「イニングイーター」という役割は、チームに欠かせない貴重なもの
現在のNPBでは、一軍における規定投球回は「所属チームの試合数と同じ数字」と定められている。しかし、多くの試合で長いイニングを投げ続け、規定投球回を上回るイニングを1人で消化してみせる先発投手も、もちろん少なからず存在するものだ。
野球という競技は、守備側が3アウトを取るまでは攻守が切り替わることのないスポーツである。それゆえに、1人で多くのイニングを投げられる投手は、他の投手たちの負担を軽減してくれるという意味でも、チームにとって貴重な存在となりうる。
MLBにおいては多くのイニングを消化できる投手が「イニングイーター」と呼ばれ、内外から高く評価される傾向にある。だが、現状ではNPBにおいて「投球回」という数字自体に注目が集まる機会は、決して多いとはいえないだろう。
そこで、今回は直近5年間のパ・リーグにおいて、各シーズンの投球回の上位5名に入った投手たちの顔ぶれと、その成績を紹介。さらに、主要な投手たちの該当期間全体の投球イニング数も確認し、そこから見えてきた傾向について考えていきたい。
ずば抜けた安定感を示した杜の都のエース
まず、直近5年間のパ・リーグにおける投球回ランキングのトップ5と、ランクインした投手たちの該当年の成績を見ていきたい。その結果は、以下の通りだ。
この5年間でリーグトップの投球回を3度記録した則本投手の活躍ぶりが目につく。今回集計した期間からは外れているが、2014年には202.2イニングと大台を超える快挙も達成。近年のパ・リーグにおけるイニングを消化する能力は、まさにずば抜けている。2019年には手術の影響で68投球回に終わったが、2020年は健康体を保ち、再び長いイニングを投げ抜いてほしい。
2018年まではトップ5に入る投手たちは概ね160~180回台の投球回を消化していたが、2019年は規定投球回にちょうど到達した山本投手と高橋礼投手が、それぞれ5位タイにランクイン。
この年は則本投手、岸投手、上沢投手といったエース級の投手に故障者が多く出たことや、菊池雄星投手のMLB移籍、北海道日本ハムをはじめとしてショートスターターを導入したことなど、さまざまな要素が重なり、規定投球回到達者が6人しかいないという特異なシーズンとなった。同様の傾向が今後も続くのかどうかによって、投球回のランキングにも影響が出てきそうだ。
また、防御率が4点台以上となったのは、2016年のディクソン投手と2019年の美馬投手の2名のみ。やはり、多くのイニングを消化できる投手たちは、チームにとっても安心して長い回を任せられるだけの投球内容を披露していたということだろう。
イニング数を上回る奪三振数を記録したのは、2015年から2018年に4年連続で記録した則本投手、2016年と2019年の千賀投手、2017年に揃って記録した菊池投手と岸投手の4名だ。多くの投球回を消化しながら、高い奪三振率を維持した投手たちのパフォーマンスは見事と言える。
7名の投手が2回以上ランクインを果たしたが……
また、直近5年間の間に複数回トップ5にランクインした投手たちについても見ていきたい。その顔ぶれと、各投手が期間内に記録した回数は下記の通りだ。
4回:1名
則本昂大投手
2回:6名
涌井秀章投手、西勇輝投手
武田翔太投手、千賀滉大投手
菊池雄星投手、美馬学投手
2度トップ5に入った選手は6名いたものの、3回以上にわたってランクインしたのは則本投手のみだった。また、その則本投手も含め、全ての投手が5年間のうちのどこかしらで故障や不振などの影響を受けており、5年間続けて規定投球回に到達した投手は1人もいなかった。5年という長いスパンにわたってローテーションを守り続けることがどれだけ難しいのかが、その事実からもうかがい知れる。
「715イニング」という目安をクリアした投手は2名のみ
最後に、今回名前が挙がった投手のうち、該当する5年間全てでパ・リーグの球団に在籍していた面々の、直近5シーズンにおける投球回数の合計値のランキングを、以下に紹介する。
2015年から2019年までの期間における規定投球回数は、いずれも143イニングだった。つまり、「143×5=715」という数字が、5年連続で規定投球回にちょうど到達した投手が消化できるイニング数となる。
直近5年間のパ・リーグにおいてを715回を上回る投球回数を記録したのは、則本投手と涌井投手の2名。両名ともに2019年は規定投球回に到達できなかったが、長期間にわたって安定してイニングを消化してきたことは、こういった比較的長いスパンで集計した数字にも表れていた。
また、この2名以外では、有原投手が唯一700イニングを突破していた。2015年のプロ入り以来5年間連続で100イニングを上回る投球回を記録し、不調時もイニングイーターとして役割を果たしていた。昨季は自身初タイトルとなる最多勝にも輝いた27歳の右腕は、これからも安定した投球を続け、投球内容とイニング数の両面でチームに大きく貢献する存在となれるだろうか。
興味深い点としては、ここで取り上げた、近年のパ・リーグにおいて多くのイニングを消化してきた8名の投手は、いずれも右投手となっていることが挙げられる。それだけでなく、先程紹介した直近5年間の投球回ランキングトップ5に入った選手たちに目を向けてみても、左投手でランクインしたのは菊池投手ただ1人という極端なバランスとなっていた。
「貴重な左腕」という言葉を目にする機会が少なくないように、右投手に比べて左投手の数が少なくなりやすい傾向が、こういった結果にも影響している可能性は高い。だが、現在のパ・リーグが、左の先発投手にとってはやや厳しい環境となっているのは確かなようだ。
「投球回」もまた、投手としての安定感を示した数字の一つ
先述した通り、2019年に規定投球回に到達した投手はわずか6名。投手分業が大きく進みつつある中で、リリーフ投手にかかる負担も年々大きくなりつつある。そのため、今後は1人で長いイニングを消化してくれる先発投手が持つ価値そのものが、より高まってくる可能性は大いにあるだろう。
防御率や勝利数とはまた異なるベクトルから、先発投手としての安定度を示している「投球回」という数字。見落とされがちではあるが、投手陣全体に対して貢献していることの証でもあるこの数字に、今後はぜひ注目してみてはいかがだろうか。
文・望月遼太
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