【台湾プロ野球だより】第6の球団、台鋼ホークスの投手コーチに元西武の横田久則氏が就任

駒田英(パ・リーグ インサイト)

2023.1.10(火) 07:30

台鋼ホークス橫田久則 写真:TSGホークス球団提供
台鋼ホークス橫田久則 写真:TSGホークス球団提供

台湾とも「縁」。兄弟エレファンツで最多勝&指導者、西武でも台湾投手をサポート

 新年快樂(あけましておめでとうございます)! 今年もこちらのコーナーでは、台湾プロ野球の最新の情報を、現地からお届け。本日は、昨年台湾プロ野球に加盟、今季から二軍公式戦に参入する第6の球団、台鋼(TSG)ホークスに日本人コーチが就任した話題をお送りしよう。

 正月など伝統的な行事は旧暦でお祝いする台湾、台鋼ホークスは1月1日、横田久則氏の投手コーチ就任を発表した。

 台鋼の劉東洋GMは、台湾プロ野球を運営するCPBL(中華職業棒球大聯盟)の出身。NPBの事情に明るく、日本球界に広い人脈をもつ台湾球界きっての「日本通」だ。昨年8月末には、井端弘和氏の客員守備コーチ就任を発表、井端氏は秋季キャンプで約1週間にわたって内野手を指導し、春季キャンプでも再度来台する予定となっている。また、9月末には、30年以上のキャリアをもつ野球日本代表のヘッドトレーナー、河野徳良氏の国際顧問就任を発表、河野氏はキャンプインから立ち会ったほか、日本人の城所竜一トレーナーが秋季キャンプに続き、春季キャンプも来台し、選手のコンディション維持、フィジカル強化を統括することとなった。

 そして、劉GMがかねてから日本人指導者を招聘したいとしていた投手コーチに、近年は、埼玉西武でファームディレクターを務めていた横田久則氏が就任する。

 怪我に苦しみながらも幾度も復活、190センチ近い長身から投げ下ろす直球とフォークのコンビネーションで、西武、千葉ロッテ、阪神の3球団で実働11年間プレー、26勝をあげた横田氏は、台湾との縁も深い。

 2002年、阪神から戦力外通告を受けると、兄弟エレファンツ(現・中信兄弟)で指導者を務めていた榊原良行氏からの誘いを受け入団。既に35歳でフィジカルは万全ではなかったものの、制球力とフォークで三振の山を築き、初年度の2003年、キャリア最多となる164回2/3を投げ、現在もチームのシーズン記録として残る13連勝を含め、16勝(3敗)をあげ最多勝に輝いた。翌2004年も投球回は140回1/3、9勝をあげたが同年限りで引退。兄弟球団から要請を受け、翌年から2年間、投手コーチを務めた。スタイルの良さ、温厚な人柄で、台湾のファンの人気も高かった。

横田投手の兄弟エレファンツ時代 写真・職業棒球雑誌提供
横田投手の兄弟エレファンツ時代 写真・職業棒球雑誌提供

 BCリーグ(当時)富山の指導者を経て、2012年から古巣西武に復帰。一軍投手コーチに就任した2015年には台湾から郭俊麟(現・富邦ガーディアンズ)が、二軍監督に就任した2016年には「C.C.リー」こと李振昌(現・中信兄弟)が入団。2人にとっては台湾の事情を熟知し、中国語でやりとりできる横田氏の存在は大きかったようで、「本当にお世話になった」と口を揃えている。李振昌に至っては、2018年、台湾プロ野球のドラフト会議で中信兄弟から1位指名を受け入団すると、感謝の思いを伝えたいと、横田氏が兄弟時代につけた背番号「34」をわざわざ選んだほどであった。

劉GMは、横田氏の豊富な経験を高評価。今季は全6球にフルタイムの日本人指導者が

 劉GMは、チームづくりの要といえる投手コーチに横田氏を招聘した理由として、「埼玉西武において二軍監督、一軍投手コーチのほか、ファーム・育成グループでディレクターを務め、選手育成において豊かな経験をもつ」と説明、10代後半から20代前半の選手が大部分と若い台鋼投手陣の育成に最適の人材だと強調した。劉GMはさらに、「台湾で選手として活躍し、指導者も務めた点は得難い。どうやって台湾の選手たちとコミュニケーションをとり、指導するか知っている。」と述べた。

横田コーチの兄弟エレファンツ時代  写真・職業棒球雑誌提供
横田コーチの兄弟エレファンツ時代  写真・職業棒球雑誌提供

 交渉の過程では、選手、指導者として長年在籍した西武球団に対する横田氏の思い入れの強さを感じたというが、同時に横田氏には、選手、指導者として重要なキャリアを積んだ地、台湾への恩情もあったといい、悩み抜いた末、最終的にオファーを受諾、劉GMはすぐさま渡辺久信GMに電話を入れたという。 

 横田氏はまだ台湾入りしていないが、すでに投手コーチとしての「任務」はスタートしている。昨年12月上旬に行われたエクスパンション・ドラフトにおいて、獲得選手の選定にあたっては、横田氏に映像を送ったといい、2021年に5勝をあげるも、フォームを乱し苦しんでいる元楽天モンキーズの24歳のサブマリン張喜凱の獲得は、能力を高く評価した横田氏のアドバイスをもとに決定したという。

 なお、横田氏の台鋼投手コーチ就任により、全6球団にフルタイムの日本人コーチが誕生したことになる。台湾プロ野球では、昨季台湾シリーズを制した後期優勝の中信に平野恵一一軍打撃兼野手統括コーチが、前期優勝の楽天では、留任となった古久保健二一軍ヘッドコーチ、川岸強二軍首席投手コーチに加え、真喜志康永氏が新たに一軍総合守備走塁コーチに就任した。さらに、味全ドラゴンズでは留任の高須洋介コーチが二軍打撃コーチに配置転換、統一7-11ライオンズでは、玉木朋孝氏が一軍守備コーチに新たに就任したほか、富邦でも、垣内哲也氏が一軍打撃コーチに、秋季キャンプで客員コーチをつとめた酒井光次郎氏が二軍投手コーチに就任した。アラフォー世代以上の皆さんは、コーチ陣の顔ぶれを見ただけでも、興味をひかれるのではないだろうか。

首脳陣のピースが埋まり、あとは監督を残すのみ。あの「名将」が就任か?!

 1月1日、横田氏の投手コーチ就任のほか、昨年まで楽天で二軍内野守備コーチをつとめていた蔡昱詳氏の打撃コーチ就任、そして、客員内野守備コーチだった鄧蒔陽氏が正式に内野守備コーチに就任することも発表された。

 これにより、昨年6月、リーグ加盟時に就任した林振賢統括コーチ、7月に就任した黃甘霖外野守備コーチ、9月に就任したルイス・デロスサントス打撃コーチ、蕭任汶投手コーチ、鄭漢禮バッテリーコーチらと合わせ8人体制となった。元兄弟の選手、指導者が多く、横田投手コーチにとって蕭投手コーチ、鄭バッテリーコーチは、かつてのチームメイトでもある。

 劉GMは「コーチ陣の顔ぶれがほぼ決定した。残りは監督のみだ」と述べ、1月27日のキャンプ入りまでに決定すると説明した。

 注目の監督人選だが、台湾プロ野球通算最多勝(992勝)監督、楽天の前身、ラニュー・ベアーズ/ラミゴ・モンキーズを7度のシリーズ王者と常勝軍団に変えた「名将」、洪一中氏の就任を予想する声が多く、昨年末、顧問をつとめていた富邦との契約が満了したことで、その可能性はより増したと見られている。ちなみに、洪氏は、チームの本拠地、南部・高雄の出身、そして兄弟エレファンツのチーム設立時のメンバーで、かつて、ルイス打撃コーチとも共にプレーした。

 これに対し、劉GMは、経験豊富な洪氏は当然、監督候補のひとりだとしたうえで、全くの新チームである台鋼ホークスに対する洪氏の考えをヒアリングしたあとに評価、検討をしたいと述べ、明言は避けた。そして、外国人監督を含め他にも候補はいる、とも述べた。果たして、台鋼ホークスの初代監督は一体誰になるのか、続報に注目だ。(情報は1月3日時点のもの)

文・駒田英

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駒田英(パ・リーグ インサイト)

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