レギュラーという狭き門の先にある2つの勲章
指名打者制度を採用しているパ・リーグにおいても、各球団のレギュラーとしてプレーできる選手は多くて9人だ。そんな中で、年間を通して最も優れた選手を各ポジションごとに決める、「ベストナイン」と「三井ゴールデン・グラブ賞」に選ばれる選手となると、その数はさらに限られてくる。それぞれの賞のハードルの高さもあって、選手たちにとっては一つの勲章でもあるだろう。
これらのタイトルを争うライバルは、当然ながら他球団でレギュラーの座についている実力者たちだ。その競争の激しさゆえに、一般的には、打撃面、ないしは守備面において、卓越したプレーを見せなければ手が届かない賞である。それゆえに、受賞者たちはプロとして一定以上の成功を収めた選手であると考えても差支えないのではなかろうか。
そこで、今回は直近5年のパ・リーグにおけるベストナインとゴールデングラブ賞の受賞者を、「高校卒、大学卒、社会人卒、独立リーグ出身、外国籍選手」と、それぞれの最終所属によって分類(日本の教育機関出身の外国籍選手は最終所属に準拠)。大成を果たした選手たちの最終所属の割合はどのようになっているのか、調査していきたい。
全体の過半数を超える一大勢力となったのは……
まずは、過去5年のベストナインの受賞者たちを振り返っていこう。その顔ぶれと、それぞれの出身チームは以下の通りだ。
【2015年】
投手
F大谷翔平選手:高卒(花巻東高校)
捕手
L炭谷銀仁朗選手:高卒(平安高校)
一塁手
F中田翔選手:高卒(大阪桐蔭高校)
二塁手
F田中賢介氏:高卒(東福岡高校)
三塁手
L中村剛也選手:高卒(大阪桐蔭高校)
遊撃手
F中島卓也選手:高卒(福岡工業高校)
外野手
L秋山翔吾選手:大卒(八戸大学)
H柳田悠岐選手:大卒(広島経済大学)
M清田育宏選手:社会人卒(NTT東日本)
指名打者
H李大浩選手:外国籍選手(韓国)
【2016年】
投手
F大谷翔平選手:高卒(花巻東高校)
捕手
M田村龍弘選手:高卒(光星学院高校)
一塁手
F中田翔選手:高卒(大阪桐蔭高校)
二塁手
L浅村栄斗選手:高卒(大阪桐蔭高校)
三塁手
Fレアード選手:外国籍選手(米国)
遊撃手
M鈴木大地選手:大卒(東洋大学)
外野手
M角中勝也選手:独立リーグ出身
(四国IL・高知ファイティングドッグス)
B糸井嘉男選手:大卒(近畿大学)
F西川遥輝選手:高卒(智弁和歌山高校)
指名打者
F大谷翔平選手:高卒(花巻東高校)
【2017年】
投手
L菊池雄星:高卒(花巻東高校)
捕手
H甲斐拓也選手:高卒(楊志館高校)
一塁手
E銀次選手:高卒(盛岡中央高校)
二塁手
L浅村栄斗選手:高卒(大阪桐蔭高校)
三塁手
Eウィーラー選手:外国籍選手(米国)
遊撃手
H今宮健太選手:高卒(明豊高校)
外野手
H柳田悠岐選手:大卒(広島経済大学)
L秋山翔吾選手:大卒(八戸大学)
F西川遥輝選手:高卒(智弁和歌山高校)
指名打者
Hデスパイネ選手:外国籍選手(キューバ)
【2018年】
投手
L菊池雄星投手:高卒(花巻東高校)
捕手
L森友哉選手:高卒(大阪桐蔭高校)
一塁手
L山川穂高選手:大卒(富士大学)
二塁手
L浅村栄斗選手:高卒(大阪桐蔭高校)
三塁手
H松田宣浩選手:大卒(亜細亜大学)
遊撃手
L源田壮亮選手:社会人卒(トヨタ自動車)
外野手
H柳田悠岐選手:大卒(広島経済大学)
L秋山翔吾選手:大卒(八戸大学)
B吉田正尚選手:大卒(青山学院大学)
指名打者
F近藤健介選手:高卒(横浜高校)
【2019年】
投手
H千賀滉大投手:高卒(蒲郡高校)
捕手
L森友哉選手:高卒(大阪桐蔭高校)
一塁手
L山川穂高選手:大卒(富士大学)
二塁手
E浅村栄斗選手:高卒(大阪桐蔭高校)
三塁手
L中村剛也選手:高卒(大阪桐蔭高校)
遊撃手
L源田壮亮選手:社会人卒(トヨタ自動車)
外野手
L秋山翔吾選手:大卒(八戸大学)
B吉田正尚選手:大卒(青山学院大学)
M荻野貴司選手:社会人卒(トヨタ自動車)
指名打者
Hデスパイネ選手:外国籍選手(キューバ)
また、各選手の最終所属の割合としては、以下の通りとなっている。
高卒:26人(52%)
大卒:14人(28%)
社会人卒:4人(8%)
外国籍選手:5人(10%)
独立リーグ出身:1人(2%)
以上のように、高卒の選手が全体の過半数を超える結果となった。大卒選手はそれに次ぐ順位ながら、その数字は高卒選手のおよそ半分。全体の4分の1以上と考えれば決して少ないわけではないが、より早い段階からプロ入りしている選手たちのほうが、大成する可能性は高いと言えるかもしれない。
そして、社会人卒の選手は合計でわずか4人と全体の1割を下回り、外国籍選手(5人)よりも少ない数となっていた。即戦力という面では最も計算が立つであろう社会人出身の選手ではあるが、“化ける”期待感という点では、より若い選手たちに分があるのだろうか。
ただ、社会人出身で選出された4選手は、いずれも大学を経由して社会人からプロ入りした面々だ。高校から直接社会人野球に進んでプロ入りするケースであれば、年齢的には大卒の選手よりも有利な場合もある。それだけに、そういったルートでベストナインを受賞した選手が近年存在せず、むしろ遅いプロ入りとなった選手たちのほうが成功しているという点は、少なからず興味深いところだ。
外国籍選手は三塁手が2人、指名打者が3人と、選出された選手が2つのポジションに集中していた。これらのポジションと同じく外国籍選手が任されることが多い、一塁手や外野手で選出者が出なかったのは少々意外だったが、ベストナイン全体の1割を占める勢力となっている助っ人たちは、やはりリーグ内で存在感を十分に発揮していたと言えそうだ。
直近5年間で唯一、独立リーグ出身者として名を連ねた角中選手は、今回取り上げた中でもやはり異彩を放つ存在だ。独立リーグ出身者として初の打撃タイトルとなる首位打者に2度輝き、昨季は同じく独立リーグ出身者史上初の通算1000本安打も達成。NPBの舞台でも着実に実績を残してきた角中選手は、まさに「独立リーグの星」と呼ぶにふさわしいだろう。
重複を除いた純粋な選手の数は?
先ほど紹介した値は、重複した選手も省かずに合計の値に加えた、「延べ人数」で算出したものだ。実際、秋山選手や柳田選手のような実力者は、直近5年間においてベストナインに複数回選出されている。そこで、重複した選手を除いた結果についても、以下に紹介していきたい。
高卒:16人
大卒:7人
社会人卒:3人
外国籍選手:4人
独立リーグ出身:1人
以上のように、純粋な選手の数でも高卒の選手が大卒の選手の倍以上となっている。大卒の選手は秋山選手(4回)、柳田選手(3回)、山川選手、吉田正選手(各2回)と複数回選出された選手が多く、延べ人数のちょうど半分という結果に。受賞1度の選手も糸井選手と松田選手という実績十分の2名だったが、数としては一極集中が目立ったか。
高卒の選手も、2016年に投手と指名打者の2部門でベストナインに選出される離れ業を演じた大谷選手(3回)をはじめ、浅村選手(4回)、菊池投手、森選手、中田選手、中村選手、西川選手(各2回)と、複数回受賞した選手は多かった。ただ、1度のみの受賞となった選手も9人とまた多く、総合的な層の面でも分厚かったと言えそうだ。
社会人卒の選手は複数回受賞者が源田選手(2回)ただ1人で、外国籍選手もデスパイネ選手(2回)1人のみ。いずれも特定の選手に依存した数字ではなかった。とはいえ、長期間にわたってベストナインを獲得し続けている選手は、やはり高卒・大卒の選手が多い。年齢的な面での優位性は、こういった面にも出ていると言えるだろうか。
ゴールデングラブ賞は、ベストナインとはやや趣の異なる結果に
続けて、直近5年間において三井ゴールデン・グラブ賞に選出された選手たちについても、同様に紹介する。
【2015年】
投手
M涌井秀章投手:高卒(横浜高校)
捕手
L炭谷銀仁朗選手:高卒(平安高校)
一塁手
F中田翔選手:高卒(大阪桐蔭高校)
二塁手
Mクルーズ選手:外国籍選手(メキシコ)
三塁手
H松田宣浩選手:大卒(亜細亜大学)
遊撃手
H今宮健太選手:高卒(明豊高校)
外野手
H柳田悠岐選手:大卒(広島経済大学)
L秋山翔吾選手:大卒(八戸大学)
M清田育宏選手:社会人卒(NTT東日本)
【2016年】
投手
M涌井秀章投手:高卒(横浜高校)
捕手
F大野奨太選手:大卒(東洋大学)
一塁手
F中田翔選手:高卒(大阪桐蔭高校)
二塁手
E藤田一也選手:大卒(近畿大学)
三塁手
H松田宣浩選手:大卒(亜細亜大学)
遊撃手
H今宮健太選手:高卒(明豊高校)
外野手
L秋山翔吾選手:大卒(八戸大学)
F陽岱鋼選手:高卒(福岡第一高)
B糸井嘉男選手:大卒(近畿大学)
【2017年】
投手
L菊池雄星投手:高卒(花巻東高校)
捕手
H甲斐拓也選手:高卒(楊志館高校)
一塁手
E銀次選手:高卒(盛岡中央高校)
二塁手
M鈴木大地選手:大卒(東洋大学)
三塁手
H松田宣浩選手:大卒(亜細亜大学)
遊撃手
H今宮健太選手:高卒(明豊高校)
外野手
L秋山翔吾選手:大卒(八戸大学)
H柳田悠岐選手:大卒(広島経済大学)
F西川遥輝選手:高卒(智弁和歌山高校)
【2018年】
投手
E岸孝之投手:大卒(東北学院大学)
捕手
H甲斐拓也選手:高卒(楊志館高校)
一塁手
F中田翔:高卒(大阪桐蔭高校)
二塁手
M中村奨吾選手:大卒(早稲田大学)
三塁手
H松田宣浩選手:大卒(亜細亜大学)
遊撃手
L源田壮亮選手:社会人卒(トヨタ自動車)
外野手
L秋山翔吾選手:大卒(八戸大学)
H柳田悠岐選手:大卒(広島経済大学)
F西川遥輝選手:高卒(智弁和歌山高校)
【2019年】
投手
H千賀滉大投手:高卒(蒲郡高校)
捕手
H甲斐拓也選手:高卒(楊志館高校)
一塁手
H内川聖一選手:高卒(大分工業高校)
二塁手
E浅村栄斗選手:高卒(大阪桐蔭高校)
三塁手
H松田宣浩選手:大卒(亜細亜大学)
遊撃手
L源田壮亮選手:社会人卒(トヨタ自動車)
外野手
L秋山翔吾選手:大卒(八戸大学)
M荻野貴司選手:社会人卒(トヨタ自動車)
F西川遥輝選手:高卒(智弁和歌山高校)
各選手の最終所属の割合は、以下の通りだ。
高卒:21人(46.7%)
大卒:19人(42.2%)
社会人卒:4人(8.9%)
外国籍選手:1人(2.2%)
ベストナインと比較すると、高卒選手と大卒選手の差がかなり縮まっていることがわかる。名手として鳴らす松田選手や秋山選手の存在も大きいかもしれないが、守備に関してはアマチュアでより長く基礎を学んでからプロ入りすることのメリットや、それによって攻守のバランスが良くなりやすいことが影響している可能性もあるだろうか。
社会人卒の選手は源田選手、清田選手、荻野貴選手と、くしくも直近5年間でベストナインに選ばれた選手と全く同じ顔ぶれとなった。いずれも攻守両面でチームに貢献してきた選手たちであり、このあたりもアマチュア経歴の長さが、選手としてのトータルバランス向上につながっていると言えるだろうか。
外国籍選手でゴールデングラブ賞に選出されたのは、直近5年間では2015年のクルーズ選手ただ1人。やはり、NPBにおいて助っ人に対してより求められるのは、日本人をしのぐパワーや優れた打撃力である場合が大半であり、ゴールデングラブ賞を獲得するほどの守備力を持つ選手はまれであるようだ。
5年続けてタイトルを受賞し続けた選手も複数存在
ここからは、ベストナインの項目と同様に、重複した選手を除いて算出した数についても紹介していきたい。
高卒:12人
大卒:9人
社会人卒:3人
外国籍選手:1人
高卒の選手の中にも、甲斐選手、中田選手、今宮選手、西川選手(各3回)、涌井投手(2回)と複数回選出されている選手は多くいたが、大卒の選手では松田選手、秋山選手と、5年間すべてでタイトルを獲得した選手が複数存在。複数回受賞者は柳田選手(3回)も含めた3名のみだが、合計9名と一極集中というわけでもないのが面白いところだ。
また、指名打者部門が存在しない分だけそもそもの人数が5名減っているとはいえ、受賞した選手の数自体もベストナインに比べてやや少なくなっている。先述の通り、三塁手部門では松田選手が、外野手部門で秋山選手がそれぞれ5年間全てで受賞。また、遊撃手部門は今宮選手と源田選手の2人だけで賞を分け合っていた。総数が少ないのは、そういった「独占状態」が生まれやすい面も影響していそうだ。
しかし、5年間全てで受賞者が異なった二塁手部門に象徴される通り、1回のみの受賞だった選手は高卒が7人、大卒が6人、社会人が2人、外国籍選手が1人と、ポジションによっては頻繁に入れ替わりが起こっていたこともわかる。年齢を重ねるとフットワークや肩力が否応なしに落ちてくる上に、故障で長期離脱した場合も受賞は極めて難しくなる。入れ替わりが多くなるのも当然であると同時に、連続受賞している選手のすごみも感じられる。
打撃、守備ともに高卒選手が多くを占めたが……
以上のように、ベストナインは高卒の選手が半数以上を占めており、ゴールデングラブ賞では高卒と大卒の選手が拮抗しているという結果になった。打撃面では高卒の選手のほうがやや大成する可能性が高い一方で、守備に目を向けると、やはり着実に実力をつけた高卒の選手が受賞するケースも多いながらも、アマチュアでの経験がプロでも生かされるケースもより増えてくると言えるだろうか。
即戦力としての働きが求められる社会人卒の選手はやや苦しい結果となったが、源田選手のように、プロ初年度から卓越した守備力を発揮してチームに欠かせない存在となった選手もいる。また、長年悩まされた故障を克服し、プロ10年目でそれぞれ初のベストナインとゴールデングラブ賞を獲得した荻野貴選手のように、プロに入ってからさらなる進化を見せた選手も、少なからず存在しているのは間違いないところだ。
今後もリーグ屈指の選手と呼ばれる野手たちの大半は、高卒からたたき上げの選手たちが占めていくのか。それとも、大卒や社会人卒の選手が、アマチュアでの経験を生かしてプロでも着実に実績を残していくか。打撃と守備の双方で傾向の違いがみられる点も含めて、プロ入りして間もない期待の選手たちの今後に注目してみたり、各球団のドラフト戦略とその狙いについて考えてみるのも面白い。
文・望月遼太
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