激動の2021年を越えて。千葉ロッテマリーンズが取り組むチケット販売のいま【パ・リーグ ビジネスインサイト】

パ・リーグ インサイト 海老原悠

千葉ロッテマリーンズ 飯田健太さん、ウェイブダッシュ 薗田好豊さん、千葉ロッテマリーンズ 九里裕一郎さん(C)PLM
千葉ロッテマリーンズ 飯田健太さん、ウェイブダッシュ 薗田好豊さん、千葉ロッテマリーンズ 九里裕一郎さん(C)PLM

【パ・リーグ ビジネスインサイト】・・・プロ野球を支えるビジネスサイドの話を、球団スタッフやプロ野球関係者の話から紐解くシリーズ。「スポーツ界の総合商社」を目指すパ・リーグマーケティングならではの目線で、スポーツビジネスの最前線を解説していく。

◇ ◇ ◇

 観戦チケットを取得するために、少しずつ定着してきたチケットのリセールサービス。あるいは、急な用事で行けなくなってしまったチケットをリセールするための受け皿としても機能を果たしている。

 前回は「埼玉西武ライオンズ公式チケットリセール by チケ流」のキーパーソンたちに、公式チケットリセールサービスの取り組みから実施までと、その手応えをうかがったが、今回は、千葉ロッテマリーンズのチケット担当者と株式会社ウェイブダッシュの担当者、計3名による座談会を実施。千葉ロッテマリーンズのチケットセールスの現状から、公式チケットリセール開設から1年半を経ての手応え、プライマリー(一次流通)とセカンダリー(二次流通)の将来の姿まで大いに語る。

目次

・激動の2021年を振り返って
・千葉ロッテマリーンズが取り組むチケット販売のいま
・セカンダリーに期待していたこととは
・「公式」チケットリセールであるメリット
・観客動員数の過去比較
・2022年のセカンダリーの状況は?

千葉ロッテマリーンズ 九里裕一郎さん、ウェイブダッシュ 薗田好豊さん、千葉ロッテマリーンズ 飯田健太さん(C)PLM
千葉ロッテマリーンズ 九里裕一郎さん、ウェイブダッシュ 薗田好豊さん、千葉ロッテマリーンズ 飯田健太さん(C)PLM

対談出席者(左から)
株式会社千葉ロッテマリーンズBtoC本部 コンシューマビジネス部 チケットグループ グループ長
九里裕一郎さん(以下、M九里)
株式会社ウェイブダッシュ 経営企画部 スポーツビジネスアライアンスリーダー
薗田好豊さん(以下、W薗田)
株式会社千葉ロッテマリーンズ BtoC本部 コンシューマビジネス部部長
飯田健太さん(以下、M飯田)

――まず、プロ野球業界にとっても激動と言えたであろう2021年を振り返っていただこうと思います。2021年は東京オリンピック開催での日程変動や新型コロナウィルス感染症予防策での入場制限もあり、いろいろ大変だったと思います。当時を振り返っていかがでしたか?

M九里:2021年は大幅な入場制限がありまして、開幕してからは5,000人または10,000人での販売となり、最終的には50%以内(ZOZOマリンは15,000人)になりました。チームは最終戦に入っても好調で、観戦を希望されるファンの方々も増えていったという状況でした。2021年の開幕前に、ウェイブダッシュさんの力をお借りして「千葉ロッテマリーンズ公式チケットリセール by チケ流」を立ち上げたことで、ご都合が悪くなって来られなくなったファンの方がチケットの出品(掲載)をされて、プライマリー(一次流通)で購入できなかったファンの方々に対してセカンダリー(二次流通)をご案内でき、より多くのファンにリアル観戦いただけるようになったと思います。

――観客動員が好調で、ある意味チケットがプレミア化していたという話もお聞きしました。

M九里:先行販売もかなり早い段階で売り切れてしまっていましたね。

――飯田さんは2021年を振り返っていかがでしたか?

M飯田:昨年に関しては、入場制限によってチケットの需要が高まった感覚です。更に注目度の高い試合に関してはプライマリーで完売するケースが多かった印象です。その中でも球団公式のセカンダリーサービスを展開させていただくことで、ファンの方々が安心して売買を行うことができる場を提供できていたのかなと思います。

――変則的な日程や動員制限があるなか、担当者としても苦労した部分があったのではないでしょうか。

M九里:行政が設定するイベント等の観戦・販売に関するルールに従って販売準備を進めないといけなかったのですが、そのルールは社会情勢に応じて毎月のように変化する状況でしたので、我々はそれに対応するため、チケットの発売スケジュールを細分化していました。通常であれば月単位、年間6回ほど発売タイミングを設定して販売していますが、昨年は十数回にもおよびました。

W薗田:当時は九里さんや球団の皆さんが大変というのは大前提なので、それを我々はどうサポートしていくかということしか考えていなかったです。入場制限の中、貴重なチケットが無駄にならないよう、ひとりでもファンの皆さまに球場へ行っていただければ我々もサポートしがいがあると考えていました。

株式会社ウェイブダッシュ 経営企画部 スポーツビジネスアライアンスリーダー 薗田好豊さん
株式会社ウェイブダッシュ 経営企画部 スポーツビジネスアライアンスリーダー 薗田好豊さん

――薗田さんから「大変そうだ」との言葉がありましたが、コロナ禍でチケット販売の取り組みとして変わったことはありますか。

M飯田:2020年シーズンからダイナミックプライシング(以下、DP)を導入しました。ただコロナ禍だから導入したわけでなく、もともと2020年からテスト的に導入しようと思っていました。

従来のプロ野球のチケッティング事業においては、これまでフレックスプライスがスタンダードで、例えば開幕戦やゴールデンウィーク、シーズン終盤戦といった球団にとって特別な試合は、ファンの皆さまにとっても特別な試合ですので、プライスにも価格差がありました。

ただ、その需給バランスは、あくまでも我々の経験則で設定していますので、実際の需給バランスとのギャップが生じることもありました。需要が高まる瞬間は、多くの方にチケットをご購入いただいている瞬間であり、それに応じて価値が変動していく仕組みではありませんでした。

多くの方にZOZOマリンスタジアムでのマリーンズ主催試合に興味を持っていただき、チケットをご購入いただいて、そこで初めて、チケットの価値というものが明確になります。需要が高まってくればもちろん価値変動し、需要が低ければ逆の価値変動が生じるというところが、DPの大前提になります。

W薗田:DPを導入されているというのは、先進的な考えだなと思っています。DPはある意味、球団の動向にファンの皆さまがその価値を決めていくということだと思いますので、関わる球団の皆さまも緊張感があると思います。また“その日の適正価格を決めていく”という意味では、チケットが比較的取りやすい平日は週末と比較すると需要が低いため、平日こそ球場に行きやすくなるというのが私たちのDPのイメージです。平日を含めたファンや球団の皆さまの動向に伴うものなのではないかと感じました。

株式会社千葉ロッテマリーンズ BtoC本部 コンシューマビジネス部部長 飯田健太さん
株式会社千葉ロッテマリーンズ BtoC本部 コンシューマビジネス部部長 飯田健太さん

――2021年3月からのサービス開始を目標に、サービス設計などの相談をウェイブダッシュさんと重ねていたと思うのですが、当時を振り返っていただいて、セカンダリーに期待していたことはなんでしょうか。

M九里:我々は一度ご購入いただいたチケットはキャンセルできませんという前提のもとで販売しており、急な用事などで試合観戦が難しくなったという方の救済は我々では難しいため、ウェイブダッシュさんの力をいただいて、チケットをお持ちの方もウェイブダッシュさんもマリーンズもWin-Winになることを期待しました。結果的に期待通りの取り組みができているのかなと考えております。

W薗田:ありがとうございます。結果的にはファンの皆さまが公式チケットリセールを使っていただけているからだと思います。我々は個人間売買のプラットフォームであって、ファンの皆さまがチケットを掲載、購入していただかないと実績はゼロ。“売買の場”を提供しているだけなのです。そこをファンの方々にルールを理解して使っていただいているので、チケットが動いている。という状況なので、まずはファンの皆さまに感謝したいです。

シーズンシートの取扱いも、平日はやはり来場しづらいオーナーさまもいらっしゃるため、当初からマリーンズさんとは積極的にやりたいという話をしていました。もともとは個人間売買が中心のサービスのため、法人さまの利用は想定していなかったのですが、システムの開発をして、法人のお客さまにもご利用いただけるようにしました。こうしてシーズンシートのオーナーさまに広くご利用いただけるというところは、マリーンズさんのチケットリセールの一番の特徴ですね。

M九里:ウェイブダッシュさんとシーズンシートのオーナー様向けのシステムを作ったきっかけは、「個人のお客さまは出品しやすいけれど、法人のお客さまだと出品しにくいですよね」というところでした。従業員の方が個人的に出品して、そこで収益を得てしまうと、従業員の方の立場が悪くなってしまうのではないかなと。管理している(総務などの)部署が代表して法人登録を行い、その方が窓口になっていただけるのであれば、実際は法人でも問題ないのではと。

W薗田:そもそも一度購入したチケットをリセールするには古物の売買に関する基礎知識が必要ですし、シーズンシートオーナーのような法人事業者が販売する場合は「特定商取引法に基づく表記」対応が必要になります。そのような法律・法令等への対応は、元々チケット流通センターで培った経験やノウハウを生かすことができました。

株式会社千葉ロッテマリーンズ BtoC本部 コンシューマビジネス部 チケットグループ グループ長 九里裕一郎さん
株式会社千葉ロッテマリーンズ BtoC本部 コンシューマビジネス部 チケットグループ グループ長 九里裕一郎さん

――利用されたユーザーの声や意見をどのように受け止めていますか?

M九里:出品された方々のコメントを見ていると、お子さまが骨折をしてしまって、家族連れで本当は行きたかったのに行けなくなってしまったので、泣く泣く出品しますというケースもあります。そういった方々が、行けなかった悔しい気持ちを少しでも和らげることができればと思っています。

――「引き取り手が見つからないチケットはただの紙切れになる」というようなお話が、前回のライオンズさんと薗田さんの対談でもありました。たしかに、球団としても球場内飲食やグッズなどの売上につながらないという点で損失となりますし、お客さまとしても多少はチケット代金が戻ってくることで、行けなかった悔しい気持ちを少しは消化できるのではないでしょうか。


W薗田:今回の千葉ロッテマリーンズをはじめ、2020年に埼玉西武ライオンズ。2021年に北海道日本ハムファイターズ、オリックス・バファローズの4球団が公式・公認としてサービスを始めたことで、パ・リーグ4球団の取り扱いが飛躍的に増加しています。一般のファンの方はそもそも個人間売買を知らなかったり、チケットリセールに対するハードルや不安感もあったりします。そこで球団が公式チケットリセールを整備することでリセールサービスへの障壁が取り払われ、行けなくなったチケットを売りたい・譲りたいという潜在的なニーズに対して適切なサービスを提供することができ、ファンの皆さまに気軽にご利用いただけるようになったのではないかと思います。

M飯田:顧客間の売買が発生するCtoCはパトロールが重要です。特に出品する方々のマネジメントが重要ですが、インターネットだと対面販売と異なり、目視で正しい取引が行われているかを確認することは不可能に近いです。ですので、CtoC間でのルールの設定や、不正やトラブルを限りなくゼロに近づかせるようなパトロールがあってはじめて、球団として名前と「公式」のサインを出せるというところが前提としてあります。ウェイブダッシュさんにそういったところを丁寧に監視いただけているので、我々としては非常に安心をしています。

W薗田:マリーンズさんは、最近よく使われている電子チケットに加え、紙チケットやプレイガイドの発券番号、またグッズ付企画チケットなど、ファンが自分にあった販売先やチケットを広く提供されています。売り手様からはさまざまなチケットの掲載がされますので、可能な限り掲載内容の確認をしており、掲載できないチケットだったりする場合、掲載を削除して売り手様にお伝えしています。

さらにお取引に入った後、例えば紙チケットだとユーザー間で発送・受取するという手作業が発生します。電子チケットでも分配方法により、ごくまれですがトラブルが起きる可能性もありますので、不正やトラブルをゼロに近づけるために、システムとカスタマーサポートで運用しています。デジタルな「システム」とアナログな「人」でカバーしていかないと、さまざまなチケットのリセールは成立しないのです。

――2021年とも状況が異なる2022年。変わったところ変わっていないところを含めて、現況はいかがでしょうか。

M飯田:今年は入場制限がなくなりましたので、事業規模も昨年と比べ大きくなっているというのは事実ですが、コロナ前に戻っているかといわれると、まだそこまでは至っていません。今年のマリーンズ主催試合の来場者数はコロナ前2019年の約90%(7月末時点)で推移している状況です。

今後、事業として向き合ううえで特に重要なことは、この3年間で足が遠のいてしまった方々とのコミュニケーションです。多くの方にマリーンズ主催試合に足を運んでいただきたいので、興味を持っていただけるような企画、情報発信を継続的に行っていく必要があります。

W薗田:実際今シーズンもマリーンズさんの一番の特徴であるファンの声出しの応援がまだ聞けないのが悲しいですね。

M飯田:本当にその通りで。これまでZOZOマリンスタジアムでのマリーンズ主催試合は、外野席の観戦ニーズが高い状況でしたが、声出し応援が困難なご時世ですとこれまでの売れ方とは変化が生じています。

W薗田:そういった意味では、マリーンズさんが一番(コロナ禍で)インパクトが生じていると、ひとりのプロ野球ファンとしては思っています。あの声出しの応援こそマリーンズさんというイメージです。

――ファンのみなさんと同じように、球団も本当に声出し応援の機会を待っているのですね。

W薗田:当社調べではありますが、実はマリーンズさんの2021年の取引率は、一般的なセカンダリーの平均と比較して20%以上も上回っています。

M飯田:売り手が出品しないと買い手も集まらないという点では、まずは売り手にとって重要なのは取引率だと思いますし、セカンダリーはスポーツ観戦に限らずさまざまなシーンで活用されていると思いますが、その平均を上回っているということは良いことだと思います。

――2022年のセカンダリーの現況はいかがでしょうか。

W薗田:実は枚数で言うとすでに去年を超えていくペースです。もちろんこれは、プライマリーの販売数が増えているので、当然のことですが。

――2021年がイレギュラーだった分、2022年がこれからのセカンダリーの指標になっていくということですね。

M飯田:チケットをご購入いただく方は、チケットそのものにお金をお支払いいただいているのではなく、「そこに行きたい」という動機が存在し、そのための手段としてチケットをご購入されています。そのため、空間に価値を作ることができなければ、お客さまはその手段を使うことはありません。選手は試合に勝つためにプロとしてのパフォーマンスを行いますが、我々のような事業サイドもお客さまに楽しんでいただける空間を作ることが重要です。

チケット事業は、単にチケットを販売することだけを考えるのではなく、皆さまに対して非日常的な体験価値を提供していくという思想が重要だと思っています。

実はそのような発想のなかで、社内の組織も変わりました。今年の4月にチケット事業に取り組むグループと、顧客データベース強化としていわゆるファンプラットフォームを創出していくためのグループが一つの部に統合されました。現在マリーンズではチケットやグッズをご購入いただく際に「マリーンズID*」にログインいただくようにしていますが、データ取得とデータ活用の両面を強化し、これまで可視化しきれていなかった定量データを用いた分析や、的確なマーケティング施策を行うことができるようになっています。

今年4月、佐々木朗希投手が完全試合した際は注目度が上がりました。
佐々木朗希投手をひと目見たい、応援したいという思いから、チケットを買ってみようかなというきっかけとなり、本当に多くの方に新たにマリーンズIDを取得いただきました。このサイクルが、そのほかのマーケティング施策でも生まれていくと良いなと思っています。

セカンダリーに関しても、プライマリーで最大化された価値を最大限活用していくプラットフォーム=セカンダリーという立ち位置ですので、今後はマリーンズIDとの連携は検討していければと思っています。


W薗田:先程も飯田さんがおっしゃっていたとおりで、ファンの皆さんは空間や時間を買うパスとしてチケットを買っているので、価値が“モノ”ではない分、そこに行けなくなった場合、価値もなくなってしまう。だからこそその価値を持続することを目的としてセカンダリーに掲載し、違う方に譲っていただくことが重要になります。私もマリーンズさんともっと連携をしてやっていきたい。プライマリーとセカンダリーが連携して、運用はもちろん、システムも含めて追求していきたいと思っています。

――マーケティング的にも、ID連携をすることでプライマリーで手に入れたものがセカンダリーに渡っていく過程を見られたらいいですね。

W薗田:はい。そうだと思います。我々もセカンダリーとしては進化していかなくてはいけないので、アナログな運用面も大切ですけど、デジタルとしてシステムのところも大切にしていきたいですね。

◇ ◇ ◇

 従来のチケット戦略の概念を覆すような、2球団とウェイブダッシュの先進的な試みを2回にわたってお伝えしてきた。

※前回(22.8/2)記事『西武ライオンズが決断した「チケットのセカンダリーサービス」という選択』


 プロ野球観戦とは兎にも角にもまずはチケットを入手しなければ始まらない。その入手経路の選択肢が増えたことの裏側には、チームと観客の架け橋として奮闘する、プライマリー、セカンダリーそれぞれの担当者の尽力があった。今シーズンも残すところあとわずかだが、今後チケットを入手する際には、ぜひ彼らの話を思い出していただければ幸いだ。


※対談は新型コロナウイルス感染症対策に配慮して行われました。撮影時のみマスクを外しています。

インタビュー・文 海老原 悠

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記事提供:

パ・リーグ インサイト 海老原悠

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