若手の好投手が次々と台頭しているオリックスで、来季、さらに厚みを加えそうな候補がいる。大卒1年目の2019年、ウエスタン・リーグで最多セーブ賞を獲得した漆原大晟(うるしはら・たいせい)だ。
39試合に登板して1勝23セーブ。無敗でルーキーイヤーを終えた右腕の快投はオフシーズンの今も続いている。アメリカ領プエルトリコで開催中のウインターリーグにアテニエンセス・デ・マナティの一員として参戦し、12月17日時点で中継ぎとして12試合に登板して防御率0.84。二つの黒星こそついたものの、10試合で防御率0.00という好投を披露したのだ。
「ファームで1年間投げさせてもらって負けがつかなかったことがすごく勉強になったけど、こっちに来て2敗しました。勝ちに貢献できることがどれだけ大切か、すごく勉強になっています」
2敗はいずれも延長戦で投げたときのものだ。プエルトリコでの初登板では失投を打たれて敗戦投手になったが、「以降は逆に反省として活かせています」。2敗目はイニングまたぎをした際の黒星で、流れ的にも不運な面が否めなかった。
「日本にいるときはだいたい9回を任されていたけど、こっちでは6、7回でランナー2塁とか、2、3塁の場面で登板することもけっこう多くあります。日本に帰っても勉強になりそうなことをさせてもらっているので、すごくいい経験ができていると思いますね」
新潟医療福祉大学から育成選手として入団した2019年、漆原は支配下登録を一つの目標に掲げていた。しかしシーズンを通じて自身の力不足を感じ、球団からのウインターリーグ参戦という提案に飛びついた。
「1年目なのでオフシーズンの過ごし方を経験したことがありません。日本にいると寒いけど、こっちに来て暖かい環境で実戦をできるのはすごくプラスだと思ったので、参加したいなと。今のところすごく勉強になっています」
異国のウインターリーグでテーマに掲げているのは、粘り強く投げることだ。
「ウエスタンの試合では勝ち越されることはなかったけど、同点にされることはありました。自分の弱さだったり、疲れている場面であったり、調子が悪いときにバタバタ行くのは学生のときからダメな点だと思っています」
182cmの体躯から投げ下ろす150km/h台の速球には角度があり、自信を持っている。だが、それゆえにピンチで力勝負を挑んで打たれることもあり、武器になる球をもう1球増やしたいと考えてやって来た。屈強な打者たちと対峙するなかで、スライダーとフォークのレベルアップを目指している。
「感覚自体は日本でのシーズン途中から良くなりつつありました。こっちでは実戦で試してみたり、改良したりしています。僕はブルペンなので、いろんな選手に質問して参考にさせてもらっていますね。『これ』と言われたから『これ』がいいというわけではなく、教えてもらったことを練り合わせて自分のものにできたらなと」
新潟明訓高校、新潟医療福祉大学と自分で考えながらうまくなることを求められる環境でプレーしてきた漆原は、プエルトリコでもそうした姿勢で力を伸ばそうとしている。所属チームでコンビを組むのはメジャーリーグで7年間のキャリアを誇るフアン・センテーノで、30歳の中堅捕手から学ぶことが多くあるという。
「各ピッチャーの特徴に応じた配球をしています。だから投げ終わった後に、なぜそういう配球をしたのか、自分が試しているボールがどうだったか、キャッチャー目線で感じたことを聞いています。こっちのキャッチャーは考え方が違うので、すごく勉強になっていますね」
前向きに学び、試行錯誤する成果が特に表れたのが、12月6日のクリオージョス・デ・カグアス戦だった。
3点を勝ち越した直後の9回裏にマウンドに上がると、ストレートで詰まらせ二つのフライアウトに仕留めた。最後の打者はストレートを2球続けて追い込むと、フォークを2球続けてファウルにされた後、外角へのスライダーでタイミングを外して空振り三振に斬ってとった。
「こっちの選手はどんどん振ってくるので、そこに臆することなく飛び込んでいこうと思っています。変化球を活かすのは真っすぐで、その真っすぐを活かすのは変化球です。今、一番自信があるのは真っすぐなので、どんどん投げ込んでいこうという気持ちですね。自分のいいものを出せれば抑えられると思っているので、そこは意識しています」
ブルペンでフル回転して所属チームの最下位脱出に貢献した一方、オフの日には同じくオリックスから参戦している鈴木優と一緒にオーナーの自宅に招かれ、食事をともにした。通訳をつれていくと頼ってしまうので、二人だけで訪れたという。異国での日々を前向きにすごしながら、多くの財産を得ている。
「野球自体が充実しているし、こっちの生活を楽しめています。来て良かったですね」
真っ黒に日焼けした顔でそう話した漆原の目は、すでに来季の飛躍を見据えていた。
「支配下登録は第一段階だと思っています。一軍のマウンドに立って勝ちに貢献するのが最大の目標なので、支配下登録は通過点になれればいいかなと。プエルトリコでレベルアップして、その姿を日本に帰って発揮できたらアピールになると思います」
充実したルーキーイヤーを送った右腕は、来季逆襲を狙うオリックスにとって“秘密兵器”となるかもしれない。
文・中島大輔
写真・龍フェルケル
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