先発としての序列も上がり、開幕投手を託されたポストシーズンでも好投
千葉ロッテの佐々木朗希投手にとって、2021年はプロ2年目にして大いに存在感を示したシーズンだった。高校時代に最速163km/hを記録した剛腕は、プロ1年目は二軍でも登板せず、身体づくりを含めたプロとしての基礎固めに専念。満を持してデビューを飾った今季の一軍における成績は、下記の通りとなっている。
プロ初登板となった5月16日の球速は153km/h前後だったが、11月には最速159km/hまで球速が上昇。抜群の球質と優れた制球力を両立し、開幕投手を任された「パーソル クライマックスシリーズ パ」の第1戦でも、重圧を感じさせぬ6回1失点の好投を披露。チーム内における序列と信頼感も高まりつつあり、今後のさらなる成長も期待されるところだ。
今回は、そんな佐々木朗投手の投球について、「セイバーメトリクスで用いられる各種の指標」「月別の成績」「バッテリーを組んだ捕手ごとの数字」という3つの観点から分析し、20歳の右腕が急激に投球内容を向上させた理由に迫る。
速球とフォークで多くの三振を奪っているが、強みはそれだけではない
まず、今季の佐々木投手が記録した各種の指標を見ていきたい。
奪三振数は投球回を上回り、奪三振率9.66という十二分に優れた成績を記録。この数字にも快速球と鋭く落ちるフォークの質の高さが表れているが、速球を最大限に活かしたパワーピッチで押していくというタイプではない。優れた制球力に下支えされた、「四球を出さず、球数が少ない」という投球スタイルを若くして確立しつつある点が、佐々木朗投手の非凡な点だ。
実際に制球力を示す各種の指標を見てみると、与四球率は2.27、一般的に3.50を上回れば優秀とされるK/BBも4.25と、それぞれ優秀な数字を残している。そして、WHIPも1.06と非常に優れた水準で、そもそも走者をあまり溜めていない点も特筆ものだ。先述した与四球の少なさに加え、被打率も.216と低く、痛打されるケースも少なくなっている。
また、佐々木朗投手は今季登板した11試合でいずれも5回以上を投げきり、自責点3以下に抑えていた点も見過ごせない。エラーが絡んで4失点以上を喫した試合は3度存在したものの、試合を壊さずに後続の投手につなげる確率が高かった点は、先発陣の層が薄い一方で、強力なリリーフ陣を擁していた今季の千葉ロッテの戦力にもマッチしていた。
7月までは制球面がやや不安定だったが、8月以降は驚異的な投球内容に
次に、今季の佐々木朗投手が残した月別成績を見ていきたい。
3月と4月は登板がなく、プロ初登板は5月16日。その5月は2試合で防御率4.50という結果だったが、6月と7月の月間防御率は3点台に改善。5月と6月はイニング数と奪三振数がほぼ同じと大器の片鱗は見せていたものの、まだ安定した投球とは言い難い面があった。
しかし、8月に入ってからは防御率が大きく良化し、怪我人が続出した先発陣の中でも有数の安定感を発揮するように。そして、9月までは基本的に中10日の間隔で登板していたが、優勝争いが佳境を迎えた10月からは中6日で先発登板を重ねていった。
登板間隔が変化してからも佐々木朗投手の投球内容は乱れるどころか、むしろ成績はさらに改善。10月は勝ち星こそ1勝止まりながら、3試合連続で6回以上を投げ、19イニングで自責点はわずかに1という驚異的な投球を披露した。パーソル CS パの初戦でも好投を見せ、優勝争いのプレッシャーに動じない精神面の強さも示している。
防御率だけでなく、各種の指標でも劇的な改善が見て取れる
続けて、月別成績をもとにした各種の指標についても確認したい。
7月までは与四球率がやや高く、5月と6月の奪三振率こそ一定以上の水準にあったものの、K/BBの値にも制球面の課題が反映されていた。しかし、先述した通りに8月以降は投球内容が大きく改善。3カ月続けて1点台以下の与四球率を維持し、奪三振率も9月が10.13、10月が12.79と、先発投手としては驚異的な領域へと突入している。
とはいえ、9月は腰の張りの影響で1試合の登板にとどまっており、8回9奪三振無四球という抜群の投球を見せた、9月10日の東北楽天戦の内容が、そのまま月間成績として示されている点には留意する必要がある。そういった意味でも、3試合でK/BBが9.00という圧倒的な数値を記録した10月の投球内容が、佐々木朗投手の進化をより明確に示していると考えられる。
シーズン途中入団の“相棒”の存在が、佐々木朗投手の投球を一段上に押し上げた
最後に、今季佐々木朗投手がバッテリーを組んだ捕手別の成績について見ていきたい。
プロ初登板から2試合はドラフト同期入団の佐藤都志也選手とバッテリーを組んだが、捕手別防御率では佐々木朗投手と組んだ4名の捕手の中で最も悪い数字に。奪三振率は高かったものの、与四球率が捕手別で唯一の4点台となっており、佐藤選手の外角主体の配球と、佐々木投手のピッチングスタイルの相性が良くなかったことがうかがえる。
また、田村龍弘選手と組んだ2試合でも防御率4.36と、佐藤選手と組んだ際に近い数字に。佐々木朗選手が今季喫した2敗はいずれも田村選手と組んだ際に記録されたものであり、こちらも相性が良いとは言えなかった。
一方、柿沼友哉選手とは1試合しか組まなかったものの、その試合で6回1失点と好投。6回5奪三振2四球と、相性の良さは示されていた。しかし、その柿沼選手以上に相性が良かったのが加藤匠馬選手で、6試合で防御率1.22という数字に加え、奪三振率、与四球率の面においても、加藤選手と組んだ際には数字が飛びぬけて向上しているのがわかる。
実際、8月以降の6度の登板ではいずれも加藤選手とバッテリーを組んでおり、月別成績が大きく改善されたタイミングとも符合している。もちろん、佐々木朗投手自身がプロの水に慣れ、実力そのものが向上したことも勘案する必要はあるが、加藤選手とバッテリーを組むようになったこと自体が、大きな飛躍の要因となった可能性は非常に高い。
佐々木朗投手は速球とフォークを軸に投球を組み立て、稀にスライダーを交えるピッチングスタイルを取っている。そういった球種の少なさゆえに、捕手が見せる配球は重要となってくる。そうした佐々木朗投手の投球スタイルが、捕手ごとの相性がやや極端な結果になっていることの理由でもあるだろう。
登板を経るごとに向上していった指標が、豊かな将来性を物語っている
デビュー当時から一定以上の奪三振率を記録していたが、当時はまだ球速が抑えめであり、制球面にも多少の乱れが見られた。しかし、登板を経るごとに速球のスピードが向上しただけでなく、決め球となるフォークの精度や、簡単には四球を出さない制球力も持ち合わせるように。佐々木朗投手がパ・リーグの強打者たちを抑え込んでいる理由は、決して「速球が早いから」という単純な理由だけではない。
そして、インサイドワークに長けた加藤選手の加入によって配球の安定度も増し、その優れたポテンシャルをより効果的に発揮できるようになったことも見逃せない。現状では捕手との相性が投球内容にも大きく作用していると考えられるだけに、頼もしい相棒の確立は、佐々木朗投手のピッチングにも大きく寄与していると考えられる。
20歳の若さで早くもすばらしい投球を見せている佐々木朗投手が、抜群のスケールを誇る大器であることに疑いの余地はないだろう。ついにベールを脱いだ「令和の怪物」が、これからどんな成長曲線を描いていくのか。マリーンズファンならずとも、今から楽しみでならないところだ。
文・望月遼太
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