安田尚憲、プエルトリコWL参戦中。 20歳の若鴎は日本の裏側で力を蓄える

中島大輔

12月6日に行われたクリオージョス・デ・カグアス対アテニエンセス・デ・マナティ戦。レフト線に先制タイムリー2塁打を放った 写真・龍フェルケル
12月6日に行われたクリオージョス・デ・カグアス対アテニエンセス・デ・マナティ戦。レフト線に先制タイムリー2塁打を放った 写真・龍フェルケル

 カリブ海上空から注がれる強烈な日差しを浴びながら、千葉ロッテマリーンズの安田尚憲は屈託のない笑みを浮かべて話した。

「こっちに来て良かったなと毎日感じています。本当にすごくいい経験になっていますし、野球もうまくなっていると思うので」

 プロ入り2年目のシーズンを終えた安田は現在、アメリカ領プエルトリコのウインターリーグに参戦中だ。中南米やアメリカからメジャーリーグでの経験豊富なベテランや中堅、自身の存在をスカウトにアピールしたい若手などがやって来て、激しく凌ぎを削っている。優勝チームはカリブ海諸国のクラブ王者を決める「カリビアンシリーズ」に出場でき、選手たちは結果を残せなければ明日クビになってもおかしくないというシビアな世界だ。

 一方、日本の球団は異国で飛躍のきっかけをつかませるべく、若手や中堅を中心に派遣している。かつてソフトバンクの柳田悠岐や高橋純平、巨人の岡本和真らがブレイク前に腕を磨き、球界トップ選手に成り上がった。今年は安田や田中正義(福岡ソフトバンク)ら11人の日本人選手がプレーしている。

「球団から『行ってみるか?』と言われて、『ぜひ行きたいです』と決まりました」

 そう話した安田の前向きな姿勢は、チームメイトと冗談を言い合っている姿からよく伝わってくる。所属チームのクリオージョス・デ・カグアスの広報によると、現地のスペイン語で積極的に話しかけているという。

「僕は結構スペイン語を勉強したいと思って、頑張って話せるところだけはやっていますね。通訳の田原(大樹)さんに『トイレどこですか(Donde esta el bano?)』とか聞いて、自分で言うようにして。やっぱり話せるほうが楽しいので」

 日本から飛行機を乗り継いで24時間以上かかるプエルトリコは、言語から文化、観衆、食事と多くの点で異なる。例えばクラブハウスやグラウンドではレゲトンというプエルトリコ発祥のラテン音楽を大音量で流している。時間にルーズなラティーノらしく、選手たちが集合時間に遅れるのは普通だ。しかも、悪気は一切ない。

 何もかも異なるプエルトリコで過ごす1カ月半の間により多くのものを持ち帰るには、日々をいかに前向きに過ごすかがポイントになる。

 同じルールで行われる日本の野球とプエルトリコのベースボールだが、文化的背景が様々な差異として現れるから面白い。顕著なものが守備だ。プエルトリコはフランシスコ・リンドーア(インディアンス)やハビエル・バエズ(カブス)、カルロス・コレア(アストロズ)らMLBトップレベルの遊撃手を生み出しているように、その守備力は世界最高峰にあると安田も肌で感じている。

「こっちの考え方は、捕ってからどれだけ早く投げられるか、どれだけアウトを多くとるかです。コーチに常に『前に行け』とも言われていますし、『チャレンジすることが大切だ』と言われますね」

 もちろん、守備で大事なことは日本と変わらない。「足のステップで体を運ぶのが内野守備の基本だ」と安田は教えられたという。

 しかし、練習でのアプローチが異なっている。プエルトリコ流からつくり出されるのは、柔らかいハンドリングだ。

 守備練習では最初、膝をついた状態で転がされたボールを捕っていく。体の正面に来るボールを正面、逆シングル、前と様々なグラブさばきで補球する。ノックを受けるのはその後だ。

「最後に捕るところまでボールを見るとか、少年野球のときに言われたようなことをこっちでも言われるので、基本は日本と同じだなと思いました」

 身につけるべき基本技術は共通する一方、考え方に違いがある。とれるアウトを確実にとることを求められる日本に対し、プエルトリコではより多くのアウトをとろうとチャレンジを勧めていく。どちらも大切で、両者を学んだことは安田にとって財産になっていくはずだ。

 プエルトリコでサードを守る安田は、12月9日時点で10試合に出場して28打数12安打で打率.429。しかし右投手には打率.526と打っている一方、左投手には同.167と苦しんでいる。

「日本人ピッチャーから打っていることが多くて、プエルトリコのピッチャーはまだ打てていないことが多いですね。そこに課題があると思います」

 日本人投手と異なり、プエルトリコ人投手は小さなテイクバックで投げてくる。タイミングをとりづらい上、投じられるのは“動くボール”だ。

「日本のようにピッチャーが『1、2の3』のタイミングで投げてこないで、『1、2、3』というタイミングで来る。だから日本より始動のタイミングを1個早くしないといけないのはありますね。基本的にボールは動くので、そこのアジャストはまだまだです」

 日本とプエルトリコの投手の違いは試合だけではない。「BP」と言われるバッティング練習では、投手がマウンドとホームの半分くらいの場所から、試合より小さなテイクバックでテンポよく投げてくる。「日本のように1回1回こっち(=打者が打つ準備)を待ってくれるわけではないので、最初は大変でした」

 こうした“違い”に適応しようと試行錯誤しながら、安田は貴重な学びを得ている。日本でプレーしている頃から掲げる「頭を動かさないようにして打つ」ことは、来季へのカギにもなりそうだ。

「(投手に対して)前後に動きすぎないこともそうですけど、上半身が前に落ちないように気をつけています。(相手投手の投球動作に対して)トップを早くつくることが大事。そうすればボールを長く見られます。こっちの選手を見ていてわかるのが、すぐにトップをつくるんですよ。日本のように1回1回大きくとるわけではない。そういうところはすごく参考になりますね」

 現地の選手と積極的にコミュニケーションをとり、じっくり観察しているからこそ多くの発見がある。そうして得たものを、来季につなげていきたいと安田は考えている。

「僕にとってはこのオフが大切です。2年やってプロの世界がどれだけ厳しいかもわかっていますしね。そんなに簡単にレギュラーになれるとも思ってないので。まずは守備ですね。安定して守れないことには打席をもらえないと思うので、キャンプからアピールできるようにしていきたいです」

 2017年ドラフト1位でロッテに入団した安田はこの冬、日本から遠く離れた異国で前向きに取り組み、多くの学びと刺激を得た。プロスペクト(有望株)と期待される大型左打者は、スケールを増して勝負の3年目に臨んでいく。

文・中島大輔
写真・龍フェルケル

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中島大輔

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