【高校野球企画】Youthful Days ~まだ見ぬ自分を追いかけて~ vol.10 今宮健太選手[福岡ソフトバンク]

氏原英明

2018.8.29(水) 09:00

福岡ソフトバンク・今宮選手【イラスト:横山英史】©SoftBank HAWKS
福岡ソフトバンク・今宮選手【イラスト:横山英史】©SoftBank HAWKS

第100回全国高等学校野球選手権記念大会が閉幕した。今年も甲子園で高校野球の頂点を巡る戦いから、多くの新たな物語が紡がれている。夢見た舞台へ辿り着くために、球児たちはどれだけの鍛錬、挑戦、葛藤を積み重ねているのだろうか。現役プロ野球選手の高校時代を振り返る連載第10回は、プレミアムポジションでも際立つ守備力を誇る今宮健太選手(福岡ソフトバンク)。図抜けた強肩と広い守備範囲はプロ野球随一、打席でも持ち味のパンチ力を発揮している。恵まれたフィジカルを引き立たせるのは、聖地の小高い丘の上からも感じさせた、小柄な体に秘められた強靭なハートだ。

意気に感じて魅せたフルスロットルの投球

それは最初で最後の男気ピッチだった。

2009年夏、全国高等学校野球選手権大会準々決勝・花巻東高校対明豊高校の試合だ。2点リードして9回を迎えていた明豊高校は花巻東高校の反撃を浴びていた。同点に追いつかれると、マウンド上にいた2年生右腕・山野恭介氏は半べそをかいてうつむいていた。先輩の夏を終わらせてしまうかもしれない状況に冷静さを欠いていたのだった。

ここでマウンドへ歩み寄ったのが、当時、高校通算本塁打62本を記録し、投手としても150キロを投げていた今宮健太選手(現福岡ソフトバンク)だった。タイムは取っていない。後輩のマウンド上での姿に、いてもたってもいられなくなったのだ。

「(降板した)山野は本当に可愛いやつなんですよ。小学校から一緒に野球をやってきて、僕を慕って、このチームにも来てくれた」

当然、タイムをとっていないから、2塁走者に3塁を取られてしまったのだが、「俺に任せろ」と言わんばかりに、そのままピッチング練習に入ったのだった。実は、このとき、今宮選手は監督からの指示があったわけでもないのに、マウンドに上がっている。

「山野に負けをつけたくなかったんです」。そういった今宮選手はここから圧巻のピッチングを魅せる。第1球目に149キロのストレートを投じると、続けて、152キロ、154キロと自己最速を次々に更新。スタンドをどよめかせると、最後は133キロのスライダーで三振に取った。

続く打者にも150キロ台のストレートを連発した。153キロ、151キロ、153キロ(ファール)、154キロ、152キロ…そして、最後は129キロのスライダーで三振。このピンチを同点で食い止めた。今宮選手の本能を見たかのような圧巻のピッチングだった。

好投手達への負けじ魂を成長の糧に

この大会での今宮選手は自身の存在を見せつける活躍ばかりを見せていた。何より、戦ってきた相手が強者ぞろいだった。1回戦では興南高校の島袋洋奨投手(現福岡ソフトバンク)と対決。1点ビハインドの8回裏、2死で回ってきた打席で左翼超えに2塁打を放ち、同点の口火を切った。2回戦の西条高校戦では秋山拓巳投手(現阪神)と相まみえた。

「相手は注目されている投手なので、そういう相手には負けたくない。秋山君の得意球・ストレートを狙っていきたい」と試合前には息巻いたほどだった。結果は3打数無安打に抑えられたのだが、試合後の彼のコメントは相手をリスペクトした男らしいものだった。

「個人的には完敗です。あんな重いストレートは見たことがない」

3回戦では常葉橘高校の庄司隼人選手(現広島)と小兵投手同士の投げ合いに臨み、「雑誌で注目されている投手。対戦したかった選手の一人。島袋といい秋山といい、僕には運がある」。9回、同点に追いつく右翼前適時打を放っている。

そして、冒頭の準々決勝・花巻東高校戦は菊池雄星投手(現埼玉西武)である。怪我の影響で、菊池投手は途中で降板したが、選抜高等学校野球大会でも敗れた相手との対決であり、今宮選手が最も対戦したい相手であったことに間違いはなかった。

今宮選手はこの試合、先発投手としてマウンドに上がっていた。しかし、4回途中で4失点と崩れ、マウンドを譲っていた。一進一退の攻防となり、9回の冒頭の場面を迎えていたのだった。延長戦の末、明豊高校は敗退した。「2年生が頑張ってくれた」。そう後輩をかばった今宮選手の目に涙はなかった。

プロに入って野手に専念した今宮選手は、2013年に初めてゴールデン・グラブ賞を獲得すると、昨季まで5年連続で受賞した。2度のベストナインも受賞するなど、安定王者・福岡ソフトバンクに欠かせない存在として、広範囲の守備力を大きな武器に球界屈指の遊撃手として君臨している。

ここ一番でボールを逃さない球際に強い守備や、勝利に貢献するための献身的なプレーにはあの時の男気を思い出させてくれる時がある。2年前のことだった。今宮選手が高校時代に「ライバル」と強烈に意識してきた菊池投手からホームランを放った。そのときの今宮選手の言葉が印象に残っている。

「高校時代のライバルって、もう何年経っているんですか」

そう記者に応えている彼の表情に、あの夏に見た男気たっぷりのプライドを感じた。

【高校野球企画】Youthful Days ~まだ見ぬ自分を追いかけて~
vol.1 浅村栄斗選手[埼玉西武]
vol.2 上林誠知選手[福岡ソフトバンク]
vol.3 金子千尋投手[オリックス]
vol.4 平沢大河選手[千葉ロッテ]
vol.5 中田翔選手[北海道日本ハム]
vol.6 松井裕樹投手[東北楽天]
vol.7 西川遥輝選手[北海道日本ハム]
vol.8 T-岡田選手選手[オリックス]
vol.9 田村龍弘選手[千葉ロッテ]
vol.11 今江年晶選手[東北楽天]
vol.12 菊池雄星投手[埼玉西武]

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氏原英明

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