「プエルトリコでプレーしたら、野球観が変わるよ」
かつて当地のウインターリーグでプレーした柳田悠岐や塚田正義からそう言われた福岡ソフトバンクホークスの3選手はこのオフ、カリブ海にあるアメリカ領プエルトリコに渡り、「ヒガンテス・デ・カロリーナ」に合流。2016年ドラフト1位の田中正義、2018年ドラフト2位の杉山一樹、2016年ドラフト4位の三森大貴の3人だ。
プエルトリコ・ウインターリーグの投手はストレート勝負が多いが、決して大雑把というわけではない。MLBでプレー歴のある捕手やコーチが各チームにいて、高めの速球を有効活用しながら低めの変化球を活かしていく。ラインナップには屈強な大男たちが居並ぶなか、セフティバントで出塁を狙うスピーディな選手も少なくない。監督やコーチは試合中も積極的に選手たちとコミュニケーションをとり、チャレンジを推奨していく。
そうした中南米独特の環境のなか、福岡ソフトバンクの3選手は実戦をこなしながら自身の課題と向き合った。
「昨日の試合から、ちょっと新しい感覚が出てきました」
田中がそう振り返ったのは、12月6日のインディオス・デ・マヤゲス戦の翌日だ。
「力の伝え方を0から100にするような感覚です」
脱力しながら投球動作を進め、リリース時に一気に爆発させる投げ方だ。ロサンゼルス・ドジャースの前田健太をイメージすればわかりやすいかもしれない。
田中はマヤゲス戦の途中から、無双だった大学時代のような感覚を覚えた。ソフトバンクでは中継ぎで登板することが多く、プエルトリコで先発するなかで以前の感じを思い出したという。
中6日で登板した12月13日のカングレヘロス・デ・サントゥルセ戦では立ち上がりこそ不安定だったものの、粘り強い投球で切り抜けていくうちに投球フォームを修正することができた。試合途中から上半身の開きを抑えられるようになったことで、力のある速球で相手打者を押し込んでいく。5回途中まで無失点に抑え、首位攻防戦で貴重な現地2勝目を飾った。12月14日時点で主に先発として6試合に登板して2勝1敗、防御率1.80の好成績を残している(以下、プエルトリコでの成績は同日時点)。
「これまで日本でのシーズンでは自分の力を出し切れないで、一軍に上がってはすぐに落ちるという感じでした。こっちでは点差とかバッターに関係なく、自分のボールをしっかり投げ切ることをテーマにしています。プロに入団してからプレッシャーを感じなかったと言えばウソになりますけど、こっちに来てからふと、気にしても仕方ないと思ったんです」
身長193cm、体重92kgと中南米の大男たちに引けを取らない体躯の杉山一樹も、プエルトリコで実戦を重ねるにつれて手応えをつかんでいる。
「こっちはパワーヒッターが多いと思っていました。そういう相手と力と力の勝負でどこまで通用するかがひとつの楽しみでしたね」
いずれも中継ぎで8試合に登板して防御率1.08。7四球と制球に課題を残すも、登板した7試合で奪三振を記録するなど力勝負でアウトを重ね、シーズン途中からセットアッパーとして起用されるようになった。
杉山がプエルトリコでの課題に掲げているのが「フォーム探し」だ。
「いろんな人に話を聞きながら、もっといいフォームがないかと探してきました。求める意識は一つだけで、回転運動をどうやってうまくするか。横回転がダメだと思っていたんですけど、体重移動のうまい選手に聞いたら、『え? なんでダメなの?』って。それでダメじゃないんだと思って、結局、もともとの自分のフォームに戻りましたね。フォームについていろいろ探したことは自分の意識として残っていまるので、試行錯誤して良かったです」
自身のピッチングに加え、メンタル面の収穫も多い。中南米の選手たちは試合直前まで大声で冗談を言い合っていたかと思えば、プレーボールがコールされると真剣な眼差しになる。そんなオンとオフの切り替えは、今までの杉山は持っていないものだった。
「自分は試合や練習でうまくいかなかったとき、結構カッとなっちゃうんです。でも、こっちの選手は試合で打たれたり、サヨナラ負けしたりしても切り替えがめっちゃ早い。次の日はもう騒いでいます(笑)。今までの自分は考えすぎだったかなと、吹っ切れましたね。日本に戻って来年は勝負の年なので、こっちでの経験を活かしていきたいです」
福岡ソフトバンクから唯一の野手として参戦中の三森大貴は、芳しい成績を残しているわけではない。22試合で42打数5安打、打率.119。小さなテイクバックから投じられる“動くボール”に手こずっている。しかし現地の監督や打撃コーチからアドバイスをもらい、アウトの内容自体は変わっていった。
「自分は投手に対してスタンスを真っすぐ構えるタイプです。それについてコーチから『今の構えではボールに対し、バットの軌道的に距離ができる』と言われて、確かにそうだなと。自分は左バッターで一塁に走りながら打つところがあるんですけど、投手に対して真っすぐ立っていると、少しでも緩い球が来て崩されたとき、身体が投手方向に流れてしまいます。だからコーチから、『少し上半身を丸めて、かがんで構えたほうがいい』と言われました」
プエルトリコの指導者たちは課題を指摘するだけでなく、改善に導く方法論も持っている。三森にとって、新たな学びとなったのが置きティーだ。
「今まではトスしてもらったボールを打ちにいく練習をやっていたけど、置きティーだと台に載ったボールのどこを打つか、自分で定められます。コーチに『ボールの少し上を狙って打ってみろ』と言われてやってみたら、スピンの利いた打球が行きました。日本ではなかなか言われないことを言われたので、すごくいい収穫をもらいましたね」
三森は高卒3年目の2019年シーズン、一軍デビューを果たした。24試合で打率.208。打力を上げていくことが課題だと自覚するなか、遠く離れた異国で感じたことがある。コンタクトまで予備動作の多い日本人打者に対し、中南米の選手は基本的にトップをつくった状態から軸回転で打ちにいく。自身の打撃を模索するなかで、三森にとって多くの学びがあった。
「こっちのバッターのタイミングの取り方のほうが、日本の野手より無駄がないのかな。もちろんいろんなバッターがいますけど、スムーズに無駄な動きなく打ちにいくのが大事なのかなとすごく思いましたね」
日本の野球とプエルトリコのベースボールは同じスポーツだが、異なる価値観がたくさんある。技術、心、そしてフィジカルなど、異国でプレーする3選手はオフシーズンの間に学びの日々をすごした。
新たな野球観を得たソフトバンクの3選手は来季、プエルトリコ・ウインターリーグを一つのきっかけとして大きく羽ばたいていった柳田や髙橋純平のように、飛躍を目指していく。
文・中島大輔
写真・龍フェルケル
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