各球団の「4番打者」といえば、どの選手が真っ先に思い浮かぶだろうか。すぐに名前が挙がる選手は、シーズンを通して「主砲」としての役割を果たした選手がほとんどだろう。
では、「各球団で2019年に4番を打った全ての選手」が思い浮かぶだろうか。シーズンを通して4番が固定されていることが理想かもしれないが、現実はそこまで単純な話ではなく、先発メンバーの「4番」に、いつもの名前がないことは、その試合の間は違和感を覚えるかもしれない。だが、143試合を戦い終えた時点では、記憶の隅へ消えてしまっている可能性が高いはずだ。
ここでは、パ・リーグ6球団における2019年の「4番打者」にフォーカス。1試合だけ、もしくは数試合のみの「幻の4番」を思い起こしてほしい。
埼玉西武ライオンズ:3選手
山川穂高:104試合
(32本塁打、86打点、打率.243)
中村剛也:38試合
(10本塁打、42打点、打率.304)
森友哉:1試合
(0本塁打、0打点。打率.250)=8月22日
埼玉西武で4番に座った選手はパ・リーグ最少の3人であり、主軸が固定されていたと言えるだろう。特に山川穂高選手と中村剛也選手の4番としての働きぶりは、リーグ2連覇の原動力となった。山川選手は104試合に4番として出場し、32本塁打を記録。シーズン中盤の不振で、4番の座を中村選手に譲る形にはなったものの、その役割を十分に果たしたと言えるだろう。中村選手も4番では長打率.568と、シーズン通算よりも高い成績を残している。
そんな中、1試合だけ4番を任されたのが森友哉選手だ。8月22日の北海道日本ハム戦、リーグトップの打率を買われ、中村選手の休養に合わせてプロ6年目で初の4番に座った。北海道日本ハム・堀瑞輝投手の外角の変化球に体制を崩されながらも対応し、右翼手の前に落ちる安打を放っている。ちなみに、埼玉西武の4番に捕手が先発出場するのは、1979年の田淵幸一氏以来40年ぶりの出来事だった。
福岡ソフトバンクホークス:5選手
デスパイネ:113試合
(32本塁打、78打点、打率.249)
グラシアル:13試合
(3本塁打、6打点、打率.229)
松田宣浩:9試合
(1本塁打、7打点、打率.231)
柳田悠岐:6試合
(0本塁打、3打点、打率.474)
長谷川勇也:2試合
(0本塁打、1打点、打率.333)=8月15日、8月17日
デスパイネ選手は4番打者としてシーズンの大半の113試合に出場。打率は.249だったものの、32本塁打、78打点と主砲としての役割を十分に果たした。さらに注目したいのは柳田悠岐選手だ。2019年は故障に苦しんだが、4番としては6試合で打率.474の好成績を残している。
2試合のみ4番に座ったのが長谷川勇也選手である。8月15日、試合前の練習で腰の違和感を訴えたデスパイネ選手に代わり、2試合連続で2017年以来となる4番に座り、いずれの試合でも安打を放っている。他の打順を含めても、シーズン通算で25試合の出場にとどまったが、打率.302の好成績をマーク。特に一軍再昇格後の7月、8月にはいずれも.350を上回る打率を残した。
東北楽天ゴールデンイーグルス:7選手
ブラッシュ:62試合
(13本塁打、44打点、打率.259)
島内宏明:47試合
(4本塁打、19打点、打率.279)
ウィーラー:21試合
(3本塁打、7打点、打率.238)
浅村栄斗:10試合
(1本塁打、3打点、打率.182)
銀次:1試合
(0本塁打、0打点、打率.500)=9月26日
今江年晶:1試合
(0本塁打、0打点、打率.000)=6月8日
和田恋:1試合
(0本塁打、0打点、打率.000)=7月31日
楽天は主に、ブラッシュ選手、島内宏明選手、ウィーラー選手の3人を4番に据えて2019年シーズンを戦った。来日1年目のブラッシュ選手は4番で13本塁打、44打点と持ち味の豪快な打撃を存分に発揮したと言えるだろう。その一方で、島内選手は4番として211打席で51安打(ブラッシュ選手は263打席で55安打)を放ち、「巧打の4番」として結果を残した。
「1試合だけの4番」は3選手。この中で、4番起用に応えて安打を放ったのは銀次選手のみであった。シーズン通算で見ても、主に5番打者として出場し、打率.304の好成績を残している。今江選手は2018年シーズンは4番として56試合に出場したが、今季は1試合。前所属・千葉ロッテでも4番として活躍を見せた巧打者が、惜しまれながらも18年間のプロ野球人生に幕を下ろした。
シーズン途中に巨人から移籍した和田恋選手は、7月21日に移籍後初スタメンを勝ち取ると、同30日までの7試合で打率.320と好調を維持していた。この活躍ぶりを買われ、31日に自身初の4番を任されたが、4打数無安打2三振という悔しい結果に終わった。ただ、シーズン通算で見れば自己最多の31試合に出場、プロ初本塁打を含む2本塁打を放つなど、プロ6年目に一段階ステップアップした。この経験を糧に2020年はさらなる飛躍に期待したい。
また、1月27日に大きなニュースが飛び込んだ。2019年限りでオリックスから退団していたロメロ選手の獲得である。2019年はオリックスの4番としてチーム最多の60試合に出場し、15本塁打、打率.341の好成績を残している。外国人枠などの関係も当然考えなければならないが、ウィーラー選手とブラッシュ選手、ロメロ選手の3人のうち、誰が4番に座るかにも注目だ。
千葉ロッテマリーンズ:4選手
井上晴哉:75試合
(14本塁打、34打点、打率.244)
レアード:45試合
(12本塁打、30打点、打率.225)
角中勝也:18試合
(4本塁打、12打点、打率.297)
清田育宏:5試合
(0本塁打、0打点、打率.176)=8月17日、8月18日、8月20日、8月21日、9月14日
千葉ロッテの4番は主に井上晴哉選手とレアード選手の2人が担当。片方が4番に座り、もう片方が5番以降に座るケースが多かった。2019年シーズンは千葉ロッテのチーム本塁打がリーグ3位の158本に激増。「ダブル4番」に近い体制が実現できたことも大きいだろう。
先述した2人に加えて、角中勝也選手と清田育宏選手も4番に座っている。清田選手は代打からスタメンまで幅広い起用に応え、シーズン通算で117試合に出場。2015年以来自身2度目となる2桁本塁打(10本)に到達した。ただ、4番として出場した5試合では打率.176と力を発揮できなかった。
北海道日本ハムファイターズ:5選手
中田翔:115試合
(23本塁打、77打点、打率.236)
近藤健介:16試合
(0本塁打、5打点、打率.279)
清宮幸太郎:10試合
(2本塁打、5打点、打率.270)
大田泰示:1試合
(1本塁打、0打点、打率.500)=9月26日
王柏融:1試合
(0本塁打、0打点、打率.000)=6月20日
中田翔選手は4番としてリーグ最多の115試合に出場。2011年から9年連続でチーム最多の4番出場を続けており、「北海道日本ハムの4番」といえば真っ先に中田選手が思い浮かぶだろう。今季放った24本塁打のうち、23本塁打を4番で放ち、4番打者としてチームをけん引した。ただ、2019年は右手痛で一時登録抹消。その代役として清宮幸太郎選手が4番に抜てき。10試合で2本塁打、打率.270とまずまずの成績を残し、大器の片りんを見せた。
1試合のみ4番を務めたのは王柏融選手と大田泰示選手の2人だ。王選手は4打数無安打と力を出せなかったが、大田選手は実力を遜色なく発揮している。9月26日の試合で移籍後初となる4番に座ると、4打数2安打の活躍を見せた。また、この試合で、自身初の20号到達となる本塁打を放っている。北海道日本ハム移籍後は「強打の2番」としての地位を確立していたが、2020年は4番としてのプレーを見る機会が増えるかもしれない。
オリックス・バファローズ:7選手
ロメロ:60試合
(15本塁打、53打点、打率.341)
吉田正尚:38試合
(5本塁打、22打点、打率.246)
モヤ:19試合
(2本塁打、11打点、打率.295)
メネセス:12試合
(1本塁打、5打点、打率.165)
マレーロ:6試合
(0本塁打、4打点、打率.130)
中川圭太:4試合
(0本塁打、0打点、打率.250)=6月28日、6月29日、7月4日、9月11日
杉本裕太郎:4試合
(3本塁打、5打点、打率.188)=4月13日、4月14日、6月1日、6月2日
オリックスはパ・リーグ最多タイの7人が4番に座った。ただ、チーム最多の60試合に出場したロメロ選手は、2020年から楽天でプレーすることが決まっている。吉田正尚選手は38試合に4番として出場したものの、シーズン通算では3番打者として好成績(100試合、23本塁打、打率.347)をマークしている。新たに主砲として打線をけん引する選手の台頭に期待したいところだ。
2020年は、メジャーでの圧倒的な実績を持つ新助っ人・ジョーンズ選手が加入。間違いなく主砲として中軸に起用されるだろう。ただ、ここでは少ない回数ながらも2019年に4番を務めた2選手に注目したい。中川圭太選手は4試合で打率.250だったが、プロ初の4番となった試合(6月28日)では、マルチ安打の活躍。パ・リーグの新人としてドラフト制後初となる6試合連続のマルチ安打もマークした。杉本裕太郎選手も打率こそ.188と苦しかったが、4番として出場した4試合で3本の本塁打を放ち、ファンを驚かせた。
チームの顔である4番打者。2020年にその大役を任されるのは?
近年では、2番打者に最も優れた打者を置く考え方も浸透している。しかしながら、チームの4番は依然としてクローズアップされる存在であるということに変わりはない。2020年は一体何人の選手が4番を任せられるのか。状況に応じた流動的な起用となるのか、はたまた絶対的な4番が打線をけん引するのか。まずはオープン戦でのオーダーに注目したいところだ。
文・吉田貴
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