昨季に続いて、今季も三冠王の可能性をうかがわせる好成績を残している
福岡ソフトバンクの近藤健介選手が、今季も圧巻のバッティングを見せている。移籍1年目の2023年はシーズン最終盤まで三冠王の可能性を残したが、今季もリーグトップの打率.328、リーグ2位タイの13本塁打、リーグ3位の49打点と、主要3部門全てでタイトル争いを繰り広げている。
今回は、近藤選手のこれまでの球歴に加えて、各種の指標に基づく選手としての特徴と、移籍前後におけるバッティングの変化を分析。本塁打王争いを繰り広げる選手に関する指標から、三冠王という偉業が達成される可能性について掘り下げていきたい。(記録は7月19日の試合終了時点)
パ・リーグ屈指の好打者として活躍し、移籍後は本塁打数も大きく増加
近藤選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。
近藤選手は2011年のドラフト4位で北海道日本ハムに入団。当時のポジションは捕手だったが、プロ入り後は三塁手や外野手として出場機会を確保。4年目の2015年には主に指名打者として129試合に出場し、リーグ3位の打率.326を記録してブレイクを果たした。
2017年には57試合の出場ながら打率.413という驚異的なハイアベレージを記録し、その高い打撃技術が大いに注目を集めた。翌2018年以降は6年間で5度の打率3割超えを記録し、2019年と2020年には2年連続で最高出塁率のタイトルを獲得。押しも押されもせぬ、リーグ屈指の好打者へと成長を遂げた。
北海道日本ハム時代はアベレージヒッターとしての趣が強かったが、2023年に福岡ソフトバンクへ移籍して以降は本塁打が飛躍的に増加。同年は26本塁打、87打点で本塁打王と打点王の2冠に輝き、自身3度目の最高出塁率も受賞。打率もリーグ2位の.303という数字を記録し、打者としてのさらなる進化を示している。
各種の指標においても、移籍後における長打力の向上が示されている
次に、近藤選手が記録してきた各種の指標について見ていきたい。
キャリア通算の出塁率は.417と、球界全体を見渡しても極めて優秀な水準に達している。さらに、打率と出塁率の差を示す「IsoD」もキャリア通算で.109と非常に優れており、打撃技術の高さに加えて、四球を選ぶ能力も卓越していることが示されている。
それに加えて、四球を三振で割って示す、打者の選球眼を示す指標である「BB/K」も、通算で1.053と非常に高い値を叩き出している。選球眼に関する指標がおしなべて優れている点からも、3度の最多出塁率に輝いた近藤選手の出塁能力の高さがうかがえよう。
一方で、北海道日本ハム時代の近藤選手はシーズン2桁本塁打を記録した回数が1度のみと、決して本塁打が多いタイプの打者ではなかった。この点は本塁打を1本放つのに必要な打席数を示す「AB/HR」という指標にも示されており、比較的この指標が高かった2021年と2022年においても、およそ40打席に1本程度の割合にとどまっていた。
しかし、福岡ソフトバンクに移籍した2023年にはAB/HRが18.92と大幅に改善し、前年までに比べて倍以上のペースで本塁打を記録していた。2024年は前年に比べるとやや数字を落としているものの、それでもAB/HRは22.31と、キャリア平均(44.97)を大きく上回る数字を記録している。
さらに、長打率の面でもキャリア平均の.453という数字に対し、2023年以降は2年続けて.500を超える値を記録。本塁打の増加によって長打率がこれまで以上に向上を見せている一方で、2023年にはキャリア最多タイとなる33本の二塁打を放つなど、中距離打者としての特性が維持されている点も特筆すべき要素だ。
そして、長打率から単打の影響を省いた、真の長打力を示す指標とされる「ISO」に関しても同様の傾向が見られる。キャリア通算のISOは.145で、2022年まではISOが.200を超えたことは一度もなかったが、福岡ソフトバンクに移籍後は2年続けて.200以上のISOを記録。近藤選手の長打力の向上は、各種の指標においても裏付けられているといえよう。
本塁打が増えた一方で、高い打率と優れた打球速度も維持
近藤選手が着実に強打者へと変貌を遂げつつある一方で、2024年は打率.328と非常に高い数字を記録している。本塁打を増加させるために確実性を犠牲にするのではなく、安打製造機として鳴らした従来の打撃スタイルを維持しつつ、本塁打の増加につなげていることが、この数字からもうかがえよう。
打率と直結する要素の一つとして、ホームランを除くインプレーの打球が安打になった割合を示す「BABIP」が存在する。この指標は選手自身の能力以上に運に左右される部分が大きいと考えられており、一般的な選手の基準値は.300とされている。しかし、近藤選手の場合は通算のBABIPが.353と、基準値を大きく上回っている点が特徴的だ。
BABIPが高くなりやすい選手の例としては、内野安打の割合が多くなる俊足の左打者や、打球が速い選手が挙げられる。ただし、近藤選手は通算49盗塁と一定以上の脚力は備えているが、ずば抜けた俊足の持ち主というわけではない。すなわち、近藤選手のBABIPの高さは、キャリアを通じて優れた打球速度を残し続けてきたことの証左でもあるだろう。
本塁打のペースはリーグでも屈指なだけに、打点が大きなカギを握る?
最後に、今季のパ・リーグで本塁打王争いを展開している選手たちの成績を確認しよう。
山川穂高選手と1本差で、2年連続のタイトルは射程圏内にある。しかし、今季の本塁打王争いは現時点で3本差に5人がひしめく混戦となっており、浅村栄斗選手、ポランコ選手、そして近藤選手の3名がタイトルを分け合った2023年と同じく、終盤まで熾烈な争いが繰り広げられる可能性もありそうだ。
各選手のAB/HRに目を向けると、近藤選手が記録している23.29という数字は、規定打席到達者の中ではポランコ選手に次ぐリーグ2位となっている。現在本塁打ランキングのトップに立っている山川選手よりも早いペースでアーチを放っている点も、今後のタイトル争いを占ううえでは重要な要素となりうる。
打点の面では、現時点でリーグトップの59打点を記録しているソト選手とは9点の差がついている。だが、チームの総得点は福岡ソフトバンクの355点に対して、千葉ロッテは311点となっている。千葉ロッテの得点数もリーグ2位と決して得点力が低いチームではないものの、この点がタイトル争いに影響するか否かがポイントのひとつになってきそうだ。
惜しくも偉業を逃した昨季の経験を生かし、今季こそは三冠王に輝けるか
昨季の長打力の向上が一過性のものではなかったことを証明し、2年連続で三冠王を狙える成績を記録している近藤選手。打率に関しては2位以下を大きく引き離してリーグトップに立っているだけに、本塁打と打点のタイトルを防衛できるか、すなわち、近藤選手の強打者としての真価が問われる展開となっている。
惜しくも偉業を逃した昨季の経験を糧に、三冠王の快挙を達成することができるか。名実ともにリーグを代表する大打者となった近藤選手が、残るシーズンで見せてくれるであろう巧みかつ豪快なバッティングには、これまで以上に要注目となりそうだ。
文・望月遼太
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