クリーンナップ以外の打順を務める選手が好調な打撃を見せている時期に、「恐怖の○番」という言葉が用いられることがある。この表現はさまざまな打順に対して用いられるが、「恐怖の9番」という数字になると、指名打者が導入されているパ・リーグならではのものとなる。
過去の例に目を向けると、2008年に埼玉西武の新助っ人ヒラム・ボカチカ氏が、9番として出場した39試合で打率.258、12本塁打、OPS.915と強打を見せ、チームの日本一に貢献している。続く2009年には、北海道日本ハムの金子誠氏が、9番として先発出場した120試合で打率.325、14本塁打、61打点、OPS.875と大暴れ。「恐怖の9番」と呼ばれる活躍を見せ、リーグ優勝にも大きく貢献した。
今期のパ・リーグでは9番打者として先述の2人に並ぶようなインパクトを残した選手はいなかったが、上位打線につなぐ役回りも求められるのが9番の特徴だ。守備面での負担が大きい捕手を置いたり、俊足の巧打者タイプを置いたりと、チームによってラストバッターに求めるものが異なるのも興味深いところだ。
今回は、パ・リーグの各球団において、2019年シーズンに9番打者を多く務めた選手たちを紹介。9番として出場した試合での成績とシーズン通算の成績を比較し、その働きぶりを振り返っていきたい。(試合数は9番打者として先発出場した回数)
【北海道日本ハムファイターズ】
中島卓也選手:69試合
9番時:203打数44安打 0本塁打13打点 8盗塁 10犠打 打率.217 出塁率.276 OPS.517
シーズン:120試合291打数64安打 0本塁打16打点 12盗塁 12犠打 打率.220 出塁率.278 OPS.522
俊足と小技が持ち味の中島卓也選手は、まさに9番打者としてうってつけの存在。2019年は、9番としての出場が打席数の3分の2以上を占めていた。打撃不振の影響で打率と出塁率は伸び悩んだが、69試合で8盗塁・10犠打と与えられたタスクをこなしていた。FA権を行使せずに残留した2020年は持ち前の粘り腰をよみがえらせ、完全復活のシーズンとできるか。
【東北楽天ゴールデンイーグルス】
辰己涼介選手:38試合
9番時:113打数23安打 0本塁打5打点 6盗塁 6犠打 打率.204 出塁率.280 OPS.545
シーズン:124試合314打数72安打 4本塁打25打点 13盗塁 10犠打 打率.229 出塁率.320 OPS.638
堀内謙伍選手:30試合
9番時:69打数11安打 0本塁打10打点 0盗塁 8犠打 打率.159 出塁率.194 OPS.440
シーズン:65試合122打数19安打 0本塁打13打点 0盗塁 11犠打 打率.156 出塁率.202 OPS.407
太田光選手:21試合
9番時:51打数12安打 1本塁打2打点 0盗塁 4犠打 打率.235 出塁率.316 OPS.630
シーズン:55試合96打数21安打 1本塁打6打点 1盗塁 8犠打 打率.219 出塁率.279 OPS.550
アマチュア時代から俊足ぶりが高く評価されていた辰己選手が、チーム内で最も多く9番として起用された。ほか、シーズン途中から出番を増やした2名の捕手、堀内選手と太田選手も9番での起用が目立った。いずれも打撃成績としては際立つものではなかったが、シーズンの大半で茂木栄五郎選手や島内宏明選手といった好打者が1番を務めていたこともあり、3人合わせて18犠打と、チャンスを演出する役目を担っていた。
【埼玉西武ライオンズ】
金子侑司選手:55試合
9番時:184打数51安打 2本塁打10打点 18盗塁 6犠打 打率.277 出塁率.348 OPS.680
シーズン:133試合463打数116安打 3本塁打33打点 41盗塁 6犠打 打率.251 出塁率.324 OPS.616
木村文紀選手:39試合
9番時:126打数34安打 4本塁打15打点 8盗塁 5犠打 打率.270 出塁率.336 OPS.749
シーズン:130試合391打数86安打 10本塁打38打点 16盗塁 15犠打 打率.220 出塁率.270 OPS.613
金子選手は開幕当初は1番打者を務めていたが、なかなか状態が上がらずに9番としての出場が増えていった。ラストバッターとしては打率と出塁率がともにシーズン通算よりも高くなり、55試合で18盗塁と脚力も存分に発揮。木村選手も9番打者としてのOPSは.700を超えており、打率.270、4本塁打と奮闘した。両者とも、9番として起用された際には、打線の最後尾から強力な上位打線につなぐ役割を全うしていたと言えそうだ。
【千葉ロッテマリーンズ】
藤岡裕大選手:43試合
9番時:137打数35安打 1本塁打11打点 2盗塁 3犠打 打率.255 出塁率.287 OPS.637
シーズン:81試合250打数66安打 2本塁打21打点 3盗塁 10犠打 打率.264 出塁率.306 OPS.658
三木亮選手:22試合
9番時:63打数13安打 1本塁打8打点 2盗塁 5犠打 打率.206 出塁率.265 OPS.535
シーズン:89試合126打数27安打 2本塁打15打点 5盗塁 8犠打 打率.214 出塁率.270 OPS.556
ルーキーイヤーの2018年には主に2番打者を務めた藤岡選手だったが、今季は9番打者としての出場が中心に。負担の大きい遊撃手としてはまずまずの打率でチームに貢献したが、出塁率の向上が上位にチャンスで回すためのカギとなりそうだ。藤岡選手が故障で不在だった時期には主に三木選手が代役を務めたが、成績面では少なからず差が生じていた。ムードメーカーとして貴重な存在なだけに、来季はバットでもチームを盛り立てたいところだ。
【オリックス・バファローズ】
若月健矢選手:59試合
9番時:140打数21安打 0本塁打8打点 1盗塁 14犠打 打率.150 出塁率.232 OPS.403
シーズン:138試合298打数53安打 1本塁打21打点 2盗塁 25犠打 打率.178 出塁率.241 OPS.459
2019年は138試合に出場して正捕手の座を確固たるものにした若月選手だったが、シーズン打率は2018年の.245から大きく低下。9番を任された試合では成績がさらに悪化し、残念ながら寂しい数字となってしまった。それでも9番として14個の犠打を決めており、シーズン25犠打は源田壮亮選手(埼玉西武)と並んでリーグトップタイ。来季はつなぎ役としてだけでなく安打や出塁率でも打線に貢献し、捕手としてさらなる飛躍を果たせるか。
【福岡ソフトバンクホークス】
甲斐拓也選手:44試合
9番時:119打数26安打 1本塁打6打点 4盗塁 7犠打 打率.218 出塁率.309 OPS.570
シーズン:137試合377打数98安打 11本塁打43打点 9盗塁 23犠打 打率.260 出塁率.346 OPS.733
自身初の2桁本塁打と打率.260台を記録し、シーズン通算の成績ではキャリアハイと言える数字を残した甲斐選手。だが、9番での打撃成績はやや低調で、各種の数字でもシーズン通算のものとは明確に差が出ている。8番を務めた試合では74試合で打順別で最多となる10本塁打を放っているが、9番では44試合でわずかに1本塁打のみ。打撃面で長足の進歩を遂げたシーズンなだけに、打順によってここまでの差が生じたのは意外と言える。
最後尾からチャンスを演出できれば、それだけ打線のつながりも良くなる
今回取り上げた選手の中では、強力打線の一角として主力を務めた埼玉西武の2人が存在感を発揮していた。とはいえ、傾向としてはやはりほとんどのチームで9番打者の犠打が多くなっており、ラストバッターが得点圏に走者を進めてくれればそのまま上位打線につながっていくという、パ・リーグらしい戦い方を多くのチームが踏襲していると言えそうだ。
また、埼玉西武の木村選手と金子選手、楽天の堀内選手と太田選手の4名は9番として出場した時の成績がシーズン平均を上回っていたが、それ以外の選手は全て9番で出場した際の成績がシーズン平均を下回っていた。9番目の打者ということで、より上位の打順を担っている時に比べればマークが薄くなると思われがちだが、甲斐選手のように8番打者の時に比べて極端に数字が悪くなっている選手がいるのも興味深いところだ。
明確に打線の切れ目になりうる投手が打席に入らない以上、打線のつながりという意味でも9番打者が持つ役割は決して小さくない。そのことは、埼玉西武の2選手がチームの得点力向上の一助となっていたと考えられる、今回の数字でも証明されているであろう。来季は各球団でどんな選手が打線の最後尾から上位につなぐ役割を果たすのか、ぜひ注目してみてはいかがだろうか。
望月遼太
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