プロ5年目にして、自身初の個人タイトルを確定させる飛躍のシーズンに
北海道日本ハムの堀瑞輝投手が、2021年シーズンの最優秀中継ぎのタイトルを受賞することが確定した。昨季までの4年間で記録したホールド数をわずか1シーズンで上回る数字を残しただけでなく、防御率や投球内容の面でも長足の進歩を遂げ、左のセットアッパーとしての立ち位置を確立している。
これまで左のリリーフとしてチーム内で絶対的な存在となっていた宮西尚生投手が、4月の月間防御率14.29と序盤戦は絶不調にあえいだ。宮西投手は後半戦に入ってから調子を取り戻したが、それまでの間は堀投手が穴を埋め、僅差の試合で左打者封じの役割を担ったことによって、チームのブルペンに生じた誤算は最小限のものとなっていた。
堀投手2019年から3シーズン連続でリリーフ陣の一角として活躍していたが、今季の堀投手が安定感を大きく増した理由は、いったいどこにあったのだろうか。今回は、各種の指標や各年度の月別防御率といった要素をもとに、その成長の理由に迫っていきたい。(成績は10月24日試合終了時点)
2019年までは先発も務めたが、現在はリリーフに専念
まず、堀投手がこれまでに残した年度別成績を見ていきたい。
堀投手は広島新庄高校から、2016年のドラフト1位で北海道日本ハムに入団。プロ1年目の2017年から一軍で4試合に登板し、防御率3.38と一定の投球を披露した。続く2018年は主に先発として10試合に登板し、7月28日にはプロ初勝利も記録したものの、防御率5.86と安定感を欠き、ローテーション定着とはならなかった。
続く2019年は主にリリーフを務めながら、チーム事情に応じてショートスターターとしても登板するなどフル稼働。防御率こそ5.22だったものの、便利屋的な起用に応えて一軍に定着した。続く2020年はリリーフに固定され、短縮シーズンながら45試合に登板。前年に続いてフル回転の活躍を見せ、年間を通じて中継ぎとして登板を重ねた。
2021年は勝ちパターンの一角を継続して担うようになり、登板数、ホールド数ともに自己最多の数字を記録。防御率もシーズンを通して安定した水準を維持し、自身初タイトルの獲得も確定。まさしく、大きな飛躍のシーズンとなった。
速球とスライダーを軸に、高い奪三振率を記録し続けている
次に、堀投手が記録している各種の指標について見ていきたい。
堀投手が武器とするのは、左腕から繰り出される140km/h台の速球と、大きく横に曲がる決め球のスライダーのコンビネーションだ。主軸となるこの2球種に加えて、スライダーよりもわずかに速い球速から、微妙に変化するチェンジアップも交えて投球を組み立てる。実戦で用いる球種こそ少ないものの、いずれの球も被打率は低く、一定以上の質を備えているのが特徴だ。
堀投手は安定して高い奪三振率を記録しており、一軍定着後の2019年からの3シーズンではいずれもイニング数を上回る奪三振数を記録。とりわけ2020年は10.47と抜群の数字を記録しており、奪三振の多さが最大の持ち味といえる。
その一方で、2020年以降の与四球率は決して良い数字ではなく、制球面に課題を残してはいる。その影響もあって、先述のように高い奪三振率を記録しているにもかかわらず、2020年と2021年のK/BB(奪三振と与四球の比率)は低い水準の値に。また、WHIP(投球回あたりの与四球・被安打数合計)の数字を見ても、基本的には走者を出さずに抑えきるというタイプではないことが示されている。
それでも、2019年以降は年々被打率が改善傾向にあり、2021年は.200を下回る水準に到達。仮に走者を出しても、持ち前の奪三振力を生かしてピンチでの被安打を防ぐことができる投手でもある。こうした被打率の低下が、防御率やホールドの劇的な向上にも反映されたと考えるのが自然だろう。
先発→リリーフのきっかけは8失点した試合
ここからは、堀投手が一軍に定着した2019年以降の3シーズンにおける、月別の登板数と防御率を確認しよう。
2017年と2018年は一軍での登板機会自体がさほど多くなかったが、2019年には開幕直後から一軍に定着。このシーズンは4月に10試合で防御率0.96という素晴らしいスタートを切り、続く5月も7試合に登板した時点でわずか1失点と、序盤戦は抜群の投球を見せた。
しかし、5月最後の2登板でいずれも2失点を喫したことをきっかけに、徐々に複数失点の試合が増えるように。それでも7月15日の時点では防御率2.41、32試合のうち25試合が無失点と、リリーフとして安定感のある投球を続けていた。
ただ、この年の北海道日本ハムはオープナーを導入しており、堀投手も5月に1度先発登板していた。7月に入ってからは先発登板が増加し、先発と中継ぎがそれぞれ4試合ずつと大車輪の活躍を見せた。しかし、7月21日の試合では先発として8失点を喫し、続く7月28日の試合でも先発で5失点。これらの登板を境に、堀投手は大きく調子を崩してしまう。
8月は防御率6.97、9月は6.75と、月別の防御率も7月を境に大きく悪化。その結果、10月以降は一軍登板自体からも遠ざかることになった。先発登板時の防御率が7.32、リリーフ時の防御率が4.21と、オープナーとしての起用には不向きなタイプだったことが、実際の数字からもうかがえる。
短縮シーズンということもあり、今度は登板過多があだに
2020年は新型コロナウイルスの影響で開幕が6月となり、故障によって7月も2試合の登板にとどまった。調整が難しい状況ながら、堀投手は開幕から10試合連続無失点と好投を見せる。だが、故障明けの8月に月間14試合登板とハイペースで登板を重ねたのが響いてか、8月末からは徐々に失点が増えていく。
その後も短縮シーズンゆえの試合間隔の短さもあってか、9月も10試合、10月が12試合とフル稼働の状態は続いた。この3カ月の防御率はいずれも4点台以上と、投球内容自体も安定感を欠くことに。このシーズンはチーム方針の変化もあって堀投手の先発登板はなく、45試合全てがリリーフとなっていた。それもあって、前年とは異なり、登板過多が月間防御率にも反映されたと考えられる。
過去2シーズンとは異なり、安定感のある投球を続けた理由とは?
2021年は開幕直後の4月こそ12試合に登板したが、その後は6カ月中5カ月で登板数が1桁、唯一の例外である6月も10試合と、前年の8月からの3カ月に比べれば、登板過多は緩和されていた。それもあってか、過去2年間のように3カ月以上にわたって防御率が悪い月が続くことがなくなり、4月と7月はともに自責点0という完璧な投球を披露している。
また、4月が12試合で防御率2.00、6月が10試合で防御率3.24と、登板数が多かった月も一定以上の安定感を維持している点も、堀投手の成長が感じられる部分だ。8月と10月は防御率5点台と、やや安定感を欠いた月もあるものの、大崩れした翌月もその流れを引きずってしまう傾向は、ほぼ払しょくできたといえる。
ベンチからの信頼に応え、左のセットアッパーとして不動の地位を築けるか
堀投手が一軍に定着した2019年には、チーム事情もあって起用法が固まりきらなかった面があった。それから2年が経ち、堀投手がリリーフとして年間を通してコンディションを保てるようになっただけでなく、ベンチも堀投手により適した起用法を見いだしている。2020年からリリーフに固定され、今季は期間ごとの登板数も比較的抑え気味となっているところが、その証明でもあるだろう。
もちろん、高い奪三振率を維持したまま被打率を低下させたことが示す通り、堀投手自身の投球内容がより向上していることも、今季の好成績を支える要因だ。このまま来季以降も同様の活躍を続けられれば、左のセットアッパーとして不動の地位を築くことにもつながる。長年チームを支えた宮西投手の後継者となりうる、23歳の若き左腕の台頭は、苦戦が続いたチームにとっても、非常に明るい材料といえるはずだ。
文・望月遼太
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