3年の空白を越えて――WBCチェコ代表候補ボリス・ヴェチェルカが冬の沖縄で刻んだ再起の一歩

パ・リーグ インサイト

力強いフォームからボールを放つボリス・ヴェチェルカ。3年ぶりの実戦復帰となったJWLで、再起への一歩を踏み出した 【©JWL】
力強いフォームからボールを放つボリス・ヴェチェルカ。3年ぶりの実戦復帰となったJWLで、再起への一歩を踏み出した 【©JWL】

世界が交差するジャパンウィンターリーグ

 昨年末、沖縄で開催された日本のウィンターリーグ「ジャパンウィンターリーグ」には、世界各国から125名の野球選手が集まり、野球漬けの1か月を過ごした。

 チームから派遣され、実戦経験を積むことで次の飛躍のきっかけをつかもうとする選手。新たな契約を勝ち取るため、スカウトの前で必死に自らをアピールする選手。冬の沖縄に集う選手たちが胸中に秘めているものはさまざまだ。

 そんなジャパンウィンターリーグ(JWL)に、昨年からはNPB球団も選手を派遣するようになったことで、ある変化があった。昨年は東北楽天・西口直人投手、今年は巨人・赤星優志投手や福岡ソフトバンク・澤柳亮太郎投手など、一軍実績も確かな投手が、温暖な沖縄で実戦が行われるこのJWLを、故障からの再起を期する場所として選ぶケースが増えてきたのだ。

3年の空白を経て、チェコ代表候補が冬の沖縄へ

 そして、彼らと同じように新たなスタートを切るために、海を渡って冬の沖縄にやってきた投手がいた。2023年にアリゾナ・ダイヤモンドバックスとマイナー契約を結んだ経験を持ち、2026WBCチェコ代表候補として名が上がる右腕、ボリス・ヴェチェルカ(22)だ。

復帰登板でマウンドに立つヴェチェルカ。192センチの長身から繰り出される速球で、試合の感覚を取り戻していった 【©JWL】
復帰登板でマウンドに立つヴェチェルカ。192センチの長身から繰り出される速球で、試合の感覚を取り戻していった 【©JWL】

「とにかく試合で投げたかったんです」

 JWLへの参加理由を簡潔にそう語ったボリス。最後に公式戦で投げたのは2022年10月、チェコリーグのプレーオフでの登板だった。その後、アメリカでのショーケースに臨み、そこでの投球が認められて、MLBアリゾナ・ダイヤモンドバックスとの契約にこぎつけた。しかし翌年、肘を故障。結局、アメリカでの3年間で2度のトミー ジョン手術を経験することとなった。

「リハビリの期間は本当に長かったですし、正直、投げられない時間がここまで続くとは思っていませんでした。2回目の手術は簡単には決めることができなかったですが、もう一度ちゃんと投げられる可能性があるなら、やるべきだと思って決断しました」

 リハビリ期間を経て、ようやく投げられるようになったものの、その間一度も登板できなかった彼をダイヤモンドバックスは待つことはなく、戦力外となった。野球選手として再び歩み出すそのための場所としてボリスが選んだのが、かつてのチームメートから話を聞いていたJWLだった。

「ブルペンで投げるのと、試合で投げるのは全く違います。打者がいて、カウントがあって、そのなかで投げる感覚を取り戻したかったので、この場所に来ました」

 実戦復帰登板は開幕2試合目の11月24日。192センチ102キロの巨体から繰り出される力強いボールは150km/h台を連発。その豪速球は、スリークオーター気味の位置からリリースされるため、時に右打者のインコースに食い込み、相手バッターをしっかりゴロで打ち取ってみせた。最速は156km/h、3年間のブランクを感じさせない力強い投球内容だった。

「復帰初戦としては、すごく良かったと思います。ストライクゾーンで勝負できていましたし、意図したボールも投げられていました」

登板後、チームメートとタッチを交わすヴェチェルカ。JWLの現場で築かれた信頼関係がうかがえる 【©JWL】
登板後、チームメートとタッチを交わすヴェチェルカ。JWLの現場で築かれた信頼関係がうかがえる 【©JWL】

 さらにこの試合では、もうひとつ周囲を脅かせるボールがあった。大きく横に曲がるスライダー、俗に言う「スイーパー」だ。

「投げられなかったリハビリの段階から、実戦復帰した時にどういう球種が必要になるかを考えていました。ストレートと同じ腕の振りで投げられて、横の変化でゴロを打たせられる。沖縄に来る1カ月前から練習していますが、スイーパーは今の自分の投球スタイルには合っていると思っています」

旧知のチェコ代表コーチが見た現在地

 このJWLには、偶然にもチェコ代表の打撃コーチを務めるアレックス・ダーハク氏もコーディネーターとして参加している。現役時代は捕手であり、ボリスがチェコリーグでプレーしていたチームでは監督として、彼の取り組みを見てきた存在だ。そんなアレックスに、久しぶりに投げるボリスの姿をどう見ているのかを聞いた。

「トミー・ジョン手術明けの投手にとって、一番大事なのは“投球の再現性”です。強いボールが投げられるかよりも、同じ腕の振りで、同じところに投げられるか。彼はもともとパワーのある投手ですが、力で三振を奪うだけでなく、ゴロを打たせることもできるので、捕手の視点から見ても配球を組み立てやすいタイプです。彼の投球のなかにスイーパーを加えたのは、その意味で理にかなっている選択だと思います」

 今回のJWLでの登板は、チェコ代表入りに向けての“判断材料”になってくる。前回大会では代表候補として登録されていたものの、所属球団の判断により登板機会は与えられず、その後肘の故障が明らかになった。

「代表は、過去の実績ではなく、いま何ができるかで選びます。彼がその競争に戻ってきた、というのは事実です。現時点で決まっていることは何もありませんが、コマンド(コントロール)型の投手が多いチェコ代表のなかに、タイプが違う彼のような投手が加わることは、チームにとって選択肢が広がると思います」(アレックス氏)

ベンチで言葉を交わすヴェチェルカとチェコ代表打撃コーチのアレックス・ダーハク氏(右)。旧知の指導者と現在地を確認する時間となった 【©JWL】
ベンチで言葉を交わすヴェチェルカとチェコ代表打撃コーチのアレックス・ダーハク氏(右)。旧知の指導者と現在地を確認する時間となった 【©JWL】

未知の剛腕は、再び世界の舞台へ向かうのか

 ボリス自身も、現状を冷静に受け止めている。

「もちろん代表に選ばれたいと思っています。でも今は、そのために必要なことを一つずつ積み上げている段階です。最初は試合のスピードについていくことで精一杯でしたが、登板を重ねるごとに少しずつ良くなっている感覚があります。今は結果よりも、身体がどう反応するかを確かめることを大事にしています」

 その後も順調に登板を重ねたボリスは、リリーフとしてJWLで7試合に登板。防御率こそ5点台だが、後半3試合では無失点に抑えるなど、状態が上がったところで約1カ月のリーグ戦は終了となった。

「登板を重ねるごとに、身体の反応は少しずつ良くなってきました。まだ課題はありますが、試合の中で投げながら調整できていた感覚があります。何より、実戦で投げ続けることができたのが大きかったです」

JWLでともに戦ったチームメートと記念撮影。国籍や立場を超えた交流も、このリーグの大きな特徴だ 【©JWL】
JWLでともに戦ったチームメートと記念撮影。国籍や立場を超えた交流も、このリーグの大きな特徴だ 【©JWL】

 沖縄を離れたあとはアメリカのトレーニング施設で練習をする姿を、自身のSNSに投稿。より状態を上げる努力を続けている。

 3年ぶりに実戦登板を果たし、投手としての現在地を確かめたボリス・ヴェチェルカ。現時点で所属球団は決まっていないが、2026WBCのチェコ代表入りが決まれば、日本戦で登板する可能性がある。

 3年間、公式戦での登板がなく、各国が持つデータも限られている未知の剛腕投手に対し、日本のバッターたちはどう対応していくのか。間もなく発表される代表メンバーにその名が刻まれていることを期待したい。

3年ぶりの公式戦登板で見せた集中した表情。未知の剛腕は、再び世界の舞台を目指して歩みを進めている 【©JWL】
3年ぶりの公式戦登板で見せた集中した表情。未知の剛腕は、再び世界の舞台を目指して歩みを進めている 【©JWL】

文・岩国誠

記事提供:パ・リーグ インサイト

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