一塁にいる走者が長打に乗じて一気にホームへかえってくる。二塁を蹴って三塁へ進むばかりか、三塁まで勢いよくかけ抜けひた走る。数ある野球のプレーの中でも、ひときわスタジアムが盛り上がるシーンだ。
そのような気分の上がる場面で、もっともスピードのあるランニングをした選手は誰だったのか? 今シーズンのパーソル パ・リーグ公式戦全試合における、一塁から長駆ホームインしてきたタイムのトップ5を紹介していこう。
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ロングランでも身体能力を発揮する水谷瞬(北海道日本ハム)
まず、5位にランクインしてきたのは、現役ドラフトによって福岡ソフトバンクから北海道日本ハムへ移籍し、今シーズン大いに飛躍した水谷瞬選手の9秒57というタイムだ。水谷選手は身体能力の塊のような選手であり、長い脚を生かしたランニングスタイルはロングランにうってつけといっていいだろう。
この場面では、相手投手が投球モーションを起こすと同時に二塁へスタートを切っており、打者・レイエス選手が右方向へ意識して打っているようなので、ベンチからランエンドヒットのサインが出ていたものと思われる。その打球が右中間のど真ん中を割ってフェンスに到達する長打となったため、水谷選手は三塁を回ってからは速度を落としつつ楽々とホームインした。
それでいてリーグ5位に入るのだから、全力で走っていたらタイムはどうなっていただろうか? ひょっとしたら、トップ争いに加わっていたかもしれない。本当に底知れぬ能力を秘めた選手である。
唯一、スタートを切らずともランクインした周東佑京(福岡ソフトバンク)
続いて4位には、もはや走塁関係でランキングに入らないことはない王者的存在になっている福岡ソフトバンク・周東佑京選手が、9秒55というタイムで入ってきた。
打者・今宮健太選手の球足の速いゴロがファーストすぐ横の一二塁間を勢いよく抜くやいなや、快足を飛ばして一気にホームへ突入。手に汗握るギリギリのタイミングだったが、華麗なヘッドスライディングで回り込み、タッチしにいったキャッチャーのボールもこぼれ落ちて見事得点に結び付けた。
ちなみに、このときの周東選手は、相手投手が投球動作を起こした直後に二塁へスタートを切る動きを見せたが、途中で止まっており、実際には打ってから走り出している。
先にネタバレさせてしまうと、今回トップ5に入った走塁で、打者が打ってからスタートしたのはこの周東選手のみ。他はすべて5位の水谷選手と同じように、投球動作に合わせて二塁へスタートを切っている。実質的にハンディがありながらトップ5に入るあたり、周東選手の俊足ぶりがより引き立つタイムであった。
ルーキーらしさあふれるヘッドスライディグを見せた上田希由翔(千葉ロッテ)
このランキングシリーズ初登場ではなかろうか。9秒46で見事3位に入賞したのは、千葉ロッテのドラ1ルーキー・上田希由翔選手である。183cm、96kgと大柄だが、決して鈍足というわけではない。
打席の高部瑛斗選手が逆方向へ打ち、ショートの頭上をはるか越えていくようなライナーが左中間に落ちたときには、すでに二塁ベースを回っていた上田選手。レフトの選手が打球を捕りそこねている間に、三塁から余裕をもってホームに達した。
そして、最後はヘッドスライディングでホームイン。ルーキーらしい若々しさあふれる走塁であった。
今季代走で存在感を示した緒方理貢(福岡ソフトバンク)
一方、9秒31という好タイムで2位を獲得したのも、このランキングシリーズ初登場。福岡ソフトバンク・緒方理貢選手が代走として激走した。
スタートを切っていただけでなく、打者・近藤健介選手の打球がフラフラっと上がってレフト線へ落ちるフライだったこともあり、レフトが捕球する頃、緒方選手はすでに三塁ベース間近に到達していた。
そして、減速することなく三塁を回ったときにはスタンドの歓声はMAXへ。いや、場所がエスコンフィールドだったので、この歓声はおおかた失点を察した北海道日本ハムファンの悲鳴だったのだろうが、ともあれ、緒方選手は颯爽とスライディングを決めてホームイン。
2020年育成ドラフト5位でプロ入りし、今季念願の支配下契約を勝ち取った苦労人が、俊足を生かした代走として一軍で存在感を示すことに成功したシーンだった。
番外編は“バッターボックスでも得点圏”にしてしまった男たち
さて、1位を紹介する前に、ここで定番の番外編に寄り道しよう。
テーマは、一塁どころか打った打者がそのままベースを一周してホームインしてしまったプレーのタイムを集めた。つまりは、“バッターボックスでも得点圏”になってしまったシーンである。
動画の順番にまとめてタイムを紹介すると、東北楽天・前田銀治選手が15秒77、北海道日本ハム・矢澤宏太選手が14秒90、最後の今宮選手が17秒66という結果だ。
前田選手と矢澤選手はファームの試合で起きたプレー。前田選手は外野手がワンバウンドした打球をバンザイしてしまい、後ろへ転々としてしまったものである。そのため、足を武器としているわけではない前田選手が必死に走ってホームインにこぎつけた。
一方で、投打の二刀流選手として台頭を目指す矢澤選手は、抜群の運動能力が売りの選手だけに、センターオーバーの大飛球で最後は楽々ホームインしたものの、その速さを見せつけるに十分な好タイムとなった。
そして、最後の今宮選手のベース一周は、バントの打球を処理したオリックス・曽谷龍平投手が一塁へ悪送球をしてしまい、バックアップに入っていたライトの森友哉選手も止められずに後逸してしまったものである。
元々は捕手とはいえ過去に外野手経験もあり、それなりに動きも機敏な森選手だが、それゆえに猛スピードでファウルゾーンに走り込んでしまい、想定外のインフィールド側へ逸れた送球により完全に逆をつかれてしまった。今宮選手の走塁というよりも、一軍の試合で悪送球がダブルで抜けていしまうという、あまり喜ばしくはない珍プレーが発生してしまったインパクトの方が強く残った。
初代王者に輝いたのは、ファンの期待も高いあの選手
初代王者となる1位のタイムを記録したのは、千葉ロッテの藤原恭大選手だった。
今年プロ入り6年目を迎えた藤原選手。2018年にバリバリのドラ1で千葉ロッテに指名されて入団したエリートは、走攻守、すべての部門において優れたスペックを秘めていることは、千葉ロッテのコアなファンならずとも知っている。
このときの走塁も、最初からホームまで一気に行く気満々という激走。俊足を売りにしている2位の緒方選手とほぼ同条件の下、スタートを切ってからの長駆ホームインで、わずか0秒02の差とはいえ今シーズン最速のタイムをたたき出した。
来年以降は、ぜひとも常時スタメン出場するなかで、同じようなシーンを再現してほしい。
スリリングな走塁シーンは飽きることがない
今回、初の試みとなった「一塁から長駆ホームイン」のタイムランキング。そもそも頻繁に起こるプレーではないので、必ずしも一塁かけ抜けや二塁打、三塁打などの到達タイムで顔を連ねるメンバーばかりではなかったところは面白かった。にもかかわらず、周東選手のようにリーグのなかでも飛び抜けた選手は入ってくるのだなと感心もさせられた。
三塁打のときもそうだが、二つ目の塁を回ると、観客のテンションはもう1ランク上がる。こうしたスリリングなシーンはいくら見ても飽きないので、来年もぜひ数多くみせてくれることを期待したい。
文・キビタキビオ
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