高卒3年目にして、先発とリリーフの双方で結果を残している山本投手
2019年のパ・リーグにおいて最優秀防御率のタイトルを獲得したのは、高卒3年目、21歳の山本由伸投手だった。若くしてオリックスの投手陣の中心的存在へと成長を遂げた山本投手だが、プロ初年度の2017年は先発、2年目の2018年には中継ぎ、そして3年目の2019年には再び先発と、プロ入りからの3年間は毎年異なる持ち場を任されていた。
山本投手が先発として2019年に見せた投球の質の高さはタイトルを獲得した事実が物語っているが、快速球とフォークを軸に中継ぎとしてフル回転し、シーズン途中まで最優秀中継ぎ投手の座を争った2018年に残したインパクトも相当なものだった。若くして先発と中継ぎの双方で能力の高さを示している点も、山本投手の豊かな才能を示すエピソードの一つと言えるだろう。
今回は、具体的に山本投手のどのような点が優れているのかについて、一軍での登板機会が多く得られるようになった直近2年間のデータや、実際の配球や球種の変化をもとに分析。若くしてエースナンバーである背番号「18」を引き継いだ剛腕が持つ高い能力と、その無限の可能性についてあらためて振り返っていきたい。
防御率をはじめとする、各種指標の優秀さ
山本投手は2019年に防御率1.95という素晴らしい数字を残していたが、リリーフとして活躍していた2018年も、シーズン53試合目の登板となった9月18日の時点で、防御率2.05という安定した数字を残していた。年間最終登板となった9月19日の試合でまさかの5失点を喫して最終的な防御率は2.89まで跳ね上がってしまったが、それまでは中継ぎとしても防御率1点台に迫ろうかという活躍を見せていたといえる。
防御率だけではなく、1イニングあたりに出した走者の数を示す指標である「WHIP」という指標においても、山本投手は2018年が1.06、2019年が0.96と、非常に優れた数値とされる1.00近辺の数字を記録。すなわち、走者を出す確率自体が低い投手といえる。さらに、年間の被本塁打8本は2019年にパ・リーグの規定投球回に到達した投手たちの中では最少かつ唯一の1桁台であり、その点からも大量失点を喫する可能性が低いことが見て取れる。
豊富な変化球と、各球種の質の高さ
リリーフとして登板を重ねていた2018年には、速球、カットボール、フォークの3球種が投球の大半を占めていた山本投手。しかし、先発に再転向した2019年には先述の3球種に加え、カーブとツーシームの割合が大きく増加。やや頻度は落ちるがそれにスライダーを加えた6つの球種を使い分けることができ、なおかつ各球種の質が極めて高いのが山本投手の特徴の一つといえる。
最速で150km/h台後半に達する快速球と、同じく150km/hを上回ることが少なくないツーシームに加え、カットボールも時に150km/hに到達する速さを持ちながら変化する驚異的な球種だ。それに加えて140km/h台の球速で鋭く落ちる高速フォークや、おしなべて高速な他の球種に混ぜることにより、より効力を発揮するブレーキの利いたカーブも持ち合わせる。いずれの球種も実戦的であり、打者にとっては的を絞るのが極めて困難といえる。
豊富な球種を活かし、優位な駆け引きに持ち込む配球と投球術
先述の通り、山本投手が持つ球種はいずれも一級品と呼べるだけの質を備えている。それでは、山本投手は実際にそれらの球をどのように用いて、投球を組み立てているのだろうか。ここでは、プロ初完封を飾った2019年6月28日の埼玉西武戦を例として紹介したい。1点リードの場面で迎えた3回裏。2本の安打と四球で無死満塁という大ピンチを迎えた状況で、源田壮亮選手と外崎修汰選手の2名と対戦した場面での配球について見ていこう。
源田選手に対する初球は外角低めに要求した捕手の構えとは異なり内角に行ったが、147km/hの速さで落ちる球にバットは空を切る。続く2球目は外角低めに、今度は127km/hのカーブを投じ、再び空振りを奪って追い込む。3球目も145km/hのフォークを投じてボールとなり、4球目は再びカーブでファウル。変化球が4球続いた後の5球目、打者としては予測が難しい状況で155km/hの速球を投じ、見事に空振り三振に斬って取った。
続く外崎選手に対しては初球の150km/hのカットボールが外角低めに外れてボールとなり、2球目も同じく外角低めに150km/hのカットボールを投じてファウル。3球目は外角低めに構えた捕手の要求とは異なりやや高めに浮いたが、153km/hの速球で右飛に打ち取る。そして、タッチアップを狙った三塁走者は小田裕也選手の好返球で本塁憤死。絶体絶命のピンチを無失点で切り抜けてみせた。
以上のように、複数の速い変化球、緩急をつける緩いカーブ、そして155km/hに達した速球という、複数の引き出しを使い分けて打者との駆け引きを終始優位に進めていた。それを可能とするだけの球種の多さと球速の幅広さ、そして安打のみならず四球を出しても同点という大ピンチを迎えても動じずに腕を振り抜く強心臓という、山本投手の持つ優れた資質が大いに垣間見えた場面だったといえよう。
コントロールの良さ
長いイニングを投げ抜くためのペース配分が求められる先発投手の方が、短いイニングを全力で投げ抜いてきっちりと抑えることが仕事のリリーフ投手よりも、制球という面では難しい要素が多いと言える。しかし、山本投手の場合は、それとはやや異なる趣の結果が出ている。リリーフとして活躍した2018年の与四球率は2.72。それに対し、先発を務めた2019年の与四球率は2.27と、先発としての数字の方が制球面に優れているのだ。
これらの数字はこの1年間における山本投手の進化を示しているとともに、リリーフ時に比べてより多彩な球種を操りながら、各球種の制球力も維持している山本投手の能力の高さ、先発投手としての優れた才能といった要素を証明してもいるだろう。そして、その制球の良さは先程紹介した満塁の場面での投球のように、四球を出す可能性が低いからこそボールコースの変化球から入っていけるという、一種の副次効果をも生み出している。
苦手な球団がない
先発投手にとって、特定の苦手球団を作らないということは、特定の球団に対応したローテーションの組み換えを考えなくても良いという点においても、少なからず意味を持つものだ。そんな中で、山本投手が2018年と2019年の2シーズンにおいて、パ・リーグ各球団に対してどのような成績を残したのかを見ていきたい。その結果は以下の通りだ。
リリーフを務めていた2018年には対戦防御率9.95と楽天を極端に苦手としており、千葉ロッテに対しても対戦防御率4.09とやや苦戦していた。しかし、先発として迎えた2019年には両チームとの対戦成績を防御率1点台と大きく改善している。楽天との対戦はシーズン1度のみと回数こそ少なかったが、前年の対戦成績は払拭できたのではないだろうか。
また、2019年にはリーグ最高の得点力を誇る埼玉西武を対戦防御率0.37と完璧に抑え込んでおり、相手を選ばない実力の高さを示している。また、対戦防御率が5球団で最も悪かった北海道日本ハムに対しても2.37という高水準の数字で、どの球団に対しても安定した成績を残しているのも特徴的だ。こういった点にも、山本投手が持つローテーション投手としての資質の高さが表れている。
年間を通して安定した投球を披露した波の少なさ
対戦相手別の成績と同様に、山本投手は2019年シーズンにおいて、月別の投球結果においても安定した成績を残している。直近2年間における、その数字は以下の通りだ。
一軍で多くの登板機会を得た最初のシーズンとなった2018年には、セットアッパーとして5月からフル回転を続けた影響もあったのか、夏場に入った8月以降に防御率が大きく悪化していた。しかし、2019年には脇腹の負傷による離脱期間もあり肩を休めることができたことが良かったのか、すべての月で防御率2点台以下という抜群の安定感を発揮。前年に苦しんだ8月以降も好成績で乗り切っており、こちらにおいても弱点を克服したと言えそうだ。
ちなみに、試合時間別の成績に目を向けて見ると、2019年にはデーゲームの防御率が6試合で1.94だったのに対し、ナイトゲームの防御率は14試合で1.95。こちらの面でも双方の数字にほとんど差がなく、シチュエーションを問わない安定性の高さを裏付けるものになっている。
若くして破格の実力を備えた剛腕は、今後どのような成長を見せてくれるか
これまで述べてきたように、山本投手は各球種の質、制球力、前年苦しんだ相手や時期に対する対応力といった、投手としての優れた要素を数多く備えている。とりわけ、投球の安定に寄与する点におけるの質の高さが、防御率1点台での最優秀防御率という成績として結実したとも言えるだろう。それだけでも特筆すべき存在といえるが、まだ21歳という若さにしてこの完成度という点が、山本投手の底知れないポテンシャルの高さを示してもいる。
2020年の初登板となった6月21日の楽天戦では、8回を投げて3安打、10奪三振で無失点という素晴らしい投球を展開。開幕2試合で11得点を奪っていた楽天打線を完璧に封じ込め、チームに待望の今季初勝利をもたらしている。前年同様の質の高いピッチングをさっそく見せてくれた山本投手が、今季もオリックス投手陣の中心となる可能性は高そうだ。
このまま順調に進化を続けていけばいったいどれほどの投手になるのか、現時点では誰も想像がつかないほどの大器。日本球界のエースとなる可能性を秘めた俊英は、その修正力を活かし、昨季の優れた内容からさらに成長した投球を見せてくれる可能性もあるだろう。オリックスの屋台骨を支える存在へと飛躍した若き右腕に、今後もぜひ注目してみてはいかがだろうか。
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