9月11日以降の4試合で4連勝、そのうち3試合が完投の離れ業
長きにわたって左の先発不足に悩まされた千葉ロッテに、待望の左腕エース誕生の気配だ。プロ3年目の小島和哉投手が10月3日の楽天戦で無四球完封勝利を記録し、キャリア初の2桁勝利を達成。小島投手は9月19日の北海道日本ハム戦でも完封を記録しており、9月11日以降の4試合で4連勝、そのうち3試合が完投という離れ業を演じている。
まさにエース級の投球を見せている小島投手だが、8月終了時点では防御率4.65と、登板ごとの波の大きさは否めなかった。9月に入ってから急激に投球内容を向上させた小島投手に対しては、まさに“覚醒”という言葉がぴったりと当てはまりそうだ。
では、小島投手が大化けを果たしつつある理由は、いったいどこにあるのだろうか。今回は、年度別成績や各種の指標、期間ごとの成績や球種配分の違い、バッテリーを組んだ捕手別の成績といった要素をもとに、小島投手の覚醒の理由について考えていきたい。(成績は10月11日時点)
昨季までとは異なり、今季は「勝てる投手」へと飛躍しつつある
まず、小島投手がこれまでに記録した年度別成績を見ていきたい。
小島投手は浦和学院高校時代に春のセンバツで優勝投手となり、早稲田大学でも主戦投手として活躍。プロでも1年目の2019年から開幕ローテーションに加わったが、序盤戦で打ち込まれて二軍落ちを経験。それでも8月の月間防御率1.88、9月は同3.00と夏場以降は安定した投球を見せ、終盤戦には先発陣の一角に定着した。
2020年にも開幕ローテーション入りし、年間を通じて先発として奮闘。規定投球回には惜しくも6.2イニング足りなかったが、防御率3.73と投球内容も改善させた。しかし、7勝8敗と星勘定では1つ負け越しており、「勝てる投手」への飛躍も課題の一つとなっていた。
2021年も3年連続で開幕ローテーション入りし、前半戦はやや不安定ではあったものの、負け数はわずかに3つと、前年の課題だった貯金をつくるという面で進歩を見せていた。そして、シーズン中断明け以降は負けなしの5連勝と快投を見せ、投球内容の面でも大きな進化を遂げつつある。
奪三振率は高くない、典型的な「打たせて取る」タイプの投手といえる
次に、小島選手が記録してきた年度別の各種指標について見ていきたい。
2019年の奪三振率は7.45だったが、年を経るごとにこの数字は低下。また、K/BBも2年続けて1.00台と、かなり低い水準となっている。千葉ロッテの投手陣は打たせて取るタイプの投手が多いが、小島投手はその典型的な例と言えるだろう。
また、与四球率は決して良いとは言えない水準だ。それでも、2020年に比べれば2021年の数字は0.5近く向上しており、改善の兆しはみられる。そうした制球力向上の傾向が見え始めたのも、先述した9月以降の好調と同じタイミングとなっている。
奪三振率にはほぼ変化はないものの、それ以外の指標は劇的に向上
ここからは、2021年の小島投手の成績について、「8月以前」と「9月以降」の2つの期間に分けて見ていきたい。
奪三振率に関しては、8月以前と9月以降で大きな違いは見られない。しかし、防御率は段違いに向上していることに加えて、課題の与四球率も1.93と素晴らしい水準に達し、“四球を出さない投手”へと変貌を遂げつつある。ボール球の減少によって球数自体が減ったことは、完投能力の大幅な向上にもつながっているだろう。
K/BBも8月以前は1.66と例年並みだったが、9月以降は3.25と十分にすぐれた水準へ向上している。奪三振率自体はほぼ変化していない点を鑑みても、与四球の大幅な減少が、各種の指標に対しても好影響をもたらしていることは間違いない。
シーズン途中に加入した“相棒”の存在が、覚醒の大きな触媒に
続けて、今季の小島投手がバッテリーを組んだ捕手別の成績を見ていきたい。
田村龍弘選手とはここまでで最も多い8試合でコンビを組んだものの、防御率5.53と捕手別の成績としては最も悪くなっている。また、佐藤都志也選手と組んだ試合でも防御率4.76と打ち込まれており、相性はさほど良くない。先述の2選手に比べれば、柿沼友哉選手とは4試合で2勝負けなしと相性は良いが、それでも防御率は4.18という数字にとどまった。
そんななかで、シーズン途中からチームに加わった加藤匠馬選手との抜群の相性は特筆ものだ。6試合で5勝0敗、防御率1.66という驚異的な数字に加え、与四球も43.1イニングで8個のみと激減。投球内容だけでなく、制球の面でも大幅に安定感を増している点も見逃せない。先述した9月以降の成績の改善には、加藤選手という頼もしい相棒を得られたことが大きく寄与していると考えられる。
捕手の変化に伴い、勝負球のバランスにも変化が生じている
最後に、小島投手が2021年に投じた結果球における球種の割合を、中断期間前の7月14日以前と、7試合中6試合で加藤選手とバッテリーを組んだ8月18日以降の、2つの期間に分けて見ていきたい。
小島投手は持ち球の多彩さも特徴の一つで、結果球だけを取っても、ストレート、カットボール、チェンジアップ、スライダー、ツーシーム、カーブを投げ分けている。前半戦では速球の割合が約50%、カットボールとチェンジアップがそれぞれ約20%と、この3球種を軸に投球を組み立てていたことがわかる。
それに対して、後半戦ではストレートの割合が約6%少なくなり、スライダーの割合も8.1%から4.7%と減少。その代わりにツーシームの割合が10%以上も増加しており、比率が大きく変わっていないカットボールとチェンジアップに次いで多投する球種となっている。
先述した通り、小島投手の奪三振率は年間を通してほぼ変化していない。すなわち、成績の良化は四球を出す割合の低下と、打たせて取る投球の精度向上によるところが大きいと考えられる。ツーシームをより多く使用するようになったことが、その一助となっている可能性は十分にあるだろう。
チームに不足している“完投できる先発”として、このまま一本立ちを果たせるか
小島投手はカットボール・ツーシームと、左右どちらの方向にも打たせて取る投球に適した変化球を持っている。それに加えて、チェンジアップ、スライダー、カーブと緩急をつける球種も備えており、絶対的な決め球こそないものの、多くの引き出しを持つ投手と言える。それだけに、捕手との相性が成績に大きく反映される、という面は、今回取り上げた数字にも表れている。
そして、主に加藤選手と組むようになった8月以降の小島投手は、カットボールに加えてツーシームの割合を増やしたこともあってか、投球内容そのものが劇的に向上している。移籍後はリード面で高く評価されている加藤投手の配球が、小島投手が持つ適性と絶妙にマッチしたことで、“覚醒”と形容できるほどの成績の向上につながったと考えられる。
小島投手が急激に完投能力を高めつつあることは、本人の成績のみならず、チームにとっても大きな意味を持ってくる。小島投手以外に今季の千葉ロッテで完投を記録した投手は、4月27日に8回を投げて完投負けを喫した石川投手のみ。すなわち、今季の千葉ロッテで9回を投げぬいて完投勝利を記録したことがある投手は、小島投手ただ一人ということになる。
チーム全体での完投数の少なさは、リリーフ陣の負担増にもつながる。それだけに、小島投手がかつての涌井秀章投手のように、コンスタントに多くのイニングを消化できる存在となってくれれば、チームに欠けたピースを埋める存在となりうる。プロの舞台で花開きつつあるかつての甲子園優勝投手の投球は、逆転優勝を狙うマリーンズにとっても、これから非常に重要なファクターとなることだろう。
文・望月遼太
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