【パ・リーグ ビジネスインサイト】・・・プロ野球を支えるビジネスサイドの話を、球団スタッフやプロ野球関係者の話から紐解くシリーズ。「スポーツ界の総合商社」を目指すパ・リーグマーケティングならではの目線で、スポーツビジネスの最前線を解説していく。
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観戦チケットを取得するために、少しずつ定着してきたチケットのリセールサービス。あるいは、急な用事で行けなくなってしまったチケットをリセールするための受け皿としても機能を果たしている。
今回は、北海道日本ハムファイターズのチケット担当者と「北海道日本ハムファイターズ公認チケットリセールbyチケ流」を運営する株式会社ウェイブダッシュの担当者、2名による座談会を実施。ファイターズのチケットセールスの現状から、公認チケットリセールの手応え、プライマリー(一次流通)とセカンダリー(二次流通/リセール)の将来の姿まで大いに語る。
目次
・多種多様な席種が魅力のエスコンフィールド
・チケット販売にもイノベーションを。新たなチケットサイト「Fチケ」の立ち上げ
・「公式」「公認」2つのセカンダリーがある理由
・広がるセカンダリーチケットのニーズ
過去の連載
https://pacificleague.com/news/45752
https://pacificleague.com/news/43975
https://pacificleague.com/news/53520
対談出席者(左から)
・株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント 事業統轄本部 コンシューマー統括部 コンシューマー部 チケットグループ長
藤野功さん
・株式会社ウェイブダッシュ 経営企画部 シニアマネージャー スポーツビジネスアライアンスリーダー
薗田好豊さん
多種多様な席種が魅力のエスコンフィールド
ーー新球場ということでかなり期待の高かったシーズンかと思います。今日(取材時7月11日)も平日にもかかわらずチケット完売。動員の状況はいかがですか?
F藤野:観客動員は概ね好調です。前半戦においては、昨年に比べて190%程度で推移をしており、試合が開催されていない日においても5,000名から10,000名程度の方にご来場いただいています。道外の方の比率も上がっており、北海道の観光地として皆さんにご来場いただいていると感じています。
W薗田:今日も家族や団体で来られている方を多く見ましたが、皆さん道外の方なんですか?
F藤野:道外の方も多いですね。団体は特に増えていまして、昨年の約10倍程度のお申し込みをいただいています。
ーーコロナ禍以前の2019年と比較すると動員数はそれほど変わらないものの、球場のキャパシティは4分の3程度に減ったということで、収容率は大幅にアップしているとのことですね。
F藤野:はい。そのためチケットの価値も相対的に高まっており、それがセカンダリー(チケットリセール)の活性化にもつながっているのではと分析しています。
ーー今、球場ではどのような席種が人気なのでしょうか?
F藤野:やはり圧倒的にグラウンドが近いFIELD LEVELのお座席ですね。なかなかあの距離で野球を観戦できる環境は無いので、新たな体験価値を楽しんでいただいているのかと思います。
ーーものすごくたくさんの席種があり、他の球場にはない席種もあるかと思います。
F藤野:量的にはFIELD LEVELの座席が人気高いのですが、倍率的にはワンちゃんと一緒に観れる「ユニ・チャーム マナーウェア DOG SUITE」の人気が一番高いですね。カウンター付きのBOX席となっており、ワンちゃんにも優しい人工芝が敷いてあります。前期と後期で抽選販売を実施しましたが、ありがたいことにものすごい倍率でした。
W薗田:初めて見たときは「なんと斬新な」と(笑)
ーーF ビレッジにはドッグパークもありますし、ワンちゃんフレンドリーなところなんですね。
F藤野:そうですね。多様なコミュニティが集まる空間として、さまざまな方にFビレッジを楽しんでいただきたいと思います。
ーーファイターズのオフィシャルファンクラブ「FAV」の新規会員数も増えているとうかがっています。
F藤野:エスコンフィールドの開業にともない、お客様の裾野は広がっていると思います。「FAV」の新規会員数が過去最高になったということもありますが、新しく「Fビレッジ アカウント」というものをつくり、Fビレッジのサービスを体験する際はそこに登録いただくという流れをつくっており、FAVと合わせてすでに40万人程度の顧客基盤を形成しています。
温泉やサウナ、ドッグパークなど野球とは関連のないことに興味のある方も含めて、多種多様な方々がFビレッジに集まってきていただくことで、お客様の裾野は大幅に広がっているのかなと思います。
今後は、野球に興味がないお客様にもついでに野球を観てもらうとか、逆に野球が大好きな人に温泉に入ってもらうとか、そのようなシナジーをいかに生んでいくかが大切になってくると思っています。
W薗田:温泉やサウナはエスコンフィールドの目玉のひとつですもんね。今シーズンは予約でいっぱいですか?
F藤野:試合を開催していない日は予約なしでいつでも入れますし、試合日もまだまだ予約受付中なので、ぜひお楽しみください!
チケット販売にもイノベーションを。新たなチケットサイト「Fチケ」の立ち上げ
ーー次にファイターズさんのチケット戦略についてうかがっていきます。札幌ドーム時代とエスコンフィールドで変わってきているところや、現在のファイターズではどのようなチケット戦略を立てられているのかを教えてください。
F藤野:エスコンフィールドになって大きく変えたのが、チケットの発売日を大幅に減らしたというところです。それまでは、シリーズイベントに合わせて月1回程度の発売日を設けて販売をしていたのですが、エスコンフィールド開業初年度ということでどれだけ需要があるのか読み切れなかったということもあり、遠方のお客様も含めて、まずはチケットを先々まで買える環境を提供するためにシーズンの約半分の試合を一気に売り出しました。
その際に、どうしても先々のチケットを買うということは、自分のスケジュールをそこで確定させることになってしまうので、お客様からすると少しリスキーな状況でもあると思います。そこでチケットのリセール環境を整備し、チケットを取って行けなくなったとしても、公式・公認のチケットリセールをうまく使っていただくことで、お客様にとっても安心してチケットを買っていただけるような環境をつくることができると考えていました。
W薗田:2019年。まだエスコンフィールドができる前のことです。ファイターズさんと打ち合わせをした際に、当時ファイターズさんから4枚くらいの企画書をいただきました。2023年に描く未来は、やはり「ファンサービスファースト」と「イノベーション」。2023年の新球場誕生に向けてスタートしていますという、すごく志高いプレゼン資料を見せていただきました。当時から熱い想いを聞かせていただいていたので、今2023年にこういう形となって見ることができて、すごく感慨深いです。
F藤野:チケット領域においても2018年頃から、このエスコンフィールドに相応しいチケッティングサービスをお客さんにお届けするということを目標として動き出し、「Fチケ」という、新たなチケットサイトを立ち上げました。Fチケにおいては圧倒的にチケットが買いやすいファンサービスファーストな環境を提供するということを意識しています。
野球におけるチケット購入動線はなかなか複雑で、ご来場いただくための最初のハードルをお客様が超えられないというところに課題意識を持っており、いかに簡単にお客様がチケット購入までたどり着けるかというところを一番に考えて設計しています。さらに前述の通りチケットを買っていただくハードルを下げるために、チケットリセールサービスもFチケに搭載しています。
ただしFチケではプレイガイドで販売したチケットがリセールできないなど、我々の力だけでは足りないところもあり、ウェイブダッシュさんにもチケットリセールの場を提供いただくという方針となりました。
「公式」「公認」2つのセカンダリーがある理由
ーーファイターズのセカンダリー事情としては、Fチケによる「公式」チケットリセールと、ウェイブダッシュのチケット流通センター(チケ流)による「公認」チケットリセールの2段構えとなっています。それぞれの棲み分けについて、それぞれの視点からいかがでしょうか?
F藤野:Fチケの「公式」チケットリセールは、プライマリーと同じFチケ内にあることで、我々と接点があるよりコアなお客様に使っていただいている印象です。チケット流通センターさんの「公認」チケットリセールのほうは、ある程度ライトな方に使っていただいているのかなという印象はあります。
我々のチケットをプライマリーで買ったことがない方も、もしかしたらチケット流通センターでいろんなチケットの情報を見られている際に、我々のチケットに触れていただくという機会もあると思いますし、そういったお客さんの層の棲み分けはあるのかなと思っています。
W薗田:2021年に札幌ドームで、トライアルという形ですがFチケの「公式」チケットリセールでシーズンシートのお客様に対してリセールサービスが開始されました。同時にチケ流の「公認」チケットリセールでは一般チケット、シーズンシート、電子チケット、紙チケット、発券番号引き換えチケットの扱いもすべてやらせていただき、開業を控えたエスコンフィールドに向けて、データを共有させていただいたという歴史があります。
先ほど藤野さんがおっしゃったように「公認」チケットリセールは、もちろんライトなお客様もいるのですが、実は2021年当初からご利用いただいているお客様が、引き続きご利用いただいているケースも多いのです。
また「公認」チケットリセールの特徴は、すべての券種、特にまだまだ紙チケットをご活用いただいている往年のファンの方がスムーズに取引ができること、試合開始1時間前でも取引可能ということ、500円から出品できるので多少価格は低くなっても「ぜひ代わりに応援しに行ってもらいたい」といったお客様への受け皿になっていると思っています。
F藤野:そうですね。公式・公認両方あることで感じているメリットとしては、どの販路で購入されてもリセールに出せないチケットがないということ。どうしても公式だと、紙・発券番号は対応できないので、さまざまなお客様からの問い合わせに対して必ずご案内できるリセールサービスがあるところが一番助かるところです。
広がるセカンダリーチケットのニーズ
ーーチケットリセールで多く出ている席種はどちらですか?
F藤野:やはりシーズンシートが多いですね。北広島という立地もあるかと思うのですが、平日毎試合は来られないという方も結構いらっしゃるようで、そういうときにうまくリセールを活用いただいている方が多いです。お陰様で、シーズンシートの売り上げも過去最高を更新しまして、これはやはりリセールサービスが充実しているからというのも理由のひとつだと思います。
ーープライマリーはもちろんですけども、セカンダリーの需要も非常に高くなった試合はやはり開幕戦ですか?
F藤野:やっぱり今年の開幕3試合ですね。このチケットの価値は非常に高まりました。シーズンシートオーナーの皆様も、開幕3試合はご自身で観戦される方が多かったようで、出品自体がものすごく伸びたわけではないですが、リセール成約率はほぼ100%でしたし、価格も上限に近い金額で取引が行われていました。
また、新たな球場で初めて迎えるチケット完売の試合で、チケット関連のトラブルが無いか不安もありましたが、ウェイブダッシュさんと協力をしながら無事乗り越えられてよかったと思います。
ーー最後に、現在まで実績を重ねて見えてきた課題や、今後の発展についてお聞かせください。
F藤野:先ほど申し上げた通り、プライマリーにしてもセカンダリーにしても、ある程度お客様に使っていただきやすいような環境を整えることはできてきていると思いますが、特にリセールサービスについては公式・公認ともにまだまだ存在を知らない方も多く、さらにポテンシャルがあると思っています。認知をもっと広めていくことを、これからもウェイブダッシュさんと協力してやらせていただきたいと思っています。
W薗田:私もそうですね。まずセカンダリーの認知度をあげるためのプロモーションは、弊社が4球団公式・公認チケットリセールbyチケ流のTwitter(現・X)を開設させていただいたので、そこでどう伝えていくかだと思います。現在エスコンフィールド内のサイネージ広告で「公式・公認」のチケットリセールの違いなどをご案内していますが、球場内にとどまることなくSNSでももっともっと公開していくなどしていきたいと思います。
また、我々がもうひとつ考えているのは、プライマリーの企画チケットについてです。オリックス・バファローズさんや千葉ロッテマリーンズさんでも「公式チケットリセール感謝祭!チケ流限定特別チケット」というプライマリー販売をさせていただきましたが、そのような我々が企画したプライマリーチケットなども取り扱えるよう藤野さんともお話していきたいと考えております。
F藤野:チケットの最大のミッションは売上最大化ですが、そのためにはお客様が圧倒的にチケットを手にしやすい環境を整えることが大切だと思っています。「公式」はもちろんですが、「公認」チケットリセールでは紙チケットも出品できるといった利便性の高さは、我々としてももっとお客様に伝えていかなければならないと思いますし、チケットの総流通量が増加する、プライマリーも売れてセカンダリーも活性化するという状況を目指していきたいと思っています。薗田さん、皆さん、これからもご協力よろしくお願いします。
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