【高校野球企画】Youthful Days ~まだ見ぬ自分を追いかけて~ vol.7 西川遥輝選手[北海道日本ハム]

谷上史朗

2018.8.23(木) 09:00

北海道日本ハム・西川遥輝選手【イラスト:横山英史】©H.N.F
北海道日本ハム・西川遥輝選手【イラスト:横山英史】©H.N.F

第100回全国高等学校野球選手権記念大会が閉幕した。今年も甲子園で高校野球の頂点を巡る戦いから、多くの新たな物語が紡がれている。夢見た舞台へ辿り着くために、球児たちはどれだけの鍛錬、挑戦、葛藤を積み重ねているのだろうか。現役プロ野球選手の高校時代を振り返る連載第7回は、あらゆる方法でチームへの貢献を果たす西川遥輝選手(現北海道日本ハム)。高校では相次ぐ故障に才能の完全開花を阻まれたが、プロ入り後はそれも克服した。類まれな野球センスを存分に発揮し、走攻守のパフォーマンスでチームをリードする姿が多くのファンを魅了している。

希代のヒットメーカーを彷彿させる打撃

西川選手のことを初めて知ったのは、彼が智弁和歌山高校に入学して間もない春だった。和歌山県の春季大会で3試合連続を含む4本塁打。“スーパー1年生”の評判を耳にしたのが始まりだった。

当初、「またしても智弁和歌山っぽいスラッガーが登場してきたのだろう」と想像した。ところが、間もなくして練習グラウンドを訪ねると、そこにいたのは色白で小顔、華奢なスタイルながらハイレベルの走攻守がそろった、まったく智弁和歌山っぽくない選手だった。ただ、フリーバッティングの打球は勢いよく飛んではいかず、初対面の印象はそこまで強くはなかった。

一気に惚れ込むことになったのはそれから約3ヶ月後。夏の全国高等学校野球選手権大会だった。予選期間中の打撃練習で右手の有鈎骨(手の平下の手首寄りの骨)を骨折。普通なら夏欠場となるはずだったが「しっかり守って打席ではフォアボールでも選んで走ってくれたらいい」という高嶋仁監督の意向で、患部をサポーターとテーピングで固めて2回戦から強行出場した。

「9番・サード」だった。すると常葉菊川高校との準々決勝。ここで西川選手が僕を虜にする見事な一発を放ったのだ。ただ、一発と言っても結果はファウル。しかし、相手右腕の内寄り低めのスライダーへ体に巻きつかせるようにバットを出し、最後は伸びやかなフォローへと続いたスイングで捉えた打球は大きな弧を描きライトスタンド上段へ。残念ながら打球がわずかにポールの右を通過しファウルに終わったが、1年の夏に、この体で、甲子園でこの打球…。鳥肌が立った。

体のパワーではなく、フォームで飛ばせる西川選手の技術に触れた瞬間、頭の中に浮かんでいたのはイチロー選手(現マリナーズ)だった。プロ1年目、やはり色白で華奢な左打席から東京ドームの右中間スタンド中段へ打ち込んだフレッシュオールスターでの一発。あの一打を見た時の衝撃が蘇った。

さらにこの常葉菊川高校戦で西川選手は絶妙なセーフティーバントも決め、左、右の投手から左中間をライナーで破る三塁打も2本。試合には敗れたがその魅力を余すところなく発揮し、僕は甲子園の戦いを追った雑誌の中で「2年後のドラフト1位候補!」と書き、以降の西川選手詣を決めたのだった。

しかし、計4度出場の甲子園も含め、その後の西川選手が僕の期待通りの活躍を見せたわけではなかった。故障がついて回り、1年夏に続いて、2年の夏前にも6月の練習試合で左手の舟状骨(親指の下の手首寄りにある骨)を亀裂骨折。

それでもやはりテーピングと特殊サポーターをはめて休むことなく夏を戦い、チャンスには格別の集中力と手への衝撃が少ない「芯」に当てる技術で結果も残した。ただ、故障完治後も強行出場の影響が残ったのだろう。スイングからは持ち前の伸びが消え、西川選手らしさは最後まで戻り切らなかった。

思わぬ高評価で「あんまり行きたくないチーム」へ

2年後半から3年へとシーズンが進むころ、西川選手に会うといつも首をひねっていた。調子を聞くと返ってくるのはほぼ決まっていて「全然です」か「悪くはないんですけど」、あるいは「この間までは良かったんですけど」。自他ともに認める完璧主義の一面が自身を苦しめたところもあったのかもしれないが、常に表情は冴えなかった。

スタートの春にいきなり4本を記録した本塁打も高校通算で13本止まり。多くのスカウトの評価も3年時には停滞し、「もうちょっとバッティングでアピールするものを見せてくれないと…」という声を聞いたこともあった。

ところが、2010年のドラフトでは北海道日本ハムが2位指名。よくて3位、もしかすると4位あたりか…と思っていたので斎藤佑樹投手に続く指名には驚いた。北海道日本ハムは編成部の“2トップ”で直前に指名選手を決める独自方式を取っており、2位指名を聞いた時、僕は「チームの“トップ“は最後に常葉菊川高校戦の一発を信じたのではないか」と勝手に想像したのだった。

ちなみにドラフト直前、「12球団どこでも」と話していた西川選手に「本音の希望は?」と向けたことがあった。するとニヤッとして「特別行きたいところはないんですけど、1つだけあんまり行きたくないチームはあります」。それが実は北海道日本ハムだった。

近年、球団のイメージもアップし、ドラフト候補生からも好感を持たれているチーム。意外に思い理由を尋ねると「とにかく僕は寒いのが駄目なんで北海道はちょっと…」ということだった。人生の行方を左右するとも言えるドラフトを前に、ある意味で西川選手らしさを感じたやりとりは強く記憶に残っている。

プロ入り後は苦手な寒さもあっさりと克服。高校時代の“伸び悩み”を倍返しにするほどの順調さでスター街道を歩み続けている。連続無併殺や屈指の盗塁成功率を誇るスピード。攻守の随所で光る無類の野球センス。そして巧さに加え、時に主軸を思わせるフォームで飛ばすバッティング…。

一昨年の日本シリーズ第5戦、広い札幌ドームをものともせず放り込んだサヨナラ満塁本塁打などは、まさに僕を一瞬で虜にした西川選手の真骨頂。“あの一発”から10年。変わらず甲子園取材も重ねているが、あの衝撃を上回るプレーとはまだ出会っていない。

【高校野球企画】Youthful Days ~まだ見ぬ自分を追いかけて~
vol.1 浅村栄斗選手[埼玉西武]
vol.2 上林誠知選手[福岡ソフトバンク]
vol.3 金子千尋投手[オリックス]
vol.4 平沢大河選手[千葉ロッテ]
vol.5 中田翔選手[北海道日本ハム]
vol.6 松井裕樹投手[東北楽天]
vol.8 T-岡田選手選手[オリックス]
vol.9 田村龍弘選手[千葉ロッテ]
vol.10 今宮健太選手[福岡ソフトバンク]
vol.11 今江年晶選手[東北楽天]
vol.12 菊池雄星投手[埼玉西武]

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谷上史朗

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