投球をバットがとらえるやいなや、低く鋭い打球が飛ぶ。言葉を発する間もなく、打球はそのまま伸びてスタンドへ突き刺さってしまった。
「うそー! 入っちゃったの?」
そんな弾丸ライナーの本塁打を、スタジアムで見られたファンは幸運である。
まるで流れ星のように、一瞬のうちにフィールドを通り抜けた打球は、一体、何秒なのか? バットに当たってからスタンドに入った瞬間までのタイムを計測したパ・リーグトップ5をみていこう。
腕っぷし一本でスタンドへ突き刺した山川穂高選手(埼玉西武)
まず、第5位にランクインしたのは山川穂高選手(埼玉西武)だった。外角やや高めの変化球を強引に巻き込んだライナーは3秒55を記録。福岡ソフトバンク主催の東京ドーム開催にあって、レフトにわずかしかない埼玉西武の外野応援席に向けて、まるで狙ったかのように見事に飛び込んだ。
今季の山川選手は、前半戦は絶好調で6月中旬過ぎまでに27本塁打というハイペース。自身が宣言していた50本到達もありそうだと思われたが、その後、本塁打が出なくなる。このタイムを記録した第28号は、半月以上過ぎた7月8日に打ったものだった。
今振り返ると、結局、この一発も完全な復調にはつながらず、8月には打順も7番に降格することになったが、それでも最終的に43本、120打点を記録したのだから、むしろ「恐怖の7番打者」である。無理な体勢からでも、腕っぷし一本でスタンドまで持っていくことがよくある山川選手らしい一発。こんな打者が7番にいる埼玉西武の打線は脅威というほかない。
期待したくなる弾丸ライナーを放った杉本裕太郎選手(オリックス)
第4位はオリックスが誇るスラッガー候補・杉本裕太郎選手が放ったレフトポール際への3秒40弾だ。こちらも外角やや高めに甘く入った変化球を巻き込んだ一打である。
杉本選手は4月10日に一軍に昇格すると、13日の埼玉西武戦でプロ入り初の4番に入り、1試合2本塁打を記録。この弾丸ライナーは、それから6日後に打った今季第3号だった。
190センチ98キロの巨漢から放たれるパワフルな打球は目の肥えたプロ野球ファンをも驚愕させるものがある。この頃の杉本選手は、ひとたびバットに当たればほとんどが長打になるという好調ぶりだったが、一方でまだ確実性には乏しく、同月29日にはファームへ降格。その後、何度か一軍登録されたが、打率.157、4本塁打に留まった。
それでも、ファームでは14本塁打を記録するなど、着実に力はつけている。来季以降、自身が絶大なファンでもあり、杉本選手のニックネームとして定着しつつあるマンガ『北斗の拳』の拳王ことラオウの称号にふさわしい活躍を期待したいところだ。
安定感ある“おかわり弾”炸裂の中村剛也選手(埼玉西武)
第3位は今季123打点で打点王のタイトルを獲得して、一時期の低迷から見事に復活した中村剛也選手(埼玉西武)の記録した3秒31のスタンドイン。もとい! スタンドに入る前にレフトのポールに直撃させていた。
中村選手の打撃フォームは素振りをしているかのようなきれいなスイングで、どんな打球を打つときでも、ほとんどフォームが変わらないのが特徴である。この一打も、投球はややスピードを殺した縦のカーブだったが、左中間へ特大弾を打つときと同じようなスイングで弾丸ライナーを放ってみせた。
今回、5位を記録したチームメイトの後輩・山川選手とは、同じホームランバッターながらも、スタイルは見事なほど対象的。山川選手が常人には打てないような体勢からアクロバティックな本塁打を放つのに対して、中村選手は計ったような同じ打ち方で何事もなかったかのように本塁打を量産する。
いずれにしても、4番打者がふたりいるようなもの。強力・埼玉西武打線を象徴するかのような弾丸ライナーの共演である。
低めを拾って値千金の同点弾にした上林誠知選手(福岡ソフトバンク)
第2位になったのは、今季は死球に端を発した故障による不調で不本意なシーズンを送った上林誠知選手(福岡ソフトバンク)が、そんな中でも活躍する姿を示したときの一発。そのタイム3秒29と素晴らしい弾丸ライナーであったが、試合展開的にも値千金の同点ホームランとなった印象の方が強い一打である。
東京ドームで行われたこの日の埼玉西武戦は、両チーム合わせて6本の本塁打も飛び交った超打撃戦となり、9回表には森友哉選手の逆転2ランで7対6。勝負あったかと思われたが、その裏の崖っぷちで飛び出したのが、低めのボールと思われる球を拾って同点にしたこの上林選手の本塁打だった。
それにしても、この日スタンドに訪れたファンは幸せである。実は、第5位の山川選手が放った一打も同じ日に打ったものだった。1試合でプロトップクラスの弾丸ライナーを2本も目撃できるというのは、奇跡に近い確率に違いない。
番外編 計測不能? 特大の“二塁打”を放った中田翔選手(北海道日本ハム)
ここで定番となった番外編へ。登場したのは、京セラドームの屋根を構成している張り出した部分へ入れてしまった中田翔選手(北海道日本ハム)の一打。高々と上がった打球は、どこまで上がるの? と思いきや、あれあれ? 落ちてこない? と、スタンドがどよめきに変わり、審判のコールによってエンタイトル2ベースへ。
球場ルールが適用された形だが、中田選手も二塁ベース上で微妙な表情を浮かべていた。もし、次回があるならば、今度は本領を発揮した弾丸ライナーでのランキングインを期待している。
岩手県営野球場のレフトポール弾で映えある1位獲得のブラッシュ選手(楽天)
今季の最短タイムとなった3秒01を記録したのは、盛岡の夜空にボールが舞う……こともなく(笑)、球場の視界に入りっぱなしの超低空弾でレフトポールにぶち当てたブラッシュ選手(東北楽天)の一撃だった。
ブラッシュ選手の一撃は、他のランキング打球のように変化球を打ったり、体勢を崩しながら打ったものではなく、真ん中低めのストレートをしっかりとスイングしたものだった。やはり、最後に勝つのは力と力のガチ勝負ということか。
今季は前半戦大活躍で33本塁打。後半はやや失速した印象もあるが、独特の構えから長い腕を器用に使いこなして打つ本塁打に魅力を感じているファンも多い。
来季もスタンドを驚かせるような一発を数多く打ってもらいたい。
低くて速い打球を打つ選手もやはりホームラン打者だった
弾丸ライナーづくしのトップ5、いかがだっただろうか。
こうして打った打者の顔ぶれをみると、滞空時間が長い本塁打を打つ選手とほとんど同じ選手がランキングに入っていた。スタンドへ届く時間が短いということは、打球速度が速いということなので、当たり前のことかもしれないが、改めてそのことが確認できたのは有意義だった。
実をいうと、今季は記録されなかったが、筆者が計測した限りでは過去に2秒台の打球も出ている。来季以降は、そんな“狂弾”が出ることを期待して、ぜひ、スタンドへ足を運んでほしいと思う。
キビタキビオ
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