試合前には、コロナ対策の「英雄」を称えるセレモニー
世界に先駆けて、4月12日に開幕した台湾プロ野球は、新型コロナウイルスの国内感染リスクが低下していること、さらに、開幕から約1カ月、各球団が「防疫」対策に取り組み、観客入場での試合運営に自信を得たことを理由に、5日の防疫会議で、入場者数を1000人まで引き上げることを決議、中央感染センターも6日、これを正式に認めた。
そして、台湾プロ野球は8日、統一対富邦(新荘球場)及び、楽天対中信兄弟(台中インターコンチネンタル球場)の2試合で、上限1000人ながら、今季初めて観客を入れて試合を開催した。台湾プロ野球の呉志揚・コミッショナーは試合前、「母の日を前に、世界に先駆け、ファンを入れて開催できることを嬉しく思う」と喜びを示した。
台湾で「世界初」のプロ野球開幕に続き、観客を入れての試合開催も実現できた背景には、新型コロナウイルスの感染拡大防止の為に、第一線で奮闘してきた各方面の人たちの多大な貢献がある。
そこで台湾プロ野球及び各球団は、こうした「英雄」たちを試合前のセレモニーに招き、その貢献をたたえた。新荘球場では、武漢からのチャーター便など消毒作業にあたった兵士を含む国軍の軍人や、コロナ対策の実務トップ、中央感染症指揮センター指揮官を務める陳時中・衛生福利部長らが、そして、台中インターコンチネンタル球場には、マスクの増産、安定供給に大きな貢献した工作機械企業の関係者が招待された。
筆者が訪れた新荘球場のセレモニーで、最も盛り上がったのは、中央感染症指揮センターの陳指揮官が紹介された時だった。陳指揮官はコロナの流行開始以来、3カ月以上、1日も休むことなく定例記者会見を行ってきた「鉄人」で、丁寧な説明と人情味のある人柄で、国民の圧倒的な支持を得ている。
背番号「0」のユニフォームを着た陳指揮官は、「今日の新規感染者も0人だった。これは国民全体の努力の成果だ。防疫はウイルスとの戦いであると同時に、心理戦だ。これから台湾は、健康的で無理のない、持続可能な防疫対策という新たなステージに入る。野球観戦はこうした生活に相応しい」と述べ、観客入場の解禁を喜んだ。陳指揮官はその後、TV中継の実況席にも登場、今後、観客の上限を2000人へ引き上げることへの意欲をみせた。
また、当初、台湾プロ野球から8日の試合への来場を打診されたものの、「防疫対策の関係者こそが相応しい」と辞退した蔡英文総統はVTRで登場、全世界の医療・介護スタッフに向け、「あなたたちは、皆にとってのMVPだ」と感謝すると共に、台湾の野球、防疫対策の関係者にエールを送った。
観客入場開放にあたっての対策、ファンの反応
8日まで、国内感染が26日連続で0人と抑え込みに成功している台湾だが、台湾プロ野球では、観客の入場開放にあたり慎重な対策を講じた。
まず、チケットについては、昨季まではコンビニエンスストア内の端末で自由に購入ができたが、今回は予約、座席位置から購入者が特定できるよう、シーズンチケット購入者以外は、会員登録、ログインが必要なウェブサイト上で予約を受け付けることになった。
6日の正式発表から日数がなかったことに加え、こうした、飲食禁止を含む、厳格な入場ルールもあり、8日の初戦のチケット販売への影響も予想されたが、シーズンチケット購入者、ファンクラブ会員から優先発売が始まったチケットは、2試合共に、完売した。
台湾プロ野球の呉・コミッショナーは、「ファンの皆さんも、さまざまなルールに慣れない点はあるかと思うが、是非とも協力を願いたい。」と訴え、ファンの協力により、上限人数の引き上げや、飲食の解禁、家族固まっての観戦などが、近いうちに実現することを期待した。
ファンは、観客を入れての試合開催をどのように捉えただろうか。毎年、シーズンチケットを購入し、昨年は主催試合60試合全試合を観戦したという熱烈ファンの林さん(女性)は、はやる気持ちを抑えきれず一番乗りで球場にかけつけた。林さんは「入場解禁は早くて後期、7月くらいからと思っていたので、とても嬉しい。球場についた瞬間はそれほど実感はなかったけれど、スタンドで試合を見はじめたら、臨場感が増してきて、感動した」と笑顔で語った。
また、当日の午後にチケットを購入したという学生の蘇さん(男性)は、「とにかく嬉しい。飲食禁止については耐えられる。なによりも今は、球場で試合が見られることが第一だ」と目を輝かせた。
試合は、ホームチームの富邦が1-2の6回裏に、打者9人の猛攻で4得点を入れ逆転。統一も終盤追い上げたが、結局富邦が7-6で逃げ切り、記念すべき観客入場解禁初日を勝利で飾った。
席の間隔が空いており、周囲のファンに気を使う必要がないからか、序盤から立ち上がって、振り付けをしながら応援するファンも多数みられ、特に富邦のチャンスともなると、ファンは総立ちで、応援団、チアガールと共に、選手に大きな声援を送っていた。「初戦」ということもあり、熱狂的なファンが特に多かったことを差し引いても、その盛り上がりは1000人とは思えず、あらためてファンの喜びの大きさを感じた。
なお、台湾プロ野球では12日に統一ライオンズ(台南)が、21日に樂天モンキーズ(桃園)がホーム初戦を迎える。収容人数の関係から、台南球場のみ、200席分、外野席を開放するという。
幸せ噛みしめる選手たち、古久保コーチから日本のファンへのメッセージ
観客を入れての試合開催について、現場の選手、コーチたちはどのように感じたのだろうか。
元メジャーリーガーの富邦・胡金龍は「多くの友人が海外でプレーしているが、大部分のマイナーリーガーは今もまだ自主トレを行っている段階だ。今、プレーできる場があることに感謝しなければならない」と神妙な面持ちで語った。
8日の試合、富邦ファンの熱い声援に応え、7回2失点と好投、ゲームのMVPに輝いた若き左腕、陳仕朋は、「ファンのいない静かな球場だと、投球に集中しやすいというメリットもある。でも、やはりスタンドにファンがいるなかでのプレーはモチベーションが違う。いい投球をみせたい、勝ちたいという気持ちがぐっと湧いてくる」とファンの存在の大きさを語った。
また、昨シーズンから富邦の一軍バッテリーコーチに就任し、自身の豊かな経験を伝えている古久保健二コーチ(元楽天イーグルスコーチ)がインタビューに応じてくれた。
古久保コーチは、台湾政府のコロナ対策、そして国民の協力姿勢を称賛したうえで、「世界で初めて野球ができることの幸せを感じています。ファンの声援は心強いです。今まで通りの、にぎやかなスタンドで、選手も力が入ると思います」と喜んだ。
そして、プロ野球開幕を心待ちにする日本の野球ファンに向け、「皆さん、大変苦しい思いをしていると思いますが、一人ひとりが感染防止を心がけていけば、いずれ収束すると思います。皆さんが力を合わせることで、一日も早く、開幕の日が来ることを心より願っています」と語ってくれた。
健康面、そして精神面においても不安な生活が続くなか、今こそ野球を見て活力をもらいたいというファンも多いだろう。当然、慎重な判断は求められるが、徐々に収束に向かい、日本においても、ファンが野球に熱狂するあの日々ができるだけ早く戻ってくることを願いたい。
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