2024年は、4年ぶりに新たな最多勝投手が誕生するシーズンとなる
2024年のパ・リーグにおける最多勝争いは、わずか2勝差に7名の投手がひしめく大混戦となっている。2021年から2023年までの3年間は、山本由伸投手(現・ドジャース)が最多勝のタイトルを連続受賞していた。それもあって、4年ぶりに誕生する新たな最多勝投手がいったい誰になるのかは、大いに注目されるところだ。
今回は、今季のパ・リーグで最多勝の座を争っている投手たちの顔ぶれと、その活躍ぶりについて紹介。それに加えて、各投手が所属する球団の得点力と守備力に関する数字を確認することによって、今後の最多勝争いの行方を展望していきたい。(記録は9月8日の試合終了時点)
有原投手以外の6名にとっては、自身初の最多勝の座をかけた争いでもある
2024年のパ・リーグで9勝以上を挙げている投手と、今季の投手成績は下記の通り。
有原航平投手と伊藤大海投手がそれぞれ11勝を挙げ、ハーラーダービーのトップタイに並んでいる。有原投手は防御率2.59、クオリティスタート(QS)率が77.3%と安定して試合を作っており、打線の援護を着実に勝ち星へと結び付けている。
伊藤投手は現時点で自己最多の11勝*を挙げて黒星はわずかに4つ、勝率.733とリーグ最高の勝率を記録している。最多勝と最高勝率の投手2冠も視野に入る状況なだけに、今後も高い勝率を維持したまま白星を積み上げ、自身初タイトルを手にしたいところだ。
(*10日に12勝を挙げた)
モイネロ投手は先発転向1年目から10勝を挙げ、リーグトップの防御率1.97と抜群の安定感を誇っている。2020年には最優秀中継ぎを獲得した実績も持つだけに、今季は先発としてもタイトルを獲得し、NPBにおいてまた一つ偉大な足跡を残せるかに注目だ。
同じく10勝を記録している早川投手は、左腕としては球団史上初となる2桁勝利を達成。4月は月間防御率5.60とやや苦しんだものの、5月以降の4カ月で月間防御率1点台以下を3度記録している。着実に安定感を高めているプロ4年目の左腕が自身初タイトルを獲得し、さらなる飛躍を果たす可能性は十分だ。
トップを2勝差で追う加藤貴之投手は過去2年続けて規定投球回に到達して防御率2点台と優れた投球内容を示してきたが、これまで2桁勝利を記録したことは一度もなかった。打線と噛み合わずに白星が伸びなかった昨季までの経験を糧に、今季は念願の2桁勝利、そして自身初の最多勝に手が届くか。
山崎福也投手は2023年に自身初の11勝を記録し、移籍1年目の今季もここまで9勝を記録。前年の最下位から躍進を遂げているチームを支える存在となっている。既に自己最多の投球回を消化し、防御率2.94も自己ベストの水準にあるだけに、このまま2年連続の2桁勝利を達成し、タイトル争いにも食らいついていきたいところだ。
小島和哉投手は2021年以降の3シーズンで2度の2桁勝利を記録し、今季も2桁勝利に王手をかけている。今季は防御率4.05とやや安定感を欠いているものの、残る試合で調子を上向かせることができれば、自身初タイトルに手が届く可能性も残されているはずだ。
リーグ上位に位置する2チームが、得点力の面でも優位に立っている
続いて、2024年のパ・リーグにおける、球団別の打撃成績を見ていきたい。
福岡ソフトバンクがリーグ唯一の500得点超えとなる513得点を挙げ、同じく唯一の3桁となる101本塁打を記録している。75勝を挙げてリーグ首位に立つチーム全体の白星の多さと、投高打低の傾向が強まる中でリーグ内でも頭一つ抜けた得点力を発揮している点は、先発投手にとっては大きな助けとなる要素だ。
北海道日本ハムは福岡ソフトバンクに次ぐリーグ2位の479得点を記録し、本塁打数も同じくリーグ2位の93本に達している。打率こそリーグ3位ながら得点力は一定以上の水準にあり、福岡ソフトバンクと同じく、投手陣を十分に援護できる状況にあると言えそうだ。
千葉ロッテはチーム打率こそリーグ2位の.250ながら、得点数はリーグ3位の434得点と、同2位の北海道日本ハムとは45点の開きがある。本塁打数もリーグ4位の63得点と長打力に課題を残しており、得点力という面では上位2チームとはやや差がある状況となっている。
東北楽天はリーグ4位の422得点、リーグ3位の65本塁打と、得点力に関しては千葉ロッテに近い数字を残している。打率もリーグ4位の.243と上位3チームとはやや差があり、今後はエースの早川選手の登板試合において、打線が援護を果たせるかが重要になりそうだ。
得点力に長けた2球団は、守備の面でも投手を大いにバックアップしている
ここからは、本塁打を除くインプレーになった打球の中が安打になった割合を示す、「被BABIP」という指標に目を向けていきたい。BABIPは投手や打者の能力を図る際には選手個人にコントロールできない部分が多く、運の要素が多く含まれていると考えられている。
ただし、被BABIPは打球をアウトにした割合を直接的に示すという特性上、チーム全体の守備力を図る際には非常に有用な指標となる。すなわち、チーム全体の被BABIPの数字が低い場合、そのチームは全体的な守備力に長けているということだ。
この項目では、パ・リーグ各球団におけるチーム全体の被BABIPに加えて、守備機会を失策なく終えた割合を示す「守備率」という2つの数値について、それぞれ確認していきたい。
福岡ソフトバンクはリーグトップの被BABIP.252を記録しており、守備率.990という数字もリーグで最も優秀だ。得点力のみならず、守備力という観点においても、福岡ソフトバンクにおいては投手陣を強力にバックアップする体制が整っていると考えられる。
北海道日本ハムは守備率こそ.986とやや低いものの、被BABIPに関してはリーグ2位の.264と、優れた値を記録している。得点力、守備力の双方がリーグ2位に位置しているという事実からも、今季の北海道日本ハムが躍進を果たしている理由と、3名の先発投手が最多勝争いを繰り広げている理由の一端がうかがえよう。
千葉ロッテも守備率は北海道日本ハムと同じ.986ながら、被BABIPは.277とリーグ3位の数字を残している。上位2チームにこそ及ばないものの、守備力という観点においては一定以上の水準にあり、着実に投手を助けていることが見て取れる結果となっている。
東北楽天は守備率に関してはリーグ2位の.988と、失策の少ない堅実な守備を見せていることがわかる。その一方で、被BABIPはリーグ唯一の3割超えとなる.304と、総合的な守備力という観点においては、やや課題が残る数字となっている点は気になるところだ。
多くの開幕投手が結果を残す今シーズン、最後にタイトルを手にするのは?
得点力・守備力の双方において優秀な成績を残している福岡ソフトバンクは、先発投手にとってはリーグで最も恵まれた環境といえる。同球団に所属する有原投手とモイネロ投手は、最多勝争いという点でも優位な立場にあると考えられそうだ。
また、北海道日本ハムも得点数・被BABIPがともにリーグ2位と、先発投手にとってはプラスとなる環境だ。伊藤投手、加藤貴投手、山崎福也投手がそれぞれ自身初のタイトルを手にできるかは、今後もチーム全体で優秀なバックアップ体制を維持できるかにかかってくる。
千葉ロッテはリーグ3位の被BABIPと守備力に関しては一定以上の水準ながら、得点力の面で少なからず課題を抱えている。東北楽天も得点数がリーグ4位、被BABIPが最下位とやや苦しい状況であり、小島投手と早川投手は多少不利な状況にあると言えるか。両投手にはリードした試合を着実に勝ちにつなげる、まさにエースらしい投球が求められてきそうだ。
また、最多勝争いを繰り広げている投手のうち、有原投手、伊藤投手、早川投手、小島投手の4名は、今季の開幕投手を務めていた。主戦投手としての働きが期待された投手が多くの白星を積み上げている点も、今季の最多勝争いの大きな特徴といえよう。
期待通り、あるいは期待以上の投球を見せている先発投手が繰り広げる熾烈な争いを制して、最多勝の栄誉を手にするのは果たしてどの投手か。先発投手としての最大の勲章の一つを巡るハーラーダービーの行方に、今後もぜひ注目してみてはいかがだろうか。
文・望月遼太
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