カツーン! と響く木製バットの音とともに、勢いよく舞い上がる打球。見ている観客は、喜怒哀楽さまざまな感情を込めてボールの上がった方へ顔を上げる──。
まるで打ち上げ花火を見ているかのような対空時間の長いホームランは、プロ野球ならではの魅力に満ちたシーンのひとつだ。
バットにあたってからスタンドまで落下するまでの滞空時間は実際どの程度かというと、ごく一般的な本塁打であれば4~5秒台であることが多い。
だが、ひときわ高く上がった場合は、6秒台、さらには7秒台ということもある。2019年序盤のパ・リーグでは、どうであったか? 3月29日の開幕から6月30日までのほぼ前半戦で、滞空時間の長かったトップ5の本塁打を紹介していこう。
前年以上の境地に達した山川穂高選手(埼玉西武)
まず、第5位にランクインしたのは、7月25日現在、30本塁打でリーグトップを走る山川穂高選手(埼玉西武)の6秒89だった。前年の2018年にパ・リーグホームラン王を獲得した巨漢のスラッガーは、今シーズン、一段と破壊力を増している。
実は昨年、筆者は山川選手が放った全47本塁打の滞空時間を計測した。そのときは6秒台が4本、最長は6秒68だった。それに対して、3秒台のスタンドインが11本もあり、昨年はむしろ、低弾道のライナー性が多いという印象だった。
ところが、この一打によってイメージが変わった。昨年以上に角度のついた高く上がる打球を打っていて、それが柵越えまでしていることが明らかになったからだ。今年も順調に本塁打を量産している理由を垣間見れるホームランといえるだろう。
4位、3位はブラッシュ選手(東北楽天)が連発
続いて、第4位は東北楽天のブラッシュ選手が記録した6秒94の本塁打である。実は第3位もブラッシュ選手によるもので、タイムは7秒00。大台の7秒台に乗せてきた。
高く掲げたバットの先端を投手方向に向ける独特の構えからケタ違いの打球を放つブラッシュ選手は、今年来日してきた外国人選手のなかで「大当たり」となった。
一番の特徴は、その長い腕である。相手投手が外角中心の配球で長打を逃れようとしても、簡単にバットが届いて芯でとらえられてしまう。今回ランクインしたふたつの本塁打は、いずれも投手が外角を狙って投げたボールが、やや真ん中寄りに甘く入ってきたところをつかまえたもの。これでは、ひとたまりもない。体を泳がせるような動作は一切なく、スイング後に体がキャッチャー方向へ反り返るようにして左方向へ引っ張っている。今回のランキングには入っていないが、外角のボールコースの球も同じように軸を残したスイングでセンターへ放り込んだこともあった。
月間本塁打10本と絶好調だった5月を経て、相手のマークもきつくなってきたのか、6月は4本、7月は3本(7月25日現在)と本塁打のペースが落ちているブラッシュ選手。もし、再び楽天生命パーク宮城のレフトスタンドに高々と上がる本塁打を打つシーンが増えるようであれば、それは完全復調の証となるはずだ。
若い頃の打球を思わせる中村剛也選手(埼玉西武)の一発
堂々2位にランクインしたのは、35歳とベテランの域に入りながらも、勝負強さで存在感を示し続ける「おかわりくん」こと中村剛也選手(埼玉西武)。滞空時間は7秒05だった。今季、台頭著しい福岡ソフトバンクのアンダースロー・高橋礼投手が地面スレスレからリリースした球をこすり上げるように振り抜いた打球は、フワーッとした感じで高々と上がり、ヤフオクドームのホームランテラスを越えてレフトスタンド最前列に到達した。
中村選手は、パ・リーグ本塁打王6度というレジェンド級の実績を誇る。2016年以降は、3年連続で本塁打数20本台に留まり、4番の座を山川穂高選手に譲って久しいが、まだまだ、第一線。全盛期に本塁打を打ちまくっていたときは、ボールを完璧にとらえて「どこまで飛んでいくんだ?」と唸らされる打球が多かったが、実は2005年に22歳の若さで22本塁打を記録した最初のブレイク時は、今回のようなこすった打球が高々と上がってスタンド前列に落ちるホームランが多かった。その意味で、中村選手特有の柵越えテクニックは、健在であると再認識した。
確かに、以前より力強さは落ちているのかもしれない。だが、この独特の舞い上がる本塁打が出たということは、「ホームランを打つ」という点において、一時期よりも持ち直しているのではないだろうか。
今年は、無駄な力みのまったくないスイングが多く、巧さや勝負強さの方が目につくようになった中村選手だが、今一度、ホームランを「おかわり」するくらい連発するようになって、再び30本台に乗せてくれることを願っている。
番外編もブラッシュ選手。浅村栄斗選手は計測不能!?
ここで第1位の前に、「番外編」を紹介しよう。
高く上がった打球の対極となる「もっとも低い弾道」によるライナー性のホームランを打ったのは誰だったのか? なんと、ここにもブラッシュ選手が登場してきた。
スタンドに突き刺さるまでのタイムは3秒01。ただし、低い弾道は、年によって2秒台が出ることも少なくない。この記録については、他の選手が塗り替える可能性が十分ある。
そして、もうひとり規格外なのが、今季、FAで埼玉西武から東北楽天へ移籍した浅村栄斗選手の場外弾だ。当然のことながら計測は不可である。
浅村選手は、今季は故障で戦列を離れている柳田悠岐選手(福岡ソフトバンク)とともに「体がねじ切らんばかりのフルスイング」が象徴的なスラッガーで、レフト方向、センター方向へそれぞれ遠くに飛ばせるツボを持っている。現在は、多くがそのツボにハマった打球がホームランになっているが、逆にいえば、完璧にとらえないと本塁打になりにくいともいえる。
こすったような打球でも、長い滞空時間を経て柵越えに至るようなホームランがもっと見られるようになれば、打球角のバリエーションが増えて、本数がもっと多くなるかもしれない。そんな進化をとげる姿を、いずれぜひ見てみたい。
1位はいま旬の「どすこい」山川選手
栄えある1位となったのは、再びこの男、山川選手だった。滞空時間は7秒13。埼玉西武の本拠地・メットライフドームの天上まであとわずかというくらい高く上がった弾道だ。
ところが、山川選手恒例の「どすこい」パフォーマンスはやや控えめで淡々としたものだった。この試合では、すでに本塁打を1本打っており、これが2本目。しかも、チームが3点差で勝っている状況から4点差に引き離すという、あまり劇的感のない状況による本塁打であったからだろう。
だが、この日観戦にきたファンは幸せだ。1年にそう何度も見ることができない7秒超えの美しい本塁打を目撃できたのだから。最終的に埼玉西武は9対2と広島に快勝したが、その喜び以上に貴重なシーンを目にした証人である。観戦に訪れていたファンの方々は、ぜひそのことを覚えておいてほしい。
夏の花火に負けないくらい高く上がった本塁打を見たい
今年、異常なまでに長く続いた梅雨は、7月の終わりになってようやく明けようとしている。これからの季節は、いよいよ夏本番。湿ったバットが乾く時期を境目にして、本塁打を連発する選手も出てくるだろう。
ゾーンに入っている時期というのは、極端な話、どんな打球になってもスタンドに届いてしまうことがある。そういう選手が出現したときは、山川選手の7秒13をさらに凌駕するような長い滞空時間のホームランを目撃できるチャンスになるだろう。
この夏、もっともっと特大の一発が出ることを期待している。
記事提供: