32年ぶりにパ・リーグで活躍する外国人捕手。アリエル・マルティネスの魅力とは?

パ・リーグ インサイト 望月遼太

北海道日本ハムファイターズ・マルティネス選手(C)パーソル パ・リーグTV
北海道日本ハムファイターズ・マルティネス選手(C)パーソル パ・リーグTV

自身初のオールスター出場も果たすなど、新天地で躍進を遂げている

 2023年から北海道日本ハムに移籍したアリエル・マルティネス選手が、開幕から主力打者の一人として出場を続けている。日本では珍しい外国人捕手として攻守にわたって奮闘し、その活躍が認められて自身初のオールスター出場を果たすなど、新天地で大いに躍進を遂げている。

 今回は、マルティネス選手のこれまでの球歴や、各種の指標に基づいたバッティングの特徴を紹介。それに加えて、パ・リーグにおける外国人捕手の歴史についても振り返ることによって、マルティネス選手の希少性についてあらためて考えていきたい。

2022年は捕手としての出場が一度もなかったが、今季は起用法にも変化が

 マルティネス選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

マルティネス選手 年度別成績(C)PLM
マルティネス選手 年度別成績(C)PLM

 マルティネス選手は2018年に育成選手として中日に入団。入団から2年間は二軍で研鑽を積み、3年目の2020年に支配下登録を勝ち取る。同年は一軍で39試合に出場し、打率.295、出塁率.385、OPS.806と好成績を記録。持ち前の打撃センスの一端を示した。

 翌2021年は打率.244、OPS.657とやや成績を落としたが、2022年は82試合に出場し、打率.276、8本塁打、OPS.787と復調。同年は捕手としての出場は一度もなかったが、外野手や一塁手として活躍の場を広げた。6月18日には値千金のサヨナラ打を放つなど、随所で存在感を示した。

 2023年からは北海道日本ハムに活躍の場を移し、自身初の開幕スタメン入りを果たす。序盤戦は指名打者や一塁手としての出場が主だったが、5月以降は捕手としての起用が徐々に増加。前半戦終了時点で自己最多の11本塁打を放ち、OPSも.805と、攻守にわたって出色の活躍を見せ、今やチームに欠かせない存在となりつつある。

四球を選ぶ割合が多く、ボールを見極めるスタイルはチームにとっても貴重だ

 次に、マルティネス選手が記録してきた年度別の指標を見ていきたい。

マルティネス選手 年度別指標(C)PLM
マルティネス選手 年度別指標(C)PLM

 通算打率.267に対して通算出塁率が.354、打率と出塁率の差を示す「IsoD」は4シーズン中3シーズンで.090以上。これらの数字は、マルティネス選手がキャリアを通じて高い割合で四球を選んできたことを証明している。

 その一方で、打席での選球眼を示す指標の一つである「BB/K」は通算で.405と、決して低いわけではないものの、高いともいえない水準にとどまっている。多くの四球を選ぶ一方で、三振もやや多いという傾向を示すこの数字は、マルティネス選手がじっくりとボールを見極める打撃スタイルの持ち主であることの表れといえよう。
 
 松本剛選手や万波中正選手に代表されるように、北海道日本ハムの主力打者には早打ちの選手が少なくない。ボールを見極められるマルティネス選手の存在は、打線にアクセントを加えるという意味でも貴重なものとなっている。

本塁打数の増加に加え、指標の面でも長打力の向上が示されている

 また、真の長打力を示す指標とされる「ISO」は、2023年に自己最高の.204という数字を記録している。今季のマルティネス選手は前半戦が終了した時点で自己最多の11本塁打を放っているが、例年に比べて長打力が向上していることは指標においても示されている。

 さらに、1本ホームランを打つのにかかる打席数を示す「AB/HR」も、2023年は18.73とキャリア最高の数値だ。過去3年間がいずれも30~40台だったことを考えれば、今季は本塁打が出るまでのスパンが大きく短縮されていることがわかる。

 さらに、本塁打を除いたインプレーの打球が安打になった割合を示す「BABIP」も2023年はキャリア平均を大きく下回り、一般的な平均値とされる.300に近くなっている点も興味深い。この数字は、今季のマルティネス選手の成績が運に恵まれたものではなく、自らの実力を示していることの証左といえよう。

 また、マルティネス選手は打撃面だけでなく、捕手としての守備面でもチームに貢献している。

 例を挙げると、今季から先発に転向した北山亘基投手が先発登板した9試合のうち8試合で、マルティネス選手が先発マスクを被っている。すなわち、前半戦終了時点で5勝を挙げ、防御率2.56と安定した投球を続ける右腕の活躍に、マルティネス選手が大きく寄与しているということだ。

 また、加藤貴之投手とは6月14日の横浜DeNA戦で初めて先発バッテリーを組むと、そこから先発でコンビを組んだ3試合は全て、6.2回以上を投げて3失点以下と好投を引き出している。さらに、上沢直之投手と初めてバッテリーを組んだ6月16日の中日戦でも、古巣を相手に好リードを見せ、8回1失点の快投につなげている。

 捕手としての起用が始まった当初は、北山投手、鈴木健矢投手、上原健太投手といった面々と組むことが多かった。ただ、交流戦以降は上沢投手や加藤貴投手といった主戦投手とバッテリーを組む機会も増加。こうした起用法の変化も、チーム内におけるマルティネス選手の捕手としての信頼感が、日に日に高まっていることを示すものでもあるだろう。

外国人捕手は1960年代までは少なからず存在したが……

 過去の外国人捕手としては、2リーグ制導入以前に名古屋軍と後楽園イーグルスで活躍した、バッキー・ハリス氏が代表例として挙げられる。捕手としての能力の高さに加えて、通算打率.309、通算長打率.440と打撃にも優れており、1936年春季リーグでは本塁打王に輝くなど、攻守にわたって大いに存在感を放った名選手だった。

 2リーグ分立後のパ・リーグにおいては、毎日オリオンズ(現・千葉ロッテ)でプレーしたチャーリー・ルイス氏が出色の活躍を見せた。正捕手として2年間で24本塁打、通算打率.277と強打の捕手として奮闘し、1954年から2年連続でベストナインに輝いている。

 また、同時期に高橋ユニオンズで活躍したサル・レッカ氏も、1954年に打率.200ながら23本塁打を記録。捕手として近鉄に入団したロン・ボトラ氏は1959年には103試合に出場したが、翌1960年以降は投手に転向し、2年間で49試合に登板するというマルチな働きを披露した。

 1962年にはニック・テスタ氏が大毎オリオンズでプレーし、外国人投手とバッテリーを組む役割を任されて57試合に出場。このように、1960年代までは外国人捕手も少なからず存在したが、1970年台に入って以降はほぼ見られなくなっていった。

 そんな中で注目を集めたのが、ロッテで活躍したマイク・ディアズ氏だ。ディアズ氏は来日1年目の1989年から、2年連続で打率.300、30本塁打、100打点を記録。基本的には指名打者としての起用が多かったものの、1990年と1991年には捕手としても出場。マスクを被る機会は限定的だったが、希少となった外国人捕手として少なからず注目を集めた。

年齢的にも伸びしろを残しているだけに、今後のさらなる成長にも期待大だ

 パ・リーグにおいて外国人捕手が活躍したのは、このディアズ氏の例が最後となっていた。外国人捕手が大きく減少した理由の一つに、言語の壁の存在によって、投手との意思疎通が難しいことが挙げられている。

 その点、マルティネス選手は22歳で来日し、若い時期から日本球界で捕手としての経験を積んできた。マルティネス選手の捕手としての活躍は、異国の地で続けてきた弛まぬ努力の結晶でもあるだろう。

 マルティネス選手は現時点で27歳と、さらなる成長も期待できる年齢だ。32年ぶりにパ・リーグで活躍を見せている外国人捕手として、今後も攻守にわたってエスコンフィールドを沸かせる姿に期待したいところだ。

文・望月遼太

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