なぜ、オリックスの場内ビジョンはあんなにカッコいいのか?【福田周平選手撮影現場潜入レポート】

パ・リーグ インサイト

チャンス動画撮影中の福田周平選手(C)パ・リーグインサイト
チャンス動画撮影中の福田周平選手(C)パ・リーグインサイト

 全国の球場に足を運んで思うことがある。オリックス・バファローズの本拠地、京セラドーム大阪の場内ビジョンはズバ抜けてカッコいい。

 吉田正尚選手のチャンス動画では、本人出演のゆかいな映像に合わせて、ファンが一斉にダンベルを掲げるのが定番になっており、岸田護現二軍投手コーチの引退試合のスペシャルムービーでは、選手の表情、グラフィック、演出、どれをとってもセンスのよさを感じた。

 縦8メートル横23メートルの特殊すぎるビジョンだからこそできる演出は、中継ではなかなか映らないため、球場へ足を運ぶ醍醐味であり、「野球を観に来た」高揚感を助長させる。このオリックスのビジョンのカッコよさを野球ファンへ伝えたいという純然たる思いから、2020年バージョンのビジョンの撮影現場に潜入することに。想像以上のスケールと、チーム関係者、選手間の信頼と協力体制のもとでできあがっていく様子をお伝えする。

撮影だけで10日間。プロモーションや演出のパイオニアだからこそのこだわり

 1月下旬、ところは舞洲バファローズスタジアム隣接の室内練習場。この練習場内に特設のスタジオを用意し、選手のビジュアルのスチール撮影とムービー撮影を行う。全選手撮り終えるのに10日間。選手ひとりひとり少しずつ違う内容の撮影が行われる。

「他球団から移籍した選手は『えっ撮影にこんな時間かかるんですか?』『何に使うんですか?』とびっくりされますね。でも、できあがりを見て『あれカッコよかったですね』と納得してくれる。元からいる選手は『今年もこの季節か』という感じでしょうか。ほんまに選手がよく協力してくれています」と話すのは、ビジョン制作に携わるオリックス野球クラブ・宣伝グループの木寺一樹さんだ。

「そもそも、オリックスはいろいろなプロモーションや演出のパイオニアと言われています」と木寺さん。今では当然のように全球団が取り入れている「選手の登場曲」や、チャンス時の演出などもオリックス球団が走りだったという。だからこそ毎年こだわった新作を出していきたいという思いもあるのだろう。

 そして、選手にとっても試合中にビジョンを目にすると気分が高まる。こうしたモチベーションを上げるために、演出は極力一緒に行っていくのだという。さらに、撮った映像は必ず選手本人が確認をして修正を施していく。登場する選手本人が映像の制作に携わっていくことで、選手もシーズン通して見るこれらの映像に愛着が沸くのだろう。

 この日撮影を行っていたのは、福田周平選手。スチール、チャンスムービー、スタメン発表時のオープニングムービーの撮影に同行した。

「慣れないっすね」と言いながら、メイク台の前に座る福田選手。
「慣れないっすね」と言いながら、メイク台の前に座る福田選手。

 まずはスチール撮影。メイクをしてもらいすぐにフォトグラファーの前に立つ。正対、あおり、振り返り、おなじみの「Bポーズ」など細かくフォトグラファーから指示が飛ぶも、淡々とこなす福田選手。途切れることなくシャッター音が鳴り響き、撮ったそのカット数は18にもおよんだ。「カット数も他球団さんに比べて多いと思います」と木寺さん。この写真は、ビジョンだけでなく宣伝販促物、プロフィールなど、あらゆる場面で使用される。

スチール撮影は3回目とあって慣れたもの。
スチール撮影は3回目とあって慣れたもの。

 スチール撮影が終わると流れるようにムービー撮影へ。まずは福田選手の登場曲『バリバリ最強No.1』のアニメ『地獄先生ぬ〜べ〜』をオマージュしたチャンスムービーの撮影から。

「昨年は、(鬼の手の)グローブを外すだけでしたが、今年はもう少しポーズを増やしています」と映像ディレクターの(株)ナナイロ永友伶奈さん。グローブを外した後の表情や、決めのポーズなど、より複雑な演出になった。

映像ディレクターの永友伶奈さんによる演技指導(!?)があってか、スムーズに撮影が進む。
映像ディレクターの永友伶奈さんによる演技指導(!?)があってか、スムーズに撮影が進む。
「緊張はしないです」と福田選手。ほとんど一発OKだった。
「緊張はしないです」と福田選手。ほとんど一発OKだった。
一瞬の表情をカメラが追う。
一瞬の表情をカメラが追う。

 福田選手は演出の意図や撮影カットをすぐに理解し、撮影にも協力的なため進行が早い。左から右からカメラを向けては、次々とOKテイクとなっていく。「(福田選手は)いい役者さんでした」と永友さんも満足の撮れ高だったようだ。

山岡泰輔投手の撮影にも潜入。新背番号「19」がお似合い!
山岡泰輔投手の撮影にも潜入。新背番号「19」がお似合い!
吉田正尚選手のラフ画を拝見。毎年話題のマッチョマンは今年はアニメ風。
吉田正尚選手のラフ画を拝見。毎年話題のマッチョマンは今年はアニメ風。

「選手の個性やカッコよさを引き出したい」

 休む間もなく、次はオープニングムービーの撮影だ。

「今年は初めてスタジオを貸し切って撮影をやります」という木寺さんの言葉からも気合が感じられる。そこは造船場跡地のスタジオなのだという。

「華やかでミュージックビデオ(MV)を意識したムービーに仕上がる予定です。選手の個性やカッコよさを引き出せれば」と木寺さん。

 先にオープニングムービーを撮り終えて室内練習場に戻ってきた山岡投手は「撮影スタッフが多くてびっくりしました。現場もすごいカッコよくて本当にMV撮ってる感じ」と話す。

 横幅のあるビジョンの特性を生かして、投手の腕のしなりを強調したり、迫力あるバッティングや盗塁の様子を演出できるのが、通常の16:9の動画と比べて演出の工夫しがいがあるところ。果たして今回のオープニングムービーはどのような演出に? 現場に到着すると、山岡投手の言葉の通り、総勢20余名のスタッフが福田選手を待ち構えていた。

 ただ、待ち構えていたのはスタッフだけではない。広さ300平米近くはあろうかというスタジオのど真ん中にウエイトトレーニングのマシーンが鎮座。「この日のために用意しました」というマシーンに福田選手も驚く。

 細身の体からは考えられないが、自身の体重の1.5倍を超える100kgオーバーのバーベルを持ち上げるほどのパワー系な福田選手。そのイメージから、福田選手は「トレーニングに励む様子」が主な撮影ポイントとなる。

 マシーンを取り囲んでの撮影が進むなか、ウエイトに取り組む自身の表情に納得がいかなかったのか、「本気でキツいのいきましょう。一番重いのにしてください」と福田選手から提案が。

 こうして撮れたのは、こめかみに力が入り、唇を噛み締めた、演技ではない表情。モニターを眺めていたスタッフからも思わず唸る声が聞こえた。当の福田選手は「きましたわ。アドレナリンが」と爽やかに汗を拭う。その姿が印象的だった。

カメラが回っていないところではリラックスした様子の福田選手。
カメラが回っていないところではリラックスした様子の福田選手。
何往復もしたランの様子。その甲斐あってこのシーンは無事採用となった。
何往復もしたランの様子。その甲斐あってこのシーンは無事採用となった。

 1時間半におよぶ撮影を終え、福田選手は「こんなにスタッフさんが多いとは思いませんでした。照明や演出がすごかったですね。わざわざこの撮影のためにウエイトマシーンを買うとは(笑)。できあがりが楽しみです」と頬を緩ませる。

 今シーズンの目標を尋ねると、「とにかく優勝すること。自分のやるべき仕事を全員がひたむきにやることが、良い結果につながると思います。僕個人としては出塁することをしっかり考えていきたいです」と語った。

 そして、「昨年は最下位で、たくさん応援をしてくださったファンの皆さんにとっても悔しい結果になってしまったと思います。このムービーを観て今年も一丸となって応援してくださると嬉しいです。球場が一体となる感じが今から楽しみです!」と締めくくった。

 後日、木寺さんから「ムービーが完成しました!」と連絡があり、できあがりを一足先に見せていただいたが、その壮大なスケールと規格外の選手のカッコよさに思わずニヤけてしまった。

 本来であれば、京セラドームに足を運んだみなさんが今年のビジョンをご覧になったうえで、本稿と照らし合わせて楽しんでいただくことを想定していたが、いまだ開幕の見通しは立たない。そこで、オリックス球団は5月1日より、球団公式スマホ向け有料サイト「BPB(バファローズ プレミアム ボックス)」、6月16日からは「BsTV」にて、このオープニング動画を配信する。球場ロスの方も選手ファンの方もぜひご覧いただきたい。

 球場で野球が観戦できることのありがたさを感じつつ、また笑って観戦できる日が訪れることを祈って。

文・写真 「パ・リーグインサイト」海老原 悠

オリックスの関連記事

礒部公一氏が語る自らの「近鉄人生」
T-岡田ウインターリーグインタビュー
B鈴木優が伝説の捕手から学んだこと

記事提供:

パ・リーグ インサイト

この記事をシェア

  • X
  • Facebook
  • LINE