シーズン中の奮闘も報われず、今季は5位に終わった北海道日本ハムファイターズ。当然ながら、チーム全員が悔しい思いを残すシーズンだっただろう。しかし、個人成績の観点から見れば好成績を残した選手も多い。今回は、特集動画「シーズンレビュー2019」で試合を振り返り、本記事では選手にフォーカス。前編は投手を中心に、後編は野手を中心に北海道日本ハムの2019シーズンを振り返っていく。
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投手陣では、昨季2桁勝利を記録した先発の柱2人を欠いたことが痛かった。1人目が助っ人のマルティネス投手。昨季は3完投を含む25試合に登板し10勝を記録したが、今季は相次ぐ故障に苦しみ、一軍登板はならなかった。もう1人が上沢直之投手だ。昨季、自身初の2桁勝利(11勝)を挙げ、今季はエースとして期待されていた。今季は、6月までで11試合に先発し、5勝を記録する順調なスタートを見せたが、6月18日の横浜DeNA戦で打球が右ひざに直撃してしまい、今季の復帰は難しい状況になってしまった。この時点でのチーム順位は3位だっただけに、最終順位が5位であるということを考えれば、上沢投手が離脱した7月以降が厳しい戦いとなったことは確かだ。
「宝石のような投球」でエースとなった有原航平
そんな中、目覚ましい活躍を見せたのが有原航平投手だ。今季はチーム最多の164.1回(リーグ3位)、自己最多の15勝をマークし、2015年の新人王以来となる「最多勝利投手」のタイトルを獲得した。さらに、24試合に先発してすべて6回以上を投げ、イニングの途中で降板したのはわずかに二度のみ。スタミナも十分だった。これまでも二度の2桁勝利を記録(16年、17年)するなど実績は持ち合わせていたが、今季の活躍でリーグを代表する好投手となったと言えるだろう。
有原投手は元々、150km/h前後の直球を軸に多彩な変化球で勝負する本格派だったが、今季で特に目立ったのが全投球数の2割程度を占めるチェンジアップだ。直球と同様の割合で多投する一方で、被打率.135と抜群の精度を誇っていた。奪三振率(8.82)、与四死球率(2.19)はともにリーグ2位だ。好成績を挙げればきりがないが、1イニングあたりに出した走者はわずか0.92人(リーグ1位)。そもそも走者を許すこと自体が少なかった。
移籍1年目・金子弌大は先発・救援でフル回転
オリックスから移籍して大きな話題を呼んだのが金子弌大投手。2018年までに通算120勝を記録するなど、先発として誰もが認める実績を残していたが、今季は栗山監督の新戦術「オープナー」として、マウンドに上がった投手の後を受ける形で長いイニングを投げる試合もあった。だが、5月以降は「本職」である先発のマウンドに立つ回数も増えていき、終わってみれば19試合に先発し、チーム2位となる8勝を挙げた。
今季で36歳のベテラン。長いイニングを投げる試合は少なかったが、目立ったのが古巣・オリックスに対する抜群の好相性。特に7月23日の試合では、6イニングを無安打無失点に抑える完璧な投球を披露している。シーズンを通しても、オリックスに対しては7試合に先発して5勝、防御率0.49の好成績だった。
短いイニングながらも…… 杉浦稔大は美しい直球で観客を魅了
東京ヤクルトから移籍して2年目のシーズンとなった杉浦稔大投手も取り上げたい。プロ入り当初から故障に悩まされてきたこともあり、基本的に4イニングから5イニングの起用が中心だったが、自己最多の14試合に先発して4勝を挙げた。特に圧巻だったのが今季初先発となった4月23日の楽天戦だ。持ち味の伸びのある直球を軸に、5イニングで9奪三振を記録。白星はつかなかったが、無安打無四球の「完全投球」だった。なお、シーズン最後の登板では今季最長の6回2/3を投げている。今季は先発と登録抹消を繰り返しながらの起用となったが、来季はより多くの試合で勝利に貢献してもらいたい。
今季も抜群の安定感。宮西尚生「12年連続50試合登板&300ホールド」の衝撃
救援陣では、宮西尚生投手は“今季も”安定していた。4月13日の千葉ロッテ戦で、前人未到の300ホールドを達成。さらに、9月4日の千葉ロッテ戦で12年連続となる50試合登板を達成。ローテーションのある先発に比べて登板機会が安定せず、連投もある中継ぎという役割において、驚異的な数字と言って良いだろう。シーズン通算では、55試合に登板し、44ホールドで3度目の最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得。防御率1.71と文句なしの活躍だった。
特に7月は圧巻だった。11試合に登板して8ホールドを記録し、防御率は「0.00」。登板が2試合のみだった3月を除き、残りの6カ月ではそれぞれ5ホールド以上を記録。左の救援と言えば左打者に対するワンポイントの起用も考えられるが、宮西投手は左右関係なし。それどころか、右打者に対しては被打率.158とむしろ好相性であった。1イニング、打者3人を確実に抑え続け、大記録を打ち立てた。
ブルペン陣を支えた3投手が60試合登板に到達
救援陣では3人の投手が60試合登板に到達。そのうち1人目が玉井大翔投手だ。プロ3年目の今季は自己最多、かつチーム最多の65試合に登板。全体のアウトの7割程度近くを凡打が占めた。防御率も2.61と安定しており、間違いなくキャリアハイのシーズンだったと言えるだろう。特に7月は10試合で防御率1.17、8月は同1.93と疲れが出る夏場にもかかわらず安定しており、チームに欠かせない存在となっていた。
続いて公文克彦投手。昨季は57試合に登板する飛躍のシーズンだったが、今季はそれを上回る61試合に登板した。9月は9試合で防御率1.04の好成績を残し、疲労が蓄積する中で好投を見せていた。同じ左の中継ぎに宮西投手がいる以上どうしても比較してしまうが、その違いはやはり左右別の被打率だ。左打者に対しては宮西投手を上回る.191を記録した一方で、右打者に対しては同.242と明確な違いが出ている。逆に言えば、ここを修正することで、来季への飛躍につなげられるだろう。最高のお手本がそばにいるだけに、期待したい。
最後がプロ5年目の23歳、石川直也投手だ。昨季の52試合を上回る60試合に登板すると、自己最多の21ホールドを記録。191センチの長身を生かした、最速150km/h超の力強い直球が投球割合の約半分を占めた。これを軸にフォーク・カーブなどと組み合わせ、奪三振率12.42を記録。シーズン通算では防御率3.31だったが、9月には11試合に登板して防御率0.87の好成績を残した。終盤の活躍を来季の活躍につなげられるか、注目だ。
秋吉亮は新天地で復活。チーム待望の守護神誕生
昨季はなかなか9回の投手を固定できなかったが、今季は東京ヤクルトから移籍した新戦力・秋吉亮投手が守護神として定着。53試合で防御率2.96、25セーブを記録した。秋吉投手が50試合以上に登板するのは2016年以来3年ぶりだった。5月には10試合に登板し、防御率0.84、7セーブの活躍。その後、6月に一度登録抹消となったものの、7月に再昇格してからも守護神としての役割を果たした。
1イニング当たりに出した走者は1.10人と3者凡退で抑えるタイプではなかったものの、得点圏に走者を置いた状態での被打率は.204と、プレッシャーのかかる場面で粘り強い投球が目立った。
新戦術「ショートスターター」から5イニングまで。加藤貴之が見せた対応力
その他、先発や中継ぎの枠にとらわれない投手の活躍も目立った。加藤貴之投手はチーム2位の21試合に先発。平均3イニング程度を投げる「ショートスターター」としての役割を果たす一方で、好調時には5イニングを投げ切る試合も見られた。5勝7敗と負け越してしまったものの、多岐にわたる起用に応える柔軟さを見せた。3年目・堀瑞輝投手もチーム5位の53試合に登板する一方で、10試合に先発した。防御率は5.22だったものの、1年間さまざまな場面で投げられたことは、大きな財産になるだろう。
衝撃デビューのその後…… 吉田輝星を始めとした18年ドラフト組のルーキーイヤー
最後に、来季に期待する若手投手を取り上げたい。まずは、何といっても吉田輝星投手だろう。6月12日のプロ初登板では、大きな注目を浴びるなかで5回1失点の好投。ドラフト制度導入後では史上19人目となる、プロ初先発・初勝利を記録した。一方で、残る3試合で3敗を喫するなど洗礼も浴びた。まだまだ高卒2年目。来季はより成長した姿に期待したい。
生田目翼投手にも注目だ。日本通運から2018年ドラフト3位で入団した今季、即戦力としての期待が寄せられたが、4試合の登板にとどまるなどプロの壁に跳ね返された。ただ、シーズン終盤にはファームで直球が150km/hを超える場面も増えてきた。25歳のシーズンとなる来季は、キャンプ・オープン戦などでもう一度アピールして、プロ2年目を充実させたい。
2年ぶりのAクラス復帰、そして優勝へ。シーズンを戦い抜いた投手の成長に期待
シーズン順位は不本意なものとなってしまったが、投手陣の役割に焦点を当ててみると、有原航平投手が絶対的エースに成長。救援陣では宮西投手という絶対的存在がいる一方で、救援陣では20代の3投手が60試合登板に到達するなど好材料があった。Aクラス復帰に向けて、経験を積んだこれらの投手にチームをけん引してもらいたいところだ。
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文・吉田貴
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