パ・リーグの強肩捕手は誰か!? 二塁送球最速タイムトップ5

パ・リーグインサイト キビタキビオ

2019.6.24(月) 11:00

福岡ソフトバンクホークス・甲斐拓也選手(C)パーソル パ・リーグTV
福岡ソフトバンクホークス・甲斐拓也選手(C)パーソル パ・リーグTV

しのぎを削る二塁盗塁を巡る争い

 二塁盗塁は、シングルヒットや四死球などによる一塁への出塁を二塁打に昇華させる。アウトカウントを犠牲にすることなくチャンスを拡大できる貴重な戦術だ。

 ただし、失敗すれば、出塁そのものがふいになるリスクもある。二塁打と未出塁では大違い。その成否が試合の戦局を大きく揺るがすことさえある。ゆえに、走る側も防ぐ側も必死にしのぎを削っている。

 その中でも注目されるのが、捕手が投球を捕球してから二塁ベースに入った野手に到達するまでに要する「二塁送球」のタイムだ。昨秋の日本シリーズでは、広島カープの田中広輔選手らが積極的に二盗をしかけたのに対し、福岡ソフトバンクホークスの主戦捕手・甲斐拓也選手が矢のような二塁送球でことごとく阻止。シリーズの流れを大きく呼び込んだことが評価され、最優秀選手(MVP)を受賞した。

 このときの鬼気迫る二塁送球が、「甲斐キャノン」という異名で話題になったことは記憶に新しい。そんな魅力あふれる捕手の二塁送球はどの程度のタイムなのか。今年のパ・リーグにおける開幕から5月末までの計測で、上位5位に入ったものを紹介していこう。

無駄のない動きで好送球の若月健矢選手(オリックス)

 まず、5位に入ったのは、オリックスの正捕手として定着しつつあるプロ6年目の若月健矢選手が記録した1秒89の二塁送球だ。山岡泰輔投手の投球を捕球するとともに体を回し、飛び跳ねるようにモーションを起こすと、そのときにはもう腕を振ってボールをリリースしている。そのくらい流れるような素早い動作である。

 しかも、送球は二塁ベースのやや上あたりへ。一塁走者の金子侑司選手(埼玉西武)がスライディングしてくる足の行く手をドンピシャでふさぐピンポイント送球で、見事アウトにした。おそらく、本人にとっても満足できる送球だったと思われる。

 ここで、捕手の二塁送球におけるタイムの一般論を述べておこう。1990年代頃から現在に至るまで、プロの目安としては、「2秒を切ること」といわれてきた。

 この目安は、「俊足の一塁走者がスタートしてから二塁ベースに到達するまでに、ベストに近いスタートがきれた場合は3秒50前後」といわれているのがベースになっている。それに対して、投手のクイックモーションが1秒30、捕手の二塁送球が2秒ジャストであれば、二塁送球を捕球した野手がタッチする時間の0秒10~20程度を加えても3秒40~50となり、走者と勝負できるという算段だ。

 つまり、投手と捕手が完璧な仕事をすれば、計算上、二塁盗塁はほとんどすべて刺せるというわけだが……。敵もさる者。一塁走者は投手のモーションを巧みに盗んでフライイング気味にスタートすることで、3秒50をさらに縮めようと試みる。その技術もわずかながら年々レベルが上がっているため、昨今では完璧なスタートを切られた場合、捕手が1秒90台を普通に出さないと刺すのが難しくなってきているのが現状だ。

 その意味において、若月選手の1秒89は、一塁走者が俊足の選手でいいスタートを切った場合でも、投手がしっかりクイックモーションをしてくれていれば、100パーセント近く刺せる好送球だったといえるだろう。
 
 刺された走者が、2016年パ・リーグ盗塁王だった金子選手であったことからも、それが証明されたスローイングだった。

本家・甲斐拓也選手(福岡ソフトバンク)が好条件で完璧な阻止

 続いて4位は、「甲斐キャノン」の御本家である甲斐拓也選手の1秒85だ。さすがに本家は今年もいいタイムを出してくる。

 このタイムのときは、甲斐選手にとっては比較的投げやすい条件だったと思われる。マウンドの武田翔太のクイックも素早かったうえに、打席は左打者の秋山翔吾選手(埼玉西武)で、投球は外角に大きく外れたストレートだった。これなら見通しも良く、空間的に何も気することなく送球動作をすることができる。

 そのせいか、投げたコースも絶妙だった。二塁ベースの中心からわずかに一塁側に寄った直上50センチあたりのところだろうか。ショートの今宮健太選手は捕球した勢いを生かしてそのままグラブを落としただけ。そこに一塁走者・金子侑司選手(埼玉西武)のスライディングした際の足がきて、行く手をふさいだ格好だ。

 好条件もあってほぼ完璧な盗塁阻止。それにしても、刺されたのがまたもや金子選手とは。捕手が甲斐選手では、さすがに相手が悪かったか。

再び甲斐選手。低めの変化球を拾い上げて踏ん張りながら刺す

 そして、3位はまたもや甲斐選手である。タイムは1秒82とさらに縮めてきた。

 実をいうと、今度は4位のときよりも条件は良くなかった。まず、投球が低めの変化球だったこと。わずかな違いではあるが、ストレートよりも球速が遅いため、これだけでも若干タイムをロスする。さらに、地面スレスレの高さの球を投手方向にステップしながら拾い上げるように捕球したことで、勢い余ってバランスを崩してもおかしくない状況だった。

 ところが、甲斐選手はそこを踏みとどまって、ごく普通に近い形で強いスローイングにつなげている。このあたりは単に肩が強いだけではない。強靭な下半身によるリカバリー能力によっても、甲斐選手の送球の正確性が支えられていることがうかがえるシーンだった。

 送球自体も4位のときとほぼ同じく、二塁ベースやや一塁側ヒザ元あたりのこれ以上ないところへ。今宮が捕球したグラブを真下に落としたところに一塁走者・西浦颯大選手(オリックス)がスライディングした足が丁度きたころまで、デジャヴのように再現されていた。

1秒70台突入でまたもや甲斐選手が2位

 困った。2位も甲斐選手である。しかも、タイムは1秒77。ついに1秒70台に突入してしまった。しかも、刺したのは、昨年47度盗塁を試みて44度成功という驚異的な盗塁成功率.936を誇る西川遥輝選手(北海道日本ハム)である。もっとも、昨年西川選手が3度盗塁失敗した際の2度は甲斐選手によるものだったが、今年も余裕を持ってアウトするとは「甲斐キャノン」恐るべしだ。

 ただ、このときは条件的に甲斐選手に分があった。まず、投手が左のモイネロ選手だったこと。左投手は顔が一塁を向いているため、スタートが切りにくい。いくら西川選手であっても、よほど大きなクセを見破っていない限り、右投手よりはやや遅れてしまう。

 さらに、投球は真ん中高めのストレートで捕球しやすく、打者・大田泰示選手(北海道日本ハム)は右打者のうえ空振りもしていないので、なにも邪魔になるものがなかった。これならば、ベストに近い動作ができても不思議はない。

 かくして、パ・リーグを……いや、日本を代表する韋駄天の西川選手をラクに刺すことができた。しかし、これも甲斐選手の送球がストライクにきたからこそという部分はある。3位と4位のときに比べると、やや二塁ベース真ん中寄りだったが、十分タッチのしやすいところだった。
 これがたとえば、頭の上の付近に少し高くいっただけでも、タッチは0秒10くらいは遅れてしまう。そうなっていれば、西川選手はおそらくセーフだったはず。現在のプロ野球の二塁盗塁といのは、そのくらいシビアな世界ということだ。

 今後、甲斐選手に負けないくらいの強肩捕手が登場して、同じようなタイムを出したとしても、制球力について吟味しなければ正しい評価は下すことはできないだろう。

 まさに、「甲斐キャノン」だからこそ刺すことができた。そう言える送球だ。

番外編は緊急捕手・銀次選手の「銀次キャノン」

 ここで、ひとつ番外編を挟もう。登場したのは、楽天の銀次選手である。元々、捕手としてプロ入りした銀次選手だが、その後、野手に転向して一軍に定着。勝負強いヒットメーカーとなって現在に至っている。

 そんな銀次選手が、本職の捕手時代にはチャンスがなかった一軍でマスクを被る機会がやってきた。4月7日のオリックス戦で、9回表に選手総動員で同点に追いついた楽天は、捕手を使い果たしてしまったのだ。

 そこで、経験者の銀次選手が急造捕手としてマスクを被ると、なんと二塁盗塁を見事に刺してしまった。

 そのときのタイムは2秒13。若月選手や甲斐選手のタイムと比較するとさすがに遅いが、急造であることを考えたら大したものである。このときの送球は大きく一塁側へそれたが、二塁のベースカバーに入ったショートの茂木栄五郎選手も巧かった。茂木選手は一塁側へそれる銀次選手の送球を、ヘッドスライディングする西浦颯大選手(オリックス)と交錯しないようによけながら捕球。グラブを伸ばして西浦選手の足にタッチしてアウトにしたのだ。

 「昔取った杵柄」とはいえ、練習もせずにマスクを被った銀次選手の送球も立派だが、茂木選手の技術があっての連携プレーだった。

 捕手の素早くて正確な送球は必要な要素ではあるが、投手や内野手の協力いかんで、多少タイムが遅くても盗塁は刺せる。それを示したシーンでもある。

1位もやはり甲斐選手。1~4位を独占!

 正直、いやな予感しかしていなかった。栄えある二塁送球第1位も……やはりこの男、甲斐拓也選手だった。タイムは驚異の1秒72。よくよく考えれば、実戦で1秒70台を出せる捕手はそうはいない。単純に「二塁へ素早く投げる」という点においては、もはや甲斐選手の独走場だ。

 この最強タイムで二塁盗塁を刺されたのは埼玉西武の源田壮亮選手である。源田選手も西川選手と並んでパ・リーグの盗塁王争いに毎年顔を出しているスピードスターで、このときは投手のモイネロがクイックモーションをしないで投球していた。普通なら間違いなく盗塁成功のケースだったが、甲斐選手の超速送球によるリカバリーにやられた。

 ちなみに、甲斐選手も源田選手も大分県の出身。さらには、タッチしたショートの今宮選手も大分である。これからもパ・リーグの二塁盗塁は、この“大分三人衆”によって先鋭的に切り開かれていくのかもしれない。最後になってプチトリビアに走って恐縮だが、甲斐選手のランキング独占によりタイムについて述べるネタがつきてしまったゆえ、お許しいただきたい。

他球団の捕手の奮起に期待

 結局、今回のランキングは甲斐選手が1位~4位を独占。しばらくは、他の捕手が入り込む余地がなさそうな完璧さである。

 とはいえ、プロはひとたび肩の衰えを露呈してしまうと容赦なく走られてしまう厳しい世界でもある。だから、トップ5には入らなかった他球団の捕手たちも、今回のタイムのすぐ後ろに位置する1秒90台には多数ひしめいているはずだ。

 甲斐選手の送球タイムが改めてすごいことはよくわかった。だが、今回登場しなかった他球団の捕手たちの今後の奮起にも期待している。

 今回のランキングに割って入ってくる捕手が出てくるようであれば、この先、厳しい夏場の順位争いにおいても、おもしろい展開が待っているに違いない。

キビタキビオ

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