力押しからの脱却を図る先発陣
勝率.650と圧倒的な強さで4年ぶりのリーグ優勝を果たした福岡ソフトバンク。高い得点力を誇る野手陣だけでなく、今季はリーグトップのチーム防御率をマークした投手陣の躍進も光った。その投手陣のデータで注目したいのが、先発陣の配球の変化だ。先発全体のストレート投球割合を見てみると、2022、23年はいずれも約45%と高い割合を推移していたが、一転して今季はリーグで2番目に低い36.9%まで減少。これまでの直球主体の投球スタイルから明らかな変化が見られたのだ。
投手別で見ても際立つストレートの減少
投手別のデータを見てもその変化は顕著だった。今季から先発へと役割を変更したモイネロ投手、大津亮介投手だけでなく、14勝で最多勝のタイトルを獲得した有原航平投手、最速160km/hを誇るC.スチュワート・ジュニアらもストレートの割合が大きく減少。ローテーションを支えている投手が軒並み割合を減らしているのを見るに、チームとして意図的に取り組んでいるのが分かる。
決め球としても使われる変化球の割合が増加
ではどんな球種の割合が増えているのか。チームの先発投手全体の球種別投球割合を見てみると、シンカーとカットボールを除きほとんどの変化球の割合が上昇。中でもチェンジアップは昨季の4.4%から今季は10.9%まで割合を増やすなど、ウイニングショットとしても使われる球種の増加が目立っていた。
より打者を打ち取りやすい球種の割合を増やす傾向に
先発5人が前年から最も投球割合を増やした球種を見てみると、どの投手もチェンジアップ、フォークといった沈む軌道の変化球が最も増加。ウイニングショットとしても効果的なこれらの変化球だが、5投手ともに打者を追い込んだ後だけでなく、今季は0・1ストライク時の投球割合も前年から増えていた。また各投手のいずれの球種も、スイング率が40%台のストレートと比べて打者のスイングを誘えており、その結果として高い確率で空振り、もしくはヒットになりにくいゴロ打球が多いという特徴がある。
上記以外の球種でも、大津投手のワンシームや有原投手のチェンジアップ、モイネロ投手のスライダーなど、前年から割合が増えていた球種には同様の特徴が見られた。
アキレス腱だった先発陣がリーグ最高の成績に
2023年は防御率リーグ5位と苦しんでいた先発陣だが、今季はリーグトップの2.50と大幅に改善。スイングを誘うことでボールカウントを増やすことなく、高い確率で空振り、ゴロ打球を打たせやすいという前述の変化球の特徴と比例するように、チーム成績も奪三振の割合が増え、与四球割合、被本塁打率が低下していた。ストレートの割合を減らし、より優秀な変化球を増やす改革は先発陣の飛躍につながったといえるだろう。
先発とは対照的な攻めを見せるリリーフ陣
次にリリーフ陣の成績を見ていきたい。福岡ソフトバンクの救援投手はリーグ内でもストレートの割合が多い傾向にある中、今季はその数値が55.8%まで上昇。ストレートの割合を減らして変化球を多投するようになった先発陣とは反対に、リリーフ陣は例年以上に直球での勝負が増えていた。
リリーフ陣は威力抜群のストレートを持つ
ストレートの成績を見てみると、その割合を増やしたのにも納得がいく。杉山一樹投手やヘルナンデス投手を筆頭に力強い直球を投じる投手が多いリリーフ陣は、2年続けてストレートの平均球速がリーグ1位。被打率、奪空振り率でも常にリーグトップクラスの数値を残している。そんな圧倒的な威力を誇るストレートを武器にリーグ1位の救援防御率2.58を記録するなど、今季も盤石なブルペン陣を形成していた。
ストレートの割合を増やすか、減らすかという結論こそ違いが見られたが、質の高い球種の割合を増やすというシンプルな考え方は先発陣、リリーフ陣で共通しているといえるだろう。今季はモイネロ投手、大津投手を先発で起用し、その穴を埋めるようにリリーフでは杉山投手や尾形崇斗投手が台頭した福岡ソフトバンク。来季もこの強固な投手陣を崩すのは容易ではなさそうだ。
※文章、表中の数字はすべて2024年レギュラーシーズン終了時点
文・データスタジアム
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