歴代最多の350ホールドに到達した北の鉄腕。宮西尚生の“すごさ”に迫る

パ・リーグ インサイト 望月遼太

ファイターズ・宮西尚生 NPB史上初となるプロ通算350ホールド達成!! 2020/8/12 M-F(C)パーソル パ・リーグTV
ファイターズ・宮西尚生 NPB史上初となるプロ通算350ホールド達成!! 2020/8/12 M-F(C)パーソル パ・リーグTV

通算350ホールドの大台に到達した投手は現在に至るまでただ一人

 通算350ホールドの大台に到達した投手は球史を見渡しても唯一無二。北海道日本ハムの宮西尚生投手は、中継ぎ投手として傑出した数字を残し続けている稀有な存在といえる。もちろん、実力無くしてこれらの大記録が成し遂げられたわけではない。長年にわたって活躍を続けられていることには、それ相応の理由がある。

 今回は、宮西投手が残してきた数字や過去の投球データ(2019年シーズン終了時点)、実際の配球といった要素から、どのような点において優れているのか分析。その足跡や特長を探っていくとともに、宮西投手が持つ「すごさ」に迫っていく。

プロ入りから12年連続で50試合以上に登板

 宮西投手は大卒1年目の2008年から50試合に登板してブルペンの一角に定着すると、その後は左のリリーフとしてチームに欠かせない存在へと成長し、現在に至るまで毎年フル回転を続けている。その貢献度と安定性は数字にも表れており、プロ入り以来12年連続で50試合以上に登板というパ・リーグ記録を継続中だ。この記録は岩瀬仁紀氏(元中日)の15年連続に続く、史上2番目の長さとなっている。

与四球の少なさ

 1人の走者が局面を大きく変える試合終盤を託されることが多いリリーフ投手にとって、「制球力」の優劣も重要な評価対象の一つとなりうる。もちろん、左の中継ぎの代表格である宮西投手も、優れたコントロールを持ち合わせた投手のうちの一人だ。

 宮西投手は、9イニングを投げた際に与えると仮定される四球の数を示す「与四球率」の現役通算の値が2.795(2019シーズン終了時点)と、単純計算で3イニングに1個未満という数字を維持している。複数の四球で走者をためて大崩れする可能性が低いという点も、宮西投手が安定した投球を続けられる理由の一つだ。

 シーズン別の数字に目を向けると、年間の四球数が1桁にとどまったシーズンも2度存在。2010年には61試合で与四球9の与四球率1.699、2019年には55試合で与四球6の与四球率1.141と、該当する2シーズンはそれぞれ年間を通して抜群の制球力を維持し続けた。両年ともに自責点1桁・防御率1点台と結果も伴っており、制球の安定が投球内容自体の優秀さにもつながっている。

左投手にもかかわらず「ワンポイント」にとどまらない汎用性

 左のリリーフ、かつサイドスローの投手に求められる仕事といえば、基本的には左打者を抑えることとなる。そして、「ワンポイントリリーフ」という言葉が古くから存在するように、イニングの途中から左打者と対戦するために登板し、右打者に打順が回った段階で後続の投手と交代する左投手も少なくはない。

 しかし、宮西投手は左のサイドスローという特色を持ちながら、左打者だけでなく右打者との対戦を任される機会も多く、1イニングを1人で投げ抜くことも多い。直近4年間における宮西投手の登板数と、そのうち1イニング以上を消化した試合の数は以下の通りだ。

2016年:58試合中40試合
2017年:51試合中31試合
2018年:55試合中37試合
2019年:55試合中40試合

 以上のように、それぞれのシーズンで過半数を上回る数字を記録している。さらに、2019年の宮西投手は右打者との対戦のほうが左打者よりも多く、被打率も.209と左打者の.188と比べても大きな差はなかった。宮西投手の球種は後述のようにほぼ速球とスライダーのみであり、右打者にとっては外角に逃げていく球がないにもかかわらず、これほどの対戦成績を残しているのは見事の一言に尽きる。

2つの球種だけで投球を組み立て、それでいて打たれない完成度の高さ

 左のサイドスローから繰り出される速球とスライダーのコンビネーションが、宮西投手の最大の武器だ。実際に2019年シーズンにおける宮西投手の球種配分を見てみると、速球とスライダーがそれぞれ全体の約半数を占めており、ほぼこの2球種のみで投球を組み立てていたことがわかる。

 それでも安定感のある投球を続けられるのは、この2つの球種が非常に高い完成度を持っていることに加え、制球力をはじめとした、安定した投球を続けるために必要な能力が長けているからに他ならない。実際、過去2年間は被本塁打がそれぞれ1本ずつと本塁打を打たれる危険性も低く、救援投手にとって最も致命的な一打で大量失点という機会を招く可能性も同様に少なかった。

スライダーを軸にした左右を問わない効果的な配球の実現

 宮西投手がほぼ2つの球種のみで投球を組み立てているのは先ほど述べた通りだが、具体的にはどのような配球で速球とスライダーを生かしているのだろうか。その実例として、2019年5月31日オリックス戦の8回裏に、宮西投手と捕手の清水優心選手が見せた配球を見ていこう。この試合では、1点リードで迎えた8回表に3点を追加し、4点差とした直後の1死満塁という、試合の流れを左右する重要な局面でマウンドに上がるかたちとなった。

 まず、最初に宮西投手が対戦したのは右打ちの佐野皓大選手。四死球でも1点を失う状況だったが、宮西投手は2球続けてアウトコースに真っ直ぐを投じてあっさりと追い込む。続く3球目は、ボールゾーンに落ちる大きな変化のスライダーで3球三振に斬って取り、打球をフェアゾーンに飛ばすことなくアウトカウントを増やした。

 続く大城滉二選手に対しても、初球はひざ元まで変化するスライダーを投じてボール。2球目の真っ直ぐは、真ん中低めに構えた捕手のミットとは異なるアウトコースに行ったが、ファウルを打たせる。3球目は外角のボールからストライクになるスライダーを決めて追い込み、4球目は再びスライダーをボールゾーンに落として2-2の並行カウントとなった。

 5球目は外角低めの直球、6球目も外角のスライダーでそれぞれファウルとなり、2-2のカウントのまま投じた最後の1球。内角低めに構えた捕手のミットとは違った場所に行ったが、外角低めのボールゾーンと比較的安全なコースに向かい、センターフライに打ち取った。流れを奪われかねない場面でゴロや犠飛による1失点も許さず、きっちりと火消しに成功し、チームを勝利へと導いた。

 右打者に対してはスライダーが外に逃げる格好にはならないものの、それでもアウトコースを中心に、一発長打の危険性が低く、それでいて窮屈さを感じさせない投球を見せていた。ひざ元に鋭く落ちるスライダーは右打者からも空振りを奪える伝家の宝刀であり、打者の左右を問わずにその威力を生かした投球の組み立てが行えるのは、宮西投手の大きな強みといえる。

 また、今回取り上げた試合では満塁という四球すらも許されない場面においても、1度も3ボールまで行くことなく2人の打者を打ち取っていた。仮に捕手の要求通りのコースには行かずとも甘いコースにはボールが行かない「失投」の少なさも含め、ピンチの場面でも着実に求められた仕事ができる理由の一端がうかがえる。

防御率にも示されている長年にわたる安定感の高さ

 プロ1年目の防御率は4.37とルーキーイヤーはやや苦戦した試合も少なくなかった宮西投手だが、2年目以降は防御率をはじめとした数字の面でも安定感を示し続けている。2019年までのプロ通算12年間で防御率1点台と2点台のシーズンがそれぞれ5度ずつあり、1年目を除く残りの1シーズンも防御率3.32と、常に大崩れすることなくシーズンを乗り切ってきた。

 また、年間を通じて自責点が1桁というシーズンも実に5度存在し、無失点でマウンドを降りることが大半という抜群の安定感を誇っている。だからこそ、失点の許されない僅差の場面での登板が多いセットアッパーとして、首脳陣も大きな信頼を持ってマウンドに送り出すことができる。登板数の多さと長年にわたる優れた成績は、一種の相関関係にもなっているだろう。

直近4年間で3度の最優秀中継ぎ投手賞を受賞

 宮西投手の多岐にわたる安定性はこれまで述べてきた通りだが、近年は年度別のホールド数という面でも、パ・リーグにおいて傑出した数字を残している。中継ぎ投手にとっては最も大きな勲章といえる最優秀中継ぎ投手のタイトルを、2016年、2018年、2019年の3度にわたって受賞。直近4年間のうち受賞を逃したのはわずか1度のみという、驚異的な実績を誇っている。

 前人未到の通算300ホールドを達成した事実からもわかる通り、ホールド数を稼ぐという点においては、宮西投手はまさに球界の第一人者と言ってもいい存在だ。その過程でシーズン別の数字としてもリーグ最多の数字を記録することが多かったのは、いわば当然のことと形容できるかもしれない。

リリーフ左腕に必要な要素の数々を極めて高いレベルで備えている

 場面や対戦相手の左右を選ばない対応力、優れた内容を年間を通して維持する安定性、故障離脱とは無縁の頑強さ。そういった希少な要素の数々を極めて高いレベルで備えていることこそが、宮西投手の「すごみ」であると言えそうだ。中継ぎ投手としての実績が他の追随を許さないレベルにまで到達した理由は、リリーフ左腕としての優れた資質と、それを維持するだけでなく、さらに伸ばし続けている本人の不断の努力によるものだ。

 34歳で迎えた2019年には自己最多の43ホールドを記録しただけでなく、四球の数は過去最少の6個、自責点も1桁の9と、年齢的にはベテランの域に達した今もなお、投手としての進化を続けている宮西投手。歴代1位のホールド数をはじめとした数々の記録を今後も更新し続けるべく、北の鉄腕はこれからもチームのためにフル稼働を続けてくれることだろう。


文・望月遼太

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パ・リーグ インサイト 望月遼太

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