大海選手 …… 13盗塁
自身2度目の盗塁王に輝いた金子侑選手が41盗塁でトップ。2位には、同じく埼玉西武に所属する源田選手と、1年目の16盗塁から大きく数を増やしたオリックスの福田選手が入った。4位以降にも、10年目にして初の規定打席に到達した千葉ロッテの荻野貴選手や、侍ジャパンでも代走から快足ぶりをたびたび見せつけた周東選手など、俊足自慢の選手が並んでいる。
では、これが盗塁の積極性という面から見るとどのように入れ替わるか。10盗塁以上を記録した選手の「盗塁企画率」ランキングを、6位まで一気に見ていきたい。なお、選手名の隣には「盗塁企画率」の数値、()内には盗塁企画数と、本塁打を除いた出塁数をそれぞれ記した。
盗塁企画率ランキング(6位~19位)
6位:L源田壮亮選手…… 20.7%(39/188)
7位:H牧原大成選手…… 20.4%(23/113)
8位:H釜元豪選手 …… 20%(12/60)
9位:B大城滉二選手…… 19.4%(21/108)
9位:H上林誠知選手…… 19.4%(14/72)
11位:M荻野貴司選手…… 19.0%(38/200)
12位:B安達了一選手…… 18.5%(12/65)
13位:M岡大海選手 …… 17.9%(14/78)
14位:F中島卓也選手…… 17%(17/100)
15位:L外崎修汰選手…… 14.9%(28/188)
16位:E辰己涼介選手…… 13.2%(16/121)
17位:M中村奨吾選手…… 10.7%(18/168)
18位:F西川遥輝選手…… 9.7%(24/248)
19位:L秋山翔吾選手…… 8.1%(20/246)
盗塁数ランキングでは2位に付けていた源田選手が6位、同じく4位だった荻野選手は11位となった。この2選手は年間を通して上位打線に座り続けたこともあり、ともに200前後の出塁数を記録。ともに7割を超える成功率を記録しており、「5回に1回走ってくる」だけでも、相手バッテリーに大きなプレッシャーを与えていたことだろう。
7位の牧原選手、9位タイの大城選手は、成功率こそ5割前後に落ち着いたものの、積極的な走塁を見せて盗塁企画数はともに20個を超えた。「盗塁数」という形では数字に現れていないものの、果敢に仕掛ける走塁を印象付けてチームに貢献したと言えそうだ。
一方で、西川選手や秋山選手は4割に迫る高い出塁率を記録。ともに直後を打つのが大田選手、源田選手と頼れる打者であったこともあり、盗塁企画数は落ち着いた数になった。分母となる出塁数が増え、盗塁企画の回数が少なかったこともあり、盗塁企画率はともに10%を下回る数値となった。
盗塁企画率ランキング(1位~5位)
1位:H周東佑京選手…… 44.1%(30/68)
2位:B佐野皓大選手…… 32.6%(15/46)
3位:L金子侑司選手…… 30.5%(51/167)
4位:B福田周平選手…… 23.0%(44/191)
5位:L木村文紀選手…… 22.5%(25/111)
1位の周東選手は、代走の機会が40回を超えていたこともあり、出塁数(22)を大きく上回る盗塁企画数(30)を記録。代走起用回数を含めた今回の計算でも、盗塁企画率は驚異の40%超えを果たした。2回に1回とも言えるペースで盗塁を仕掛ける姿勢は、国際戦の大舞台でも発揮され、2019年はその胆力と並外れた俊足の合わせ技で大きな飛躍を遂げた。
そして、盗塁数ランキングでは12位タイだったオリックスの佐野選手が2位にランクイン。こちらも代走の出場が16回と多かったが、何より目立つのは15回の盗塁企画で12回の成功と8割の成功率を記録している点だ。30%を超える確率で盗塁を仕掛け、なおかつ8割の確率で盗塁を成功させるとあらば、バッテリーにかかるプレッシャーも相当なものだったろう。2019年は打率.207と振るわなかっただけに、2020年は打撃を向上し、さらに塁上を駆け回ってほしいところだ。
そして2019年の盗塁王、金子侑選手は3位にランクイン。盗塁企画数はリーグトップの51個を記録し、企画率も30%超えと、リーグ屈指の韋駄天として貫禄を見せた。成功率の面でも、前回盗塁王を獲得した2016年から、.757→.758→.744→.804と大きく更新しており、パ・リーグにとどまらず日本が誇る快足打者として成長を続けている。
続く4位は、オリックスの主将・福田選手。ルーキーイヤーの2018年は16盗塁だったのに対し、2019年は倍近い30盗塁を記録した。盗塁企画数も、前年の25個から44個と大きく増やし、成功率も.640から.682へと向上させた。好守に気迫溢れるプレーでチームを率いる福田選手は、走塁面にも積極的な姿勢を見せていたと言えそうだ。
5位は埼玉西武・木村選手だ。自身初の100試合出場を達成した2014年以来となる2桁本塁打(10本)を記録すると、走塁面でもキャリアハイに並ぶ16個の盗塁を決めた。しかし、同じく16盗塁を記録した14年は28.6%だったのに対し、2019年の盗塁企画率は21.7%と振るわず。自身最多となる130試合に出場し進境を見せた2019年であったが、2020年は打撃に、走塁に、さらなる活躍を期待したい。
ここまで見てきたように、「盗塁企画率」という切り口から順位を見ると、盗塁数のランキングとは異なった特徴があることが分かった。「盗塁がうまい(成功率が高い)」ことはもちろん評価できる点だが、塁に出た場面でより積極的に次の塁を狙う姿勢も、チームにとって大きな価値がある。
周東選手のような盗塁のスペシャリストもいれば、福田選手のように果敢な走塁でチームを勇気づける選手もいる。成功率や盗塁の数といった表に出る記録の裏では、「盗塁を仕掛ける」胆力が試されているとも言える。今回の計算は、あくまで細かな場合を省いた大まかな数値だが、盗塁の新しい見方と感じていただければ幸いだ。
文・成田康史
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