好投手そろう中信有利の下馬評覆し、統一が逆転で台湾一
11月8日、台湾中部・台中市の台中インターコンチネンタル球場で行われた台湾シリーズ第7戦、9回裏2死2塁、統一セブンイレブン・ライオンズのレフト、蘇智傑が中信兄弟、許基宏のフライをつかむと、レフトスタンドに陣取った統一ファンが、オレンジ色の紙テープを一斉にグラウンドへ投げ込んだ。選手たちはマウンド前で喜びを爆発させ、シーズン中は厳しい表情も多かった林岳平監督が、満面の笑みを浮かべ宙に舞った。
前期優勝の中信兄弟、後期優勝の統一の直接対決となった今年の台湾シリーズ、統一は初戦こそ、1対1で迎えた延長10回表、潘武雄が、かつてNPBでもプレーした鄭凱文から勝ち越し3HRを放ち4対2でものにしたが、中信兄弟が誇る強力先発投手陣、16勝のデポーラ、10勝のミランダ(昨季まで福岡ソフトバンク)、後期安定感抜群だったロジャース、そして9勝の黄恩賜の前には打線が封じられ、第4戦終了時点で、1勝3敗と王手をかけられた。
しかし、後期シーズンでも土壇場で粘りをみせた統一は第5戦、打っては、伏兵やベテランが奮起し、5回途中でロジャースをKO、投げては、先発のダイクソンが完封勝利の熱投で流れをつかむと、第6戦も、終盤、中信の中継ぎ投手陣から、ダメ押しとなる大量得点を奪って大勝、「逆王手」をかけた。
迎えた第7戦、統一は3回まで毎回得点で3対0とするも、3回裏、まずい守備もあり一挙4失点、逆転を許した。球場の大部分を埋めた熱狂的な中信ファンの応援の後押しを受け、中信ベンチにも笑顔が戻り、再び流れが変わったかにも思えたが、その後、統一先発のスタンキビッチは粘りの投球で追加点を許さなかった。一方、統一打線は7回表、疲れの見えた中信先発ミランダを攻め、バッテリーミスで同点に追いつくと、適時打で5対4と逆転しミランダをKO、さらに陳傑憲が2番手で登板した第4戦の先発、黄恩賜から2ランHRを放ち、7-4とリードを広げた。統一は8回から、3番手として、第5戦完封のダイクソンを投入する必勝リレーで逃げ切り、土俵際からの3連勝で、2013年以来、7年ぶり10度目となる台湾王者に輝いた。シリーズMVPには、統一の黄金時代を知る男、初戦の勝ち越し3ラン含め8安打、7打点、打率.471と大活躍した39歳の大ベテラン、潘武雄が選ばれた。
中信兄弟は、レギュラーシーズン年間順位1位、投打の各データも統一を上回り、先発投手陣も統一の主力打者を概ね抑えていたことから、下馬評では有利と見られていた。昨季まで6年間で5度シリーズ進出もいずれも敗退、今年こそ、という強い思いで臨んだものの、あと一勝が遠く、2010年以来、10年ぶりのシリーズ制覇はならなかった。
今季最多15,600人入場、ビジター応援も解禁され「ほぼ通常通り」のシリーズに
今シリーズは、今季初めてビジター応援団の入場も解禁され、入場者の上限も収容人数の78%に引き上げられた中、週末開催となった台中インターコンチネンタル球場の4試合は全試合15,600人の大入り、平日開催の台南球場も3試合中2試合で「満員」となるなど、多くのファンが球場につめかけた。チケットの実名制、入場時及び着席時以外のマスク着用など防疫対策は義務付けられていたが、スタンドのファンは、応援歌やチャンステーマを熱唱、限りなく通常の台湾シリーズに近い盛り上がりとなった。
蔡英文・総統は当日夜、自身のFBに、「今年の台湾プロ野球は、プロ野球リーグとして世界で最初に開幕し、全世界の野球ファンを奮い立たせました。7カ月のシーズンを経て、さらに台湾シリーズ7試合を戦いきり、今夜、2020年のチャンピオンが誕生しました。統一ライオンズおめでとう。総統府で会いましょう」という祝賀メッセージを投稿、同時に「兄弟ファンもがっかりしないでね」というタグをつけ、中信兄弟のファンを慰めた。
2020年レギュラーシーズン回顧
続いては、今季のレギュラーシーズンを振り返っていこう。富邦が、ラミゴから歴代最多勝監督、洪一中監督を迎え、他の3チームも新監督が就任と、全チーム新たな指揮官が就任し迎えた今シーズンは、終盤まで全チームにポストシーズン進出の可能性が残る激戦となった。
台湾プロ野球のレギュラーシーズンは前後期60試合ずつ、年間120試合行われる。新型コロナウイルスの影響による2度の延期、開幕戦の雨天中止もあり、4月12日に「開幕」した前期シーズンは、リーグ3連覇のラミゴモンキーズを引き継いだ楽天モンキーズと中信兄弟の優勝争いとなった。楽天が強力打線でロケットスタートを切った一方、中信兄弟は出遅れ、一時は7 ゲーム差をつけられた。しかし、その後、楽天が失速する中、中信兄弟は3人の外国人投手、黄恩賜ら強力な先発陣から、安定感のある救援陣につなぐ「勝利の方程式」を確立、野手陣も、新任の丘昌栄監督が、新人や昨季は二軍でくすぶっていた選手を抜擢するなど、チーム内の競争激化により底上げがなされ、特に6月以降は勝率7割を超える快進撃をみせ、逆転で前期シーズンを制した。
前期シーズンの「打高投低」に対する議論もあり、後期シーズンから、より反発係数が抑えられた新公式球に変更された。結果、投手戦も増えた後期は混戦となった。前期を制した中信に加え、前期は下位に沈んだ統一、富邦の3チームが終盤まで優勝争いを繰り広げた。楽天は、後期の優勝争いからは脱落したものの、年間順位2位の座をキープ、仮に中信が後期シーズンも制した場合には、年間勝率3位チームと、シリーズ進出をかけ戦うプレーオフに進めるという「他力本願」の展開となった。
後期シーズン残り3試合を残し、3チームがゲーム差なしで並び、1ゲームプレーオフ実施の可能性もあった歴史的なデッドヒートは、統一が残り2試合で富邦、中信に連勝し、7年ぶりの半期優勝を決めた。富邦は、勝てば優勝というチーム最終戦で統一に敗れ、楽天は、中信が統一に敗れたことにより、リーグ4連覇への挑戦権を失った。
そして、台湾シリーズは上記の通り、前期優勝の中信と後期優勝の統一の対決となり、年間勝率.487と、リーグ3位の統一が、年間勝率.568、同1位の中信を4勝3敗で下し、7年ぶりの台湾王者に輝いた。
タイトルホルダー紹介、新たなスターも誕生
投打のタイトルホルダーを中心に、今季活躍した選手も紹介しよう。先発投手については、今季も、各部門で外国人投手が上位に並んだ。このうち、かつてBCリーグ石川でもプレーしたデポーラ(中信)が、16勝(9敗)、防御率3.20、192奪三振で「三冠王」に輝き、ベストナインにも選出されたほか、レギュラーシーズンMVPの候補となっている。セーブ王は陳韻文(統一)と、元埼玉西武のC.C.リーこと李振昌(中信)が23セーブで並んだが、防御率で上回った陳が獲得した。ホールド王は、24ホールドをマーク、主にセットアッパーとしてチームの躍進に貢献したMAX153キロ右腕、21歳の呉俊偉(中信)が初受賞した。
このほか、台湾人投手では、元横浜DeNAの王溢正(楽天)が2年連続二桁勝利となる10勝をマークしたほか、規定投球回数未満ながら、アマ時代から将来を嘱望されていた右腕、黄恩賜が9勝2敗、防御率4.40の成績を挙げた。2017年に入団も、TJ手術、リハビリを経て実質2年目といえる黄は、後期は一時離脱し、調子を落としたものの、前期は7勝0敗、圧倒的な内容で優勝に貢献した。MAX156キロの直球に、キレのいいスライダー、フォークをもつ好投手だ。
打者では、岡山県共生高校で呉念庭(埼玉西武)の一年後輩だった左打ちの巧打者、陳傑憲が.360で初めて首位打者を獲得、陳は174安打で最多安打にも輝き、ベストナインに選ばれた。
ホームラン王と打点王は、32HR、99打点の林安可(統一)が獲得した。アルゼンチン出身の母をもつ林は、高校時代から投手兼外野手の「二刀流」として知られていたが、大学時代は、打者としての出場はほぼ国際大会のみに限られ、主に投手としてプレー、複数のNPB球団からも注目されたが、怪我の影響もあり、契約には至らなかった。
昨年7月のCPBLドラフトでは、統一から投手として1位指名を受けるも、打力を買われ、まず野手に専念、29試合で打率.255、2HRという成績以上のインパクトを残した。本人の投手に対する強い思い入れもあり、2年目となる今年の春季キャンプでは当初、投手メインで「二刀流」の調整をしていたものの、練習試合、オープン戦の登板で結果が出なかった事から、今季も野手に専念することとなった。
林は4月下旬から次第に調子を上げると、6月下旬には2試合連続の2HRを含め、4試合で6HRマークする圧倒的なパフォーマンスをみせ、前期シーズンで20号に到達。後期はやや調子を落としたものの、終わってみれば2016年、ラミゴ時代の王柏融(北海道日本ハム)の新人記録(29HR)、左打者シーズン最多HR記録(31HR)も更新する32HRをマークした。既にベストナインに選出されているが、新人王についても「当確」といえよう。シーズンMVPも、前述したデポーラ(中信)、そして、39歳にしてキャリア最高となる22HRをマーク、中信の精神的支柱となったベテラン周思齊とともに、候補の一人に選ばれている。
盗塁王は、42盗塁をマークした楽天の「韋駄天男」、陳晨威が初めて獲得した。かつてMLBでもプレーしたチームメイトのカーペンターが、「自分がこれまでにスタジアムで見た中で、最も足の速い子かも」と称賛した22歳の陳は、今季3塁打も13本と、リーグで初めて「二桁3塁打、40盗塁以上」を同一シーズンに記録した選手となった。
日本のカムバック賞に相当する「東山再起」賞には、高国輝(富邦)が選出された。同賞は2017年に設けられたが、受賞者は昨年の潘威倫(統一)に続き、2人目となる。高国輝は2014年から3年連続でHR王、特に2015年にはリーグ記録となる39HR、2016年にも34HRをマークした台湾を代表する右の大砲だが、近年は、腰などの怪我に苦しみ出場数が減少していた。今季は97試合に出場、.303(15位)、25HR(5位)、70打点(8位)と復活、35歳にして健在ぶりをアピールした。
ゴールデングラブ賞では、セカンドで林靖凱(統一)が、ショートで江坤宇(中信)が選ばれた。高校の同級生でもある2人は、共に2000年7月生まれの20歳。シーズン中、好プレーで幾度もファンを沸かせた。共に長打力のあるタイプではないが、江はレギュラーシーズンで.309をマーク、シリーズの終盤では5番を任せられた他、好守備でもチームを救い、優秀選手に選出された。
2人は、2018年U18アジア選手権の準優勝メンバーだが、2019年U18ワールドカップの優勝メンバーも昨年、今年のドラフト会議で多数指名された。両大会の代表で昨年の中信1位、19歳の岳政華は今季2軍でアピール、後期終盤に1軍へ昇格すると、シリーズでも6試合でスタメンに起用され、打率は.250ながら、ホームラン1本を含む4打点、外野守備でもアピールした。今年の高3にも大物選手が複数おり、彼ら「台湾U18黄金世代」の台湾プロ野球入りが期待される。
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