夏場以降に調子を上げた選手も多く、先の読めない展開が続いている
2023年のパ・リーグの本塁打王争いは、9月3日の試合を終えた時点で3本差に4名の選手がひしめく大混戦となっている。夏場以降に本塁打を量産している選手が多い点も今季の大きな特徴で、シーズン最終盤まで白熱したタイトル争いが期待できる状況だ。
今回は、パ・リーグの本塁打ランキングでトップ5に入っている選手たちの成績に加えて、セイバーメトリクスで用いられる各種の指標を紹介。さらに、20本以上の本塁打を記録している4選手の月別成績を確認することによって、今後の本塁打王争いの展望を行っていきたい(成績は9月3日の試合終了時点)。
ランキング上位5名のうち4名が、本塁打王の獲得経験なし
9月3日の試合終了時点における、パ・リーグの本塁打争いは以下の状況となっている。
リーグトップタイの浅村栄斗選手とポランコ選手から、4位の万波中正選手の間にある差はわずか3本。また、5本差でトップを追う柳田悠岐選手も、好調期に入った際の爆発力はキャリアを通じて証明済みだ。打者としての実績と経験を考えても、ここから逆転でタイトルを手にする可能性を秘めた存在といえよう。
さらに、今季の本塁打王ランキングでトップ5に入っている選手の中で、過去に本塁打王を獲得した経験を持つのは、2020年の本塁打王に輝いた浅村選手のみ。自身初の本塁打王が誕生する可能性があるという点においても、今季のタイトル争いは興味深いものとなっている。
長打力を示す指標の面でも、絶好調の助っ人大砲がトップに立っている
次に、本塁打ランキングでトップ5に入っている選手たちが記録している、長打に関する指標を見ていきたい。
本塁打を1本記録するまでに必要な打席数を示す「AB/HR」は、本塁打王争いという観点では特に重要な指標となる。今回取り上げた選手の中でこの数字が最も優秀なのはポランコ選手で、15.17打席に1本というペースで本塁打を記録。ホームランの期待値という基準で考えれば、タイトル争いの本命といえる存在になりつつある。
また、AB/HRが18.74の浅村選手と、同19.48の近藤健介選手の2名も、20打席以内に1本のペースで本塁打を放っている。指標の面から考えても、やはり現時点でトップ3に位置する選手たちが、タイトル獲得の有力候補であることが示されている。
長打率の面では、近藤選手が.533と唯一の.500超えを果たしている。長打率は必ずしも長打力そのものを示す数字ではないが、近藤選手はリーグトップの30本の二塁打を放っているだけに、打者としての総合的な生産性の高さが大いに示されているといえよう。
そして、純粋な長打力を示す「ISO」という指標においては、ポランコ選手が.235でトップに立ち、近藤選手がそれに次ぐ.227を記録。また、浅村選手は.197、万波選手と柳田選手はともに.192と、他の選手も一定以上の水準に達している。しかし、ISOが.200を上回っている2選手が、純粋な長打力という面でも優位に立っていると考えられる。
次の項目からは、現時点で20本塁打以上を記録している4選手が今季記録してきた、月別の打撃成績を見ていきたい。
浅村栄斗選手(東北楽天)
4月は22試合で3本塁打、打率.208と低調だったが、5月に入ってからは1カ月で7本塁打と復調。続く6月は打率.272、出塁率.359ながら23試合で1本塁打にとどまったが、7月は打率.395、出塁率.464に加えて、1カ月で9本塁打を放つ驚異的な打棒を見せ、自身5度目の月間MVPを受賞。8月にも3本塁打を上積みし、タイトル争いでもトップタイに立っている。
5月と7月の数字を見てもわかる通り、量産体制に入った際の爆発力は他の追随を許さないものがある。また、1度の本塁打王、2度の打点王とタイトル争いを勝ち抜いた経験を豊富に持つことも、プレッシャーのかかる最終盤では強みとなる。シーズンの行方を左右する9月に再び上昇気流に乗ることができれば、自身2度目の戴冠が大きく近づくことだろう。
グレゴリー・ポランコ選手(千葉ロッテ)
新天地で迎えた今季は開幕から絶不調にあえいだが、5月に18試合で5本塁打を放って復調の兆しを見せる。6月は14試合で2本塁打、打率.348とヒットも出始め、7月も19試合で4本塁打を記録。そして、8月に入ってからは8本塁打、打率.294とまさに大暴れ。9月に入ってからも3試合連続本塁打と好調を維持し、一気にランキング1位タイに躍り出た。
ポランコ選手は体調不良で登録抹消を経験したこともあり、9月3日の試合終了時点で99試合の出場にとどまっている。それにもかかわらず、現在リーグトップタイの23本塁打を放っている点は特筆ものだ。とりわけ、8月以降は本塁打のペースが大幅に向上しているだけに、この状態を今後も維持することができれば、タイトル獲得の可能性は高いはずだ。
近藤健介選手(福岡ソフトバンク)
福岡ソフトバンクへの移籍1年目となった今シーズン、近藤選手は4月に打率.256、5月に打率.235と、序盤は持ち前の打撃センスを発揮しきれず。しかし、交流戦に入ってからは18試合で5本塁打を放ち、打率.413で交流戦首位打者を獲得。出塁率.519と2打席に1回以上のペースで出塁する大活躍を見せ、それ以降は本来のバッティングを取り戻していく。
6月以降は3カ月連続で打率.340以上を記録し、6月から8月までの3カ月で16本塁打を記録。この期間に放った本塁打数が上位4名の中で最も多い点が、近藤選手の好調ぶりを如実に示している。今季は巧打者という従来のイメージを良い意味で覆す打撃を見せているだけに、9月も良い流れを持続することができれば、自身初の本塁打王に輝く可能性は十分だ。
万波中正選手(北海道日本ハム)
今季の万波選手は序盤戦から好調で、4月に4本塁打、5月に7本塁打と順調に本塁打数を上積み。5月には自身初の月間MVPも受賞し、一時は本塁打ランキングのトップを走っていた。しかし、6月は3本塁打、7月は1本塁打と、中盤戦にかけてやや失速。それでも8月には5本塁打と再び本塁打数が増加し、自身初となる20本塁打の大台に乗せている。
昨季までの万波選手は調子の波が激しいことが課題だったが、今季はその弱点も払拭しつつある。4月から8月まで4カ月連続で打率.260以上と安定感を示し、本塁打数こそ1本に終わった7月も打率.337とバッティング自体は好調だった。大きな成長を見せた今季の集大成となる打撃を9月に見せられれば、自身初の打撃タイトル獲得も現実味を帯びてくる。
シーズン最終盤まで、抜きつ抜かれつの激しい争いが展開される可能性も十分
現時点の調子という観点で言えば、夏場に差し掛かってから大きく調子を上げている、ポランコ選手と近藤選手の2名に期待が持てる。また、ポランコ選手はAB/HRとISOのどちらもリーグトップと、指標の面でも抜群の長打力を示しているだけに、このままいけば終盤のタイトル争いをリードする存在となるかもしれない。
一方、浅村選手はタイトル争いを3度にわたって制した経験という、メンタル面での大きな強みを持つ。緊張を強いられる最終盤において、過去の豊富な成功体験は大きな強みとなりうる。わずかな差でトップを追う近藤選手と万波選手、そして5本差で追う柳田選手を含め、最後の最後まで抜きつ抜かれつの争いとなる可能性も大いにあることだろう。
はたしてどの選手が、熾烈な本塁打王争いを勝ち抜くのか。あるいは、複数の選手が最終的にトップタイで並び、複数のタイトルホルダーが誕生する可能性はあるのか。栄冠を争う強打者たちが見せる豪快なバッティングに、残るシーズンはあらゆる意味で要注目だ。
文・望月遼太
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