2023年2月、プロ野球12球団がキャンプインし、新たなシーズンへと動き出した。
3月に、6年ぶりにWBCが開催されることもあって、野球界はより一層の盛り上がりを見せている。ダルビッシュ有投手、大谷翔平選手ら、メジャーリーグで活躍する選手も参加する今大会は、過去最高の注目度となること間違いないだろう。
そんななか、日本代表のチームコーディネーターに就任したのがルーク篠田さん。
実は、ルークさんは、私、鈴木優と中学時代からの親友。中学校の野球チームが一緒で、今でも毎年、年に数回会っている。普通の野球少年だった2人が片方はプロ野球選手になり、もう片方は侍ジャパンを管理する立場になった。どこか縁を感じるルークさんに、こうして取材できることをうれしく思う。
それでは、ルークさんの経歴と仕事内容を掘り下げていこう。
アメリカの大学卒業後、メジャーリーグの球団広報に
鈴木優(以下、鈴木):大学からロサンゼルスに行ったということだけど、そこからどういう経緯でメジャーリーグの球団広報になったの?
ルーク篠田(以下、ルーク):もともとは大学で野球をやるつもりでいたんだけど、うまい3年生が編入したタイミングで退部しなければいけなくなって、そこからはMLBのオフィスや大学の近くの代理人事務所でインターンを。大学を卒業する年に、ウィンターミーティングの求人フェアでドジャース傘下のマイナーに行って、そこからだね。
鈴木:ロサンゼルスに住んでいたからドジャース?
ルーク:マイナーの中でもシングルAで、大学から車で2時間半くらいかかる場所だったんだけど、授業終わってからそっちに向かって、ナイター後に帰るという生活をホーム試合のときは毎日。もともとやりたかった広報とマーケティングを、マイナーでは両方できるということだったから「よし、いいスタートだ」と思ったんだけど、いざ蓋を開けたら、球場内のイベントでピザのコスチュームを着ながらレフトからライトまで走らされて(笑)。その後、プレスボックスに戻って球団の報告レポートを書いたり、SNSに試合結果を投稿したりという仕事をしていた。
ドジャースで1年働いてからは、またウィンターミーティングの求人フェアに。広報を募集していた5~6球団を受けたら、ヤンキースとエンゼルスからオファーがあったんだけど、たまたまヤンキースとエンゼルスの広報部同士の仲が良くて。「キャンプはヤンキースに行ってください、レギュラーシーズンはエンゼルスで」と勝手に決められていた(笑)。
鈴木:すごくアメリカっぽさを感じる話だね(笑)。ドジャース、ヤンキース、エンゼルスを経験して、各球団の特色は感じた?
ルーク:ヤンキースは歴史が長くて伝統もあるので、日本でいうと巨人みたいな感じ。エンゼルスはもう少し緩い雰囲気があった。
秋山翔吾の通訳を担当。約3カ月半の共同生活がスタート
鈴木:エンゼルスで広報として働いた後は、レッズで広報をしながら秋山(翔吾)さんの通訳も担当していたけど、それはどういうふうに決まったの?
ルーク:秋山さんの代理人が、ヤンキース時代に田中将大さんの代理人を務めていた方だったので、自分のことを知ってもらっていて。レッズには日本語と英語を話せるスタッフがいなかったし、キャッチボールの相手とかバッティング練習のサポートもできる人が求められていたから、自分の名前が挙げられて、秋山さんの人柄にも惹かれて担当することに。
鈴木:秋山さんの通訳としてスタートしようというときに、新型コロナウイルスが流行してしまって、そこから秋山さんとの3カ月半の同居生活が始まったんだよね。
ルーク:そうそう。たまたまロサンゼルスにマンションがあったから、「1LDKの部屋ですけど、寝られる場所はありますよ。どうしますか?」と秋山さんに聞いたら、ちょうど同じタイミングで、マエケン(前田健太)さんも「俺もロサンゼルスに戻るから、一緒にトレーニングしようよ」と秋山さんに連絡していたみたい。だんだん話が進んで、当初は2〜3週間くらいかなと思っていたけど、結局3カ月半一緒に。
最初、秋山さんにはベッドで寝るように言ったんだけど、「俺は泊まらせてもらってる側だから」と言って、リビングで布団を敷いて寝ていて。
鈴木:その話はすごく秋山さんの人柄の良さが出ているよね。
ルーク:そのときの生活は、8時に起きて朝ごはんを食べて、9時から12時までウエイトとキャッチボール、バッティング練習、それから家に帰ってランチをつくり、ゆっくりするというルーティーン。あとは当時、日本のプロ野球の方が開幕が早かったので、家で秋山さんとNPBの試合も観ていた。
鈴木:それで僕が初勝利を挙げた試合(2020年7月1日対ライオンズ戦)も観てくれていたんだね。
ルーク:そうそう。
鈴木:僕も通訳さんと一緒にプエルトリコに行った経験があるし、日本にいるときも通訳さんの仕事の様子を見てきたけど、ストレートに伝えるのが良いときもあれば、そうでない場合もあるから、通訳するって想像以上に難しいよね。ルークが通訳として働くうえで、気を付けていたこととか意識していたことはある?
ルーク:秋山さんは語彙力があるし言葉選びもうまくて、直訳すると意味が変わってしまうことがあるから、本質として何が言いたいのかを理解するようにしていた。コミュニケーションをとるときに心掛けていたのは、選手の一日のルーティーンを絶対に壊さないこと。細かい行動のルーティーンも把握して、例えば練習前に予め水を用意したり、その水に関しても好きな銘柄を把握したり。
鈴木:通訳以外のところでも、選手をしっかりサポートするんだね。選手にとって、通訳さんは他のチームメイトよりも距離が近い存在だから、良い人間関係を築かないといけないよね。ルークが通訳として重宝されている理由は、野球経験者でキャッチボールの相手ができることとか、野球の専門用語もしっかり通訳できるところもだけど、やっぱり選手と仲良くなれる性格だと思う。そう考えるとオンリーワンな存在だよね。
ルーク:ありがとうございます(笑)。秋山さんとは、無理に「楽しまなきゃ」と思わなくても、一緒にいて純粋に楽しめたことが大きいかな。2人でご飯屋さんも開拓してすごく楽しかったし、吸収できることもたくさんあって、今につながる良い経験だった。
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後編では、代表チームコーディネーターに就任した経緯や仕事内容、ルークさんが昨年11月の強化試合を通して感じた侍ジャパンメンバーの印象などをお届けする。
インタビュー・文 鈴木優
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