2名の若手投手が飛躍する触媒となり、チームの勝率も向上させた
2020年から2年連続で2位に入り、今季は最終盤まで優勝争いを繰り広げた千葉ロッテ。チームの好成績を支えている理由の一つとして、シーズン途中のトレードが成功している点が挙げられる。昨季は澤村拓一投手、今季は国吉佑樹投手と、2年続けて途中入団の投手がセットアッパーに定着し、防御率1点台の快投を披露。それに加えて、今季は加藤匠馬選手の加入も、チームにとって重要なファクターとなっていた。
以前取り上げた、佐々木朗希投手の記事と小島和哉投手の記事に示されている通り、この2投手は加藤選手とバッテリーを組むようになってから、大きく成績を向上させている。また、加藤選手が先発出場した試合のチーム成績は23勝17敗6分の勝率.575と、チーム全体の勝率(.540)を上回る数字に。一時は先発出場時の勝率が.700を超えた時期もあるなど、加藤選手の存在は、後半戦にチームを勢いづかせる要素の一つとなった。
ただ、加藤選手は移籍後だけで2本塁打を放ったものの、打率は.095と低調で、打撃面での貢献度は低かった。それでも加藤選手が起用された理由と、その強みが生きた理由はどこにあったのか。今回は、千葉ロッテの捕手事情全体を紐解くことで、加藤選手が活躍した理由について考えていきたい。
田村選手の故障離脱に伴い、多くの捕手が起用されたが……
まず、今季の千葉ロッテで一軍出場した捕手登録の選手と、その打撃成績を紹介しよう。
加藤選手は先述した通りに後半戦において「勝てる捕手」としての存在価値を示したが、OPSは.300と低く、1死1塁からバントを指示されるケースも少なくなかった。それでも加藤選手が継続的に起用された理由として、他の捕手陣も軒並み打撃成績が低調だったことにある。
田村龍弘選手は10月に月間打率.333と意地を見せたが、故障による離脱もあり、終盤まで打撃の状態がなかなか上がらなかった。昨季に続いて2番手捕手を務めていた柿沼友哉選手と、故障者が続出した時期に一軍昇格して好リードを見せた江村直也選手も、加藤選手と同じく「守備型の捕手」という位置づけは脱せていない。
現チームでは貴重な「打てる捕手」として期待される佐藤都志也選手は、6月4日の横浜DeNA戦で1試合2本塁打を放ち、9月には月間打率.300を記録。ポストシーズンでも2本の適時打を放つなど、好調時にはインパクトのある打撃を披露した。だが、年間を通じた成績は打率.205と、「打てる捕手」と呼べるだけの領域には至っていない。
吉田裕太選手はオープン戦で打率.500と絶好調の打撃を見せて開幕一軍の切符を掴み、開幕戦では代打本塁打を記録するすばらしいスタートを切った。しかし、その後は安打を1本も記録できないまま、故障で戦列を離れることに。宗接唯人選手は捕手の離脱が相次いだタイミングで一軍に昇格したものの、1打数のみとチャンスに恵まれぬまま来季構想外に。
正捕手定着のためには、打撃面の改善が必要不可欠でもある
加藤選手が先発出場の機会を多く獲得した背景には、打撃面を買って起用するだけの説得力のあるライバルの不在も影響しているだろう。そして、勝利が全ての優勝争いにおいて、投手の良さを引き出すことに長け、チームの失点減少にも一役買っていた、加藤選手の存在価値は大きかった。左右のエース候補である若手2名の飛躍に大きく貢献している点も含め、加藤選手の加入は、チームに多くのプラスをもたらす補強だったと総括できよう。
ただし、打率.100を切っている打撃という明確なウィークポイントが存在する以上、加藤選手が来季以降に正捕手の座を確保するためには、打撃面での成績向上が不可欠になる。加藤選手自身のバッティングが改善されればそれに越したことはないが、そうでなければ、状況に応じて他の捕手の力も必要になる可能性は高いだろう。
そういった事情を考えれば、2016年に打率.256でベストナインを受賞した経験もある田村選手の復調に期待がかかるところ。近年は故障に苦しんでいるものの、2015年から6年間にわたって正捕手を務め、2016年から4年連続で打率.239以上の数字を残してきたこともあり、現状の捕手陣では最も攻守のバランスが取れた存在といえる。今季終盤は加藤選手の台頭で出場機会を減らしていただけに、来季は正捕手奪還を果たせるかに注目だ。
代打や指名打者としての活躍もあり、来季以降の起用法はどうなる?
また、終盤戦に打撃面で存在感を発揮した、佐藤選手のさらなる成長にも期待がかかる。ただし、打撃好調だった9月は指名打者と代打での出場機会が多く、打撃に集中できる起用法が好結果に繋がった傾向にあるのは否めない。また、佐藤選手が先発マスクを被った試合では8勝11敗3分で勝率.421と、チームを勝たせることはできなかった点も懸念材料だ。
シーズン最終盤だけを例に取っても、途中出場からマスクを被った10月16日、10月25日、10月29日、10月30日の4試合はいずれも、その後にビハインドを広げられてチームは敗戦。加えて、「パーソル CS パ」の第3戦では7回表に代打で起用されてマスクを被ったものの、続く8回表にチームが勝ち越したことにより、次の回に打順が回る状況だったにもかかわらず、8回裏から加藤選手が守備固めとして起用されている。
終盤戦での活躍を通じて打者としての序列は上がったものの、捕球や送球といった基礎動作や、配球が外角に偏りがちなリード面の課題もあり、捕手としての序列は後退しつつあるのも確かだ。終盤戦では強肩と俊足を活かせる外野での起用がテストされたこともあり、福岡ソフトバンクの栗原陵矢選手のように、本格的に打撃を生かす道へと進むのか。それとも、このまま打てる捕手を目指して研鑽を続けるのか。今後の首脳陣の判断にも要注目だ。
大型新人の加入もあり、正捕手争いはより激しくなる見込み
そして、来季以降に関して言えば、市立和歌山高校からドラフト1位で千葉ロッテに入団する、松川虎生選手の存在は大きいだろう。捕手としての将来性だけでなく、打撃センスも高く評価されている大器の加入は、近未来の正捕手争いにも影響を及ぼす可能性が高い。先述した佐藤選手の外野起用が、松川選手の加入が決まったドラフト後に始まったものである点も、将来を占ううえで示唆的な要素の一つであろう。
捕手は経験が必要なポジションでもあり、高卒から早期に台頭する選手は決して多くはない。しかし、埼玉西武の森友哉選手は指名打者や外野手として高卒2年目からレギュラーに定着し、本職の捕手としても5年目に正捕手へ。また、田村選手も高卒3年目で正捕手の座をつかんでおり、同様に松川選手が若くして一軍に定着する可能性も十分にありうる。
加藤選手の活躍と松川選手の加入によって、来季以降の捕手争いがさらに激化しつつあることは、チームにとっても確かなプラスとなるはず。そんななかで、移籍を機に台頭を見せた加藤選手が、キャンプからチームに帯同する来季以降に、より多くの出場機会を確保できるかにも注目だ。「令和の怪物」の剛速球を受ける女房役であり続けるためにも、来季以降も巧みなインサイドワークによって、チームを勝たせる活躍を見せてほしいところだ。
文・望月遼太
関連リンク
・来季以降は投手王国に? 北海道日本ハムの投手陣に大きな期待が持てる理由とは
・躍進のカギはブルペンにあり? Aクラス3球団に共通した「強力リリーフ陣」を振り返る
・8月以降は防御率1.22、奪三振率10.70。佐々木朗希が見せた劇的な“進化”の理由とは?
・甲子園のヒーローがついに覚醒。東北楽天・安樂智大が開拓した新たなスタイルとは?
・23歳、プロ5年目で自身初タイトルが確定。堀瑞輝の安定感が大きく増した理由とは?
記事提供: