2015年にCY賞を獲得した、大物助っ人がパ・リーグに
7月30日、ダラス・カイケル投手が千葉ロッテに入団することが発表された。アストロズ時代の2015年にサイ・ヤング賞を受賞した経験を持つ大物左腕の加入は、上位争いを繰り広げるチームにとっても大きな刺激となりうるはずだ。
今回は、カイケル投手のこれまでの球歴と、セイバーメトリクスで用いられる各種の指標に基づく、投手としての特徴を紹介。新たにパ・リーグに加わった期待の助っ人をより深く掘り下げていくとともに、残るシーズンにおける活躍にも期待を寄せたい。
長年にわたってアストロズのエースを務め、息の長いキャリアを築く
カイケル投手がMLBでこれまで記録してきた、年度別成績は下記の通り。
カイケル投手は2012年にアストロズでメジャーデビュー。最初の2シーズンはともに防御率5点台と安定感を欠いたものの、2014年には自身初めて200イニングを投げ抜き、12勝を挙げて防御率2.93という好成績を記録。自身初のゴールドグラブ賞にも輝く活躍を見せ、チームのエースへと成長を遂げた。
2015年には自己最多の20勝を記録して最多勝を獲得し、同じくキャリア最多の232イニングを投げて防御率2.48という圧倒的な投球を披露。2年連続のゴールドグラブ賞に加えてサイ・ヤング賞の栄誉にも輝き、MLB屈指の先発左腕としての地位を確立した。
その後もアストロズの主戦投手として活躍を続け、2014年以降の5年間で2桁勝利とゴールドグラブ賞の獲得をそれぞれ4度ずつ達成。FAとなった2019年は6月まで契約がずれ込んだものの、ブレーブスと契約して以降は19試合で8勝、防御率3.75と一定の投球を見せた。
2020年からはホワイトソックスに移籍し、同年は全60試合の短縮シーズンながら防御率1.99というすばらしい成績を残し、自身5度目のゴールドグラブ賞も獲得。しかし、続く2021年には防御率5.28と苦戦を強いられると、翌2022年はさらなる不振に陥って1シーズンで3つの球団を渡り歩き、2023年にはマイナー契約でツインズに新天地を求めた。
同年はツインズ傘下のAAAで防御率1.13と目を見張る成績を挙げ、8月にメジャーへ昇格。MLBでは10試合で防御率5.97と安定感を欠いたものの、8月20日の試合では7回1死までパーフェクトピッチングを繰り広げるなど、先発と中継ぎを兼任しながら故障者の穴を埋めてチームの地区優勝に貢献した。
2024年も再びマイナー契約から這い上がり、6月にブルワーズの一員としてメジャーに昇格。4試合に登板して防御率5.40と好成績は残せなかったものの、7月7日にはドジャースを相手に4.1回を無失点に抑える好投を見せ、MLB屈指の強豪を相手に確かな存在感を示していた。
ゴロを打たせる投球が持ち味の、典型的なグラウンドボールピッチャー
続いて、カイケル投手がMLBで記録した年度別の指標について見ていきたい。
キャリア通算の奪三振率は6.87と控えめな水準で、とりわけ2020年以降の5シーズンにおける奪三振率は5点台が4度と、顕著な低下が見られる。サイ・ヤング賞を受賞した2015年には自己最高の奪三振率8.38という数字を記録していたものの、基本的にはキャリアを通じて打たせて取る投球を展開していたことがわかる。
次に、カイケル投手の投球スタイルを裏付ける指標となる、フライアウトに対するゴロアウトの比率を示す「GO/AO」にも目を向けたい。この数字が1.0を超える投手はゴロを打たせるタイプの投手であるとされているが、カイケル投手はキャリア通算のGO/AOが2.07と非常に高くなっており、極端なグラウンドボールピッチャーであることが示されている。
カイケル投手の13年間におよぶMLBでのキャリアにおいて、GO/AOが1を下回ったことは一度もない。また、2013年から2019年までの7年間でGO/AOが2.00を上回ったシーズンが6度存在し、2017年には3.13という非常に高い数字を記録。全盛期にとりわけ多くのゴロを打たせていたという点も、カイケル投手のキャリアを振り返るうえで示唆的な要素だ。
苦戦の要因となった被打率と与四球率の低下が、環境の変化で改善されるか
ホームランを除くインプレーの打球が安打になった割合を示す「被BABIP」も、打たせて取るタイプの投手にとっては重要な数字となる。この指標は選手自身の能力以上に運に左右される部分が大きいとされ、一般的な選手にとっての基準値は.300と考えられている。
カイケル投手のキャリア通算被BABIPは.301と、ほぼ平均値に近い値となっている。しかし、2012年から2020年までの9年間のうち、8シーズンでBABIPが.300台以下となっていた。さらに、その期間中にBABIPが.300未満となった回数も5度に及んでおり、キャリア初期は比較的BABIPに恵まれていたことが示されている。
それに対して、2022年以降の3シーズンにおけるBABIPはいずれも.339以上と、急激に数値が上昇していた。それに付随して、防御率が大幅に悪化し始めた2021年以降の4シーズンにおける被打率も全て.290以上と、痛打を浴びるケースが増えるようになっていた。
さらに、与四球率に関しても2015年の1.98という圧巻の数字を筆頭に、2014年から2020年までの7年間で2点台以下に抑えたシーズンが6度存在。優れた制球力によって余分な走者を出す機会を少なくしていたことも、打たせて取る投球の安定感を下支えする要素の一つとなっていた。
しかし、2022年以降の与四球率は3シーズン連続で4点台と、制球力の面においても大幅な悪化が見られる。同じく投手の制球力を示す「K/BB」も、2013年から2020年まで8年連続で2.30以上の数字を残し、2015年には4.24という非常に優秀な数字を記録していたものの、2021年以降は4年続けて1点台と大きく低下していた。
ただし、2024年におけるパ・リーグの被BABIPは6球団中5球団が.280台以下となっており、投高打低の傾向が強まっている。NPB全体で安打が出る割合が減少している点は、打たせて取る投球を身上とするカイケル投手にとっては追い風となりうる要素だ。
環境の変化によって被打率と制球力に改善が見られれば、カイケル投手がNPBで本領を発揮する可能性は十分にあるはずだ。MLBトップクラスの先発左腕として活躍してきた新助っ人が異国の地で復活を果たし、元サイ・ヤング賞投手の本領を発揮するかに注目だ。
技巧派の極致といえる投球スタイルで、日本球界に旋風を巻き起こせるか
カイケル投手はキャリアワーストのシーズンとなった2022年を最後に、投球のレパートリーからフォーシーム(ストレート)を外している。過去2シーズンにおいては、シンカー、カットボール、スライダー、チェンジアップの4球種を操り、変化球を低めに集めてゴロを打たせる投球を展開していた。
また、世界最高峰の舞台で先発投手としての頂点に立ったベテラン左腕が持つ豊富な経験が、チームに還元される可能性がある点も見逃せない。技巧派の極致と形容できる独特の投球スタイルや、通算5度のゴールドグラブ賞に輝いた抜群のフィールディング技術も含めて、カイケル投手の「生きた教材」としての価値は、非常に大きなものとなるはずだ。
ボールを動かして打者に的を絞らせない変幻自在の投球は、後半戦のパ・リーグにおける大きな注目ポイントの一つとなるはず。MLBで一時代を築いた大物助っ人がパ・リーグの舞台で見せる投球には、今後も大きな注目が集まってくることだろう。
文・望月遼太
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