チーム防御率12球団唯一「2点台」の鷹。王者の所以は投手陣にあり【福岡ソフトバンクホークス2020:投手編】

パ・リーグ インサイト

2020.12.31(木) 12:00

福岡ソフトバンク シーズンレビュー2020 vol.1(C)パーソル パ・リーグTV
福岡ソフトバンク シーズンレビュー2020 vol.1(C)パーソル パ・リーグTV

 今季、3年ぶりのリーグ優勝、そして4年連続の日本一に輝いた福岡ソフトバンク。序盤はなかなか波に乗れなかったものの、終わってみれば、73勝42敗5分で31の貯金、2位の千葉ロッテに14ゲーム差をつける圧倒的な強さでペナントを制した。本記事は投手を中心とした前編、野手を中心とした後編に分けて、各選手にフォーカス。パーソル パ・リーグTVの特集動画「シーズンレビュー2020」とともに、福岡ソフトバンクの2020シーズンを振り返っていく。

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チーム防御率、奪三振数、失点など12球団最高の成績

 福岡ソフトバンクの優勝の原動力となったのは、なんといっても投手陣。チーム防御率は12球団で唯一の2点台を記録(2.92)。奪三振数もトップ、被安打、被本塁打、失点も最少と、投手力で他のチームの追随を許さなかった。まずは、数々のタイトルを獲得した先発陣を振り返ろう。

投手三冠の千賀滉大と二冠の石川柊太

 今季、エースとして君臨したのは千賀滉大投手。調整が遅れ、開幕には間に合わなかったものの、7月7日の楽天戦で初先発し、白星スタート。その後は尻上がりに状態を上げ、9月8日の楽天戦以降、9試合連続QSでシーズンを締めくくった。160km/hにも達する剛速球と鋭い変化球で三振の山を築き、最終的には18試合に登板して11勝6敗、防御率2.16で『最多勝』『最優秀防御率』を獲得し、さらに149奪三振で自身2度目の『最多奪三振』と、投手三冠を達成。5回未満での降板は一度もなく、たとえ調子が悪くとも粘りの投球でゲームを作るなど、「エース」としての成長も見えた1年だった。

 石川柊太投手も、充実のシーズンを過ごした。7月1日の北海道日本ハム戦から自身6連勝を記録するなど、年間を通してローテーションを守り切り、2年ぶりの2桁勝利となる11勝をマーク。規定投球回には届かなかったものの、自身初のタイトルとなる『最多勝』と『最高勝率』(勝率.786)を獲得し、投手二冠に輝いた。

 特筆すべきは被安打数の少なさで、111.2イニングでわずか68、これは100イニング以上投げている投手の中で、断トツに少ない数字である。それを象徴したのが8月1日の埼玉西武戦。石川投手らしいテンポの良い投球でスイスイと打者を打ち取っていき、9回1安打13奪三振の快投で、自身初完投を完封で飾った。来季以降はノーヒットノーランの期待も高まる。

東浜巨、和田毅は復活のシーズンに

 今季開幕投手を務めた東浜巨投手は、序盤こそなかなか勝ち星に恵まれなかったものの、9月10日の楽天戦以降、自身7連勝を記録。激しい首位争いの渦中、勝負強い投球でチームの力になった。最高勝率と最優秀防御率のタイトルを懸けた自身最後の登板で打ち込まれ、惜しくも2桁勝利を逃したものの、19試合9勝2敗、防御率2.34の好成績で、昨季わずか2勝からの復活を果たした。

 ベテランでは、和田毅投手の活躍が光った。順調な調整で開幕ローテーションに入ると、39歳とは思えないキレのある真っ直ぐを中心に安定した投球を継続し、16試合8勝1敗、防御率2.94の活躍。プロ18年目で初めての「リーグ優勝決定試合登板」となった10月27日の千葉ロッテ戦では、6回8奪三振無失点の好投で勝利投手に輝いた。

メジャー通算「54勝」左腕の確かな経験値

 新戦力の存在も忘れてはならない。ムーア投手は、メジャー通算54勝の実績を引っ提げて来日。途中離脱こそあったものの、6勝をマークして先発ローテを支えた。常時150km/h付近の力強い直球と安定したコントロールはさすがメジャー級。ミスからの失点を引きずらないなど、クレバーな投球も印象的だった。11月24日に行われた巨人との「SMBC日本シリーズ2020」第3戦での7回ノーヒットピッチングも記憶に新しいだろう。

印象的な活躍を見せた「イケメン」必勝リレー

 シーズン序盤で印象的だったのが、笠谷俊介投手、板東湧梧投手の2人の若鷹による継投策だ。左腕から繰り出されるスピンの効いた速球が武器の笠谷投手は、ショートスターター的なポジションでその才能を開花。そしてそのバトンを受け、2番手として起用されたのが、制球良くストレートと変化球を投げ込む板東投手だった。8月だけで3つの白星を積み重ねるなど、コンビネーションは抜群。その後、笠谷投手は主に先発要員として20試合に登板し、4勝4敗、防御率2.84と飛躍のシーズンに。板東投手は主に勝ちパターンの一員としてチームに貢献し、戦線離脱はあったものの確かな手ごたえを手にした。

前年フル回転の甲斐野央、高橋純平を欠きながらも……

 一転、救援陣は開幕前から懸念点が多かった。というのも、前年勝ちパターンで起用されていた甲斐野央投手高橋純平投手が故障で不在、51試合に登板した松田遼馬投手も状態が上がらず、二軍スタートとなったからだ。しかし、その不安は杞憂に終わることになる。

 彼らの穴を埋めた格好になったのが高橋礼投手。昨季先発として12勝を挙げたアンダーハンドは、心機一転、今季は1年通してブルペン要員として帯同。主に接戦時からロングリリーフ、ピンチでのワンポイントなどさまざまな役割をこなし、森唯斗投手と並ぶチーム最多の52試合登板で救援陣を支えた。

 若鷹では2年目の泉圭輔投手も飛躍のシーズンに。初の開幕一軍入りを果たすと、角度のある直球とツーシームを武器に40試合に登板、防御率2.08の好成績。また、6年目の松本裕樹投手も25試合に登板し、夏場以降は僅差の場面での登板も重ねた。復活を期した岩嵜翔投手は序盤こそ苦しい投球が続いたものの、10月には7試合連続無失点を記録するなどしぶとい働きで、優勝への重要なピースとなった。

絶大な信頼を置かれる3人の鉄壁リリーバーたち

 そして、福岡ソフトバンク投手陣の中で何より強力だったのが、勤続疲労を感じさせないタフさを見せつけた3人の鉄壁リリーバーたちの存在だ。

 まずは、嘉弥真新也投手。今季は開幕から140km/h台中盤の直球とスライダーの切れ味が抜群で、4年連続の50試合登板をクリアする。おなじみの左のワンポイントという仕事場で、対左打者への被打率1割台とその力を遺憾なく発揮した。

 主に8回を任されたのがモイネロ投手。今季も150km/h中盤の速球と曲がりの大きいカーブを効果的に交え、開幕から圧倒的な投球を披露。21試合連続無失点を記録するなど相手打者の気勢を削ぎ続け、40ホールドポイントで初のタイトルとなる『最優秀中継ぎ』に輝いた。そのタフさはもちろん、48イニングで77奪三振を記録する奪三振ラッシュも見事だ。

 そして9回には、森唯斗投手がズドンと腰を据える。絶対的守護神と呼ばれるにふさわしい働きで、リーグ2位の32セーブをマーク。その強心臓ぶりは、ブルペン全体にも安心感をもたらしたことだろう。

来季以降楽しみな投手たち。「ポスト千賀」の候補生は……

 今季、実績のある選手たちが多く活躍した福岡ソフトバンクだが、来季以降に楽しみな若鷹たちも少なくない。ドラフト3位の津森宥紀投手は、デビュー戦となった6月21日の千葉ロッテ戦で満塁弾を浴びるほろ苦デビューも、6月24日の埼玉西武戦ではルーキー一番乗りとなるプロ初勝利を挙げるなど、印象的な活躍で14試合に登板。サイドハンドからの力強い直球には豊かな将来性が感じられる。

 2年目の杉山一樹投手は11試合の登板ながら、150km/h台中盤を豪快に投げ込むその姿で多くのパ・リーグファンを驚かせ、「SMBC日本シリーズ2020」デビューも果たした。大竹耕太郎投手は、ウエスタン・リーグで『最多勝』『最優秀防御率』『最高勝率』の投手三冠に輝き、先発投手の谷間として一軍でも2勝をマークした。

 今季はその圧倒的な投手力でリーグ王座奪還を果たし、4年連続の日本一をつかんだ福岡ソフトバンク。育成選手も多数在籍していることから、このレビューで触れることのできなかった投手たちの中にも、「ポスト千賀候補生」が隠れていることだろう。来季以降はどのような投手が躍動するのか、今から楽しみである。

文・岩井惇

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