4月12日、ようやく野球ファン待望の瞬間がやってきた。海の向こう台湾にて、世界最速で2020年のプロ野球が開幕したのだ。
新型コロナウイルスの影響で、世界各国、野球はもちろん、数多くのスポーツの開幕が延期または中止されている。このような状況下において、CPBL(中華職業棒球大連盟=台湾プロ野球)は、無観客ながら4月12日に開幕を果たした。感染症拡大を乗り越え、球春到来を果たした先駆者となった台湾では、どのような流れを経て開幕に向かっていったのか。そして、そこから日本プロ野球が学ぶべきこととは。
そこで今回はCPBL・宣推部の幹部に話を聞いた。同幹部は、2019年のプレミア12の際にはチャイニーズ・タイペイ代表チームに帯同しチームの躍進に尽力。日本と台湾の野球界におけるキーマンである。
感染症対策への意識の高さ、開幕への柔軟な対策が、世界最速での球春到来を実現させた
CPBLでは、もともと3月14日に開幕が予定されていたが、12日に新型コロナウイルスの影響で4月11日開幕への延期を目指すことを発表。それでも、爆発的な感染拡大状況ではなかったことから、3月17日に二軍公式戦が無観客でスタートした。その後、23日には一軍も開幕への目処が立ち、4月1日に無観客での4月11日開幕を決定。当日は雨天中止となったが、翌12日には無事に開幕戦が行われた。
開幕に向けて、最優先となるのはやはり自国の感染状況だ。台湾では、4月16・17日と2日連続で新規感染者が生まれず、その後も見事、感染拡大を阻止している。理由として挙げられるのは、政府と市民が一体となった感染症対策だ。台湾政府は、3月19日には出入国を制限し、感染者や濃厚接触者に対する隔離を徹底。さらに、国民健康保険カードを使った実名制でのマスク販売を2月6日から導入し、マスク購入に際する市民の混乱を未然に防いだ。また、市民も早い段階からの防疫対策を自主的に実行。数多くのオフィスビルで、消毒用アルコールの設置やマスクの着用義務、体温管理といった防疫対策が積極的に行われていたという。このような自主的な取り組みについて、「2002~03年にかけて中国周辺を中心に流行したSARSの経験が活きているのでは」と同幹部は話す。
いざ開幕するにあたって、具体的にどのような対策を行ったのか。関係各所との調整については、CPBLが中央感染症指揮センターが定めたガイドラインに基づき、感染症対策計画を作成。この感染症対策計画をもとに、台湾政府衛生福利部(保健省)と各開催地の自治体と協議を重ね、両者からの了承を得ることに成功したという。
選手や球団関係者、マスコミに対しては、入場時の検温、アルコール消毒、健康申告書の提出を義務付け、球場への立ち入り人数にも制限を設けている。そのリストは実名制で、前日に提出してもらうという。
また、球団職員や審判、記録員に対しては、3月30日より「完全分離分流制度」を導入。これは、彼らをAとB2つのグループに分け、グループ間での接触を回避することによって、集団感染予防を強化する狙いだ。このように、さまざまな取り組みによって、感染状況の悪化を防いでいる。
選手たちは、開幕までどのように過ごしていたのか。幸いにも、本拠地グラウンドや練習場は使用できる状況だったため、例年通りの場所での調整が行えていたそうだ。その他にも、CPBLのホームページに設置された防疫コーナーでは、手洗い動画への出演で、住民への注意喚起を行うなど、感染症対策にも貢献。2018年から19年にかけて福岡ソフトバンクホークスに在籍したミランダ投手は、アメリカの取材に対し、「感染拡大予防のために、体温を1日に何度も計測し、手指消毒も頻繁に行う」とコメントするなど、やはり選手も体調管理には万全を尽くしているようだ。
そして待ちに待った開幕戦。その模様は、インターネット配信を通じて世界中に届けられた。勝利に向けて、必死にプレーする選手たちと、チアリーダーや音楽が球場を華やかに盛り上げる様は、野球ファンのみならず、数多くの人たちに希望を与え、野球界に明るいニュースを生み出してくれた。実際、CPBLには各国メディアからの取材が殺到し、ロサンゼルス・タイムズ紙は、「たとえ、そこに観客がいなくても、野球ができるというのは素晴らしいことである」と称賛。同幹部はこのことについて、「これをきっかけにもっともっと世界中の野球ファンにCPBLを知ってもらえればと思います」と思いを語った。
CPBLから学べることは何か。私たちにもできることはある
さて、いまだ開幕に向けて不透明な状況が続いている日本プロ野球は、彼らの成功例から何を学ぶことができるだろうか。
CPBL富邦ガーディアンズ球団副代表・陳昭如氏は、「各球団は連盟側と一丸になって、政府また自治体と連携を図り、コロナウイルス対策や試合運営の計画について協議して取り組む体制を取ることが重要だ」とコメント。関係者が一丸となり、シーズン開幕という一つの目標に向け、邁進していくことが不可欠だといえよう。さらに、「球場での観戦が困難な状況が続くことから、SNSやEコマース(=電子商取引)など、ファンに向けた発信力を高めることも課題になってくる」と、より一層、ファンに向けた配慮も必要になってくるといえそうだ。
CPBLでは、同じく無観客という状況で、現在まで順調に日程が消化されている。今後に向けて、CPBL事務局長・馮勝賢氏は、現時点では観客を動員する目処は立っていないと踏まえた上で、「CPBLとして現在一番重要なのは、衛生福利部(保健省)と各自治体と協議し、政府の方針に従って、全力で防疫対策に取り組んでいくこと。お客さんを入れてのリーグ戦にあたって、コロナウイルスが終息になってから専門家の助言を受けながら、政府と自治体と協議してあらためて検討していく」と方針を語った。
日本でのプロ野球開幕に向けては、まずは感染状況の落ち着きが大前提だ。選手や球団は、実現に向けての万全の対策を考え、関係各所と協議を重ねていくことはもちろん、私たち野球ファンにもできることはある。不要不急の外出は控え、「おうち時間」を楽しむことで、少しでも感染拡大のリスクを抑えていく。一見、小さな取り組みかもしれないが、台湾では、市民の自主的な取り組みが功を奏したことからも、この徹底が一番の策だといえよう。
CPBL・呉志揚コミッショナーは開幕前に次のように述べた。
「しっかりと対策を練ってシーズンを開幕することによって、国民やファンに元気や勇気を与えられるよう台湾プロ野球としての社会責任を果たしたい」
CPBLのこれまでの道のりは、まさにその言葉を体現しているといえると言えよう。
文・岩井惇
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