台湾プロ野球最多の通算991勝、リーグ7度制覇、捕手出身の「諸葛洪中」
今季から二軍公式戦に参入する台湾プロ野球第6の球団、台鋼(TSG)ホークスは1月16日、台北市内のホテルで監督発表記者会見を行い、初代監督に洪一中氏が就任することを発表した。
記者会見は、洪一中氏の名がただちに明らかにされるのではなく、サンドアートのパフォーマーが洪氏の選手、指導者時代の名シーンを次々と描き、司会者がエピソードを紹介するというユニークな形でスタートした。
その後、司会から正式に初代監督として紹介された洪一中氏は、拍手の中、スーツ姿で登壇。台鋼グループの謝裕民会長から帽子とスタジアムジャンパーを着せてもらうと、すぐにファスナーを引き上げた洪氏は、再び戦いの場に戻ってきた喜びと緊張感が入り混じったような神妙な表情を浮かべた。
さらに、王炯棻・球団董事長からは額縁入りの記念ユニフォームが贈られた。背番号は、選手として13年、指導者として18年、これまで31年間のプロ野球生活で一貫して背負ってきた「2」となった。
洪一中氏は、台鋼ホークスが本拠地をおく南部・高雄市出身の61歳。アマチュア時代から名捕手として知られ、ソウルオリンピックなど各国際大会に出場、プロ野球でもスタープレーヤーとして、ゴールデングラブ賞を7回受賞した洪氏は、台湾球界を代表する捕手出身の名将だ。
La Newベアーズ(楽天モンキーズの前身)では、監督就任2年半で台湾シリーズを制覇、特にチーム名をLamigoモンキーズに改めた桃園移転後、黄金時代を築き、チームを9年間で6度、台湾一に導いた。リーグ3連覇を置き土産に2020年からは富邦ガーディアンズの監督に就任、富邦では好成績は残せなかったものの、監督通算勝利数991勝、リーグ制覇7回はいずれも最多だ。
短期決戦の戦いぶりへの評価も高く、2008年には、北京オリンピック世界最終予選と本大会、2019年にはプレミア12でナショナルチームの監督を務めたほか、一昨年、最終的に出場を辞退した東京オリンピック世界最終予選でもチームを率いる予定であった。その「知将」ぶりから、台湾では『三国志』の軍師「諸葛孔明」をもじって、「諸葛洪中」と呼ばれることもある。
昨年、台湾プロ野球に加盟した台鋼ホークスは、チーム発足時に就任した林振賢統括コーチを皮切りに、ルイス・デロスサントス打撃コーチ、先日就任が明らかになった元埼玉西武のファーム・ディレクターの横田久則投手コーチら、既に8人のコーチが決定していたが、洪一中氏の監督就任により、ついに最後のピースが埋まることとなった。
契約は3年、洪監督は「規律あるチームをつくり、南部のファンの誇りに」と意気込み
劉東洋GMは、第6の球団としてリーグ参入の意向を示してから、監督決定まで約1年かかったことについて、洪一中氏が、富邦と契約期間中であったことが大きかったと説明、背番号「2」を空けていたことも、洪氏を監督の筆頭候補として考えていたからだ、と明らかにした。台鋼では並行して外国人監督も候補の一人としていたというが、昨年末、洪氏が顧問をつとめていた富邦との契約が満了となったことから、双方は正式に接触、チームカルチャーに対する理念が一致したことから、監督就任を依頼したという。
なお、洪一中氏との契約期間は3年、劉GMによると、2年目まで監督を務めることは決定しているが、3年目のポストについては改めて検討するという。
これまで洪監督が率いてきたチームとは異なり、台鋼ホークスは、文字通りゼロからの新チームだ。昨年のドラフト会議で指名した選手はいずれも10代後半から20代半ば、エクスパンション・ドラフトや他球団を戦力外となり獲得した選手もいずれも20代だ。
試合中の「懲罰交代」も多く、台湾の指導者の中では厳格と言われる洪監督だが、「チームが若いということは、良くない習慣も少ないだろう。その点では、やりやすい」と期待、そのうえで、「自分が選手に対して求めるレベルは高い。規律あるチームをつくりたい。選手たちがロールモデルとなることで多くのファンを集め、将来的にホークスが、南部の野球ファンにとって誇りとなれば」と力を込めた。
洪監督は、昨年末まで富邦で顧問を務めていたこともあり、選手については十分に把握していないといい、チームの方針や選手起用、采配については、コーチ陣としっかりとコミュニケーションをとり、意見を聞いた上でまとめていきたいと述べた。そのうえで、「自分はディフェンス面については日本スタイルが好みだ。埼玉西武でファーム・ディレクターを務めた横田コーチには、ぜひとも西武での経験を伝えてもらいたい」と希望した。
今季は二軍スタート、WBC参加国との練習試合、「育成型外国人選手」獲得プランも
上述したように、今季、台鋼ホークスの戦いの場は二軍となる。2月下旬からは練習試合を戦うほか、台湾の『ミラーメディア』によると、3月上旬に中部の台中で開催されるWBCの直前には、台湾と同グループのキューバ、イタリアとの練習試合が予定されているという。台鋼の若い選手達にとって、現役メジャーリーガーやNPB一軍でプレーする選手たちが含まれる強豪国との対戦は、良い経験になるだろう。
また、洪監督は、二軍公式戦を戦うにあたって、「育成型外国人選手」を獲得する方針を明かした。これは、共にプレー、トレーニングをすることで、若手選手にいち早く、外国人選手との対戦にアジャストさせることが目的だといい、レベル的には、現時点では母国のトップリーグでプレーできていない若い外国人選手を想定しているという。
待遇はあくまでも二軍レベル、タフな環境となりそうだが、パフォーマンス次第では正式な外国人選手に登用する可能性もあるといい、ルイス打撃コーチにはアメリカ、横田投手コーチには日本での候補探しを依頼しているとしている。台湾で飛躍のきっかけをつかみたいと考える、日本選手の加入を期待したいところだ。
なお、台湾プロ野球を運営するCPBLは、今年のオフ、アジアウインターリーグの再開を発表しており、台鋼ホークスは単独チームで参加するとみられる。日本のチームの派遣は現時点では未定だが、これまで通りNPBやJABA選抜が参加、対戦することになれば、日本のファンにとっても、より身近に感じられるようになるだろう。
このコーナーでは今後も、台鋼ホークスの話題をお伝えしていく予定だ。「名将」就任で話題を集める台湾プロ野球第6の球団の動向に、ぜひ注目していただきたい。
文・駒田英
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