5月24日、楽天モンキーズの本拠地、桃園国際球場にファンの歓声が響いた。同球場にモンキーズのファンが入場するのは、昨年10月13日、前身のラミゴ時代、中信兄弟との台湾シリーズ第2戦以来、約7カ月ぶりとなる。
観客入場解禁後初の主催試合を、雨で3日連続で流したが、24日は朝から好天となったこともあり、開門前からファンが行列をつくった。オンラインショップで購入したのか、「初日」にして、多くのファンが、楽天モンキーズのユニフォームを着ていることに驚かされた。
無観客での開幕から、マネキンやロボットの応援団で話題を集めた楽天モンキーズだが、この日は、本拠地にファンを入れて行う初の試合ということもあり、川田喜則球団ゼネラルマネジャー(GM)ら、球団トップもファンを出迎えた。
楽天ナインが守備位置につくと、喜びを抑えきれないファンは立ち上がり、声援と拍手を送った。チャンスの場面では、ステージのRakuten Girlsと同じ振りつけで踊るファンの姿も見られた。新曲も準備されたものの、応援歌、チャンステーマなどは、ラミゴ時代のものを基調としたものが多く、ファンも、久しぶりの本拠地での応援を満喫できたようだ。
試合は、今季も目下首位の楽天が序盤リードしたが、中盤に統一ライオンズが逆転、楽天は終盤2度満塁の好機をつくったものの、あと一本が出ず5対7で敗れた。
勝利を花火で祝うことはできなかったが、入場者数は、台湾プロ野球(CPBL)では今季最多、目下上限2000人の「大入り」となった。
4月12日、世界に先駆け、無観客で開幕したCPBLは、新型コロナウイルスの国内感染リスクの低下を受け、5月8日、中央感染症指揮センターの指示に則り、まず上限1000人でファンの入場を解禁した。入場解禁にあたっては、実名制、マスク着用、前後左右の間隔を空けての着席などが義務付けられたほか、球場内での飲食も、水を除き基本禁止とされた。
CPBL及び各球団が、入念な準備を行ってきたこともあり、トラブルも発生することなく、無事に開催された。ただ、飲食禁止は来場意欲に影響するという声もあり、CPBLでは11日、緩和を求めた新たな計画書を提出、これが認められ、15日からは観客2000人への引き上げと共に、球場内での弁当、飲料の販売(持ち込みは禁止)、親子並んでの観戦を認めた。
富邦が、有名ホテルとコラボしたランチボックスは大きな評判となり、試合開始直後に完売となった。統一は29日から31日の週末3連戦に向け、美食の街として知られる地元・台南の各種グルメを味わえる弁当の予約販売を行っている。
楽天モンキーズ初の観客入場、「防疫」対策はしっかり
梅雨入りした台湾では連日の雨となり、5月19日から23日の一軍の試合は全て中止となったが、ようやく24日、富邦対中信(洲際)、統一対楽天(桃園)の2試合が行われた。
楽天モンキーズの川田GMは、初めて本拠地にファンを迎える心境について「素直に非常に嬉しいです」と顔をほころばせた。しかし、すぐに顔を引き締め、各球団と足並みを揃え、CPBLによる「防疫対策」ガイドラインにそって取り組むことが求められているとして、「ファンの方が安心して球場に入ってもらううことが大切、そこは身が引き締まる思いです」と語った。
桃園球場では今回、一塁側ゲートのみを開放、マスク着用、観戦チケットの確認、アルコール消毒、サーモ検温、身分証のスキャンによるゲート通過が認められた後、正面入口で再度、健康証明書の提出、身分証明書を提示して、ようやく通行証代わりのリストバンドが腕に巻かれ、入場が許可された。印象的だったのは、慎重な対策により、待ち時間が通常よりも長時間となる中、ファンが穏やかに従っていたことだ。
なお、球場内では、グッズショップの入場制限がされていたほか、席を移動して隣に座って観戦するファンをCPBLのスタッフが注意するなど、「密」を防いでいた。
この日、日中は30度近くまで気温があがった台湾、湿度も高く、マスクを着けての移動、観戦は息苦しさを感じた。しかし、この日、観戦に来ている多くの人たちは、慎重な防疫対策、マスク着用の義務について、「自分を守る事と同時に、周囲を守ることになる。一人ひとりの行為の積み重ねが、新たな緩和につながる」という意識をもっているようだった。
一方で、15日に上限2000名に引き上げられて以降、7試合中「満員」となったのは24日の統一対楽天の1試合のみという現実もある。台湾では、国内感染例が43日間連続でゼロ(25日現在)と、感染リスクが下がっている中、CPBL及び各球団では、マスク着用の義務付けが、ファンの来場意欲に影響を与えているという考えから、マスク着用を、義務付けから「アドバイス」に、また家族毎の着席許可など、緩和を求める新たな計画書を提出するという。
ファンは新たな設備に満足
本拠地、桃園球場の内装もクリムゾンレッドを基調とした楽天カラーに一新され、入場したファンは、お気に入りの選手のパネル前で記念撮影をしていた。また、お役御免となったロボット応援団に、労いの言葉をかけるファンもいた。
今季、楽天では、1、3塁のファールゾーンにフィールドシート「Rock Seat」を増設したほか、球場内では6つのVIPルームを新設、フードコートも改装し、「中華」対「令和」と銘打ち、1塁側に台湾のほか、香港、シンガポールの「中華」グルメが、3塁側に日本を中心とした各種屋台グルメが並ぶ。なお、フードコートについては、CPBLの指導に則り、弁当など調理済の商品、飲料などから販売を始めた。
「Rock Seat」で観戦していた桃園市のチェンさん(男性)は、「楽天初年度ということで、どういう変化があるか興味がありました。去年、ZOZOマリンスタジアムで、千葉ロッテとモンキーズの交流戦を見た際、フィールドシートが気になっていました。選手が近くて最高です。台南にもこうした席はありますが、ここは内野により近く、1、3塁共に設置されています。台湾に特色のあるスタジアムが増えたことは素晴らしいことです。あとは、フードコートが全面解禁されるのが楽しみです」と喜んだ。
川田GMは、こうした取り組みはあくまでも第一歩に過ぎない、とした上で、目標を先に定めるのではなく、イーグルス時代の経験を元に、ファンの皆さんにいかに楽しんでもらえるかを第一に、毎年毎年、どのようにスタジアムを進化させていけばいいのかを十分に吟味していきたいと、語った。
ハード面と共に、モンキーズはラミゴ時代から様々な企画で台湾球界をリードしてきた。川田GMは、「プロスポーツにとって一番大切なのはファンの方であり、どうやってファンを増やしていくかが重要だ」として、今後、観客動員の上限引き上げと共に、各種イベントを企画していきたい、と述べた。
複数のファンにインタビューを行ったが、モンキーズという名前が残されたことを肯定的に捉えており、楽天には、日本での豊かな経験をモンキーズの球団運営に活かして欲しい、という前向きな意見が聞かれた。中には、楽天生命パーク宮城で採用されているQRチケットを、桃園でも取り入れて欲しい、という意見もあった。
日本のファンへのメッセージ
台湾プロ野球が世界に先駆けて開幕したことで、日本、アメリカを始め、世界各国の野球ファンから一定の関心を持たれていることについては、台湾の選手たちも意識しているようだ。
24日の試合は、調整による中継ぎ登板で負け投手となったものの、4月は月間MVPに輝くなど、ここまで好調を維持している楽天のワン・イーゼン投手(元横浜Dena)は、「日本の皆さんにも見てもらえて嬉しいです。いいプレーを見せられることができるよう頑張りたいです。日本プロ野球の開幕後も、引き続き注目してください」と述べた。また、ワン投手は開幕へ向け、ようやくカウントダウンが始まった日本球界へエールを送ると共に、新型コロナウイルスの収束後には、再び日本のプロ野球チームとの交流を通じて、優れた技術を学び、少しでも近づきたい、と希望した。
なお、台湾の交通部は先日、10月から 12月にかけ、海外の旅行者の入境を開放する方針を示した。まだ不確定な要素は多いものの、今シーズン中に、日本のファンが来場できる可能性も出てきたことになる。
楽天の川田GMは、「是非、一度球場に足を運んでください」とアピール、「楽天モンキーズという名称となり親近感を覚えた日本のファンもいると思います。パワフルな打撃、Rakuten Girlsのダンス、そして、きちんとしたフードコートがあり色々なグルメが楽しめるボールパークがあります。桃園空港からも近いので、台湾旅行のスタート、もしくは締めくくりに立ち寄っていただきたいです」と来場を期待した。
この春、中継を通じて、台湾プロ野球に興味をもった方もいるかもしれない。中継画面からも十分熱気は伝わってくると思うが、やはりおすすめは生観戦だ。日台往来の解禁時期は未定だが、解禁のあかつきには、是非球場を訪れ、その「熱さ」、魅力を生で感じてほしいと思う。
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