バッテリー以外のトレード獲得は極めて稀。石川慎吾に期待されるものとは?

パ・リーグ インサイト 望月遼太

千葉ロッテマリーンズ・石川慎吾選手(C)パーソル パ・リーグTV
千葉ロッテマリーンズ・石川慎吾選手(C)パーソル パ・リーグTV

7月8日には代打で決勝タイムリーを放つなど、さっそく活躍

 7月3日、巨人の石川慎吾選手と千葉ロッテの小沼健太投手のトレードが発表された。石川選手は7月8日の試合で決勝タイムリーを放つなどさっそく活躍を見せており、新天地でのさらなる飛躍も大いに期待されるところだ。

 千葉ロッテは2018年以降、毎年シーズン途中にトレードを敢行しており、トレードに積極的なチームのひとつだ。しかし、近年のトレードで獲得した選手は投手と捕手が大半を占めており、打線の補強を最大の目的とする今回のトレードは異例のものと言える。

 今回の記事では、石川選手の球歴と、各種の指標に基づく選手としての特徴を紹介。それに加えて、近年の千葉ロッテが行ったトレードの具体例ならびに成功例についても振り返ることで、新天地で石川選手に期待される役割について、あらためて考えていきたい(記録は7月8日の試合終了時点)。

巨人移籍後は代打や外野のスーパーサブとして、随所で存在感を発揮した

 石川選手がこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。

(C)PLM
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 石川選手は、2011年のドラフト3位で北海道日本ハムに入団。高卒2年目の2013年に一軍デビューを果たし、2014年から2年連続で40試合以上に出場したが、一軍では好成績を残せず。打率.074に終わった2017年のオフに、大田泰示選手、公文克彦投手とのトレードで、吉川光夫投手と共に巨人へ移籍した。

 新天地で迎えた2017年には自己最多の99試合に出場と大幅に出番を増やし、打率.242、5本塁打を記録。6月25日の試合では代打でサヨナラ打を放つなど、外野のスーパーサブ的な存在として随所で存在感を発揮した。

 2年後の2019年には出場試合数こそ55試合にとどまったが、OPSは自己最高の.773と奮闘を見せた。その後も出場機会こそ限られたものの、二軍では2018年からの6年間で5度の打率3割超えを記録。一軍においても、2020年には打率.244、2022年は打率.276と、一定の打撃成績を残したシーズンは少なくなかった。

積極的な打撃スタイルと長打力が、新天地で重宝されるか

 次に、石川選手が記録してきた年度別の指標を見ていきたい。

(C)PLM
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 通算打率.227に対して、通算出塁率は.281。打率と出塁率の差を示す「IsoD」も、通算.053と高いとは言えない。また、打席での忍耐力や選球眼を示す「BB/K」も、キャリア平均が.306と低水準にとどまる。これらの傾向からも、じっくりとボールを見極めるというよりは、積極的に振りに行く打撃スタイルの持ち主であることがうかがえる。

 その一方で、真の長打力を示すとされる「ISO」は通算.124と、ほぼ平均値の数字を維持している。とりわけ、2019年にはわずか76打席で4本塁打を放ち、ISOも2.00と優秀な水準を記録。千葉ロッテは長年にわたって長打力不足に悩まされているだけに、パンチ力を持つ石川選手の加入が、チームの弱点を補うものになるかもしれない。

これまでの石川選手は、キャリアを通じて“不運”だった?

 また、本塁打を除いたインプレーの打球が安打になった割合を示す「BABIP」という指標が、興味深い事実を示している。この指標は打率などに直結する重要なものだが、運に左右される部分が大きいとされ、長いスパンで見ると.300前後の数字に収束していく傾向にある。

 石川選手の通算BABIPは.272と、平均値とされる.300を大きく割り込んでいる。とりわけ、2015年から2021年まで7年連続でBABIPが.300以下と、長年にわたって不運が続いていたと考えられる。裏を返せば、これからBABIPが上昇していく可能性は大いにあるということだ。

 石川選手は通算打数が647と、統計的なサンプルとしては不十分な出場機会しか得られていない。これからBABIPが平均値に近い値まで収束することになれば、その過程でこれまでのキャリアを大きく上回る高打率を叩き出したとしても、決して不思議ではないだろう。

バッテリーの補強が多い中で、唯一の例外がチームを支える成功例に

 ここからは、千葉ロッテが近年に敢行したトレードの具体例を見ていきたい。2013年以降の11シーズンにおいて成立した、千葉ロッテのトレード一覧は下記の通り。(金銭および無償トレードは除く)

(C)PLM
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 今回の石川選手と小沼投手のトレードを除くと、2013年以降に成立した選手同士のトレードは全部で8件。獲得した選手のポジションの内訳を見ていくと、投手が5名、捕手が2名、外野手が1名と、先述の通りにバッテリーの補強が大半を占めていることがわかる。

 唯一の例外となった岡大海選手のケースでは、荻野貴司選手の故障離脱に伴い、センターを守れる俊足の外野手にニーズが生じていた。しかし、岡選手は移籍直後のみならず、荻野貴選手の復帰後も、外野のスーパーサブとして打撃・走塁・守備の全てで活躍。若手の台頭が続く中でも確かな存在感を示しており、現在に至るまで欠かせない戦力となっている。

 石川選手のトレードにおいても、荻野貴選手と高部瑛斗選手の離脱が長引いていることに伴い、外野手が補強ポイントのひとつとなっていた。石川選手は長打力や代打での勝負強さというチームに不足している強みを持つだけに、北海道日本ハム時代の同僚でもある岡選手と同様、主力の復帰後も息の長い活躍を見せてほしいところだ。

シーズン途中のトレードが奏功し、上位争いの活力となるケースも多く存在

 また、近年の千葉ロッテはトレード補強の即効性が高いことも特徴だ。先述の岡選手のケースに加えて、2020年途中には澤村拓一投手を獲得。故障もあって不振に陥っていた剛腕は新天地で復活を果たし、22試合で13ホールド1セーブ、防御率1.71と大活躍。故障者が相次いだブルペンを支え、チームの2位躍進に大きく貢献を果たした。

 その澤村投手の大リーグへの移籍もあり、翌年途中には国吉佑樹投手を補強。国吉投手も前任者と同様に新天地で安定感抜群の投球を見せ、25試合で17ホールド2セーブ、防御率1.44と、セットアッパーとしてチームの優勝争いに大きく貢献。翌年以降は制球難もあって登板機会を減らしているが、緊急補強としての有効性は非常に高いものがあった。

 同じく2021年途中に加入した加藤匠馬選手も、巧みなリードと強肩による盗塁の抑止力を活かし、多くの投手の投球成績を良化させた。また、打率こそ.095ながら、わずか57試合で14犠打とつなぎ役としても仕事をした。若手の成長もあって昨オフに無償トレードで中日に復帰したが、2021年の優勝争いにおける貢献度は十二分に高かったといえよう。

 今季もシーズンイン直前に獲得した西村天裕投手が、開幕から21試合連続無失点と圧巻の投球を披露。現時点で27試合に登板して8ホールドを挙げ、防御率1.00と素晴らしい活躍を続けている。また、昨季途中に獲得した坂本光士郎投手も、現在は登録を抹消されているものの、慢性的に左のリリーフが不足していたチームにあって存在感を発揮していた。

これまでとは異なる方向性のトレードが、チームにとって新たな成功例となるか

 このように、千葉ロッテが近年にトレードで成功を収めた例は、その大半がディフェンス面の補強を狙ってのものだった。過去の例を振り返ってみても、打撃力が最大の特徴である石川選手の獲得は稀であった。

 「ISO」や「BABIP」といった指標に示されている特性や伸びしろを活かし、右の好打者として新天地で確固たる地位を築くことができるか。これまでとは方向性の異なる今回のトレードが、千葉ロッテにとって新たな成功例となるかに要注目だ。

文・望月遼太

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