カットボールの積極投球で、直球もフォークも生きた
「もともと手強い相手が、さらにレベルアップしている感じがします」
2019年シーズン開幕戦の福岡ソフトバンク戦後、埼玉西武の山川穂高選手は相手エースの千賀滉大投手についてそう話した。リーグ屈指の右腕は今季、カットボールという新たな武器を加え、ライバルチームの主砲に鮮烈な印象を残した。
それから約200日──。「パーソル CSパ」ファイナルステージ第3戦に先発した千賀投手は、圧巻の投球で“山賊打線”に立ちはだかった。
「昨日の武田(翔太)投手には高めを振らされて追い込まれました。千賀投手の真っすぐはもっと速いと思う。(高めに手を出さないよう)しっかり目付けを意識してやっていきたい」
2連敗で迎えた埼玉西武の外崎修汰選手は、第3戦の前にそう話した。高めの真っすぐはなかなか打ち返せないので、真ん中から低めの球をいかに攻略できるか。それが埼玉西武打線のテーマだった。
3試合続けて初回に先制された埼玉西武は1回裏、先頭打者の秋山翔吾選手がライト前安打で出塁。源田壮亮選手の犠打、中村剛也選手の四球などで2死1,2塁のチャンスを作る。打席に向かう5番・外崎選手は、埼玉西武打線で最も振れている一人だ。
このピンチで千賀投手は“3つの武器”を駆使する。初球のフォークは高めに抜けたが、2球目の145km/hカットボール、3球目の153km/hストレートをいずれも外角低めのきわどいコースに投げ込み、手を出させずに追い込んだ。そして4球目、フォークがバッテリーの狙いより高めから落ちてきた分、外崎選手はタイミングを合わせられず、空振り三振に仕留めた。
初回のピンチを切り抜けた千賀投手は2回以降、西武打線を完璧に封じ込めていく。2回2死からメヒア選手には外角へ鋭く変化する147km/hカットボールで、ボテボテのファーストゴロに抑えた。
3回には今季首位打者の森友哉選手に粘られたが、7球目、154km/h真っすぐで詰まらせてショートゴロ。4回は先頭打者の中村選手を四球で歩かせたが、続く外崎選手からいずれも150km/h超のストレートで3者連続空振り三振に斬って取った。
千賀投手がエースたるゆえん。甲斐選手、辻監督はこう評した
結局、千賀投手は8回125球を投げ、被安打2で無失点、10奪三振。150km/hを超えるストレート、140km/h台で鋭く曲がるカットボール、そして130km/h台の“お化けフォーク”を織り交ぜ、ストライクゾーンを左右、高低いっぱいに使いながら、絶妙な球速差で“山賊打線”を沈黙させた。中継ぎ陣に疲労が溜まっているなか、8回まで一人で投げたのはさすがエースの投球だった。
シーズンの疲労が蓄積されているなか、中5日で登板したエースはヒーローインタビューで、「とにかくモイネロと森唯斗を休ませたくて、それだけでマウンドに上がりました」と粋な言葉を話した。
そんなエースに対し、甲斐拓也捕手は「ブルペンから特別に良かったわけではないですけど、どんな状態でもああいうピッチングをできるようになったということですね」と笑顔で称えた。
一方、埼玉西武の辻発彦監督は、「千賀は良かったね。最近ずっと力みがない。カットボールが厄介なんだよね。でも、打たないといけない」と話した。
これで福岡ソフトバンクは3連勝で3年連続日本一に王手をかけ、埼玉西武は崖っぷちに追い込まれた。12日に予定されていた第4戦は台風で順延となり、13日、「パーソル CSパ」ファイナルステージはいよいよ大一番を迎える。
◇2019パーソルCSパ「勝負を分けた1打席」バックナンバー
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CSの勝敗を分けた今井達也の初回。先制打の裏に今季抱え続けていた課題
中島大輔
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