野球人にとっての「正月」と言えば、2月1日のプロ野球キャンプイン当日。野球ファン界隈では、年が明けてひと月が経とうというのに「あけましておめでとうございます!」という挨拶が飛び交う。
プロへの扉を開いた選手にとっても、キャンプインは野球人生を懸けた戦いが始まると同時に、関係者への挨拶回りに追われる時期でもある。そこで、まことにお節介ながらパ・リーグの新人選手に向けて「リーグ内のこの人には……」という人物をピックアップした。
名門校出身者は大忙し 高校編
今や高校球界の横綱といえば、文句なしに大阪桐蔭である。今年は4選手をプロに送り込んでおり、パ球団には快足猛肩外野手の藤原恭大選手(千葉ロッテ1位)、力強さとクレバーさを併せ持つ柿木蓮投手(北海道日本ハム5位)の2人が入団した。
大阪桐蔭人脈はパ・リーグだけでも総勢13人と猛烈な勢力拡大を見せているだけに、挨拶に回る人物も増えてくる。まずはチーム内の先輩を回り、その後は他球団とのオープン戦などで顔を合わせる流れだ。
とくに柿木投手にとって、日本を代表するスラッガーとなった中田翔選手は憧れの選手である。さらに高校時代の2学年先輩でもある高山優希投手もいる。チームの顔である中田選手と間近でプレーするためにも、早く一軍に昇格したい。また、高校時代からフォームが激変した高山投手を見て、独特なリズム感に面食らうかもしれない。
藤原選手と柿木投手が一軍に食い込めれば、埼玉西武のおかわり君・中村剛也選手、小さな大打者・森友哉選手、貴重な捕手・岡田雅利選手、さらに埼玉西武から東北楽天にFA移籍した浅村栄斗選手へも顔を見せに行ったほうがよさそうだ。
勢力を伸ばす「東の雄」 うれしい再会も
西の名門が大阪桐蔭なら、東は横浜と花咲徳栄が双璧である。横浜からはロマンの塊である万波中正選手(北海道日本ハム4位)、明治大を経て努力でプロ入りを勝ち取った渡邊佳明選手(東北楽天6位)が入団する。
万波選手のチームメイトには球界随一の安打製造機・近藤健介選手、レギュラー候補の淺間大基選手、右の強打者・高濱祐仁選手がいるのが心強い。福岡ソフトバンクの元気印・増田珠選手は1学年上、東北楽天の逸材右腕・藤平尚真投手は2学年上と、同じ釜の飯を食べた年の近い先輩もいる。
渡邊選手にとっては同期の淺間選手、高濱選手、後輩の藤平投手、増田選手、万波選手が各球団に散らばる、やりやすい環境。さらに涌井秀章投手(千葉ロッテ)ら年の離れた大先輩には、祖父・元智さん(前横浜監督)の近況という絶対的なトークテーマがある。
近年、コンスタントにプロを輩出しているのは花咲徳栄である。今年は打球に角度があるスラッガー・野村佑希選手(北海道日本ハム2位)がプロに進んだ。埼玉西武には1学年上で打撃論を交わした西川愛也選手と、その西川選手の中学からの先輩である愛斗選手の「愛コンビ」がいる。親しみやすい先輩だけに、挨拶も億劫ではないだろう。
だが、選手だけに気を取られて思わぬ罠にはまる危険もある。千葉ロッテの根元俊一一軍内野守備コーチのように、首脳陣にもOBがいることをお忘れなく。
意外性があるのは、北海道の雄・北海出身者がパ・リーグに5人もいること。新入団者は富士大の勝負強い右打者・佐藤龍世選手(埼玉西武7位)に、身長198センチの超大型右腕の大窪士夢投手(埼玉西武育成2位)の2人。といっても、北海道日本ハムの中継ぎ右腕・鍵谷陽平投手以外は埼玉西武所属。埼玉西武では、人数だけなら大阪桐蔭以上に“北海派閥”が幅を利かせている。
早稲田大・明治大が圧倒的 大学編
大学野球は歴史と伝統を誇る東京六大学リーグと東都大学リーグ、学生野球のメッカ・神宮球場で公式戦を戦う連盟のチームが「名門」とされることが多い。とくに近年、プロに多数の選手を送り込んでいるのは東京六大学なら早稲田大と明治大。東都なら亜細亜大である。
早稲田大はまとまりのある左腕の小島和哉投手(千葉ロッテ3位)が新たにプロ入り。福岡ソフトバンクには1学年先輩でプロ入り後に大化けした大竹耕太郎投手に、再起を懸けるベテラン・和田毅投手とサウスポーの先輩がいる。他にも2010年のドラフト1位トリオ、斎藤佑樹投手(北海道日本ハム)、大石達也投手(埼玉西武)、福井優也投手(東北楽天)もパ・リーグに揃い踏み。パ球団に在籍する現役OB11人中8人が投手ということもあり、いいアドバイスをもらえそうだ。
明治大は東北楽天6位の渡邊佳明選手がプロ入り。渡邊選手は横浜高校時代の人脈を含めて、忙しくなりそう。これもエリートコースを歩む者の宿命と言えるだろう。
受け継がれる「魂」? 富士大は近年勢力を伸ばす
東都の「虎の穴」、亜細亜大からは大学球界を代表するパワーヒッターの頓宮裕真選手(オリックス2位)と制球力で勝負する左腕の中村稔弥投手(千葉ロッテ5位)がパ球団入り。亜細亜大のOBは大学随一の練習量と規律の厳しさで揉まれてきただけあって、福岡ソフトバンクの松田宣浩選手を筆頭に魂のこもったプレーをする選手が多い。そうした先輩から亜細亜魂を注入され、プロでたくましく生き残っていくかもしれない。
異色なのは富士大の出身者だろう。富士大は岩手にあり、北東北大学リーグの強豪。毎年のように選手が埼玉西武に指名されており、山川穂高選手、外崎修汰選手、多和田真三郎投手と昨季の優勝に大きく貢献したトリオがいる。今年は佐藤龍世選手が7位で埼玉西武に入団しただけでなく、キレで勝負する左腕・鈴木翔天投手も東北楽天8位で入団した。佐藤龍選手は北海人脈と併せて、いきなり縁の深い選手に囲まれることになった。
埼玉西武ドラ6森脇投手は人脈広し 社会人編
社会人で近年プロ球界に多数選手を送り込んでいるのは、JR東日本とトヨタ自動車。JR東日本からは高卒5年目にして開花した右腕・板東湧梧投手(福岡ソフトバンク4位)、トヨタ自動車からは実戦での強さと将来性を兼備する左腕・富山凌雅投手(オリックス4位)が進む。
この2人は高卒社会人だが、大卒社会人ともなればその球歴が華やかであればあるほど人脈も色濃くなる。特徴的なのは、今年で27歳を迎えるオールドルーキーの森脇亮介選手(埼玉西武6位)である。
京都の塔南時代にバッテリーを組んだ1学年下の駒月仁人と再びチームメイトとなり、東都の名門・日本大OBとしても十亀剣投手(埼玉西武)、吉田一将投手(オリックス)といった先輩がおり、社会人・セガサミーOBとしては宮崎祐樹選手(オリックス)、浦野博司投手(北海道日本ハム)という先輩がいる。森脇選手には年齢的にも即戦力の期待がかかるだけに、関係の深い人物からの情報収集で活躍へと結びつけたいところだ。
少年時代からのつながりもめずらしくない 意外な関係編
野球界の上下関係は、何も高校以上から始まるわけではない。中学野球界でも、多数のプロ選手を輩出している名門チームが存在する。
ドラフト1位で指名された大阪桐蔭・藤原恭大選手、報徳学園・小園海斗選手(広島1位)がともに大阪の硬式クラブ・枚方ボーイズ出身ということは知られている。枚方ボーイズはかつて鍛治舍巧氏(現・県岐阜商監督)が監督を務めた名門中の名門。その薫陶を受けた「鍛治舎チルドレン」はパ球団にも在籍しており、強肩強打の捕手・九鬼隆平選手(福岡ソフトバンク)、快足内野手・山足達也選手(オリックス)がいる。山足選手は藤原選手にとってボーイズ、高校を通じての先輩でもある。
東京の強豪・武蔵府中リトルシニアも人脈では負けていない。埼玉西武に3位指名された山野辺翔選手は三菱自動車岡崎で活躍した即戦力二塁手。武蔵府中シニア時代は1学年上に茂木栄五郎選手(東北楽天)、菅野剛士選手(千葉ロッテ)、1学年下には石川亮選手(北海道日本ハム)に囲まれた世代である。大舞台でも物怖じせずにプレーできる山野辺選手のルーツは、この武蔵府中にある。
中学軟式の選手を対象にした選抜チーム「MAJOR HYOGO」でチームメイトだった松本航投手(日本体育大→埼玉西武1位)と甲斐野央投手(東洋大→福岡ソフトバンク1位)は、ともにドラフト1位でプロに進むことになった。中学卒業後もお互いに意識し合い、大学3年時の明治神宮大会では投げ合い、高め合ってきた。プロでもライバル物語は続き、プロとして最初の戦いは「新人王争い」になりそうだ。
埼玉西武・伊藤投手と千葉ロッテ・育成1位の追いかけっこ?
最後に不思議な縁でつながった選手を紹介したい。徳島インディゴソックスから千葉ロッテ育成1位で指名された速球派右腕・鎌田光津希投手と、埼玉西武の若手ホープ右腕・伊藤翔投手は、千葉県匝瑳市の近所に住む幼馴染だった。学年は3年違うものの、鎌田投手が伊藤投手にスライダーを伝授したこともある。高校はともに横芝敬愛へと進学。ところが、ここから両者の道は微妙に逆転していく。
横芝敬愛から敬愛大に進学した鎌田投手に対し、後輩の伊藤投手は高校卒業後、独立リーグの徳島インディゴソックスに入団。伊藤投手はわずか1年で頭角を現し、埼玉西武にドラフト3位指名される。一方、大学で不完全燃焼に終わった鎌田投手は、伊藤投手のプロ入りと入れ替わる形で徳島インディゴソックスに入団。こちらも1年で最速155キロを計測するまでになり、育成指名ながらプロ入りを勝ち取った。追いかけ合うようにして野球人生を歩んできた2人は、プロの世界でも刺激し合える関係になるのか。興味は尽きない。
まったく知り合いがいない状態でプロ入りするルーキーたちには、強いハングリー精神や愛嬌のある挨拶で活路を見出してもらいたい。晴れてプロ野球選手になった彼らが輝く季節は、まもなくやってくる。
グラフィック制作:出内テツオ 監修・文 菊地高弘
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