度重なる故障を乗り越え、プロの舞台でついに花開きつつある
かつての甲子園のヒーローが、プロの舞台でついに本領を発揮しつつある。東北楽天の安樂智大投手が開幕から安定した投球を見せ、セットアッパーの座に定着。最速で150km/h台後半に達する快速球が武器だった高校時代とは異なり、140km/h台後半の速球に複数の変化球を交えながら、投球術を生かして三振を奪うという新境地を開拓している。
安樂投手は済美高校時代の2013年に行われた春のセンバツで、2年生ながらエースとしてチームを準優勝に導いて日本中の注目を集めた。しかし、1大会で772球を投げ抜いたこの大会での球数は、その後に安樂投手が故障を負ったことも含め、大きな賛否を呼んでいた。
しかし、安樂投手はそうした苦境を乗り越え、新たなスタイルの投球によってブレイクアウトを果たしつつある。今回は、そんな安樂投手の波乱万丈の球歴に加え、プロ入り後の各種指標や、期間別の結果球の球種割合といった数字をもとに、覚醒を果たしつつある安樂投手についてより深く掘り下げていきたい。(成績は10月21日試合終了後時点)
2016年には高卒2年目で先発の一角に定着しかけたが……
はじめに、安樂投手がこれまでに残してきた年度別成績を見ていこう。
2014年のドラフトで東北楽天と東京ヤクルトの2球団から1位指名を受け、抽選の結果東北楽天に入団。2015年にはプロ1年目ながら10月5日に一軍で先発のマウンドを踏み、6回無失点で見事にプロ初登板初勝利をマーク。続く2016年には主に先発として15試合に登板し、84.1回を投げて防御率3.42と、高いポテンシャルを早くも発揮していた。
このまま順風満帆なキャリアを送るかと思われた安樂投手だが、3年目の2017年は故障もあって10試合の登板にとどまり、防御率4.06で1勝5敗と本格ブレイクとはいかず。続く2018年はわずか2試合の登板で防御率10.13と絶不調に陥ってしまい、2019年も一軍登板は9試合のみと、故障もあって一軍での出場機会自体が伸び悩んでいた。
2020年にリリーフへ転向したことが大きな転機に
転機となったのは、2020年にリリーフへと本格転向したことだった。この年は中継ぎとして開幕一軍入りを果たし、時にはロングリリーフも務めながら奮闘。9月8日時点で防御率2.30と終盤まで安定した投球を見せたものの、9月に防御率5.87と崩れてしまい、年間防御率は3点台に。終盤にやや息切れこそしたものの、一軍定着への足がかりをつくった。
そして、続く2021年もフル回転の活躍は続き、10月9日の時点で防御率1.52と、前年以上の安定感を発揮。10月14日に4失点を喫したことでやや数字は悪化してしまったが、それでも自身初めてシーズン50試合以上に登板。その活躍によってベンチからの信頼も勝ち取り、10月の頭には一時的にクローザーの大役も任されるほどの存在となった。
イーグルス・安樂智大 嬉しいプロ初セーブをあげる!! 2021年10月7日 千葉ロッテマリーンズ 対 東北楽天ゴールデンイーグルス
奪三振率が大きく向上し、粘りのピッチングができるように
次に、安樂投手がこれまで残してきた年度別の投球指標を見ていこう。
2015年から2017年までの奪三振率は3年続けて6点台と、先発時代は奪三振が多いタイプではなかった。しかし、リリーフ転向後の2020年には、奪三振率8.71と大きく向上。速球の球速としては140km/h台後半が大半だが、2年続けて一定の奪三振率を記録している点にも、現在の投球スタイルが一定の効果を発揮していることは示されている。
一方で、与四球率はリリーフ転向後は悪化傾向にあり、WHIP(投球回あたりの与四球・被安打数合計)も走者を出さずに抑えるタイプではない、という傾向が見て取れる。それでも安定した投球を見せている理由は、2年続けて.210台と以前に比べて大きく改善された被打率にある。仮に四球を出したとしても、相手打線にあと一本を許さずに失点を防ぐことができているのは、ひとえに投球内容自体の向上によるところが大きいだろう。
先発時代は本格派らしい組み立てだったが、リリーフ転向後は配分に変化が
続けて、安樂投手が先発として最も多くの登板数を記録した2016年と、2020年以降の2年間における、結果球の割合を見ていきたい。
先発を務めていた2016年は、ストレートとスライダーを決め球に多く用いた。それに加えて、緩急をつけるカーブと、現在では使っていないフォークを交えていた。速球のスピードは140km/h台と現在とほぼ変わらなかったものの、配球自体はいかにも本格派という内容といえる。
それに対して、その後に故障を経てリリーフとして台頭を見せた2020年には、フォークをレパートリーから外し、以前は投じていなかったチェンジアップを決め球として多投するように。かつては結果球の割合が30%を超えていたスライダーも12%にとどまっており、投球スタイルそのものを大きく変化させたことがうかがえる。
2021年は前年よりもカーブを使う割合がさらに減少し、代わりにスライダーを投じる割合が増加。チェンジアップの割合はほぼ横ばいだが、ストレートもやや減少している。結果球として反映された球種が、より信頼できる3つの球種に絞られていることが、投球の安定性向上に寄与している面はありそうだ。
高校時代の登板過多で苦しむ投手は少なくないが、後に大成した投手たちも存在
安樂投手について語るうえでは、プロ入り前から議論を呼んでいた高校時代の投球数を避けては通れないだろう。高校時代は甲子園で155km/hの速球を投じたこともある安樂投手だが、現在は140km/h後半の速球を投球の軸としている。プロ入り後はアマチュア時代よりも球速が抑え気味となる投手は決して少なくないが、安樂投手の場合は、高校時代の経験と無縁と考えるのは難しいのが実情だ。
甲子園で多くの球数を記録した後にプロ入りした投手たちの中には、全国優勝した3年夏の甲子園では900球以上を投じた斎藤佑樹投手をはじめ、川口知哉氏、島袋洋奨氏、大野倫氏、辻内崇伸氏、一二三慎太氏と、大成したと言えるような実績は残せなかった選手が少なくはない。中には大野氏や一二三氏のように故障で野手転向を余儀なくされたケースも存在しており、エースの連投は今なお難しい問題としてその是非を問われている。
その一方で、松坂大輔投手、田中将大投手、正田樹氏のように、高校時代に甲子園で多くの球数を投じたものの、プロ入り後に新人王のタイトルを獲得する活躍を見せ、その後も10年以上にわたって息の長い現役生活を送る投手も存在している。安樂投手も高校時代、そしてプロ入り後と故障に苦しんだ時期もあったが、プロ7年目でブレイクを果たしつつある点は明るい兆しといえそうだ。
紆余曲折を経て覚醒した若き右腕は、これからさらなる成長を見せてくれるか
ドラフト1位で2球団の指名を受けてから8年。剛速球がなくともプロの強打者を真っ向勝負で抑え込んでいる現在の安樂投手の投球は、それだけの評価を受けるに値するだけの優れた才能と、投手としての非凡さを証明するものでもあるだろう。
2シーズン続けてブルペンで与えられた役割を堅実にこなし、チームを支える存在となっている安樂投手。今年の11月で25歳という年齢を考えれば、今後さらなる活躍を見せてくれる可能性も大いにあるはずだ。紆余曲折を経て輝きを放ち始めた若き右腕が、このままさらなる進化を続ければ、高校時代に続いてプロの舞台でも、記憶にも、記録にも残る存在となってくれることだろう。
文・望月遼太
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