【パ・リーグ ビジネスインサイト】・・・プロ野球を支えるビジネスサイドの話を、球団スタッフやプロ野球関係者の話から紐解くシリーズ。「スポーツ界の総合商社」を目指すパ・リーグマーケティングならではの目線で、スポーツビジネスの最前線を解説していく。
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観戦チケットを取得するために、少しずつ定着してきたチケットのリセールサービス。あるいは、急な用事で行けなくなってしまったチケットをリセールするための受け皿としても機能を果たしている。
今回は、オリックス・バファローズのチケット担当者と「オリックス・バファローズ公式チケットリセールbyチケ流」を運営する株式会社ウェイブダッシュの担当者、計3名による座談会を実施。バファローズのチケットセールスの現状から、公式チケットリセールの手応え、プライマリー(一次流通)とセカンダリー(二次流通/リセール)の将来の姿まで大いに語る。
目次
・チケットセールスの業績は軒並み好調
・嬉しい悔しいを含めて楽しんでいただける場所に
・電子の手軽さ、紙チケットの味わいの二極化が見られるように
・インバウンド需要の高まりに応じたい
対談出席者(右から)
・株式会社ウェイブダッシュ 経営企画部 スポーツビジネスアライアンスリーダー
薗田好豊さん(以下、W薗田)
・オリックス野球クラブ株式会社 執行役員 事業本部長
山本康司さん(以下、B山本)
・オリックス野球クラブ株式会社 事業推進部 チケットグループ
前澤弘奈さん(以下、B前澤)
チケットセールスの業績は軒並み好調
ーー2年連続のリーグ優勝、昨年の日本一、今季もAクラスキープとチームは好調。今、プロ野球で一番“生で見たい球団”がオリックス・バファローズなのではないでしょうか。
B山本:ありがとうございます。ここまでの動員は20年、21年、22年はコロナの影響があったため、今はどの球団も2019年の動員数に戻そう、ということがひとつの目標になっていると思います。2023シーズンのバファローズは(6月28日試合前時点で)本拠地主催試合36試合を消化しています。その動員数は2019年の同時期と比較して112〜113%と増えています。シーズンシート・回数券・前売券・当日券などおかげさまで今シーズンのチケット販売は好調です。
ーー何が一番変わったのですか?
B山本:マーケティングの4Pというものがあります(編集部注:Price(価格)、Place(広義の場所)、Product(商品)、Promotion(宣伝広告))。そのうちのProduct、すなわちプロ野球で言うとチームの強さとゲーム内容、また、球界を代表する選手が多く育ってきたことは非常に重要だと思っています。加えて試合前・イニング間のイベントにも注力していました。試合内容はもちろん、開門から試合終了までグッズ購入やグルメなどを楽しんでいただけるよう工夫しています。2021年頃からしっかりとおもしろい試合をして、首位争いをするようになったことが一番の要因です。
Promotionに関してもオリ姫・夏の陣、コア層向けのオリ達・バファローズ高校野球など各種イベント告知もSNSを活用しつつしっかりとやりました。また球場(Place)に関しては梅田から約15分・駅近と最高の立地ですし、価格(Price)もダイナミックプライシングを導入しています。何がよかったかと聞かれれば、これまでやってきたことに「良い風、追い風」が吹いてきたと言う感覚です。マーケティング活動において全社一丸となって工夫していたことに結果がついてきて、それがリーグ連覇と相乗効果を生んだのでしょう。
W薗田:「風が吹いてきた」って本当に良い例えですね。チームが強くなり、露出も増えて注目度が上がったところだったわけですね。
B山本:スキージャンプに似ているような気がしますね。「良い風」を待って飛び立ち、1メートル、2メートル先、少しでも飛距離を伸ばす。今のバファローズもこれと同じ状況です。コロナの逆風もありましたが今年の5月になってようやくコロナが5類に移行し、お客様が球場に戻ってきました。加えてインバウンドで外国人観光客も来てくれるようにもなりました。外野席で応援団とともに楽しんでいるところがビジョンに映し出されて、良い雰囲気をつくっています。チーム成績がふるわないときから応援してくれていたファンも新規ファンも合わさって球場全体に活気が溢れてきましたね。コロナの終息、チームバリューの向上、日本代表のWBCでの世界一といった「良い風」にしっかり施策を合わせていくことが大事だと思っています。
ーー試合当日に来る人も増えていますか?
B前澤:今年から球団公式チケットサイト「オリチケ」で試合開始1時間後まで買えるようになったので、当日窓口で買う人自体は減っていますが、先発投手によってはオンラインで前日夜や当日に駆け込みで買う人は増えています。
W薗田:仕事が終わってからなど、気軽な感覚で当日球場に来る方も増えてきていると。
B山本:また、全天候型のドーム球場の特徴かと思うのですが、屋外での予定が雨天で変更を余儀なくされたお客様がバファローズの試合に流れてくる傾向もあります。
B前澤:実際、3月26日のオープン戦(対阪神戦)は直前にものすごく売れていましたね。この日は選抜高校野球が雨天で中止順延されていました。地元チームを応援しに来られた応援団が急遽予定を変更し、京セラドーム大阪に観光バスで来場されていたそうです。
W薗田:えっ! 野球見たさにですか?
B山本:そうです。高校野球観戦を楽しみにされていた方が、中止順延になって……。もう野球見にいくぞってモードになっているようです。
B山本:みんなスマホを持っていますし、コロナ禍でデジタル化が一気に進みましたね。飲食店でもモバイルオーダーを取り入れるところが多くなってきました。今シーズンから当日券もスマホで購入でき、球場に向かう電車の中でチケットが買えるようになりました。野球観戦がより身近に、お手軽になったと思います。
嬉しい悔しいを含めて楽しんでいただける場所に
ーー2022年シーズン終盤、能見篤史さんの引退試合や首位攻防戦などがありましたが、チケット販売において変化は見られましたか?
B山本:2022年シーズンの春先は新型コロナウイルス感染症の影響があったものの、感染状況が少し落ち着いた8月以降はチームが上位争いをしていたこともあり、首位攻防戦となったシルバーウイークの福岡ソフトバンクホークス戦、シーズン終盤の能見選手引退試合では「満員御礼」となり手ごたえを感じました。
ーー今年はやっと球場の雰囲気や活気も2019年に近づきつつありますね。
B山本:5月21日に大阪桐蔭高校の吹奏楽部が来場した際に、西野真弘選手の打席で今シーズンにレッドソックスに移籍した吉田正尚選手のバファローズ時代のチャンステーマが演奏され、ファンの大合唱を見た時には驚きました。これは楽しいだろうな、野球場はそもそもそういうところなんだろうなという気がします。仲間と行って、ビール飲んで、好きなチームを精一杯応援して。勝った負けた、嬉しい悔しいを含めて楽しんでいただける場所なのだなと再認識した出来事でした。
ーーここまで勢いがあるバファローズですが、薗田さんは今の状況をどのように感じましたか?
W薗田:21年・22年リーグ2連覇するもその間はずっとコロナ禍なので、激動の3年間だったのだろうと思います。特に大阪はコロナ禍の興行に厳しかったので公式チケットリセールも厳しい状況ではありました。そんな中でも、コロナ禍において楽しめる野球という娯楽でバファローズが優勝したことで、チームに風が吹きはじめたのだろうと感じました。先ほど山本さんがおっしゃっていたように、やっぱりProductが重要なんだな、と。
ーーまさにそういったことが追い風となって今年も順調にFC会員も増えているとのことで。球団公式SNSでは「BsCLUBの有料会員が定員間近」とありました(現在は定員により締め切り)。
B前澤:BsCLUB有料会員は前年比約120%増と、公式戦のチケット先行販売やポストシーズンのチケット購入権利などを目的に入会いただいています。
先行販売では、グラウンドに近い大商大シートやライブ指定席、飲食付きのネット裏特別指定席、応援団の近くで応援ができる下段外野指定席(ライト側)、移動に便利な通路側の座席を中心に人気が高く、シーズンを通してお気に入りの座席から観戦されたい方はシーズンシートを購入される場合もあります。
また、今年からエクストラプレミアムメンバーでシーズンシートコースが設けられました。京セラドーム大阪のシーズンシートは年間で最大64試合がシーズンシート対象試合となっているため、観戦ができない試合については「オリックス・バファローズ公式チケットリセールbyチケ流」で契約者がシーズンシートチケットを出品されるなど、セカンダリーも活発にご利用いただいています。
W薗田:2022シーズンのリセールの取引数は前年と比べて2倍になっています。基本はプライマリーとセカンダリー(リセール)の売れ方は比例しているので、大体売れ筋は一緒という結論になりますね。
プライマリー同様セカンダリー(リセール)も土日のチケットはなかなか取りづらくなったりしますが、一方で平日などは取りやすい分、価格もリーズナブルになることもあります。例えばシーズンシートの良い席がちょっと安価で観戦できたりするのがリセールの特徴です。いわばお客さんの選択肢が増えていくという形です。もちろんプライマリーでの購入が前提にはありますが、行けなくなったシーズンシートの席で観戦できる可能性などを提供できるのもリセールプラットフォームの良いところだと思っています。リセール全体の15%は日程的に行けないシーズンシートというデータもあるので、売る方も買う方も有効活用されているのではないでしょうか。
電子の手軽さ、紙チケットの味わいの二極化が見られるように
ーーほかにバファローズならではのリセールの特徴はありますか?
W薗田:電子チケットが普及しつつも、比較的紙チケットの取引も多いことですかね。これはシーズンシート(=紙チケット)という側面もありますが、コンビニ発券の習慣があったり、チケットを現物で持っていたい往年のファンの皆さんが一定数いらっしゃることも理由のひとつかなと思います。
B山本:電子チケットが圧倒的に多いですが、紙の需要もまだまだありますね。
W薗田:私も野球ファンなので、記念となる紙チケットをパウチしてそこに選手のサインが欲しいな、なんて思うんですけど(笑)。
球団の皆さんや我々がプライマリー、セカンダリーにおいて「電子チケット」「紙チケット」「コンビニ発券番号」全て用意するのはオペレーションも増えますが、お客様目線で様々なニーズに合わせた選択肢に対応していきたいですね。
B山本:私も昨年、埼玉西武ライオンズ戦(ベルーナドーム)で山本由伸投手がノーヒット・ノーランした時のチケットは紙だったので持っています。電子の手軽さ、紙の味わいと二極化していくと思いますね。
――ウェイブダッシュさんではセカンダリーの枠を超え、バファローズ戦で独自の企画チケットもされています。
W薗田:この2年で公式チケットリセールも定着し、ファンの皆様にご利用いただく方も増えてきましたので、感謝の気持ちをこめて、ウェイブダッシュが売り手となり「公式チケットリセール感謝祭 チケ流限定ビール引換券付チケット販売」を独自企画し、公式チケットリセールサイト内で販売したりと、セカンダリーの枠を超えた企画チケットのご提供もさせていただきました。
ーーここ最近で、セカンダリーの需要が高まった時のお話などはありますか?
B前澤:昨年、天王山となったシルバーウイークの福岡ソフトバンクホークス戦がプライマリーでほぼ完売でしたね。そのため、「チケットはどうやったら買える?」という問い合わせが相次ぎました。また、台風が襲来し、来られなくなった福岡在住の方が、やむをえずリセールに出品するといったこともありました。
最近ではオリ姫デーでユニフォーム付きチケットが想定より早く売り切れ、入手方法のひとつとしてリセールが活用されました。こんなにユニフォーム付きチケットは需要が高いんだとあらためて思いましたね。
ーーセカンダリーの実績を重ねる中で、見えてきた課題やその解決策は。
B山本:入場制限下で開催された「2021 パーソル クライマックスシリーズ パ」では定価に比べ非常に高額な値付けがされている出品が多く見受けられました。出品額の上限・下限の設定に限らずですが、発生した事案をふまえ、適正で安心安全な取引を行っていただくための対策を講じていくことが必要だと感じています。
公式のチケットリセールではなく、金券ショップ・オークションサイトでも売り買いはされていますが、我々の知らないところでそれらは行われているため、不正チケットを購入してしまった方が試合当日になってチケットが使えないなどのトラブルが発生することがあります。
これは優勝する前からの課題でありましたが、昨シーズン終盤になって完売も増え、今後ますますセカンダリーの需要も高まってきます。公式のチケットリセールを行うことで、売買の情報は掌握できるようになり、プライマリーの販売で採用しているダイナミックプライシング(変動価格制)の改善などにもつながります。トラブルなどの対処も容易になり、そこはものすごい進歩だと思います。
W薗田:おっしゃる通りだと思います。仮にトラブルが起きても売り手様と買い手様の情報があるので、状況に応じてその都度救済や対応ができるようになりました。実際には、我々がお客様同士のやり取りに介入する場面はそれほどなく、ほとんどが売り手様と買い手様の間のみでやり取りが行われます。公式チケットリセール内の「連絡ボード」というお互い匿名でできるチャット欄で「代わりに応援頑張ってください!」などのメッセージのやり取りにほっこりすることもあります。
3年お付き合いをさせていただいているなかで、球団の皆さんはプライマリーチケットの販売や毎回のイベント、宣伝活動など業務が多岐に渡ることがわかりましたので、やはりリセールというセカンダリーサービスは弊社にお任せいただくことも球団の皆さんには効率化につながるのではないかと思っています。また、プライマリーは球団が販売、セカンダリーは個人が販売するので、セカンダリーで出品したリセールチケットの責任は球団ではなく売り手様にあります。チケットを販売しているのはだれなのか? このへんを購入者が混しないようプラットフォームのブランディングを分けることも重要なのかなと考えます。
インバウンド需要の高まりに応じたい
ーー2023年シーズンは続きます。プライマリー、セカンダリーそれぞれの立場でどのような施策を打っていくか。今後の展望はありますか?
B前澤:来場されるお客様が増加し、デジタルチケットのご利用方法のわかりにくさなどプライマリーの改善点が見えてきた部分があります。球団公式のプラットフォームはプライマリー・セカンダリーともにインバウンドの影響でこれからもっと使われていく期待もあるため、よりブラッシュアップしていきたいです。
W薗田:インバウンド需要も高いのですね。
B山本:そうですね、今シーズンになってからは欧米の方が多い印象です。ちょっと前は中国・台湾・韓国などアジア系の方が多い印象でしたが明らかに欧米の方が多くなってきています。
それに、大阪では万博があります。大阪の球団として盛り上げていかなければならないと思っています。インバウンドも増えていますし、関西の価値が上がってくる数年間です。プロ野球界では阪神タイガースさんとバファローズが関西を盛り上げなければなりませんが、そのためにまずはチケット。プライマリーもセカンダリーも十分に用意していかなければなりません。インバウンドにも対応しながら、プライマリーではより多くの皆様に前売券を購入してもらい、ゆくゆくはシーズンシートご契約者様増と段階をふんでチケットの価値が高まっていくような好循環を作っていきたいですね。法人のお客様はシーズンシートを取引先のお客様の接待でも活用いただけますし、個人でご購入されるファンの方もお気に入りの座席から観戦いただけます。一方で64試合すべてを観戦することは難しいので、行けない試合はセカンダリーで別の人に使ってもらえます。流通が活性化して、最後に行きたい人が行ってくれればという思いです。
B前澤:プライマリーの需要が年々高まっていくことを実感しているので、セカンダリーのプラットフォームとしてウェイブダッシュ様と提携することで、トラブル発生時のアフターフォローが以前よりも行き届くようになり、安心してセカンダリーをご利用いただける環境が整ってきたのではないかと考えています。
2023年5月には新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類感染症に変更されましたが、さらにセカンダリーを活用してチケットの流動性を高めていければと思っています。
W薗田:今後可能であれば、プライマリーとセカンダリーのシステム連携をしてもいいのかなと思います。どういう人が買って、最後誰が座っているかなどの情報を相互的に可視化すればより安心安全で、また使いやすくなるかなと。ただそれを一社でやるのはやはり業務も責任も倍になるので、それぞれの会社をシステムで繋ぎ、それぞれの立ち位置でデータ活用するのが今後の目標なのではと思っています。また、更なる視点として国内販売をこえたインバウンド需要を取り入れるなど、今後も多くのファンの皆さんのニーズに応えられるよう球団様と協力しながらセカンダリーもさまざまな対応をしていきたいと思います。
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