第100回全国高等学校野球選手権記念大会が閉幕した。今年も甲子園で高校野球の頂点を巡る戦いから、多くの新たな物語が紡がれている。夢見た舞台へ辿り着くために、球児たちはどれだけの鍛錬、挑戦、葛藤を積み重ねているのだろうか。現役プロ野球選手の高校時代を振り返る連載第8回は、浪速の轟砲ことT-岡田選手(オリックス)。豪快かつしなやかなスイングから痛快な打球を繰り出す和製大砲は、激戦区・大阪で早くから名の知られた存在だった。誰もが認める資質ゆえの人一倍高い期待に応え切ったとき、歓喜から最も遠ざかるチームの悲願成就が近付く。
高校入学前から突出していた大器としての風格
中学3年時、ボーイズリーグのある大会で今も関係者の語り草となっている伝説のホームランを打った。ライトフェンスの遙か後方を走る高速道路の側壁を直撃する推定140メートル弾。T-岡田選手は圧倒的な体格と桁違いの飛距離を誇り、3年時には同じく大阪のボーイズリーグで知られていた平田良介選手(現中日)と「右の平田、左の岡田」と評判の選手だった。高校進学について当初は、智弁和歌山高校への興味を強く持っていたが、最後は体のケアや食事面など総合的に考え、自宅から通える履正社高校行きを決めた。
入学し、まず履正社高校の岡田龍生監督から出されたのは減量指令だった。当時の体重が今よりも重い106キロ。故障も考慮してのものだったが、その一環として家から学校までの30分、学校から練習グラウンドまでの1時間、グラウンドから家までの30分の移動にすべて自転車を使用。これが通常の練習に加えた格好のトレーニングともなり、夏前には体重が90キロを切るまでに絞れた。同時に下半身も強化。フリーバッティングから両翼97メートル、ライト後方に高々とそびえるネットを超える当たりを連発。1年夏から4番で起用された。
「3年間でバントをさせなかったのは岡田だけ」とは山田哲人選手(現東京ヤクルト)や安田尚憲選手(現千葉ロッテ)らも指導してきた岡田監督の口癖だが、T-岡田選手のスケールは入学時代から際立っていた。ただ、1年目は4番の重圧と高校野球の攻めに馴れる時間も必要で、11月の練習試合終了までに放った本塁打は5本のみ。
それが、全ての面で順応した2年時は1年間で35本のホームランを量産。中でも一気に注目を高めたのが夏だった。大阪大会で5本塁打を放ち、あまりの豪打に2試合にまたがり、敬遠を含む5打席連続四球も経験。日本野球界のレジェンド・松井秀喜氏(元ヤンキース)に準え「ナニワのゴジラ」の異名がついたのもこの頃からだった。
圧巻の飛距離に加え、広角にヒットゾーンを持っていたのも当時からの持ち味だった。打席の中では常にショートの頭を意識し、2年の春先から右足を大きく上げるようになり左方向の打球がフェンスを越えるようになった。その打球に度肝を抜かれた試合として鮮明に覚えているのが2年秋の近畿大会、八幡商業高校戦だ。あの試合では驚きの打球を2本目撃した。
1本は好投手と評判だった相手右腕から、ライナーで甲子園のバックスクリーン左へ突き刺したホームラン。踏み込み十分のT-岡田選手らしいスイングからあっという間にスタンドインした打球は、高校野球観戦の中では滅多に見ることのない弾道だった。
見る者の記憶にも残した数々の「ナニワのゴジラ」伝説
しかし、この一打以上に強烈だったのが、この試合の第1打席で見せた一打。真ん中低めのストレートを弾き返した打球はセンターの正面へ痛烈なライナーで飛んでいった。この当たりに相手野手は2、3歩前にスタートを切った。ところが打球は低い弾道のままグングンと加速するように伸び続けたため、すぐに足を止め、最後はその場でジャンプ。それでも届かず、打球はそのままグラブの上を越えてワンバウンドでフェンスを直撃するツーベースヒットになったのだ。二塁手や遊撃手ではなく、強豪校のセンターに“バンザイ”をさせた打球にスタンドも大きくどよめいたが、まさに衝撃の一打だった。
そういえば、2年春には選抜高等学校野球大会を直後に控えた岡山城東高校との練習試合ではこんなこともあった。T-岡田選手の放った弾丸ライナーが二塁手の顔面を直撃。そのまま病院送りとなったのだ。それまで見たことのない打球に野手のグラブが間に合わなかったのか、やはり強豪校の野手に“素人”のようなプレーをさせた一打も強烈だった。
3年になると、大阪桐蔭高校の平田選手、辻内崇伸氏(元巨人)、近大付属高校の鶴直人氏(元阪神)と共に「ナニワの四天王」と呼ばれ、常に注目される中でのプレーとなった。最後の夏は徹底マークと重圧に苦しみ、十分に力を発揮できず、チームも準決勝で大阪桐蔭高校に完敗。全国の舞台でその力を見せることなく高校生活は終わったが、それでもこの試合の最後にまた忘れられない一発を打った。
辻内氏との対戦では2三振を含むノーヒットに抑えられたが、0対11で回ってきた9回裏の第5打席。ここで当時、“スーパー1年生”と話題になっていた中田翔選手(現北海道日本ハム)のストレートを一閃。舞洲ベースボールスタジアム(現大阪シティ信用金庫スタジアム)のバックスクリーンへライナーで打ち込んだのだ。すると一塁ベースを回ったところで、普段は物静かなT-岡田選手が右手を上げ小さくガッツポーズ。大敗の中で見せた「らしくない」アクションに夏の苦しさが伝わってきた、まさに意地の一発。これが本家「ゴジラ」に馴染の数字ともなる高校通算55号でもあった。
2005年のドラフトで「ナニワの四天王」はそろって高校生ドラフトの1巡目指名を受け、T-岡田選手はオリックスへ入団。プロ5年目の2010年には33本塁打を放ち、パ・リーグのホームラン王に輝いた。その後は試練を感じるシーズンが続いているが、まだ30歳。少年時代から数々の伝説を残してきたアーティストへの期待はなお続いている。ここからこそ、T-岡田選手にしか打てない一発で見る者を大いに驚かせていってほしい。
【高校野球企画】Youthful Days ~まだ見ぬ自分を追いかけて~
vol.1 浅村栄斗選手[埼玉西武]
vol.2 上林誠知選手[福岡ソフトバンク]
vol.3 金子千尋投手[オリックス]
vol.4 平沢大河選手[千葉ロッテ]
vol.5 中田翔選手[北海道日本ハム]
vol.6 松井裕樹投手[東北楽天]
vol.7 西川遥輝選手[北海道日本ハム]
vol.9 田村龍弘選手[千葉ロッテ]
vol.10 今宮健太選手[福岡ソフトバンク]
vol.11 今江年晶選手[東北楽天]
vol.12 菊池雄星投手[埼玉西武]
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