2005年高校生ドラフト1巡目でオリックスに指名されてから15年目の2020年、T-岡田は野球人生の岐路にいる。
昨季はわずか20試合の出場に終わり、シーズンの大半を二軍ですごした。自身に与えられるチャンスが少なくなったばかりでなく、チームは新シーズンに向けて超大物選手を獲得している。メジャーリーグ通算1939安打、282本塁打の強打者、アダム・ジョーンズだ。指名打者か外野、一塁での起用が予想され、T-岡田にとってポジションを争う存在になる。
「そうなりますかね。(ポジション争いに置かれるのは)チームを強くするためには仕方ないと思います。自分がもたもたしているから、そういう事態になっているところもありますし」
高卒5年目の2010年、王貞治以来となる22歳で本塁打王に輝いて以降、度重なる故障に悩まされた。毎年のように打撃フォームを変えるなか、調子の波があまりにも激しく、長距離砲として求められる数字をなかなか残すことができなかった。
20代ラストの2017年は身体の調子がすこぶる良く、7年ぶりに30本塁打以上を記録したものの、翌年アクシデントに見舞われる。
「春季キャンプ中に脇腹をケガして、感覚がおかしくなって。なんか無茶苦茶になっちゃったという感じです」
開幕を二軍で迎えた2018年は打率.225に沈み、31歳で迎えた翌年は打率1割台の大不振──。
若くして本塁打王を獲得し、周囲の期待も自身の意欲も一気に上がったなか、思うようなパフォーマンスを見せられなかった年月をどんな思いですごしてきたのだろうか。
「苦しかったですね、それは」
噛み締めるような表情で胸の内を明かすと、一転、穏やかな顔になった。苦しい過去を正直に明かすことができたのは、前に進み出したからかもしれない。
プロ14年目でキャリア最低の成績に終わった2019年シーズンオフ、T-岡田はカリブ海のアメリカ自治領プエルトリコに渡った。オリックスの後輩である鈴木優、漆原大晟とともに、アテニエンセス・デ・マナティの一員としてウインターリーグに参戦するためだ。
プエルトリコ・ウインターリーグは毎年11月から開催され、日本からは飛躍のきっかけを模索する若手や中堅選手が派遣されてきた。31歳とベテランの位置づけであるT-岡田は、なぜ身を投じたのだろうか。
「(福良淳一)GMが、自分を何とかしたいとすごく思ってくれていて。いろいろ方法を考えてくれたらしくて、『こういう選択肢もあるよ』というなかで『行ってみたいです』と参加することになりました」
シーズン開幕前のキャンプも含め、プエルトリコで2カ月近くすごした。ウインターリーグでは23試合に出場して57打数11安打、打率.193。長打を期待されるなかで4本塁打を放った一方、決して満足のいく数字ではなかった。
プエルトリコ・ウインターリーグはMLBの2Aから3A、日本なら1.5軍くらいのレベルとされる。対峙する相手投手たちが“動くボール”を投じてくるなか、T-岡田は対処法を模索した。
「自分が思っている課題をいろいろ持ってきて、一つ一つ潰しています。最初に比べると、良くなっていますけどね」
そう話したのは、2019年12月6日の試合前だった。日本からT-岡田が持ってきた課題の一つに、「ゴロアウトを少なくして、フライアウトを多くする」ことがある。
「ボールを目で捉えることはできているので、思ったような体の動きをできればフライアウトは多くなると思います。それを練習ではできても、試合でピッチャーに合わせて行くとなると、自分の動きをできなくなるところがありました。特にこっちはボールが動くので、目で見て『ここや』と思っても、ボールが動くことによって絶対的にゴロアウトになる。それをなくすには、できるだけ打つポイントを体の近くにしないといけない。低めは変化しやすいので、できるだけ我慢する。そういう意味で、目付けも大事になってきます」
自分がなぜ打てないか、頭ではわかっている。だが、なかなか成果につなげることができない。頭で理解するのと、試合で実践するのは次元の異なる話だ。
異国に来て思うような結果が出ないなか、T-岡田は結果を気にしないように割り切った。今は目の前の成績を求めるより、自分の課題にチャレンジすべき時期だ。試合ごとにテーマを掲げ、前向きに取り組んだ。
「僕はスイングするときに体が開き気味になって、アウトステップしちゃいます。だから『今日はクロスに行くくらいステップしてやる』とか極端にやって、自分でどう感じるかとやってきました。そういうことを、日本ではあまりできなかったので。いいときもあれば悪いときもあるけど……いや、いいですよ。ちょっとずつ進んでいるのは自分でも感じます。その中で結果が出ていないので、今日は結果にこだってやってみようと思っています」
2019年12月14日、プレーボール前のロッカールームでそう話したカングレヘーロス・デ・サントゥルセとのダブルヘッダー初戦で、T-岡田は結果を残した。1打席目でレフト前に技ありのヒットを放つと、2打席目は初球をライトスタンドにたたき込んだ。
「初めてのピッチャーにはタイミングがわからないので、意外と差されたり、逆に早かったりします。できるだけ振っていこうというのが僕の知らないピッチャーに対するアプローチなので、一発で結果が出たのは良かったです」
初見の投手に対応できたことに加え、有言実行で成果を出せたのが大きかった。日本では結果を欲しがるあまり、体が思うように動かないことが少なくなかったからだ。
自身の打撃に加え、プエルトリコに来て改めて感じたことがある。練習施設や食事など、あらゆる面で日本がいかに恵まれているかがわかった。
ラティーノたちは野球に対して常に前向きに取り組み、オンとオフの切り替えの早さに感心した一方、マイペースで集合時間を守らないことも珍しくない。マナティの本拠地は天然芝だが、管理が行き届いておらず、雑草と天然芝の中間のような状態にある。
「いろいろ日本とは違いますよね。でも世の中、自分の思うようにできないことのほうが多いじゃないですか。いちいち気にしすぎていたらどうしようもないというか、小さいことばかり気にしていたらキリがない。プエルトリコのいいところは取り入れたらいいと思いますし、違うなと思うところは取り入れなければいい。日本人らしさは大事だと思うので、忘れないうように」
プエルトリコでの2カ月を経て臨む2020年、T-岡田には期するところが大きい。自身の去就問題と向き合うなかで迎えた2019年9月29日の本拠地最終戦、バファローズファンの大声援が決断させてくれたからだ。
「僕はチームのなかである程度の位置にいるので、残るのは楽な選択じゃないですか。でも僕の野球人生、楽な道に進むとか、そんなんでいいのかなとすごく思っていました。それが最後の試合で、びっくりするくらいの声援をファンの皆さんがくれたんですよ。そのときに、『やっぱりこの球団でもう1回成績を残して、何とか恩返ししたいな』と。その決断は楽なことじゃなくて、自分にとってしんどいことかもしれないけど、僕が一番したいのはやっぱりそこなんやなという気持ちがすごく出て。それで残留という形になりました」
オリックスのユニフォームに袖を通して15年目。異国で自分自身を見つめ直したT-岡田は、32歳で迎える勝負の今季、捲土重来を期す。
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文・中島大輔
写真・龍フェルケル
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